33話戦に向けた即席酒
戦の鐘が鳴り響いた街では、兵士たちが慌ただしく動き回っていた。
先程までのモンスターとの戦いとは違い、聞くと今度は......人間同士の戦いだ。
「……人間同士か」
俺は街の騒がしさを眺めながら、複雑な気持ちを抱えていた。
魔物相手なら何も考えずに戦えるが、相手が同じ人間だとなると、そう簡単に割り切れない。
モンスターには剣を振るうことは出来たが人間には...
俺は元々酒が作れればそれでいいんだ...
だが、ここにいる以上、傍観者ではいられない。
「ケンイチ、どうするつもりなの?」
セラフィーナが心配そうに問いかける。
「とりあえず、ギルドへ行く。情報を集めないと。」
俺がそう言うと、三姉妹も頷き、一緒にギルドへ向かった。
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ギルドに到着すると、普段よりもずっと緊迫した空気が漂っていた。
受付には戦闘準備を進める冒険者たちが押し寄せ、騎士や傭兵たちも装備を整えている。
俺たちがギルドの奥へ進むと、一人の壮年の男が待っていた。
「お前がケンイチか。」
声をかけてきたのは、この街のギルド長——バルフォードというらしい。
年のころは四十を過ぎたあたりだろうか。傷跡のある厳つい顔つきに、威厳のある態度。
「話は聞いている。昨日のモンスターパレードでの活躍、見事だったな。」
「そんな大したことはしてませんよ。」
「謙遜するな。だが、戦いはまだ終わっちゃいない。」
バルフォードは腕を組み、真剣な表情で続けた。
「実はだな...戦に持っていく酒が足りないんだ。」
「……酒?」
思わぬ言葉に俺は眉をひそめた。
「戦場では士気を高めるために酒が必要だ。だが、急な戦の準備で、予定していた供給量が足りなくなった。」
「……なるほど。」
戦場で酒を使うのは珍しくない。
士気を高めたり、戦の緊張を和らげたりするために振る舞われることがある。
この国では、それが伝統なのかもしれない。
俺は少し考えた後、頷いた。
「……わかりました。即席の酒を用意しましょう。」
「ほう……やれるのか?」
「やれますよ。」
俺はそう言うと、エスメラルダ、ベアトリーチェ、フェリシアの三姉妹に声をかけた。
「市場で材料を調達する。手伝ってくれないか。」
「了解です!」
「任せろ!」
「お酒作るの、楽しみなの〜!」
三姉妹と共に市場へ向かい、必要な材料を集めることにした。
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俺たちは市場で麦、米、蜂蜜、果実などを仕入れ、ギルドの酒蔵を借りて酒造りを始めた。
「ケンイチ、どんなお酒を作るつもりなの?」
セラフィーナが興味深そうに尋ねる。
「今回は戦の士気を高める酒だから、即席で作れるハチミツ酒をメインにする。発酵を短時間で進められる“酒聖スキル”を使えば、一晩で飲めるくらいの強さにはできる。」
「本来なら時間がかかる酒造りを、本当にケンイチは簡単にこの量を……すごいです。」
エスメラルダが感心したように言う。
「ま、うちの院長は天才だからな!」
ベアトリーチェは俺の肩を叩いて笑う。
「お酒、甘いのも作るの〜?」
フェリシアが目を輝かせる。
「ああ、女性や非戦闘員でも飲みやすいように、果実酒も仕込んでおく。」
「やった〜!」
フェリシアが嬉しそうに飛び跳ねた。
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仕込みを終えると、俺は酒聖スキルを発動した。
「酒聖——!」
俺の手からほのかな光が放たれ、酒樽の中で発酵が進んでいく。
いつもなら大量の樽の酒聖数週間かかる工程が、わずか数時間で完了した。レベルアップしている証拠だろう。
「……よし、できた。」
俺は樽の栓を開け、一口味見する。
「うん、これならいける。」
ミードはしっかりとした甘みがありながら、喉を通ると熱を帯びるような刺激がある。
戦士たちの士気を高めるには十分な仕上がりだ。
「ケンイチ、本当に完成したの?」
セラフィーナが驚いたように樽を覗き込む。
「ああ。あとはギルドに運ぶだけだ。」
「即席の酒の量……すごいです。」
エスメラルダが感動したように呟いた。
「じゃあ、あたしたちで運ぶぞ!」
ベアトリーチェが樽を抱え、他の冒険者たちと共にギルドへと運び始めた。
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夜が更ける頃、戦へ向かう兵士たちに酒が振る舞われた。
「これが例の即席酒か……」
バルフォードが一杯飲むと、その目が驚きに見開かれる。
「……なんだこれは。たった数時間で仕込んだとは思えん!」
「ほう、これが即席とはな……!」
他の兵士たちも酒を口にし、その場の士気が一気に高まる。
「——よし! これで戦える!」
「敵が来ようが関係ねぇ!!」
「俺たちの街を守るぞ!!」
酒の力で士気を上げた兵士たちは、一層気合を入れた。
俺はそれを見ながら、再び鳴り響く戦の鐘を聞いた。
——戦いの幕が、上がる。




