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三十九発目 サラとガイアス

 ガンガン、ガンガン



「もう朝か。ふぁぁぁ、よく寝たはずなのにまだ眠いな。まあ、昨日はダンジョンから戻ってきたのも遅かったから多少の眠気も仕方がないな」



 俺はベッドの上でムクリと起きあがる。



 ガンガン、ガンガン、ガンガン



 窓辺から射し込む心地よい朝日を浴びながら、俺は両手を組みぐいーっと伸びをした。

 今俺はカーミの鏡幻世界もといていて、本来の10歳児の姿の腰まで届く金髪は朝日で煌めいており、俺の美少女具合は今日もかわりはない。

 俺たちは昨日ダンジョン『巨人の足跡』で倒したジュエルゴーレムの一部を街に持ち帰り換金して、久方ぶり……というか、実家を出てからはじめてのいいランクの宿屋に泊まることができていた。

 やっぱり、大きな街の高級宿屋はシーツの質から違うようだ。

 比較的にどんな宿屋や最悪野宿でも眠れる俺だが、ここ最近では間違いなく最高の寝心地だった。

 俺は自分の温もりの残るベッドを見る。

 二度寝ってのもありだよな。

 そんな誘惑が襲う中、



 ガンガン、ガンガン、ガンガン、ガンガン



「…………うるさい」



 こううるさいと二度寝は難しそうだ。

 それにしても何なんだ? 

 さっきから聞こえるこの何かを金属で叩いているような耳障りな『ガンガン』という音は?

 俺がどこのバカがこんな朝っぱらからうるさく騒いでいるのかと考えていると、部屋のドアが開く音がした。



「おはようございます。アルファ様」



 銀髪眼鏡の長身痩躯、元盗賊の頭にして現俺の執事のトランテッタが部屋に入ってきて声をかけてくる。

 トランテッタの手には俺の目覚まし用だろう、ティーポットとカップが握られていた。

 一緒に行動するようになって毎度のことだが、何だろうこのバッチリ過ぎるタイミングは?

 何処かに監視カメラ的なやつでも付いてるんだろうか?

 それで俺の着替えなんかを覗いていたりすることはないとは思うが、ちょっと気になるところだ。

 まあ、トランテッタにかぎってはロリコンではなくマザコンだし、大丈夫……!



「アルファ様、今、何か失礼なことでも考えていましたか?」

「あ、ははは」



 トランテッタが変わらぬ笑顔のまま圧力だけを強めて渇いた笑いを浮かべる俺に近づいてくる。



「こちらをどうぞ、アルファ様」



 俺が何を考えていたのかわかっていたかのような有無を言わさない圧力。

 ここは素直にお茶を受け取って話題を変えた方がいいだろう。



「サンキュー、トランテッタ。…………うん、相変わらずお前の入れる紅茶は美味いな」



 俺の賞賛の言葉にようやく圧力を解くトランテッタ。



「お褒めにあずかり光栄です」



 優雅に一礼するトランテッタは、どう見ても元盗賊の頭には見えない。そのトランテッタの肩には赤と青のマーブル模様の球体、熱の精霊シャルルがぴとっとくっついていた。

 主である俺のため、熱の精霊シャルルの力で飲みごろ温度を維持してくれている心遣いもにくらしい。

 俺がイートの能力でしつらえた黒の執事服もなんなく着こなし、俺の想像する完璧なイケメンがそこに存在していた。

 拓也時代の俺からしたら、イケメンは死んでしまえって思ったかもしれない。

 まあ、今は俺も美少女だし、不問としよう。



「そういえば、サラは?」

「ああ、サラさんならガイアスと一緒に外にいますよ」

「外に?」



 窓辺に近より外を見るとサラとガイアスが宿屋の前にあるちょっとした広場にいるのが見えた。

 よく見ると片足が義足の無骨な髭をはやしたおっさん戦士ガイアスが白いメイド服の黒髪少女サラに稽古でもつけているようだ。

 だが、何故だろう?

 サラだけが異様に消耗しているように感じる。



「朝からワシに技を教えてほしいと言っといて、もうおしまいか?」

「ガイアス師匠、まだまだいけるに決まってますよ!」

「ふん、なかなか根性があるな」

「足りない経験と実力は気持ちで補わないといけないんで」



 サラは再び愛用の剣を強く握り、昨日俺にせがんでダーチの能力で用意してもらった岩をひたすらに打ちつけだした。

 何やってんだ?

 それにしても、この『ガンガン』って音はサラたちの訓練の音だったのか。

 近所迷惑な。



「なあ、トランテッタ、あいつら何してんだ?」

「どうやら、サラさんは昨日のジュエルゴーレムを真っ二つに割り砕いたガイアスの『斬』を見て、自分も会得したいと思ったようですね。ガイアスに頼み込み朝も早くから特訓してますよ」

「『斬』?」

「魔物に対抗するための人が編み出した技のひとつですね。自分の武器を魔力や闘気で包み、武器の切れ味や威力を上げることを言います。私は使いませんが、武器を扱う熟練の冒険者の多くが習得している、サラさんが今最も覚えなければならない技のひとつだと言えます」

「でも、サラは元々魔力が少ないって導きの精霊エロジジイが言っていたよな。盾の精霊と併用して、何か問題とかおきないのか?」

「さあどうでしょう? 精霊の契約者じたいそう多くないので考えたこともありませんでした。ただ、サラさんは精霊使用時の魔力をアルファ様から頂く形で発動しますし、今のところは大丈夫ではないでしょうか」

「なるほど。じゃあ、なんか問題あればその都度対処って感じだな」

「それでよろしいかと思います」



 俺の言葉にトランテッタは静かに頷き同意する。

 そんなときだ。

 クゥゥゥ。

 俺の腹が可愛らしく鳴る。

 うん、朝から難しいことを考えたからより腹がすいてきたんだな。

 俺の腹の音が聞こえたらしく、トランテッタが苦笑する。



「それでアルファ様、お食事はすぐにでもとれるように厨房に手配はしているのですが、どういたしましょう?」

「さすがトランテッタ!」



 トランテッタ、なんてできる奴なんだろうか。

 そういえば、起きてからまだ紅茶を飲んだだけだった。

 目も完全に覚めたことだし、10歳児の成長期にある俺の体は栄養を求めている。



「食うに決まってる!」



 俺は勢いよく返答し、可憐で麗しい見た目とは正反対だが、年相応な反応にトランテッタはまた苦笑していた。










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