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二十二発目 旅路と事件

 俺とサラが出会ってから一週間が経っていた。

 俺たちを乗せた荷馬車は今日も王国の東の地方を目指して街道をひた走っている。

 見晴らしのいい丘の上の大木の下まで来たが街道はまだまだ続いている。

 次の街までまだかかりそうなので、ここいらで昼食と休憩をとることにする。



「アルファ、今日も良い天気で良かったね」

「そうだな。サラ、休憩中に訓練するならゴーレムマンを出すがどうする?」

「望むところよ」

「自分の身は自分で守れるようにならないとだしな」



 休憩と同時に俺は大地の精霊ダーチの力でゴーレムマンを作成する。

 荷台から細身の剣を取り出したサラが、自動で動くゴーレムマンとともに戦闘訓練を開始した。

 この休憩時間に剣の訓練というのがサラの日課になっていた。

 まあ、移動中は馬が頑張ってくれているんで、俺たちはたいして疲れていないっていうのも理由だ。



「この、この! やっぱり、アルファのゴーレムは硬いなぁ」

「力任せに剣を叩きつけてもゴーレムマンには効果ないぞ」



 サラの叩きつけるような剣撃は石でできたゴーレムマンに簡単に弾かれる。

 というか、切りつけたサラの手の方が痛そうだ。

 ド素人の俺の目からしてもサラの剣の腕はそんなに良くない。

 いや、いくら細身とはいえ、剣をあそこまで振れるのだから、年齢とかも考えたらまあまあというところか。

 サラは熱心に取り組んでいる。

 適度に飛び跳ねて殴りかかり反撃もしてくるゴーレムマンは、今のサラにとって良い訓練相手だろう。

 攻撃はともかく、相手の打撃をいなすのはうまくなっていると思う。

 このまま俺を守れるくらいに強くなってくれたらありがたい。

 三十分くらいたっただろうか。



「だいぶゴーレムにも打ち込んで体も温まったし、今日こそアルファともいい勝負ができるかもよ」

「わかった、じゃあ俺と一戦やってみるか?」

「お願い」

「糸の精霊イート、出てこい」

「アルファ、いつでもいいよ」



 俺と向かい合うサラ。

 サラは剣を正眼に構えている。

 ゴーレムマンの力を流して懐に踏み込む際によくとっている後の先をとるための構えだ。

 うん、ブレのないいい構えだと思う。



「『傀儡糸』!」



 俺が鋼糸を飛ばすと、サラが鋼糸の先を正確に剣に当て弾いた。

 多少手加減していたとはいえ、まさか弾かれるとは思っていなかった。

 なかなかやるな。



「やったー、初めてアルファの鋼糸を弾けた。このまま今日こそ勝てるかも!」

「うん、俺の鋼糸を弾いたのは素直にすごいと思うが、油断しすぎだ。鋼糸は先だけでなく全体が凶器なんだぞ」

「へっ?」



 俺は鋼糸を加速させ操る。

 俺の女の子の裸を見たいというスケベ心からくる集中力を舐めてもらっちゃいけない。

 以前は雑に首やら手足を斬り飛ばすくらいしかできなかった俺の鋼糸だが、俺のあくなき煩悩は女の子の服だけを斬って肌には一切傷をつけないという域にまで達していた。

 まあ、俺がイートの能力に慣れてきたか、イートが俺の煩悩に慣れてきたとかそういうことかもしれないけど。

 とにかく、サラは俺の本気の鋼糸捌きに一歩も動くことが出来ずにエプロンドレスを切り裂かれ真っ裸にされていた。



「う~、今日も手も足も出なかった」



 悔しそうな声を上げるサラ。

 本気で勝てるとは思ってなくても、もう少しはいい勝負が出来ると思っていたようだ。

 ふふん、甘い。

 そんなサラの悔しそうな顔と成長力著しい見事なオッパイが見れたので俺も満足だ。

 俺はイートの『着衣創造』でサラの服を作り直しておく。

 今度はエプロンドレスではなく白いメイド服にしてみた。



「なんでメイド服?」

「サラに似合うと思ったし、戦うメイドってロマンだろ? 萌えるってやつ? ちゃんと鋼糸も組み込んで、防御力も前の服と同じかそれ以上にしてあるぞ」

「ロマン? 燃える? それって火の魔法か何かなの? まああたしとしては裸じゃなければ服はなんでもいいけど。結構可愛いし」



 混じりっけなしの女の子のサラに男のロマンを求めるのは無理そうだ。

 でもまあ、服を何度バラバラにしても繊維から服を作り直せるっていう糸の精霊イートの能力は便利だ。



「どうする、今日はもう訓練終わっとくか?」

「ご飯まで、もう一度、ゴーレムと打ち合いしといていい?」

「わかった。ゴーレムマン適当にサラの相手してくれ。サラ、無理はするなよ。…………さて、じゃあ、俺は食事の準備だな」



 こうして俺は食事の準備、サラは訓練と行動を始める。

 俺の用意した食事を済ますと、俺たちは再び荷馬車で移動を開始した。



「今日の夕方には街に着きそうね」

「ほんとか! じゃあ、今日は野宿しなくて済むな」



 いい加減、お嬢様育ちのこの体に固い地面で眠るって毎日はきついなって思っていたので素直に嬉しい情報だ。



「アルファはお金持ってるの?」

「自分でも少しは持っているが、あの肉塊になった男たちの残した金があるからなんとかなるだろ」

「ちょっと見てもいい?」

「ああ」



 俺は箱にはいった金貨なんかをサラに見せる。



「う~ん、それなりにはあるけど、一番安い宿屋で二十日分ってところかな」

「あれ、そんなくらいしかもたないのか?」



 この世界の価格帯はイマイチ分かってはいないが、金貨とかもあって二十日しか泊まれないって、ぼったくりじゃないだろうか。



「人間が泊まるのとは別に馬や馬車も預けないといけないしね。変なところだったら、盗られる危険もあるから、こればっかりはしょうがないのよね。でも、アルファが他に飲み食いしなくて、荷馬車も馬も手放すっていうなら二ヶ月は泊まれるよ」



 サラがニッコリ笑って説明してくれるが、そんなわけにはいかない。

 移動手段の破棄はもちろん、食事抜きっていうのは考えられない。



「人が生活するって大変なんだな…………ん、俺が飲み食いって、サラの分は?」

「あ~、あたしは文無しだし、街でも野宿よ。食べ物は森があれば、どうにかなるしね」



 傭兵になったときにそのくらいは覚悟すみだというサラ。

 実にたくましい…………って、いやいや、十三歳の女の子を野宿させて、自分だけ宿に泊まるとか俺はどんな人でなしだよ!

 そりゃ、俺自身エロいのは認めるし、性格もよくはない。

 だけど、十三歳の女の子を一人野宿させるって事実を「はい、そうですか」って受け入れられるほど鬼畜ではないつもりだ。

 いくら今の俺は十歳の女の子といっても中身はおっさんなのだ。



「宿には二人で泊まろう。サラもあの男たちにはひどい目にあわされたんだから、あいつらの残した金を使う権利があると思うぞ」

「えっ、でもそれじゃ十日も厳しいけど」

「それは…………俺がどうにかする!」

「アルファは無茶苦茶だなぁ」



 そう言いながらも、拒否をしないってことはサラも本気で野宿をしたいと思っていた訳ではないのだろう。



「とにかく宿屋には二人で泊まるとして、おいおい金を稼ぐ方法も考えないとだな。よくわかんないんだが、サラのしていた傭兵はどんな仕事があるんだ?」

「まあ、魔物や賊が出てくれたら一番稼げるんだけど、安全なのは護衛の手伝いとかかな。あっ、アルファも冒険者登録しといたらいいよ。あたしも東に行くならどっかの大きな街で冒険者登録もしとこうと思うし」

「冒険者と傭兵ってなんか違うのか?」

「う~ん、やることはあんまり変わんないんだけど、決まった雇い主がいるかいないかってところが違うかな。自分で実力にあった仕事を選べるし。でも、その分、安定して稼ぐためには実力が必要になるんだけどね」



 なるほどな。

 街についたら早速冒険者登録出来るところを探そう。

 そうこうしている間に日も暮れかけて街が見えてきた。

 夕飯時だからか、街のあちこちから煙が上がっている。

 周囲を石壁に囲まれた小さな街だ。



「ん、街の様子なんかへんじゃない?」

「…………たしかに、悲鳴も聞こえるな」



 俺たちは荷馬車を急がせる。

 街に到着すると、門番らしきおっさんが倒れていた。



「どうしたんだ、何があった?」

「……と……盗賊……だ」

「わかった。なんとかできそうならしてやるから、とりあえず、おっさんはそこで休んどけ」



 それだけいうとおっさんを壁際に引きずり、サラとどう行動するか相談する。



「盗賊らしいが、どうする?」

「う~ん、規模もわかんないし、危険も大きそうだけど、うまく追い払えたら、それなりの報酬にはなるね。あたしとしては困ってる人を見捨てるって言うのも嫌かな」

「じゃあ、決まりだな」



 俺たちは盗賊狩りを開始する。



「ターキ『空中探知』、ダーチ『地中探知』。サラ、俺が敵の位置を捕捉する。俺から離れるなよ」

「了解」

「ダーチ『土石生成』&『土石造形』&『土石操作』」



 サラも訓練でも使っていた剣を構え、俺もゴーレムマンを呼び出して臨戦態勢を整えておく。

 早速、俺の探知範囲に引っ掛かる奴らを発見する。



「サラ、あそこの壁の向こうから四人やって来るぞ」

「いつでも良いわよ」



 俺の指示したほうから黒覆面をした三人の男たちが一人の女性を抱え飛び出してきた。

 うん、見るからに覆面の男たちは敵だな。

 サラもそう判断したようで、躊躇なく動き出す。



「てやー!」



 気合い一閃。

 サラの剣が男の胴を薙ぐ。

 俺のゴーレムマンとの訓練で刃こぼれしていて、鈍器と化していたサラの剣だったが、躊躇ない一撃は十分な威力だったようだ。 

 男の一人が苦悶の表情を浮かべて崩れ落ちる。



「ゴーレムマン、残り二人の男の足を蹴飛ばせ!」



 俺の指示でゴーレムマンが男の脛を蹴飛ばした。



「ガァァァアア」



 うん、あれは相当痛そうだ。

 考えてみれば、石の塊が脛とかに当たるわけで痛くないわけがない。下手すれば骨折ものだ。

 残りの男も抱えていた女性を降りし、ナイフのような刃物を取り出しゴーレムマンに切りかかるが、俺のゴーレムマンにそんなもの効くわけない。

 呆気なく脛を蹴り飛ばされて転がった。



「イート出てこい! 『糸生成』。糸の材料はそいつらの服を使っていい、縛り上げろ!」



 俺から飛び出た白い球体が男たちの服を使い、縛り上げるための太めの糸を紡ぎ上げる。

 男たちは「グエっ」と、声をあげイートの糸で締め上げられた。

 ここまで僅か数十秒、自分でもなかなかいい手際だと思う。



「お前らも縛られる側の気分を味わいながら、そこに転がっとけ!」



 とりあえず、担がれていた女性も死んではいないのを確認して隅のほうに寝かせておく。

 俺はターキ、ダーチから送られてくる情報を整理する。



「サラ、あと最低数人はいそうだ」

「了解」



 俺は争っているらしい反応のあった、街でも一番大きな家を目指した。

 その家は俺の生家からしたらかなり小さいが、地方の街にしては大きめな家といえる感じの二階建ての建物だった。



「アルファ、このまま突入する?」

「時間ももったいないし、俺が一人で行く。サラは入り口を見張っててくれ」

「わかった」



 もし、罠やなにかで人質でもとられたら、えらいことだ。

 俺一人なら最悪精霊たちの力でなんとかなる。



「サラ、行ってくる」

「気をつけてね」



 盗賊と思われる奴らは二階にいるようだ。

 ターキから送られてくる情報ではここにいるのは五人。

 うち盗賊らしき黒覆面の男たちは三人。

 バラバラに動かれたら面倒だ。

 俺は鋼糸を構える。


 バタン



「イート、『傀儡糸』だ」



 俺は踏み込むと同時に、部屋の中にあった武器になりそうなものを片っ端から鋼糸で寸断していった。



「なっ、誰だ貴様は!?」

「はい、そういうのいらんから、おとなしく寝といてくれ」



 俺は鋼糸を操り、男たちの動きを絡めとっていく。

 自分で言うのもなんだが、見事な緊縛術だと思う。

 冷たく細い鋼糸が男たちの体に食い込んでいる。

 体を傷つけない絶妙な力加減だ。



「このガキ、俺たちにこんなことしてただで済むとーー」

「全然反省してねえな。これでどうだ」



 男たちを遠慮なく締め上げる。



「イート、人体切断にならん程度に調整してやれ」



 目の前でスプラッタはゴメンだしな。

 さて、これで盗賊たちは片付いた。

 あとは感謝してもらい、謝礼の交渉だな。

 俺は残った二人のうち偉そうなデップりしたおっちゃんに声をかける。



「よっ、おっちゃんら危ないとこだったな」

「お前、何てことしてくれたんだ!」



 助けられたはずのおっちゃんからかけられた言葉は意外なものだった。



 どういうことだ?









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