三十三発目 俺と精霊たち
砦から街に帰ってきた翌日、俺は街から走って三十分くらいの草原にいた。
サラとトランテッタも一緒だ。
本当ならすぐにでも次の街に出発したいところだったが、俺たちのために用意してくれるといっていた馬車の準備が二、三日かかるとのことで暇しているのもなんなので精霊たちの能力を使う訓練に来ていたところだ。
俺は精霊たちを全員出現させた状態で十メートルの間をあけ、サラと対峙する。
相対するサラも剣を持ち、盾の精霊ジルドを出現させている。
「サラ、準備はいいか?」
「アルファ、いつでもいいよ」
サラが新しい剣を油断なく構える。
「大地の精霊ダーチ、『土石生成』&『土石造形』&『土石操作』……立ち上がれ、ゴーレムマン(ナイトバージョン)」
俺の目の前に石の剣を手にしたゴーレムが出現する。
ナイトバージョンとはしているが、普通のゴーレムマンと変わったのは右側の手に石の剣を持っているってところくらいだ。
「いけっ! ゴーレムマン」
俺の声とともにゴーレムマンが動き出す。
石の剣を振りかぶり遠慮なくサラに斬りかかる。
「アルファ、ゴーレムマンの隙が大きいよ!」
「そうか? サラは胸が大きいし、ちょうどいいだろ」
「ちょっと、ゴーレムマンの隙とあたしの胸となんの関係があるのよ!」
サラは赤面しながらも石の剣の横をすり抜けてゴーレムマンの懐に入り込む。
盗賊の集団相手やオーガ相手に戦った経験によって、だいぶサラも戦いにも慣れてきた感じだ。
「でも、ちょっと動揺しただろ? 集中力乱しちゃ、ゴーレムマンにやられるぞ。ゴーレムマン、左ストレートだ!」
「!? 盾の精霊ジルド『盾生成』っ!」
ゴーレムマンの繰り出した左拳を精霊の力で生み出した直径一メートルを越える巨大で透明な円形の盾で防ぐ。
サラの盾の精霊は、能力のひとつで盾の作成ができる。
材料は何でもよく、空気とかでもOKらしい。
だが、その出現時間は盾の強度と大きさに反比例するようで、ゴーレムマンの拳を防いだ盾は既に消失している。
とっさにサラが作った盾は、強度に魔力を全ふりしたため持続時間が最低だったからだろう。
「危なかったぁ~」
「サラ、油断は禁物だぞ。ダーチも上級精霊になって、ゴーレムマンは大きさだけでなく、操作性も向上しているんだからな」
「わかってるって! もう大丈夫だよ、続けて」
「じゃあ、俺の管理をはずして自動モードにするぞ」
「オーケー」
ゴーレムマンから距離をとり、唇をペロッと舐めるサラ。
そんなサラに自動モードになったゴーレムマンが襲いかかっていく。
もう油断はないといった言葉に嘘はないようで、闇雲に懐に飛び込まず、外からチクチクと戦う戦法に切り替えたようだ。
「ダーチ、サラが危なかったらゴーレムマンを解除してくれ」
俺がオレンジの球体にそう告げると、わかったといわんばかりに明滅する。
「楽しそうですね、サラさん」
「まったくだな。オーガと戦えなくてストレスたまってただろうからちょうどいい息抜きになるだろ。それじゃ、トランテッタ、こっちも始めるか」
「そうですね。出てきてください、熱の精霊シャルル」
トランテッタの呼び掛けで赤と青のマーブル模様の球体が出現。
精霊を手にのせると軽く口づけする。
悔しいが銀髪眼鏡イケメンはそんな仕草も様になる。
でも待てよ。確か熱の精霊シャルルって、トランテッタにとって母親みたいな存在なんだよな。
それって、ただのマザコンなん…………って、今、トランテッタの眼鏡がギラと光った気がする。
このことには触れないでおくのがいいようだ。
「いくぞ、トランテッタ」
「いつでもどうぞ、アルファ様」
「ミーズ、『水生成』&『水流操作』」
水の精霊ミーズの能力で水を産み出し、そのまま相手に飛ばすというお試し技をトランテッタに放つ。
「ほう、水の精霊を使った攻撃ですか。シャルル左手に『凍結空間』、右手に『炎熱空間』」
トランテッタの姿が陽炎のように歪むが、トランテッタは左手を突きだしたまま避けようとはしない。
そのまま俺の放った水流が突き進むが、トランテッタの左手に触れる直前で凍結して動かなくなる。
「ありゃ?」
「アルファ様、方向性は悪くないかもしれませんが、まだまだその技は威力も速度も足りませんね」
「まあな、当たったとしても多分嫌がらせ程度の威力だしな。それに弱点も多いしな」
水の精霊ミーズは水、もしくは水を含んだ液体を操れるが、氷や水蒸気に変化してしまうと管轄外になるのか操作ができないでいた。
ということは他にも氷や霧の精霊っていうのがいるのかもな。
まあ、見たこともない精霊のことはおいといて、今トランテッタにされたみたいに凍らされたりしたらどうしようもない。
「じゃあ、こんなんはどうだ?」
「?」
「ミーズ、『水生成』&『水流操作』」
俺の右手人差し指の先に直径五センチ程度の水球が生まれた。
「アルファ様、それは?」
「ミーズの力で圧縮した水球だ。さっきの水鉄砲みたいに子供の遊び程度の威力になってしまうかもしれないが、どんなもんになるか試してみようと思ってな」
「?」
この世界にはやっぱり水鉄砲というものがないのか、トランテッタがいっている意味がわからないという顔をする。
まあ、見たことなかったら、そんなもんだろうな。
「え~と、的は適当でいいか」
発射は作った水球に小さな穴を開けるイメージで。
俺は五メートルほど離れた地面から出た岩に向けて圧縮された水を放つ。
チュンっ!
「!」
「あれ?」
そこには想像以上に深く抉られた地面があった。
威力、早さともに申し分のない一撃だろう。
「…………アルファ様、この威力が子供の遊び程度ですか? もし今狙われていたら私は死んでいたかもしれないのですが」
トランテッタが笑顔を固まらせて聞いてくる。
いやいやいや、俺にも予想外の威力だ。
距離があれが、もう少し威力は落ちるのかもしれないが、近距離ならまず問題のない威力だろう。
さすがのトランテッタも、近距離であのスピードの攻撃は凍結や蒸発をさせることはもちろん、避けることも困難だと思う。
「とりあえず、ミーズを使っての攻撃方法はこれで決まりだな」
「そうですね。準備に多少時間はかかるようですが、それさえ済んでしまえば、私程度では抗えませんね」
それは心からの言葉だろう。
なお、トランテッタは砦でサラのあとに戦っていたとしても俺の方が勝ったのではないかと言っていた。
上級精霊として復活した今ならともかく、あの頃の熱の精霊では鋼糸での攻撃にうまく対応することが難しいというのが理由とのことだ。
「鋼糸での中距離攻撃に、水球での近距離攻撃か。こうなると、遠距離の攻撃手段が欲しくなってくるな」
「遠距離ですか、難しいのでは?」
「いや、方法はある。大気の精霊ターキの力をフル活用する」
「風で竜巻を引き起こすとかですか? だとしても、風の精霊でない以上はそんなこと不可能かと」
トランテッタがそう思うのも無理はない。
今の大気の精霊ターキの力では、多少の微風を起こす程度で直接攻撃に使えるものではない。
「いや、風じゃない。風を起こすんは『大気操作』の副産物で、乾燥させるのに便利なんだが、今回はその名の通り、大気を震わせてもらおうと思ってな」
「?」
まあ、できるできないは別にして物は試しだ。
トランテッタに協力してもらい、人間より大きいサイズの氷柱を作成する。
氷柱からだいぶ離れて準備は完了だ。
俺は悪戯っ子のような笑顔を残し、大気の精霊ターキに命じる。
「ターキ、『大気操作』でチャージだ」
空でゴゴゴッと大気が擦れる音がする。
暫くして音の感じが変わってきた。
「そろそろかな…………!」
ピシャッ……バリンっ
俺がそう思ったときに、音と光が同時におき、雷の直撃を食らった氷柱が爆散する。
「どうだ?」
「威力と速度はともかく、信頼性にかけますね」
「やっぱり?」
今回起こした雷に指向性はほとんどなく、何処に落ちるかは運任せに近い感じだ。
乱戦状態なら味方に当たりかねないし、下手したら自爆技になってしまう。使い所は要検討だ。
「あとは鏡の精霊カーミだな。こいつに関してはまだ攻撃に関してはなにも考えてないんだよな」
「それなんですが、アルファ様、少しよろしいですか?」
「改まってどうしたんだ?」
「アルファ様は、サファイア家のアルファ様で間違いないですよね」
おっと、俺の出身バレた?
きっとトランテッタは確証もなくそんなことを口にはしないし、絶対にバレていると考えて間違いないだろう。
隠し通すことも難しそうだ。
えーい、トランテッタも仲間になってくれたことだし認めてしまおう。
「…………そうだ」
「やはりそうでしたか」
トランテッタは特に驚いた様子もなく、むしろ納得したような感じだ。
「サファイア家のアルファ様は亡くなったとお聞きしていたのですが、こうして精霊の契約者として、ここにいらっしゃるということは何か事情があるのでしょうね」
「まあな」
俺はここにたどり着くまでのいきさつを全部話した。
そのすべてを話終わるまでトランテッタは静かに聞いていてくれた。
「なるほど、リーパー侯爵ですか。あの方はいい噂を聞きませんからね。では、やはり鏡の精霊の使い方は一つしかないでしょう」
「ん?」
「変装ですよ」
変装?
「リーパー侯爵の手が東側にまで伸びていないとも限りませんしね。オーガの目を眩ませた技をアルファ様の周囲に展開し、外を歩く際は常に偽装をしておいた方が無難でしょう」
「そこまでか?」
「東にいくのなら冒険者になるのでしょう? ギルドに登録するのは本名でないといけません。というか、ギルドカードに偽りの情報は記載できないのですよ」
「そうなのか? なるほど、そこまでは考えてなかったな」
確かに俺みたいな十歳金髪美少女が他にもいるとは考えづらい。
偽名も使わず、本名でアルファ=サファイアと登録されたら世間にバレかねない。
ここはありがたくトランテッタの意見を参考にさせてもらうとしよう。
「早速試してみるか。カーミ、『鏡幻作成』」
灰色の球体が俺の周りをクルリと回り俺の姿を変えていく。
「トランテッタ、こんなもんでどうだ?」
「いいと思われますよ、アルファ様」
トランテッタも褒めてくれた姿は、俺がそのまま十五歳くらいに成長したような茶髪の美少女だった。
何故か胸は十歳の今とかわりないのが少し納得いかないが、まあこんなもんだろ。




