エピローグ
魔法少女達は私生活においていい変化が現れていた。
硯は父と和解したことで書道教室の雑務を手伝う機会が増えた。稀に講師として小学生を教えることもあった。魔法少女として自信をつけたためか書く文字に迷いはない。
父・墨仙も魔法少女活動に理解があるためにアウトサイダーが発生したらすぐに席を離れられるように便宜を図ってくれているのだ。
【喫茶山猫】のシフトを減らさざるを得なくなったがそこで代役となったのがチェリー☆ブロッサムである。
店長の紅葉はチェリー☆ブロッサムの境遇に同情し、身元引受人にさえなってくれた。その恩に報いるためウェイトレスとしてアルバイトに入っている。硯と違って長年女性として生活していたため可愛い衣装にも抵抗がないようだ。
新しいバイトが入ったことで店は盛況となった。
光も莉奈とは今まで以上に打ち解けている。明るくなったためか友達も増えている様子だ。それぞれの人生が好転しているのは各々が実感するところである。
――しかし、町の平和は長くはそう続かなかった。
ネガタイドは自然発生するし、それを恣意的に利用する《アンビバレンス》は未だ健在なので当然である。
ただロストという幹部を失って大きく弱体化したのもまた事実だった。
今まで共同戦線を張る上では橋渡し役をやっていた潤滑油的人物が失われたのだ。組織といっても仲間意識はなく連携ができていない。
個別に活動しては魔法少女達に各個撃破される有様だった。
「ショッピングモールにアウトサイダー出現! ヘイト級が一体! それから学区の方にストレス級が三体出現している。硯はショッピングモールの方を、光は学区の方を対処してほしい」
「了解」
「あれ? 今日はチェリー先輩一人です? キャロットと一緒じゃないんですか?」
「彼は【精神世界】へ帰還しているよ。定期報告に行くらしい」
「ああ見えて仕事熱心だからな~あのウサギ」
魔法少女達は適材適所で実力をいかんなく発揮している。
アウトサイダーではなくなったチェリー☆ブロッサムは戦う力を再び失うことになってしまったが、持ち前の戦闘経験と悪の組織で培った采配能力を活かしてサポーターとなっていた。おかげで硯達も順調に対処できている。
罪滅ぼしという意識が強いためか彼女もまた仕事熱心だった。
彼女からもたらされた情報を元に《アンビバレンス》の拠点を強襲し、幹部クラスは何人か浄化に成功している。
未だに残党が拠点を移して抵抗を続けているものの、崩壊は時間の問題だろう。確実に本当の平和への道が近くなっている。
「フィジカルターン!」「メンタルアップ!」
現場へ行く道程で人目につかない場所を見つけるなり二人は変身する。
「魔法少女ブラック☆ライター」「魔法少女ホワイト☆ドリーム」
今日も平和のために魔法少女達は戦うのだ。
一方キャロットは借りものの兎の肉体から飛び出して【精神世界】に帰還していた。
人々の夢や幻想が様々に移されるメルヘンチックな世界である。
だが中には淀みとして現れるネガタイドが存在するため精霊達はネガタイドを処分、或いは捕獲し研究している。
そんな精霊達の中にひときわ大きい王がいた。ゆるキャラのような風貌であるがれっきとした【精神世界】の統治者である。
彼は薄目を開けるなり訪問者であるキャロットに厳格な口調で問いかけた。
「報告を聞こう、キャロット」
「魔法少女ブラック☆ライターはスペル☆マスターを彷彿とさせる才能の塊ぴょん」
報告の映像にはかつて町の平和を守っていスペル☆マスターの戦闘映像と現代のブラック☆ライターの戦いぶりが並列して写されている。
二人は親子らしく魔法の杖の形状も使用する魔法も瓜二つだった。
「さすがは二世魔法少女。して、もう一人は?」
「ホワイト☆ドリームは最初こそ使えない新人だったけど今は中々やるぴょん。やっぱり最初魔法少女が女の子しかなれなかったのも納得の適合率だぴょん」
こちらは最初の情けない戦いぶりと現在のスマートな戦闘スタイルが虚空に写される。とても同一人物とは思えない成長ぶりである。
「チェリー☆ブロッサムの方は?」
「裏方で協力してもらってるぴょん。魔法の杖は修復を試みているところぴょん。あとあの子から聞いた情報を元に《アンビバレンス》捜索中だぴょん」
精霊の王は露骨に項垂れる。
猫背なのが愛らしくもあるが本人としてはかなり反省の態度を全身で表しているらしい。
「あの子には申し訳ないことをした。しかし敵の情報を持って帰ってくれるとはやはり貢献度が高い子だ。今後も一層サポートしてやるように」
「はいぴょん!」
書記官と思われる精霊は王とキャロットの議事録をまとめる。
そして過去の書類にあった『魔法少女は絶滅しました』という一文はは取り消し線で上書きされることとなった。




