四十話目 巨人の足跡とツクヨミ
昨日お世話になった高級宿屋の食堂は、食堂というよりはしっかりとした作りのレストランみたいな感じだ。
そこで出された朝食は、俺的に味も量も大満足の内容だった。
「ふう、旨かった」
「アルファ様、食後の紅茶を用意しますね」
「頼む。そういえば、トランテッタ、お前は今日はこのあとどうするんだ?」
朝食を済ませた俺は、傍らで紅茶を淹れてくれているトランテッタに今日の予定を確認してみた。
因みにサラとガイアスは、朝食を早々に済ませると再び訳のわからない特訓に戻っていた。
今日は一日かけて特訓の続きとサラに基本的な体捌きを教えていくとのことだ。
「私は、今日は昨日回収しきれなかったジュエルゴーレムの残りを回収しにいこうと思ってます」
「そういえば、大分残したままだったな。昨日持ち帰った一部だけでも結構な額になったんだし、残りを放っておくのはもったいないよな」
「はい、回収して換金したあとは、この街での拠点となる場所探しをしてもいいですし、資金化しておけば、あとからでも色々役立つと思いますよ」
「じゃあ、俺もトランテッタと一緒に行くとするかな」
本当なら初めての街だし、エロエロマッサージなる胸の高鳴る店も発見しているのだから色々散策したいとこだが、トランテッタだけを働かせるというのも申し訳ない。
散策を楽しむためには先立つものも必要だしな。
「いいのですか? 大型の荷馬車を借りますし、本日は『巨人の足跡』の魔物と戦うわけではないので、なんなら私一人でも大丈夫なのですが? それにてっきりアルファ様は、あののぼりの立っていたエロエロマッサージにでも行かれて、ここまでの旅の疲れを癒されるのかと思っていましたが?」
「!」
俺の目がトランテッタの驚愕の発言に見開かれる。
バカなっ!
トランテッタはこの街に着いたときに俺が興味津々でエロエロマッサージと表示している店を見ていたのに気付いていたというのか!
確かにそう思ってはいたのだが、ここで認めてしまっては俺の美少女というイメージが台無しだ。
うまく誤魔化さねば。
「いや、正直ダンジョンっていうものを見たのが昨日が初めてだったから、もう少し見てみたいなって思ってたとこだ。あはは」
俺は目を泳がせながら誤魔化してみる。
「…………わかりました。それではお願いいたしましょうか」
『わかりました』か。
きっと俺の意図などバレバレだっただろうが、トランテッタは優しく微笑み、深くは追求せず了承してくれた。
トランテッタの優しい心遣いに感謝だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
予想通りサラとガイアスは街に残ると言ったので、俺は鏡の精霊カーミの能力で16歳の茶髪美少女に変装後、トランテッタと二人で手配した荷馬車に乗り、昨日に引き続きダンジョン『巨人の足跡』に来ていた。
ダンジョン『巨人の足跡』は相変わらず途方もない広さの大穴だ。
大気の精霊ターキと大地の精霊ダーチの能力で大穴の縁から探知し、底のほうに何体もの魔物らしき存在が動いているのがわかるが、資金的に問題もないし今日は引き上げてまで戦う予定はない。
俺は穴の底から吹き上がる風で自分のスカートをはためかせ、モーレツごっこをして遊んでいた。
「うーん、昨日は日が沈みかけていたから不気味なのかと思っていたがそういうわけではないみたいだな」
まだ昼前だというのに深そうな穴は底が霧で見えず、異様な雰囲気が漂いなかなかに怖い。
グランドキャニオンとかそういうのとは違い自然が持つ雄大さなどは全く感じられない。
「おや? おかしいですね」
「どうした、トランテッタ?」
「アルファ様、昨日ここに隠していたジュエルゴーレムの体の残りがないんです。これは……誰かに横取りでもされましたかね」
「横取り? そんなことがあるのか」
「まあ、ここは比較的危険度の高いダンジョンですし誰も来ないと思ってそこまで本格的に隠していなかった私たちにも非はあるので、しょうがありませんね」
トランテッタはそういうが、俺なんかじゃパッと見た目ではわからないくらい上手く隠されていた。
余程注意してないと気付くのは難しいと思う。
誰だ! 横取りしたのは!
ジュエルゴーレムの素材は食べられるものじゃないから、おそらく動物とかではなく人間が持っていったと考えられるが、ダンジョンでも難易度の低くない『巨人の足跡』に近づく奴なんているんだろうか?
「ん?」
怒りと疑問で頭が一杯だった俺だが、一応警戒のため持続させていた探知に引っ掛かる動くものがあり意識をそちらに向ける。
「トランテッタ、なんか穴の底のほうから上がって来ようとしている奴がいるぞ」
「アルファ様、それは魔物でしょうか?」
「わかんねぇ。えらい小さい奴みたいだが猿みたいに身軽に丸太を使って上がってきてるみたいだ。気を付けろ。もうすぐ穴から出てくるぞ」
トランテッタに向かい警告するが、トランテッタはもうすでに熱の精霊シャルルを己の体から顕現させ戦闘準備を整えていた。
「アルファ様も、一応ご準備を」
「おう!」
俺は他の精霊たちも呼び出しておく。
五色の精霊たちが俺の体の周囲を旋回し、戦闘準備は完了だ。
そんな俺たちのタイミングを見計らったように何かが穴から飛び出してきた。
スタッと俺たちの前に舞い降りたのは一人の人間だった。
「おや、あんたらは誰? 何しにここへ?」
そういったのは身軽なショートパンツに胸当てという難関ダンジョンに相応しくない服装をした八重歯が特徴の女性だった。
年齢は二十代前半だろうか。
全体的に細身なのにある一部分だけが存分に主張なさっていた。
ズバリおっぱい!
俺がこの世界で出会った中で、ダントツでナンバーワンの巨乳だった。
マジマジと凝視してしまうが元男としてこれはしょうがないだろう。
「何だろう。そっちの娘のあたしの胸を見る目がすごい気持ち悪いんだけど。まるでどこかのスケベ親父の目みたい」
「気にしないでください。私の主は生物学上の雌にあたる存在の胸や裸にただならぬ興味を持っている方というだけなので」
トランテッタがフォローをしてくれているが、果たしてそれはフォローになっているのであろうか?
同姓なら人間以外の生物の局部や裸にすらただならぬ興味を持つ女。
確かに間違いではないのだが聞きようによっては………いや聞きようによらなくてもただのド変態だ。
「一応確認だけど、その娘、女の子よね?」
「ええ、その通りです」
「…………せっかく綺麗に生まれたのに気の毒な娘ね」
巨乳女のしみじみと憐れみを含んだ言葉が俺に突き刺さる。
ほっとけってんだ!
巨乳女は自分の胸の前で腕組みすると俺たちを品定めするような視線で見つめてきた。
「それはそうと、まだあんたたちがここにきた目的を聞いていなかったわね」
巨乳女は美人といってもいい整った顔だが、その瞳にはただならない雰囲気が漂っていた。
なんだろう? 巨乳女の視線が俺やトランテッタ自身からは微妙に外れている気がする。
まさか精霊が見えている?
いや、そんなはずはないだろう。
まあ、ここにきた目的を話すくらいなら問題ないか。
「俺達はジュエ--」
「私たちは昨日要塞都市プル-シスに来たばかりの者で、今日はお嬢様が動く宝石と言われるジュエルゴーレムの棲息するダンジョンを見てみたいということだったので見学にきたところです」
素直に目的を告げようとした俺の言葉を遮るようにトランテッタが言葉を重ねる。
トランテッタがお任せくださいとばかりにアイコンタクトをしてくる。
この巨乳女に何かあるのだろうか?
ここは俺は余計なことを言わずにトランテッタに任せた方がいいだろう。
トランテッタの言葉を受けて、巨乳女は俺たちの姿をマジマジと見る。
「まっ、確かにあんたらの格好は確かにお嬢様とそのお付きの人って感じだけど、そんな人たちが護衛もつけずにこんなところにいるっておかしくない?」
「私が護衛も兼ねてますので」
「ふーん、確かにあんたも相当やるほうだね。あたしと、どっちのほうが強いかわからないってくらい」
「それはあなたの方ではないでしょうか。私では一人でダンジョン内に入り無事に出てくることは難しいと思いますので」
「『難しい』……か。あんた、そんな優男のように見えるのに『出来ない』とは言わないんだね」
どこか挑戦的な巨乳女の言葉にトランテッタが柔らかく微笑む。
「出入りだけならば。ただ、中の魔物の相手は出来れば勘弁願いたいですね。そこは得意分野ではないので。そういうあなたはダンジョン内で何を?」
「ん-、あたしの場合は回収や採集かな」
「採集?」
「ここ『巨人の足跡』は別名追い剥ぎ穴。ここの底から一刻も早く脱出したけりゃ、お荷物になる武器はおろか装備も全部手放さなきゃならないってわけ。でも、高価な装備や思い入れのある品物をそのままにしておくわけにもいかないって奴も結構多くって、あたしみたいなのに大金をだしてでも回収してきてくれって依頼がくるわけ。いやぁ、回収も上手くいったし、穴の底に降りる前に臨時収入になりそうなジュエルゴーレムの死体も見つけられたし今日はいい日だね」
「それって」
俺たちの倒したジュエルゴーレムの体の残りを横取りしたのはこの巨乳女ってことか?
俺に一つの疑問が沸き起こる。
巨乳女は素手で背中にリュックなどをもっているわけでもなさそうだ。しかし、実際に『巨人の足跡』の底まで降りて装備品の回収までしてきているといっていた。
それらの荷物はどこにあるのだろう?
「そういえば、お互いまだ名乗ってなかったね」
巨乳女の言葉に対し、俺はトランテッタのほうを見る。
トランテッタは構いませんとばかりに頷いた。
「俺はアルファだ」
「私はトランテッタ。こちらにいらっしゃいますアルファ様の執事をさせてもらっています」
「まあ、名乗られたらこっちも名乗り返さないとかね。あたしの名はツクヨミ。『宵の月』の代表をさせてもらっている者さ。そして、あんたらと同じ精霊の契約者だよ」




