19.コニャック作り
海の街エルヴーレンから戻った俺たちは、修道院での酒造りに改めて力を入れていた。
海賊たちがラム酒を作り、交易を円滑にしてくれたおかげで、俺たちの酒はますます広まっているらしい。
そして、俺は気づいた。
(強い酒の需要が予想以上にあるな……)
ラム酒も大人気だったが、より洗練された酒を求める声も増えていた。
「なら、次はコニャックを作るか」
コニャックは蒸留酒の中でも特に高級とされ、貴族に好まれる酒だ。
貴族が集まる場で流行れば、俺たちの酒の価値はさらに上がるのでは無いだろうか。
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早速、コニャック作りに取り掛かった。
コニャック作りには、大きく分けて
①原料となるワインの醸造
②蒸留
③熟成
の3つの工程が必要になる。
俺たちは、修道院で培った酒造りの技術を活かし、慎重にコニャックを作ることにした。
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一つ目のワインの醸造だ。
コニャックの元となるのは白ワインだ。
まずは良質なブドウを手に入れる必要がある。
「セラフィーナ、前に取引した農家からブドウを仕入れよう」
「ええ、もう準備はしてあるわ」
修道院の畑で育てたブドウもあるが、コニャックには大量のブドウが必要だ。
そこで、信頼できる農家、少し前から良く取引させて貰っている方と協力し、香り豊かなブドウを仕入れた。
収穫したブドウは、まず丁寧に洗浄し、房から実を外す。
「ここからは足踏みか?」
「ええ。より自然な風味を出すためにね」
三姉妹や修道女たちと協力し、伝統的な足踏みで果汁を絞る。
潰したブドウは発酵用の樽に移し、ワイン酵母を加えて発酵させる。
『酒聖!!』
修道院の貯蔵庫で、気温管理をしながら静かに発酵を進めた。
ブクブクと泡を立てながら、ブドウがゆっくりとワインへと変わっていく。
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二つ目の蒸留の工程。
発酵が終わったワインは、そのままではコニャックにならない。
ここからが、コニャック作りの本番だ。
「さあ、蒸留に入るぞ」
俺たちは、以前使用した蒸留技術を活かしコニャックを作成する。
「蒸留は二回行うのが重要だ」
「なぜ?」
「一度の蒸留だと、雑味が残りやすい。二度蒸留することで、より純粋な酒になるんだ」
まずは第一蒸留。
ワインを銅製の蒸留器に入れ、じっくりと熱を加える。
「おぉ……最初に出てくるのはアルコール度数の高い部分か」
「ええ。でも、この最初の部分は『初留』といって、毒性が強い成分も含まれているから捨てるのよ」
俺たちは、慎重に初留を取り除き、次に出てくる「心臓」と呼ばれる純粋な蒸留液だけを集めた。
「これがコニャックのもとになる原酒か」
第一蒸留が終わったら、さらにもう一度蒸留を行う。
「二回目の蒸留は、アルコール度数をさらに高めて、香りを引き出す作業だ」
再び慎重に蒸留を行い、最も質の高い部分だけを抽出する。
「これで、コニャックの原酒が完成したな」
透明な液体からは、すでに芳醇な香りが立ち上っていた。
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三つ目の熟成の工程。
原酒だが、これだけではまだコニャックとは言えない。
ここからが最も重要な工程——熟成 だ。
「コニャックは樽で寝かせて、じっくりと熟成させることで完成するんだ」
「どれくらいの期間?」
「最低でも2年、できれば10年以上熟成させたい」
セラフィーナや三姉妹と共に、熟成用のオーク樽を用意し、原酒を注ぎ込んだ。
「樽の木の成分が酒に溶け込んで、深みのある味になる」
「つまり、時間が美味しさを作るのね」
けれど、俺にはこのスキルがある!
『酒聖!』
ゆっくりとだが熟成されている。
まだ若いが、試しに熟成中のコニャックを取り出し、試飲してみることにした。
「香りがすごいな……」
黄金色に輝く液体をグラスに注ぎ、香りを嗅ぐ。
バニラや果実、ほのかに木の香りが混じり合い、深い味わいを予感させた。
「飲んでみるか」
そっと口に含むと、濃厚な味わいが広がる。
「……これは、いける!」
まだ若いが、それでも十分に美味い。
「時間が経てば、さらに良い味になるわね」
俺たちは、このコニャックを少しずつ市場に出しながら、より長期熟成のものも仕込んでいくことにした。
一気にスキルで作っても良いが、愛情を込めて熟成もさせたい。
こうして、修道院の新たな酒「コニャック」が完成した——。
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貴族の間で話題に!
数ヶ月後——。
熟成されたコニャックを市場に出したところ、瞬く間に評判となった。
「この香り……今まで飲んだどの酒よりも素晴らしい!」
「これこそ、貴族のための酒だ!」
修道院で作られたコニャックは、貴族の間で大流行した。
これにより、俺たちの酒造りはさらに成功を収めたが——。
それを快く思わない者もいた。
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ある日、一人の貴族が俺たちのもとを訪れた。
「ケンイチ殿、お話があります」
彼は、以前から俺たちの酒を気に入っていた良識ある貴族の一人だった。
「最近、町の酒を独占しようとする者が現れました」
「……何?」
「悪徳貴族のエドモン侯爵が、町の酒造業者を次々と買収し、支配しようとしているのです」
どうやら、エドモン侯爵は俺たちの酒の人気に目をつけ、修道院の酒を手に入れようと画策しているらしい。
「すでに何軒かの酒場がエドモン侯爵の支配下に置かれ、他の酒を扱えなくなっています」
「……つまり、俺たちの酒も奪われる可能性があるってことか」
「はい。そこで、私たち貴族の中でも彼を快く思わない者たちが協力しようと考えています」
良識ある貴族たちは、エドモン侯爵の横暴を阻止するため、俺たちに手を貸してくれるという。
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ギルドにも影響が……
さらに、この問題はギルドにも波及していた。
「最近、妙に高い酒しか流通しなくなってるって話だ」
「エドモン侯爵が裏で動いてるらしい」
ギルドの冒険者たちも、エドモン侯爵の影響で困っているようだった。
「こうなったら、正面から対抗するしかねぇな」
俺たちは、良識ある貴族たちと協力し、エドモン侯爵の陰謀を阻止するために動き始めることにした——。




