二十五発目 砦と頭
「サラ、こいつらにいいように体を触られていた腹いせに、少し暴れてみようと思うんだがどう思う?」
「お~、大賛成よ」
剣を構えたサラが俺の提案に乗ってきた。
サラもやる気満々なようだ。
「よし、大地の精霊ダーチ出てこい! 『土石生成』&『土石造形』&『土石操作』……ゴーレムマン、俺たちの護衛をしとけ! なあ、サラ、精霊の力を少し体験してみないか?」
「いいの! してみたい!」
「よし、ダーチ、サラを対象に『重力緩和(弱)』発動だ」
俺はサラに大地の精霊ダーチの『重力緩和(弱)』をかける。
サラが淡いオレンジの光に包まれる。
「お~、何これ? 体が軽~い」
『重力緩和(弱)』の効果は他人にも与えることができるが、その場合は自分にかけることはできない。
自分にかけるよりも前衛のサラの機動力をあげた方がいいという判断から声をかけてみたが、思ったよりも喜んでもらえてよかった。
念のため俺たちの護衛にゴーレムマンも作成したし、準備は整ったな。
俺たちは小男と大男に向かい合う。
小男たちは俺たちの会話を聞き、抵抗する気満々だというのに気付いたようだが、まだまだ余裕そうだ。
まあ、俺にしろサラにしろ年齢的には子どもだし、男達が油断してくれているのも当然だろ。
「へへ、お嬢ちゃんら、存分に抵抗してもかまわないぜ。その方がなんかあったときに上への報告も楽だからな」
「グヘヘ、そういうこった」
俺たちが暴れたらそれを取り押さえるという大義名分を与えることになり、味見もしやすくなるということだろうか?
とりあえず、こいつらに現実を教えてやらないとな。
「サラは小男のほうを頼む。俺は大男のほうをやる」
「了解!」
サラが小男のほうに向けて駆け出す。
『重力緩和(弱)』の効果を受け、感じる重量が軽減され、元々のサラの筋力と相まってなかなかの瞬発力を産み出す。
「なっ、くっ」
サラが一瞬ともいえる間に、間合いを詰め斬りかかる。
さすがに直線的すぎる動きだったため、小男にナイフで受けられてしまったが、精霊の力で重力の影響を減らしているサラの動きは悪くない。
まだまだ小手調べという感じだし、だいぶ余裕がありそうだ。
精霊の力の付与は初めての試みだったが、これは大成功と言えるだろう。
「サラ、大丈夫そうだな」
「うん、ほんとに体が軽いし、これなら、こんな奴に負ける気なんてしない。いけるよ!」
速さが自慢そうな小男に対し、スピードで圧倒するサラ。
あっちは任せておいても大丈夫だろう。
そんな俺たちのやり取りを見ていた大男が
「おい、そこのチビ、俺様を無視すんな!」
「ああ、悪かったな」
さて、今度は俺のほうの番だな。
といっても特にやることはないんだがな。
「じつはお前への対応はもうすでに終わってるんだわ。イートの『傀儡糸』でな」
俺は大男に対しては自然体のまま指先の動きだけで鋼糸を生き物のように動かしていた。
準備は終わっている。
「こんな具合にな」
瞬間的に大男の周囲に鋼糸で編まれた立体的な蜘蛛の巣が完成する。
「な、なんだ…………こんなもの。ん、千切れんっ!?」
「俺の服も破けなかったお前には、どうやっても脱出はできねえよ」
蜘蛛の巣状の鋼糸に捕らえられ、身動きできなくなった大男。
俺は自身に繋がっている鋼糸に振動を与えて大男を絶頂へと誘う。
「あ、あふ、ああぁぁん…………ちょっ……ああん!」
大男が涎を滴ながら身悶えするという見るに耐えない光景だが、快感を与えてやると公言したなので仕方ないだろう。
「うん、見てても気持ち悪いだけだから速攻で終わらすぞ」
続けざまに快感による絶頂を叩き込み大男は糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。
だが、油断は禁物だ。
さらに二回ほど絶頂させておく。
大男は腰をピクピクさせながら何かうわ言を言っているが気にしちゃ負けだろう。
生きているし問題なしだ。
「サラ、こっちは終わったぞ。そっちはどうだ?」
「もう少しかな」
サラが俺が付与した精霊の力を確かめるように戦っているため、小男はまだ健在で頑張っている。
だが、小男の顔は青ざめ最初に見せていた余裕は一切ない。
追い込まれた小男は自身にとれる最後の手段をとる。
「この!」
ピィィィィ
小男が呼子を鳴らしやがって、その音を聞いた盗賊たちが砦からワラワラと出てきた。
「おい、侵入者だ。捕らえろ!」
異変を察知した盗賊たちは、手に手に剣や鎌、ナイフなどを持って臨戦態勢も整えている。
その中にリックたちの姿はない。
「うわぁ、アルファ、いっぱい出てきたよ」
「まあ、留守にしているヤツもいるかもしれないが、それでも半分以上ここに残っていたとして、百人以上は出てきてもおかしくない計算だからな」
一人頭ノルマ50以上か。
なかなかの人数だ。
「じゃあ、ドンドンいこっか」
だが人数差に怯えることなくサラは笑顔で俺に話しかけてくる。
不安はないようだ。
だったら、俺もこの状況を存分に楽しんでやる。
「そうだな。一回全力戦闘っていうのも試してみていいかもな。精霊たち、全員出てこい!」
俺の呼び掛けに残りの精霊たちも出てくる。
嬉しそうに俺の周囲を五体の精霊たちがクルクル回る。
「まあ、実践経験もつめるし、一石二鳥だな。このままあいつらをぶちのめしつつ、リックたちを探して、お頭ってやつに会いに行くぞ」
「了解!」
俺とサラ、ゴーレムマンが暴れだす。
盗賊たちの集団の中に飛び込み、縦横無尽に駆け抜けるサラ。
俺は、サラのサポートをするべく、ミーズとカーミの連携技の『水鏡分身』で盗賊たちを撹乱しながら、鋼糸で敵の装備を無力化していく。
ゴーレムマンも俺たちの護衛をメインにしながらも近づく盗賊たちを拳でぶっ飛ばしていく。
うん、自動で動く岩石って普通にヤバイな。
盗賊たちの装備も軽装なものなので、問題なく俺の鋼糸で簡単にぶったぎれる。
俺たちを止める手段はそうそうないだろう。
「サラ、一応、探知で警戒はしてるが、隠れながら射ってくる弓矢系には気を付けとけよ」
「了解」
俺たちは勢いそのままに砦の内部に突入していく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アルファたちが暴れていたその頃、リックたちは自分等の頭のところにいた。
石造りの砦の一室、落ち着いた色合いの上質な調度品で統一された部屋にリックたちの頭、つまりは『暁』のトップの人物がいた。
銀髪の長身痩躯の二十代前半男性。
凡そ盗賊に似つかわしくない、インテリジェンス漂う銀縁の眼鏡をかけた穏やかなこの男性が盗賊『暁』の首領トランテッタだ。
リックたち三人は並んで整列していた。
「リックです。今戻りました。街のことはもちろんですが、少し報告したいことが増えました」
「どうしました?」
リックの言葉にトランテッタが聞き返す。
「頭に紹介したい、人がいるんです」
「ほう、それはどなたです?」
「おそらく、あのお嬢こそお頭の探していたお人かもしれなせん」
「まあ、別に構わないですが…………少し待って下さい。なんか外が騒がしくないですか?」
「…………確かにそうですね」
「まあ、この砦に殴りもうという馬鹿はそういないでしょうから、はぐれた魔物かなんかでも出ましたかね?」
トランテッタの制止のあと、リック、カイン、クーウの三人が耳をすますと確かに外から喧騒が聞こえてくる。
まるで、なにかが砦の中で暴れまわっているような音が…………。
それがだんだん近づいて来ている気がした。
しかも、よく声を聞くと、男たちの野太い絶叫の中に、同じく男たちの絶頂を迎えたような声までする。
リックたち三人には心当たりがあった。
「まさか!」
ある一つの可能性、というか正解にリックたちが行き着いたとき部屋の木のドアが鋼糸で切り開かれる。
鋼糸なんて普通は背後から締め付けるか、罠にしか使えない物で、こんなことをしでかす自分等の知り合いの人物は一人しかおらず、自分達の予想が正しいことを確信するリックたち。
自慢の長い金髪をなびかせた美少女と黒髪と白いメイド服が印象的な少女が部屋の中に入ってきた。
「おー、リック、ここにいたのか。ちょっと待ってる間に色々あったんで、お前らの頭に自分から会いに来てやったぞ」
突如元気よく現れた美少女にトランテッタが目を丸くすると同時に、アルファに声をかけられたリックたちは顔を青くしていた。
これがアルファとトランテッタの初対面だった。




