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五発目 誕生会とパンツ

 今日は、いよいよ、俺の5歳の誕生会当日。


 俺は朝から豪華な金の刺繍入りの白いドレスを飾り付けてもらっていた。

 本格的な作りのドレスで、自分1人では脱ぎ着出来ずメイドたちに着せてもらったので、この表現が正しいだろう。

 仏頂面の俺とは違い、メイドたちは実に楽しそうだ。

 クリスマスツリーって、こんな気分なのだろうか?

 最後に、綺麗に結い上げられた頭に、お星様……ではなく、小さな銀色のティアラを乗せてもらい完成だ。

 青い大粒の宝石が中央についている。

 このティアラの詳しい価値については恐くて聞けていないが、小さな家の2、3件は余裕で建つだろうということだ。

 サファイア家の財力には驚くしかない。

 超絶美少女な俺が、こんな高価なものを身に付けていたら誘拐される危険性が増すんじゃなかと心配でドキドキしてきた。



 誕生会&お披露目会が始まる。

 そして今、俺は本物のお誕生日席に鎮座させられていた。

 よく、王様とかが一段高い位置に椅子を置かれて座ったりしているが、あんな感じだ。

 今日の俺は、お嬢様モード全開。

 なぜかって?

 こんな無駄飯食らいの俺のために頑張って働いてくれている父親に恥をかかすのも悪いし、時間をかけて準備してくれた母親やメイド、使用人たち、そしてエミリーの気持ちに俺が答えられるといったらこれくらいだからな。

 俺に挨拶を求めてきた人物を前にスッと優雅に立ち上がると、ドレスの側面をチョンと摘まみつつ会釈をする。



「ようこそおこし下さいました。お初にお目にかかります、アルファ・サファイアと申します」


「おお~、これは利発そうな、それでいて美の神に愛されているとしか思えない可愛らしさだ」


「まあ、お上手ですこと」


「いやいや、返しもとても5歳になったばかりとは思えませんな。こんな御息女がいらっしゃるのなら、サファイア家も安泰ですな」



 何処かの有力貴族らしきおっさんが在り来たりな賛辞の言葉を述べてくれるが、俺の心には全然響かない。

 そりゃそうだろ。俺の精神年齢は43歳だ。

 さすがに社交界のことは知らないが、汚い大人の世界も少しは見てきたつもりだ。

 俺に挨拶をしつつも俺の父親の反応をうかがっている辺り、俺をだしに繋がりを作りたいという魂胆がみえみえだ。

 中身がおっさんの俺は、そんな上部(うわべ)だけの挨拶なんて水洗トイレのごとく華麗に流してやった。


 だが、精神年齢おっさんの俺としても、朝からこれの繰り返しばかりだと少々疲れてくる。



「やあやあ、アルファ様――」


「ようこそおこし下さいました。お初に――」



 やって来る相手にこの言葉の繰り返しだ。

 いい加減飽きてきた。

 俺もパーティー飯喰いたい!

 メイドたちが次々と運んでくる料理の数々の旨そうなことといったら、ありゃしない。

 料理長も今日は本気を出しまくってんな。

 そこでふと気付く。

 会場で来客たちの邪魔をせず、完璧な給持をこなすメイドたちの中にエミリーの奴がいない。

 俺の誕生会だというのに欠席とは良い度胸だ。


 一通り挨拶が終わり、やっと少しの自由時間を貰うことができた。



「お母様、外の空気を吸いにいってきます」


「アルファ、主役なんだから、あんまり、長い時間はダメよ」


「わかってます」



 レイシャにそう言うと俺は会場から退室して屋敷の中を歩く。

 エミリーの奴、なんでいなかったんだろ。

 人気の乏しい部屋の前でエミリーを見つけた。



「おい、エミリー、なんで俺の誕生会に出てこないんだ!」


「アルファ様、どうしてここに?」


「そんなことどうでもいいんだよ。俺はお前がいない理由を聞きたいだけだ!」



 お嬢様モードを解除して、素の状態でエミリーを怒鳴りつけてしまった。

 そんな俺の様子を見て、エミリーは申し訳なさそうに笑う。



「ダメですよ。私は所詮メイド見習いなんで、外からのお客様の前には出られないんです」


「屋敷の決まりだったのか?」


「そうなんですよ」



 だったら、先に一言いっておいて欲しかったと思わなくないが、俺は反省した。

 エミリーの言い分ももっともだ。

 だが、向こうに行けないと言うだけなら話は簡単だ。



「だったら、ここで祝えば良いだろ」


「へっ?」



 俺は飲み物を準備するため、一端会場に戻る。

 飲み物を配っていたメイドからグラスを2つ強奪する時に、メイドが何か言いかけるが、俺が大事な相手に持っていくといったら快く見ただけで上質とわかる飲み物を注いでくれた。



「こっちがアルファ様、そして、こちらを大事なお相手にお渡しください」


「ありがとう」



 メイドに礼を言うと、俺は急いでエミリーのもとに戻った。



「こんなことをされても、ほら、まだ仕事も残ってますし、旦那様やライアン様に怒られてしまいます」


「今日の主役の俺が飲めって言ってるんだ、誰にも文句は言わせないさ」


「まったく、アルファ様らしい、いいわけですね。アルファ様が男の子だったら、ドキッとしていたところですよ」


「そうか? なんなら惚れてもいいぞ」


「アルファ様、とても私より9つも年下の女の子の台詞とは思えませんね」


「だな」



 俺とエミリーは笑いあう。



「アルファ様、お誕生日おめでとうございます」


「ありがとな、エミリー」


『乾杯』



 俺はエミリーと飲み物の入ったグラスをカチンと合わせた。

 俺の心は不思議な満足感でいっぱいだ。

 ここまではよかったのだが、俺は数分後、後悔する。

 何故って?

 エミリーが酔いつぶれたからだ。

 どうやら俺が急いで持ってきた飲み物はアルコール入りだったらしい。



「おい、大丈夫か?」


「う~ん……」



 エミリーが仰向けに寝ている。

 健康的で若々しい脚が無防備に晒されている。

 しょうがない、水でも持ってきてやるか。

 俺は室内にエミリーを運びいれ離れるとコップに水と軽くつまめる串料理をもって戻った。



「あれ、エミリーの近くに誰かいる」



 エミリーを寝かせている部屋の台のところに誰かいた。

 ハンスと呼ばれていた40代の使用人の男だ。

 あの男、こんなところで何をやってんだ?

 そぉ~っと近づいてよく見ると、酔いつぶれているエミリーは不躾に横に寝かせられていて、メイド服のスカートが少し捲れていた。

 淡いピンクのシルクのパンツがチラリと見える。

 俺がプレゼントしたやつだ。



「エミリーの奴、こんなところで酒でも飲んだのか? 前に間違って父親のエールを飲んで半日寝こけたって話は本当だったか。まったく起きやしねえ。日頃、無防備に良い脚や下着を見せつけられて溜まってたんだよな。ガキのくせに、いい体してやがる」



 いやいや、ハンス、お前がロリだから、いい体に見えるだけだって! 

 とは、さすがに今は突っ込めない。

 ハンスのイヤらしい顔は、元男の俺からのしても気持ち悪い。

 まったく、家で自家発電でもしていればいいものを、こんな犯罪を目撃させられたら、さすがに引くわ!

 どうする? 

 人を呼んでくるか?

 俺が後ろ向きでゆっくり場を離れようとしたとき、ドレスの裾を踏んで盛大に尻餅を着いてしまった。

 しまった!

 持ってた水も派手にこぼし、これでハンスが気付かないはずがない。



「これはこれは。こんなところで、どうしたのですか、アルファ様」



 ハンスが恭しく声を掛けてくるが、その顔は下卑たカスのものだ。

 俺を見る目も敬意もなければ、獲物が自分からやって来たとでも言いたげな喜色満面といった感じだ。

 ここで暴れて抵抗したとしても、誕生会用の動きにくいドレスを着た5歳になったばかりの幼児の俺では、成人男性に勝てるはずはない。

 大声も同じで、パーティーに夢中の大人たちが確実に気付いてくれる保証はない。

 俺はチャンスを待つ。

 俺はお嬢様モードをオンにする。



「少々気分が優れず、休める場所を探してましたの」



 本当は、お前の変態顔を見て気分が悪くなったところだよ!って言ってやりたかったが、ここはグッと我慢だ。



「それはいけませんな。そのような堅苦しい服を着ているのがいけないのではないでしょうか。不肖、私めハンスが脱がして差し上げましょう」


「まあ、気が利きますのね」


「使用人として当然の務めです」



 寝ている少女をイヤらしい目で見たり、5歳女児の服をエロい目線で脱がそうとしている変態のどこら辺ができる使用人なんだよと思うが、ここは我慢だ。

 後ろに回ったハンスが俺のドレスの背中の留め具をはずす。

 今まで俺の動きを阻害するような拘束具と化していたドレスが緩む。

 あとは、下にずり下げられるだけで俺はカボチャパンツ一丁になるだろう。

 その姿のどこら辺に興奮する要素があるのかわからないが、変態ハンスの鼻息が荒くなってますます気持ち悪い。



「ハァ、ハァ、アルファ様は本当にお美しい。アルファ様の最初の男になれるなら、たとえ死罪にされたとしても良い気がしてきますな」



 おいおい、本音が駄々漏れしているぞ。

 感覚が麻痺しているのか貞操の危機だというのに俺に恐怖感はない。

 俺は行動に移すタイミングをはかるため考える。

 もし俺が、ハンスと同じロリだとしたら同じ状況におかれて、服を脱がす際に思うこと…………それは決まっているはずだ。

 服の脱げ落ちる瞬間を正面から見たいと!

 俺の予想通りハンスが俺の正面に回ってきた。

 ハンスがそっと力をいれると、俺のドレスがスルリと落ちる。

 ハンスの顔がニヤける。

 ここだ!



「くたばれ、ド変態っ!」



 俺はお嬢様モードをオフにし、前に立っているハンスの股間をおもっくそ蹴りあげてやった。



「おふっ!?」



 足の甲に、ハンスの股間の嫌な感触が伝わるとともに、ハンスが内股になり声にならない声をあげる。

 うん、その痛み、元男だった俺は知ってる!

 ハンスが前のめりで「アウアウ」いっているが、同情する気はサラサラない。



「エミリーに手を出してんじゃねえよ!」



 ひとんちのメイド見習いに勝手に手を出そうとしたのだから当然の報いだろ。

 俺が頭にティアラを載せたカボチャパンツ姿という、イマイチ格好がつかない姿で、そう言い放つ中、エミリーは1人幸せそうに寝息をたてていた。




次話は土曜日かわ日曜日にかけて投稿する予定です。


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