幸せの朝
キスをされて目覚めたのは生まれて初めてだった。
ぼんやり眺めていると、加瀬恭子が抱きついている。
そうだ。オレたちは一夜を共に過ごしたんだ。
『今何時?』
「まだ7時すぎよ」
『えー やっぱり休みの日でも目が覚めてしまうんだなあ・・・』
「きっと習性なんだわ。ゆっくり寝てほしいけど・・・」
『あんな夜を迎えたんだ、眠れないさ』
あんな夜をどう想像したのだろう?
彼女は恥ずかしそうにオレの手を握る。
オレはあわてて起き上がり、歯を磨きに行った。
ダッシュで戻り、彼女を抱きしめキスをする。
「もう~ 黙って離れるから、なんか怒ったのかと思った~」
オレにしがみついて甘える仕草がかわいい。
33の女には思えない、まるで少女のようだ。
オレは朝食をあまり食べない。
ちょうど喫茶店のモーニングくらいが適量だ。
それを彼女に告げると、彼女はホテルの近くのコンビニへ
朝ご飯を買いに行くという。
面倒じゃないのか?レストランへ行こうか?と。
「あまり食べないなら、コンビニのほうが安いからいいよ」
「それに私、すべてが初体験なの。朝を迎えることも、全部
朝ご飯買いに行くのも、なんか嬉しくって」
『お金はいいのかい?』
「それくらい私が買います。良二さん・・・なにが食べたい?」
オレの名前を呼んだ瞬間、ためらったのか?顔が真っ赤になった。
『あれ?いつ飲んだんだ? 夕べのワイン、残ってないよな?』
「も~約束どおりがんばったのに」
そう言ってまた抱きつきに来る。
オレは抱きしめまたキスをする。
朝からこんな調子だ。
新婚の時ってこんなに甘くなかったよなあ・・・・
「じゃあ、行ってくるね!」
加瀬恭子は素早く服を着ながら何を食べるか?尋ねた。
サンドイッチとスープをたのむ。
彼女は、うなずいて部屋を出た。
オレは裸のまま、バスルームへ行きシャワーを浴びる。
まだ身体に彼女を感じる。あれだけ愛し合ったのは何年ぶりだろう。
そう思いつつバスローブに袖を通す。
ふと気づけば、オレの下着がちゃんとたたんで
鏡の横の棚に置いてあった。
彼女の仕事だ。その畳み方に女らしさと真面目さが出ている。
仕事は3部で見ていたが、こうしてオフの時を見るのは初めてだ。
プライベートでもきっちりした子なんだな。と感じる。
ガチャ。ドアが開いた。戻って来たのだ。
『おかえり。ありがとう』
「ううん、駅前にあったよ、すぐだった」
オレにはサンドイッチとポタージュスープ。
彼女はチョコクロワッサンとサンドイッチ。
飲み物はアイスコーヒーとオレンジジュース。
窓際の小さなテーブルで朝食が始まる。
「いつか、ほんとに朝食が作りたいな・・・」
『ほんとだな。でもいいよ』
「え~ ダメですか?私作りたいな・・・」
『これ以上惚れさせないでくれるかい?』
幸せな朝だな。
コンビニの朝食でもこんなに幸せなんだ。
オレは街を見つめ呟いた。
『幸せな朝をありがとう』
頷く加瀬恭子。
いつまでこの幸せが続くのだろう。




