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53話 レアスライム

新たなおつまみ開発のため、ケンイチたちは街の外――小さな森へと足を踏み入れていた。


「やっぱり、こういう素材は自分で探すのが一番だな。香草や木の実、キノコも乾燥させれば良いつまみになる」


「あの、ケンイチさま……前はこの辺りでも、すごく警戒してたじゃないですか」


セラフィーナが微笑む。


「……まぁな。でも今はもう慣れたよ。いろんな土地でモンスターにも会ってきたし...神にも会ったしな。」


実際、時折現れる小型の魔物たちは、ケンイチたちの前に現れた途端に、三姉妹の連携攻撃であっさりと蹴散らされた。


「なんか最近、弱く見えるよね」


「我々が強くなったのだ。訓練と実戦の成果だな」


ベアトリーチェの言葉に皆が頷いたその時――


「……ん? なんだ、あれ」


小さな丘のふもと。

半透明で青白く輝く、ぷるんとした物体がうごめいていた。


「スライム……? でも、なんか違うな」


「まって、それ、ただのスライムじゃない。虹色に……光ってる?」


エスメラルダが目を細めて言う。


「レアスライム、なの!」


フェリシアがぴょんと跳ねる。


「レアスライム? それって……」


「とても珍しくて、体内に特殊性の粘液を持っていて、味や匂いを染み込ませやすいの。お料理でも、調味素材でも使えるって伝説があるの!」


「それ、欲しい!」


ケンイチの声と同時に、皆が動いた。


レアスライムはのんびりと動いていたが、こちらの気配に気づくと、ぽよんと跳ねて逃げ出す。


「逃がすか!」

ベアトリーチェが木を蹴って滑空し、

セラフィーナが封じの魔法を放ち、

エスメラルダが罠を地面に展開。


「よし、今だ!」

ケンイチが手早く準備した小さな木樽を開け、レアスライムを包み込むようにポンッと中へ。


「……捕獲、完了!」


「やったー! これで、なにかすっごいの作れるかも!」


フェリシアが目を輝かせる。


樽の中で、レアスライムはのんびりぷるんと跳ねていた。

魔力も気性も穏やかで、危険性はないようだった。


「持ち帰って、分解じゃなくて、共生……いや、飼育して素材として活かせないかな」


「スライムを“育てて味を染み込ませる”って……面白そうだな」

ケンイチは小さく笑った。


**


その日の帰り道。


ケンイチたちは、大きな木の根元に座り、昼食がてら採れたての野草をかじっていた。


風に揺れる木々の音が、どこか心地よく感じられた。


──────


修道院の作業場。


ケンイチは、静かに木樽の中を覗き込んでいた。


「……やっぱり、このスライム、かなり優秀かもしれない」


中で、レアスライムが穏やかにぷるんと跳ねている。

捕獲から数日。


あれ以来、水分や養分、酒を丁寧に与えてきたところ、色味はさらに透明度を増し、粘度のある体表にはかすかに甘酒のような香りまで漂っていた。


「これ、スライム自身が体内で乳酸菌と酵母を育ててる……もしかして、こいつ、“生きてる発酵槽”なんじゃないか?」


セラフィーナが眉をひそめながら呟いた。


「じゃあ、あのスライムに酒の原料を吸わせたら、発酵させてくれるってこと?」


「そうだな。前はエール式で煮沸してホップを加えて発酵酒聖を使っていたけど、今回はこいつ自身を“発酵スターター”として扱ってみよう」


ケンイチは道具棚を開き、最新の装備を並べ始めた。


・温度調整用の精密魔法石

・分離濾過機

・酸素調整栓付きの特製発酵壺


「じゃ、スライム酒Ver.2、仕込むぞ!」


「はいっ!」


⸻


まずは素材選びから。


今回は「もち米」「焙煎麦」「甘草」「乾燥した薬草の花びら」を混合。


「これらを少量ずつスライムに与えると、味が移っていく。…ぷるぷる...味噌みたいな仕組みだな」


「味噌……?」


「いや、故郷の食品の話だ。まぁ、やってみたらわかるって」


スライムに素材を少しずつ与えると、体内の色がほんのりと変化する。


「麦を吸わせたら……うわ、ほんのり甘くて香ばしい匂いが出てきたぞ」


「じゃあ、次は清酒用の香り米を吸わせよう!」


スライムはぷるんと満足そうに跳ね、素材を体内でぐるぐると回し始めた。


こうして数日、素材と発酵を繰り返したスライムの体液を、慎重に抽出・濾過。


濾過装置の中を、淡い金色の液体が通っていく。


「……できた」


琥珀色の液体は、前回よりもはるかに透明度が高く、グラスに注ぐと柑橘のような香りと、奥にかすかに麹の甘さが香る。


「スライム酒、第二世代――誕生だな」


セラフィーナが微笑み、エスメラルダが慎重に口をつけた。


「……これは……なめらかで飲みやすい。でも香りが複雑で、なんだか心が静かになる味です……」


「飲むアロマ……なの!」


⸻


さらに――ケンイチはこの酒に合う“肴”にも着手していた。


レアスライムから抽出した粘液のごく一部は、天然のゼラチンに近い構造をしており、旨味を閉じ込める素材としても応用可能だった。


「野草で漬けた乾燥肉に、この粘液をうっすら塗って炙ると……」


「うわ、すごい香り! 甘草とスパイスが閉じ込められてる!」


「ぷるっとしたコーティングがあるから、焦げすぎないんだな」


ベアトリーチェがそれをつまみ、噛みしめる。


「……これは、いい。エールにも清酒にも合うし、主菜にもなる」


「うん、これはもう街“名物”にできるかもしれないね!」


修道院の地下室には、新たな酒とつまみの在庫が、少しずつ蓄えられていった。


「さあ、次はこの酒をどこで披露するか、だな」


ケンイチはグラスを軽く掲げた。


「この世界には、まだまだ新しい味が眠ってる」


静かに乾杯の音が響いた。



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