二十三発目 おっちゃんと盗賊
俺は、盗賊の男たち三人を衣服を紡ぎ直した糸で縛り直すと、偉そうなおっちゃんと向かい合う。
おっちゃんの服はこの小さな街には似つかわしくない華美なものだ。
悪趣味なゴテゴテした服もデップりした体、俺の好みではないので好感度は駄々下がりだ。
そして、見た目に違わないその横柄とも取れる対応も最悪だった。
おっちゃんは俺の姿が幼い女の子だからか声を荒げて叫んできた。
「お前、なんということをしてくれたんだ!」
「どういうことだ?」
助けてやって怒鳴られるとは思ってなかった。
大声で怒鳴りやがって、俺がただの十歳の女の子なら泣き出しているところだぞ。
「お前、この街にいて、盗賊『暁』を知らんのか?」
「知らない。だって、俺はこの街の出身じゃないし」
いや、マジでわからない。
だって、俺がこの街に着いたのはついさっきだ。
ただ、俺が倒した男たちが盗賊ということもわかっているなら倒して問題ないんじゃないだろうか。
「ふん、これだから田舎者は」
暴言を吐かれたようだが、確かに田舎者と言われたら王都からは遠く離れた南部出身だし、田舎者なのは間違いはない。
だが、ここに住んでるおっちゃんらも大概田舎者だとは思うがな。
心の広い俺は華麗にスルーする。
「それで、『暁』っていうのはどんなやつらなんだ?」
「ふん、ここ一ヶ月くらい前にこの街の現れた盗賊団だ」
「うん、ありがちな話だな。それの何が問題なんだ? この街にも自警団とかいるんだろう?」
比較的平和とされている俺の父親の治める領内でも、時折発生する魔物や犯罪者に対応するために自警団はあった。
俺がいた頃はなかったが、有事の際は兵として出兵することもあるらしい。
「『暁』は普通の盗賊団と規模が違うのだ! 普通の盗賊団が数人から多くても数十人規模なのに対して、『暁』は二百人以上の人数がいるのだ」
「ちょっ、それはいくらなんでも多過ぎないか?」
心からの感想だ。
確かにそんな人数がいたら、こんな小さな街じゃ驚異だよな。
おっちゃんらが焦っている気持ちもわからなくはない。
「その『暁』って盗賊団は、どうやってその規模の人数を養っているんだ?」
「だから『暁』は街を襲い、自分達の実力を示した上で街と契約を結ぶのだ。これ以上、人的被害が出る前に定期的に上納金を納めるようにと」
なるほどな。
ある意味うまいやり方かもしれない。
一回の略奪で終わるのではなく、定期的に入る上納金とかがあれば大人数を養うことも可能かもしれないな。
別に上納金は金である必要もなく、食料や酒、女でもいいらしい。
ただ、女でもよくなったのはここ最近の話とのことであるという話だった。
「『暁』は盗賊であると同時に冒険者たちの集まりでもあるからな。東の地域で多く発生する魔物がここいらで暴れた際にだから、我々としては『暁』の使者と交渉して、要求された食料と金、女を渡し被害を最小限にしようとしていたのだ」
当然のようにそう言い放つおっちゃん。
俺はひとつ確認する。
「食料や金はいいとして、そいつらに渡す女はどうやって選んだんだ?」
「それは貧乏人の娘に決まってるだろ」
「なるほどな」
「お前みたいなガキにはまだわからんだろうが、あいつら貧乏人ははした金で喜んで娘を差し出したし、娘もそれを受け入れていたぞ」
「…………」
いや、俺だってそれくらいはわかる。
人が生きていくっていうのは綺麗事ではないからな。
エミリーは親がいなかったおかげで幼くして働いていたし、サラだって十三歳という年齢で傭兵なんて危険も伴うことをしていて、逆に捕まり売られる寸前だった。
だが、わかるからといって納得できるかは別問題だ。
俺は納得できない。
「俺はガキだからな。おっちゃんらの事情はわかるけど、納得いかないな」
「お前な。旦那様に対して口の聞き方がなってないんじゃないか? 旦那様だってーー」
今まで黙って聞いていたおっちゃんの部下らしき壮年の男が口を開くと同時に威圧しながら歩み寄ってきた。
うざい……。
俺は鋼糸を振るう。
ゴトリ
そばにあった俺の等身大もある壺がスパッと斜めに切れた。
それを見た、俺の胸ぐらを掴もうとしたおっちゃんの部下らしき人が、ゴクッと息をのみ後退る。
格好つけてやってみたが、思ったより効果があったようだ。
高そうな壺を壊してしまったが、向こうが失礼な態度をとってこようとしたのだ。
こっちはいたいけな女の子だし、これくらいは許してもらうとしよう。
「あんたらこそ、俺の機嫌をとっといたほうがいいんじゃねえか?」
言うと同時に鋼糸を見せつけ、暗にその壺と同じめに遭いたくなければという意味を込めておく。
俺の言葉でさらに部下らしき男が怯んだ。
典型的な小物だな。
「いきなり現れたお前のほうこそ何者なのだ!」
今更ながらにおっちゃんが聞いてきたので答えてやることにする。
ただし家名は名乗らないでおく。
「俺はアルファだ。一応、精霊の契約者をしている」
これだけ力を見せた後だし、契約者だということくらいは話してもいいだろう。
ただ、具体的にどんな能力があるのかは教えるつもりはない。
「こんな子どもが契約者!? 目的はなんだ?」
「う~ん、特に目的はなかったんだが、一応こいつらをやっちまったのは俺なわけだし、『暁』についての情報をくれ」
「…………わかった。いいだろう。知っていることは教えてやる」
不遜な態度で要求してみるが、俺が契約者ということを知ってからはビクビク怯えて高圧的な態度は見られない。
話が早くなって助かる。
「おい、サラ、上がってきてくれ」
『了解』
空気糸を使用した糸電話でサラを二階に呼び寄せる。
床に転がしている盗賊団の黒覆面の男たちをサラに見せる。
「こいつら『暁』って盗賊団らしいんだが、知っているか?」
「う~ん、知らないなぁ」
サラが首を降る。
元傭兵のサラが知らないというなら大したことがない奴等なんだろうか。
まあ、サラは西の地方出身だし、東に位置するここら辺りの事情を知らなくてもしょうがないと思う。
「ふん、こいつら『暁』が台頭してきたのはここ数ヶ月といった最近のことだからな。こいつらは、街を襲うだけでなく、街を襲おうとする魔物なども狩って獲物とするような奴等だからな。魔物の発生も少なくないこの街としては上手く共存の道を探ろうとしていたところだったのだ」
ようは利用しようとしていたわけか。
「そこを俺たちに邪魔されたというわけか」
「ふん、そういうわけだ」
どうでもいいが、この偉そうなおっちゃんは、イチイチ『ふん』と言わないと人と話せないのだろうか?
「まあ、俺たちも別に街がそれでいいなら邪魔をする気はない」
「そうか…………そうですか。それは良かった」
冷や汗をかきながらも部下の男は安堵の表情を浮かべる。
こいつはすっかり俺にビビっているらしい。
言葉もだいぶ丁寧になった。
「でも、『暁』のメンバーにこれだけのことをして街に報復でもされたら……」
部下らしき人が顔を曇らせる。
報復は当然警戒する必要があるだろう。
…………しょうがない。
「これは俺のしでかしたことだし、こいつら『暁』の頭のところに行って俺が話をつけてきてやるよ。この街の奴らは関係ないからなって」
「本当か!」
これには偉そうなおっちゃんも満面の笑みを浮かべた。
「本当だ。一応、こいつらに道案内をさせようとは思っているが、騙されたりしても面倒だしな。拠点の場所も教えといてくれ」
「はい、それはいくらでも! 『暁』はここから東にいった精霊の洞窟のある山に拠点となる砦を築いています」
「おい、今なんて言った?」
「えっ! ですから、それならいくーー」
「そこじゃない。何がある山だって?」
「精霊の洞窟です」
「そこには精霊の洞窟ってのがあるのか!」
「はい、あ、あります」
すごい勢いで聞く俺の様子に、タジタジになって部下らしい男が答える。
名前からして精霊の祠と同じ精霊との語らいの場ってやつだろう。
ふ~ん、そっか。
俺は自分の口許が自然と綻ぶのを自覚する。
思ったより早く導きの精霊エロジジイと再開がはたせそうだ。




