婚約破棄させるんですが何か
「仕方がない」
「何が仕方がないですか?」
「王妃には悪いが、第一王子は王家に残すことが出来そうも無い」
「そのことでしたか」
「あぁ、人を見る目は私直々に育てたエネミーがリックではなく、ディーと共に居ることを好んでいてな」
「良いではありませんか?継承権はディーにあります。ディーの治世は盤石なものとなります」
「だが、リックも王の子、継承権を与えて然るべきだと思うが」
「リックが真面目に帝王学を修め、ディーと仲良く互いを高めることが出来れば良いですが、ディーを蹴落とすことを考えるようでは到底、王の器ではありません」
「器という点ではディーも器では無いが」
「いいえ、エネミー様がお近づきになっていることで王たる器をお持ちです。そしてディーの治世を手伝うのはディーの世代に生まれた者です。そう遠くないうちにディーの治世が始まる気がします。彼らが学院に通うまでは見守りましょう。学院に通うことで変わるやもしれませんから」
※※※
「リックが平民の娘に惚れ込んだようだ」
「まぁ、その娘がきちんと支えられれば良いのですが」
「難しいようだ。甘やかされることだけを享受して貴族としてのマナーは身につかないようだ」
「サリム先生でも難しいのですの?」
「あぁ、教育することを諦めてしまわれたようだ」
「何と、ベルガのときと同じではありませんか」
「ちょっと待て、あの小娘と同じにしてくれるな。私は言葉使いやマナーについては学んでいたし、言うことを聞いていたぞ」
「そうでしたかしら?廊下を疾走するベルガを急いで追いかけるサリム先生を見るのは習慣とばかり」
「習慣ではないぞ。週に三回だけだ」
「それを習慣というのですわ。たしか食堂の限定菓子が欲しくて走っていたのでしたね」
「変なことばかり覚えているな」
「だって、わたくし、陛下に嫁ぐまではベルガの侍女でしたもの。授業にも食事にも全てに振り回されましたわ」
「だってだな、側室になればお淑やかにしなければならないじゃないか。少しくらい羽目を外しても良いだろう。それに家から連れてきた侍女は泣きながら辞職を願い出るから連れて行ける侍女がお前しか残らなかったのだ」
「悪いことではありませんでしたわ。王妃として必要なマナーや教養は学ぶことができましたし、ベルガという友人を得ることができましたもの」
「そうか、私も嬉しいぞ」
「言葉はちゃんとお聞きくださいまし。悪いことではありませんと申したのですわ。嬉しいとは一言も言っておりませんのよ」
「では、嬉しくないのか」
「嬉しいか、嬉しくないかで言えば、嬉しいですわ」
「言葉で勝てた試しが無いからここで止めておく。それで、リックが恋に走ってしまうと少々面倒でな」
「婚約者のつもりのユーリシア嬢のことですわね」
「あぁ、ディーがうるさくてな」
「これからディーの治世ですもの。ディーの思うようにして差し上げるべきですわ」
「しかし、王の意向を無視するわけにもいくまい」
「問題ありませんわ。王はわたくしにベタ惚れですのよ」
「ベタ惚れか」
「えぇ、ベタ惚れですわ。だから、わたくしが一言、申し上げれば良いのです」
「一言?」
「可愛い息子が好いた者と添い遂げることが出来ないなど、母として苦しく思います。これも全て王族であるから出来ぬこと。せめて、平民であったら。わたくしが王を愛したばかりに王妃でなければ」
「それは本当のことか?」
「嘘ではありませんわ。学院に来た娘が平民出身であるから貴族社会では問題になっているだけのこと。双方とも平民なら好いた者が添い遂げただけのこと。どこにでもある話ですわ」
「王妃の涙、嘆きを見たくない王は喜んで王族から追放してくれるということか」
「えぇ、ついでに王には、獅子はわが子を谷へと突き落とし厳しさを教える。父として、一家を支える者としての厳しさを教えるために敢えて厳しくしましょうと申しておきます」
「何ともまぁ、いつものことながら王が可哀想に思えてきた」
「いつものことではありませんか。いちいち王を気遣っていましたら国が傾きましてよ」
「いや、そうなのだが」
「王にはわたくしたちの掌で踊っていることこそ治世が上手くいく秘訣ですわ」
「王と王妃を引き合わせたのは私だが、少し後悔している」
「それよりもディーは怒っているのではありませんか?」
「あぁ、それで、沈めろと言ってきた」
「そうですの。そう言えば、実家の父が騙されてボロ船を掴まされたのです。処分しようにも平民では費用など工面できませんもの。思案していたところですのよ。ベルガ、良かったらお使いになります?」
「手配することを考えれば助かるが、王だけでなく、リックにも罪悪感が出てきたのだが」
「そんなこと感じる必要はございませんわ。ベルガはお優しいのですね。王族としての威厳と責務を忘れた者に情けをかける必要は塵一つありません。さっさと沈めておしまいなさい」
「いや、はい」
「何を躊躇っているのか全く分かりませんが、王家の繁栄に邪魔になるものは血縁であっても排除する。これが鉄則ではありませんか。戦慄の戦女神と呼ばれているベルガらしくない」
「だがな」
「ベルガの姪御エネミー様は社交界で旋律の毒薔薇と呼ばれて、古狸どもと対等に渡り歩いているのに」
「旋律の毒薔薇?」
「そうですよ。大公家夫人のことで嫌味を言う貴族に言い返していく姿は美しい姿に棘を持った薔薇そのもの。言い返された貴族は、その言葉が刺さり、社交界から姿を消していく。毒を盛られた者のように苦しみながら。何とも素晴らしいではありませんか」
「そうか」
「二つ名をつけたのは、わたくしですけど、なかなか良いと思いませんこと?」
「そうだな」
「躊躇うことありません。ディーが沈めろと望むのなら沈めるだけのこと。わたくしたちはディーの頭上に王冠が輝くその日までディーの治世の邪魔になるものを駆除するだけ。そのためには躊躇いも情けも不要です」
「では、王の説得は任せよう。私は準備を進めることにする」
「そうしてくださいな。わたくし夜会がありますので失礼しますわ」
「・・・あいかわらずだな。王家至上主義。王家のために生き、王家のために死ぬ。王家に不要なものは血を分けた子どもでも排除する」
※※※
「上手くいきましたわね」
「そうだな」
「そうそう、わたくしリックに最後の話をしてきましたのよ」
「どんな?」
「船におとなしく乗ってくれるようにお願いしに」
「そうか」
「えぇ、お前が愛した平民の娘は隣国の貴族の血を引く者。隣国と我が国は国交断絶で表立って認めることはできない。だから秘密裏に亡命できるように手筈を整えている。だが、我が国の船が隣国に長く滞在することはできない。一番近い港に流れ着くように船を出港させる。そして船底には穴を開けてあるから到着と同時に沈むようになっている。と言っただけですわ」
「それは、また本当か?」
「本当ですわ。あの平民の娘に隣国の貴族の血が流れているのは、十五代前ですけれども。船底の穴が思いの外、ボロ船で大きいだけですけど」
「そうか」
「だからリックは最期のときまで笑顔で娘を抱きしめていることでしょう。隣国で新しい生活ができると思って」
「だが、隣国まで行けるだけ沈むのに時間があると知れば、戻ろうとするのではないか?」
「そこが難しく頭を悩ませたところですわ。でもわたくし考えましたの。死を目の当たりにしたとき人は傍にいる人に恋に落ちることを。だからリックには娘には数時間で沈むと言っておくようにと、無事に隣国にたどり着けば、結ばれることを祝福されていると言えばいいと知恵を授けましたの」
「それは私たちが学院にいたときに流行った恋物語の結末だな」
「リックが昔の恋物語を知っているはずないと思って使ってみましたのよ。思った通りに上手くいきましたわ」
「もし、この話に悪役令嬢がいるとすれば、間違いなく王妃だと私は断言するよ」
「悪役令嬢ではなく、悪役王妃ですわ。一番の権力を持つ者が策略を巡らすのですもの。失敗するはずがありませんわ。だいたい、わたくしは何もしていませんわ。わたくしはただ言葉にしただけです。これの何が悪いの?そう思わない?ベルガ」
「自分では何もしていない。まさしく悪役王妃だな」
「えぇ、でも全ての責はわたくしにありますのよ。それは分かっています。王家のため、王家のためなら喜んで断頭台に立ちますわ。わたくしの願いを叶えただけの者たちに何の責があると言うのです。王妃の願いは国の願いと思い、動いた者を処罰するなど愚の骨頂。わたくしを処罰できる王はわたくしを失いたくないがために見なかったことにするでしょう」
「そうだな」
「それでもいいのです。わたくしの名は悪女、鬼女とともに王家の歴史書に残るでしょう。そして後世の王家の者が同じ轍を踏まなければ良いのです」
「王家最大最悪の王妃となるためにか?」
「そうです。わたくしの願いは、御歴々の王妃にできなかった。常に死と血が付きまとう呪われた王妃です。お綺麗なだけでは国は動かせません。ただ、王が呪われては国が傾きます。だからこそわたくしなのです。ベルガ、わたくしの願いのために力を貸してくれますか?」
「もちろんだ、私が輝けるのは戦場だけだ。王妃という立場で笑顔の裏で策略を巡らすのは苦手なんだ。敵は正面から叩き切るに限るからな」
「騎士団長もはだしで逃げ出すほどの剣の腕前ですもの。正面の敵は任せましたわ。それはそうと、大公家夫人、新しい恋人に変わったようですわよ」
「またか」
「これで二十三人目ですわね。ご当主も離縁なされば良いのに」
「兄も優柔不断にかけては陛下と肩を並べるからな。さすがに王の結婚相手を斡旋するように兄の結婚相手を探せなかったことが悔やまれる」
「ご隠居様が男子が生まれたことに舞い上がって生まれた日に婚約者を決めてしまわれましたもの。生まれていないわたくしたちではできませんものね」
「おかげで向こうの家には頭が上がらない。娘が娘なら親も親だ。やれ王税を引き下げろとか、王家の親類なのだから王に会わせろとか、爵位を上げろとか散々な言い分だ」
「王家に次ぐ権力を持つ大公家によく物申せますね」
「まったくだ。隠れているつもりかもしれんが、何人の愛人の子を産めば気が済むのやら」
「その子たちはどうなっているのですか?」
「さすがに大公家の子として言い張るには無理があると本人たちも思っているのだろうな。殺すのも忍びない。平民に里子に出している」
「そんなゆくゆく爵位争いのもめごとになりそうな子どもを生かして何になるというのですか。全員が快く貴族に仕えるとでも思っているのなら御目出度い頭をしていらっしゃるのですね」
「その御目出度い頭のせいで里親の平民が子の母の家に金の無心に現れるようになったらしい」
「そんなことにも気付かない貴族は爵位を取り上げてしまえばよろしいのに。王家に仕えるに値しませんわ」
「爵位を取り上げてしまえば、十も残らないだろうな」
「あら、優秀な平民に爵位を与えれば良いのですよ。尊い血を持つから貴族なのではなく、王家にとって役に立つから爵位が与えられているというのに」
「この国ができたときは、当代爵位だったらしい。そして子も優秀であったから爵位を与え、それがいつしか世襲制に変わってしまったとのことだ」
「時が経てば都合の良いように改変されてしまうもの。それより、その面倒な子供たちですが、全員把握していらっしゃるの?」
「無論だ。父親が誰かまでは把握できないが、産まれた子全員の所在は王家で調べている」
「さすがですわ」
「まかり間違って大公家の子どもだと言われないために必要なことだからな」
「父親が把握できないということは、そういうことですの?」
「あぁ、そういうことだ」
「何とも嘆かわしい。政略結婚であることが多い貴族で愛妾を持つことは許されていますけど、同時に何人もだなんて、あまりにも不誠実ですわ」
「愛妾が二十三人目ということは問題じゃないのか?」
「それは構いません。愛を捧げる方が多かっただけのこと。所詮、自分が愛した男に深く愛されることができない女だっただけのこと。ただ一人の君になれない女。ただただそれだけです」
「王は側室を何人も抱えるぞ」
「それは良いのです。子種を残さねばならない王の責務です。国の父たる王は、民を愛し、王妃を愛し、側室を愛する。王だけが同時に愛することができる器を持つのです。それをたかが貴族の娘ごときが行うなど烏滸がましいにも程があります」
「今の王は王妃以外愛していないと思うぞ」
「それは良いのです。王は同時に愛することができる器を持つ。しかし、その愛を簡単に振りまいてはいけないのです。王の愛はこの世でもっとも尊いもの。その愛をわたくしに向けているというのならわたくしは王の愛を形を変えて、民へ貴族へ側室へと振りまくだけのことです」
「そうか、私は王妃から愛してもらえることに感謝しなければならないな」
「わたくしの愛は、それだけではありません。友人として傍にいてくれることをわたくしは感謝しています。王家のみがわたくしにとって大切なもの。それを許し、王家を守るために必要な立場と権力をわたくしに与えてくれたことに。だからわたくしは王家にとって害とならないうちはベルガ、貴女の力になりましょう」
「それではひとつお願いだ」
「何でしょうか?ベルガモーラ様」
「大公家夫人が産んだ大公家当主の血を引いていない全ての子に大公家夫人の生家への働き口を斡旋してくれ」
「まぁ、管理はすべてあの家に任せるのですね。お任せくださいな。成人した子から順に使用人として仕えさせてみせますわ。今の当主にとって全員が孫ですもの。路頭に迷うことになれば、醜聞になりますわね」
「身分は平民だからな。身分詐称として片づけられるだろうよ」
「そのときは、わたくしが全て詳らかにいたしますわ。大公家には何一つ落ち度は無いと宣言をしてしまえば誰も文句は言わないでしょう。わたくしもエネミー様は気に入っていますわ。大公家を継ぐのならば、エネミー様のみ。その他の大公家夫人が産んだ子どもは貴族の血が入っただけの平民の子ども。大公家を継ぐなど論外ですわ」
「エネミーは王家の血を引いているから気に入っているのか?」
「それもありますが、わたくしが社交界の渡り方を教えましたもの。わたくしの娘のようなものですわ」
「そのせいで旋律の毒薔薇と言われてもおかしくないようになったのではないか。名付けたから毒薔薇になったのではなく、毒薔薇のような女になったから名付けたのか」
「わたくし、産んだ子が女児なら社交界の渡り方を教えましたけど、あいにくと男児でしたので、仕方なく、エネミー様に教えましたのよ。大公家夫人は社交界に出てきませんし、ベルガも戦場に忙しくて社交界に出てきませんし、あのような子、すぐに消されてしまいますわ」
「私がせっかく戦乙女にしようと剣を持たせているというのに」
「それはベルガだけで宜しくってよ。身を守る術は必要でしょうけども戦場を生き残るほどの術は必要ないと思うのよ」
「それでは戦場に出れないではないか。十八歳にもなるのに初陣もまだとは」
「それはベルガだけにしてくださらない?剣を持つだけならディーの子、エネミー様の子でも良いわ。でもディーの治世のときの社交界をまとめるのはすでに頭角を現しているエネミー様以外に居ないわ。だからわたくしはエネミー様に二つ名をつけたのよ。これでエネミー様をないがしろにすると王妃の怒りを買うことが分かっていただけると思うのよ」
「秘密裏に暗殺しようとしても淑女にあるまじき剣の腕だからな。そうそう死にはしないな」
「分かっていただけまして?それにユーリシア嬢には清廉な王妃になっていただかなくてはなりませんのよ。そうでなければ、わたくしの清廉さとは程遠い所業が霞んでしまいますもの」
「そのために次代の悪役はエネミーでなければいけないわけか」
「そうですのよ。エネミー様は大層嫌がるとは思いますけれど、もともと素質がおありですもの。立派に勤め上げていただけるとわたくしは思いますわ」
「王家のため、か」
「そうですわ。それにエネミー様の持つ権力目当ての者を牽制する意味もありますわ。心に決めた殿方がいらっしゃるようですし」
「ずいぶんと分かりにくい王妃からの形を変えた愛だな」
「わたくし歪んでいますのよ。これでも家族の中では常識があるほうですが」
「知っている。だから王の妃へと推挙したのだからな」
「それはそうと、新しい側室は元気ですの?」
「あぁ、男爵家のことで塞いでいたが、今は王と仲良くお茶をするようになった」
「良かったですわ。そろそろわたくしも王を御するのが大変になってきましたの。いつも愛する者が傍にいれば、有難味が薄れてわたくしのことを軽んじてしまわれるでしょ。その点、側室様なら愛情も友情もない関係ですもの。気を使わなければならない相手との会話のあと、わたくしに会えば、わたくしの有難さが分かるというものですわ。これでベルガももっと気兼ねなく戦場へと旅立てます」
「飴と鞭のバランスが必要というわけだな」
「そうですわ。王には第一王子に受け継がれた平民軽視貴族重視の思想がありますもの。付け上がり傲慢な王になられては困るのです。優柔不断な人畜無害な王でいていただかなくてはなりません」
「王家至上主義とは思えぬ発言だな。うっかり王を蔑んでいるぞ」
「あら、わたくしとしましたことがいけませんね。ベルガと話しているとついつい王が王家の者だということを忘れてしまいますわ。わたくしもまだまだですこと。精進しなければいけません」
「これ以上、何をどう精進するというのだ」
「色々は色々です。それよりも王の子が一人になってしまうのは問題ですわ。ディーとユーリシア嬢の婚姻を卒業と同時に執り行い、懐妊していただかなくてはいけないですね」
「いや、少しは二人の時間というものを大事にしてやれ。ユーリシアは学院ではリックのお守で終わっている。ディーとの仲を深めることができなかったんだ」
「それでは遅いのです」
「方法はもう一つあるぞ」
「何ですの?」
「王妃が王と共に一夜過ごし懐妊すればいい」
「そうですわね。その案がございましたね」
「ちょっと待て、冗談だ。一体、いくつだと思っている。今、懐妊すれば、大公家夫人と変わらない醜聞だぞ」
「それではやはりユーリシア嬢に身籠ってもらうしか」
「それか若い側室を宛がうかだ」
「わたくしの姪を・・・」
「いくつだ」
「十五歳ですわ」
「早すぎるだろう。もう二、三年待て」
「待てるのでしたらユーリシア嬢で構いませんのよ。待てぬから今すぐ子を懐妊できる者が良いのです」
「確認するが、王の血が必要なのか?王家の血が必要なのか?」
「王家の血ですわ」
「なら一年で良い。待て」
「どういうことですの?」
「大公家も血は王家だ」
「そうですわね」
「エネミーが産んでも良いだろう」
「・・・わたくし以外、一夜を共にしない王に子を待つよりエネミー様の方が早そうですわね。それにユーリシア嬢は十四歳。早い懐妊は喜ばれますが早すぎるのも考えものですね」
「分かってくれて何よりだ」
「それはそうと、自分で言って気が付いたのですが、ディーは王の子ですの?」
「王家の子だ」
「まぁ、何と」
「王は自分の子だと信じているさ。一夜限りともにしたからな。だが、私にも王と同じだけ王家の血は流れている。それだけのことだ」
「王の子にしては即決できることに疑問がありましたが、納得いたしましたわ」
「・・・大公家夫人の気持ちもわからないではない」
「恋人が変わることですか?」
「違う、恋人がいるのに政略結婚をすることだ。貴族同士の結婚で愛妾を持つことは容認されている。私にもいた。戦場で亡くしたが」
「そうですか。側室とは王家の血を残すために必要だという意味もありますが、もとより王の愛妾に対しての呼称。自身が愛妾の立場であれば王以外を愛することはできませんものね」
「不実だと断罪するか?」
「いいえ、側室は王家の血を引く者を生むための立場。ベルガモーラ妃は王家の血を持つ男児をお産みになった。それが不実だなどと、わたくしは申せませんわ」
「王妃が王家至上主義で助かったよ」
「王家至上主義でなくとも断罪はいたしませんわ。わたくしとて女ですもの。わたくしは王家のためにと王の子であるリックを産みました。でも愛した人との間の子を望むのも間違いではありませんわ。もしベルガに王家の血がなく、王の子でない子を産んだとしましても、わたくしは断罪しませんわ」
「そうか」
「友人を亡くしたくありませんもの。矛盾しているとお思いでしょう。息子を断罪することに躊躇いを見せない王妃が友人一人失いたくないと言う。自分でも分かっています。でも、ベルガを断罪しても国が傾くだけで何も良いことはありませんわ。ディーにしても同じ。不義の子だと告発したところで、王家の血を持つ者がいなくなり、エネミー様が王位を継がれることでしょう。それはベルガのように恋人を持つことができない立場になるということ。王なら側室にすればすむことを女王では伴侶を持つことはできても側室も愛妾も許されない。わたくしはこれでも女ですのよ」
「わかったわかった」
「本当に分かっているのかしら?それよりも一年後、誰も王家の子を懐妊していなければ姪を嫁がせますわ」
「話は結局そこに戻るのか」