第17.5話 正義マン(笑)
割り込みのやつです
第17.5話 正義マン(笑)
「だから言ってんだろ?こいつは俺の従魔だから危険性は無いって」
ライムが着けている従魔の首飾りを見せ、俺はギルドのカウンターに背中を預けたまま、入り口の付近に立った男にそう言葉を返す。
確か事の始まりは、外から帰ってきたのを報告する為に受付嬢さんと話していた時のことだ。
入ってきたこいつがライムを見て、いきなり喚き出したから何かと思ったよ。
「そんな事は関係ない。それが魔物である限り危険だから街に入れないで貰いたい。街の人に迷惑がかかるだろう。それに君はFランク。Cランクの僕の言うことを聞くべきだ!」
そう言ってカウンターに置かれたままの俺のギルドカードを指差した。
首飾り関係ないって国に喧嘩売ってんのかな。
ギルドにいた他の奴らも聞いていたらしく、こいつの物言いは流石に驚いたのか唖然としている。
ランクが上の奴に従わなきゃいけないルールとかあったっけ?
チラッと横を見ると、デニスとサリーの2人は首を横に振っていた。
そんなルールは無い訳だな。
目の前のトチ狂った男に呆れた目を向ける。
しかも言うに事欠いてうちのライムが迷惑だと?
あまりにもキュートだから途中で住民の皆さんに何回も撫でられてたわッ!
おっと、つい興奮してしまった。
今日は疲れたから早く休みたかったのに。
頭のおかしい正義マン(笑)に絡まれてしまった。
面倒くせぇ。
さっきガザル戻ったから嗾けらんないんだけど。
全くタイミングの悪い。
「文句があるなら許可出した門番の人か、国に言って来い。話が通ったら相手してやる」
失せろとばかりに手を振ってみせた。
話のわからない奴と話しても無駄だと言うのが俺の持論だ。
つか、お前誰だよ?
「貴様……馬鹿にしているのか!」
「ん?やっと気付いたのか?まあ、ランクを自慢するだけで名前すら名乗ることもできないんだ。頭の回転も鈍いんだろうな?」
「なっ!?」
俺の言ったことが正論だった為か、言葉に詰まったようだ。
それでも自分の言うことを聞かない俺が許せないのか、睨みつけて歯ぎしりをしている。
こいつは自己顕示欲が強いタイプだな。
「グッ……!僕の名前はアルノーだ!さあ、僕も名乗ったんだから君も名乗れ!」
「は?頭の沸いてんのか。なんでお前が名乗ったからって俺が名乗らなきゃいけないんだよ」
「なっ!?」
驚き方のバリエーションも少ないのか。
底が知れるな。
見ていたギルドの野次馬も所々で失笑している。
「貴様が礼儀だと言ったから名乗ったんだろうが!ならば名乗り返すのが礼儀だろう!!」
「いや、そもそも礼儀知らずはお前であって、そんな礼儀知らずに向ける底辺の礼儀は持ち合わせていないんだよ。悪いな」
「この……ッ!」
おーおー。頭に血ィ登っちゃってるねぇ。冷静な判断できるの?大丈夫か?
「マズイです、シオン。あのアルノーという冒険者は素行はともかく実力はCランク相応の物を持っています。あまり刺激しないで下さい。危険ですよ」
やられたらやり返す主義なので、とりあえず口でボコボコにしていたら、横のサリーからこっそりと耳打ちされた。
なんでもそれなりに強いらしい。
……確かに鑑定してみるとあれのステータスは平均的に2000、残念ながら俺のステータスを全体的に超えているな。
ふうん、約二倍ね……。
「そのお嬢さんの言うとおりだ」
「あん?」
サリーの声が聞こえたのか、声をかけてきた態度はどこか悦に入っているようだった。
「君より僕の方が強いんだ。言うことを聞いた方が身のためだと思うがね」
「ハッ」
愉悦の入った態度で自慢げにそう言ってくる者だからつい鼻で笑ってしまった。
「……何がおかしい」
「確かにお前のステータスは俺より高い。で?それがどうした」
「ハッキリ言え!何が言いたいんだ!」
「ステータスが俺より高い程度では、お前は俺に勝てない」
唯々お前など眼中にないと、脅威になどなり得ないと、視線で、態度で、言外に吐き捨てる。
もとより、こいつには負ける気がしない。
「……良いだろう」
遂にあいつも我慢の限界を迎えたのか剣を抜き放ち、怒りもあらわに床を踏みつけながら歩いてくる。
「シオン」
「シオン!」
「良い大丈夫だ」
思わず前に出ようとした二人を押しとどめる。
てかデニス、お前後衛だろ。前に出るなよ。気持ちはうれしいけどな。
「あー、警告する。それ以上近づくと怪我するぞ」
「うるさい!お前の言うことは聞かない!!」
「最後だ。それ以上近づかない方が良い」
「黙れ!そもそも貴様の変なスラ――」
俺の警告を無視した奴はそのまま歩き――
「あ」
「あ」
「「「「あ」」」」
「ブボラ!?」
ツルッと盛大に転けた。
後頭部を打ち付けたらしく白目をむいて気絶している。
あーあ。だから言ったのにな。近づくと危ないって。
まあ、たまたまあいつの進行方向に凍った床があって、そのうえ転けた床の頭が来る場所に、それまた偶然にガチガチの氷があるなんて、運が悪かったな。
俺の知ったこっちゃないが。
それにしても――
「こいつ……『変な』なんて言おうとしたんだろうなァ?」
やっぱぶっ殺した方が良かったか?
「おおお、落ち着くんだシオン!」
「そそそ、そうですよシオン!」
お前らが落ち着けよ。どもり過ぎだろ。
「その凄惨で凶悪で邪悪な嗤いを収めるんだ!」
「きっと彼は『変な』スマイルってシオンの事を評価しただけですよ!」
なに?遠回しどころか真正面からバカにしてるの?キレるの?
……ふぅ。あー、正義マン(笑)。仏の顔も三度までって言うが俺は心が狭いんでな。俺の場合は次で終いだ。慈悲はねぇ。今度なんかしたら……覚悟しとけよ?クソヤロウ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺が落ち着いてしばらくして二人も落ち着いた。
どさくさに紛れて失礼な事を言っていた事を問い詰めたら目を逸らしやがった。この野郎。
話によるとあいつは最近王都に来たらしい。
どうやら他の場所でも問題を起こしていたらしく酷く疎まれていたとか。哀れ正義マン(笑)。
行く先々で救済と言う名の迷惑行為を連発。注意と、別の場所で経験を積むという名目でたらい回しにされ遂にここに来たと。
それをたらい回しだと気づかず、才ある自分にしかできない名誉ある行為だと思っているとか。やっぱ頭おかしい。
数ある厳重注意もたまりにたまり、次回問題行動を起こしたら冒険者カードを剥奪される。
今回じゃないのかよ。
「それにしてもシオン。今回はどうしたんですか?」
他の冒険者が騒ぐ声をBGMにライムを愛でていると、テーブルの反対側に座ったサリーが首を傾げてきた。
「ん?どうしたってどう言う事だ?」
「いえ、彼が近づいて来たとき嬉々として戦闘行為に臨むのかと思っていたので」
「ああ、なるほどな」
つまり戦闘狂の気がある俺が戦わなかったのが不思議だと。
「あれとやってもつまんないだろ」
「つまんないってどう言う事かな?」
嘗めるようにチビチビと飲んでいた酒のコップから顔を上げたデニスが、不思議そうな表情で聞いてきた。
「確かにステータスは高かったけど、あの程度の煽りで周りが見えなくなるような奴の強さなんてたかが知れてる。雑魚の相手なんてしても時間の無駄だ。強い奴と戦ってこそ戦闘は楽しいんだよ」
「なるほど」
「それにギルド内で戦っても良いのか知らないからな」
「そういうことでしたか。ギルド内での乱闘は基本的に自己責任です。破損物も自己責任です」
戦っても良いけど怪我してもギルドは知りません。でも物壊したら弁償しろってことか。
「それに、ああいう自己顕示欲が強いタイプは馬鹿にして、馬鹿にして、馬鹿にして、結局最後に相手にもされないのが心に刺さるもんなんだよ」
「なるほど……」
「ひでぇ」
「鬼畜……」
「でもそれが良いっ!!」
どうやら聞き耳立てていたらしく、他の冒険者達が反応した。
おい、好き放題言ってくれてんな。
てか最後の声野太かったんですけど。
鳥肌立ったよ?




