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魔王の城  作者: 宮丘 侑
9/9

9 奇襲者は一人ではなくて

 攻略対象者との邂逅は、メイアリアの幼馴染奇襲だけにとどまらなかった。

 翌日には、騎士団長が来た。それなりの地位があるのだから、そう簡単に国を離れることができないにもかかわらず、丸一日滞在していった。無口という設定のままに、ほとんどしゃべらないまま帰っていった。要人であるために城の内部を動かれては困るので監視を付けたが、怪しい動きはなかった。表むき、先の侵攻の謝罪ということだったので、新国王の名での親書を受け取ったが、言葉の端々にメイアリアのことを訪ねようとしていたのに気付かないほど愚鈍ではないつもりだ。

 侯爵令息は騎士団長についてきていたのだが、ついでとばかりに城の侍女を口説いていった。転生者ではないにも関わらず、魔族に恐れを抱いていないらしい。まさか、魔王代理の立場にある自分まで口説いていくとは思わなかった。もう、来た意味が分からない。だが、後程口説かれた侍女にそれとなく尋ねたら、自国の姫の話をされていたことが分かった。やはり、こちらもメイアリアを探していた。

 ティラティス王国を挟んだ王国からきた王子は、きっちり使者を立てて訪問を予告してきた。正式な手順を踏んできたのだから無下に扱うこともできない。メイアリアには念のため、部屋から一歩も出ないように言い含めた。親交を深めたいような言葉を残して帰っていったが、やはりこちらもメイアリアの話題を振ってきた。

 隠しキャラの商人は、商人としてきた。隠しても何にもなく、珍しい小物が手に入ったからぜひ見てほしいと商魂よろしくマシンガントークを繰り広げて、結局髪飾りなどを買わされた侍女たちが多数。見事な手腕だった。こちらはメイアリアを探している風は見受けられなかったが、何か秘密を握れないかと目を光らせていたのはわかった。

 本当に、勘弁してほしい。これ以上、詳しく語る気にもなれない。

 乙女ゲームの攻略対象者なんぞにかまけている時間など、ないというのに。



「ねぇ、本当にフラグ立てていないの?」

「立ててるわけないでしょっ ゲームで言うところのオープニングの途中で城を出てきたんだから、イベントさえ起きてないのにっ」

 忙しい執務の間に訪れてくれる攻略対象者たちに辟易して、メイアリアの部屋へ押しかけた。

 先日フラグを立てていないといっていたが、本当にそうなのか確かめたかった。

 フラグを立てていないのなら、おかしいではないか。

 ゲーム初期の好感度はそう高くないのだ。乙女ゲームにしては主人公への高感度は低いんじゃないかとネットで言われていた。それくらい好感度を上げるのが難しかったからなのだが、それがいったいどうした。

 ハーレムは神業どころか不可能とさえ言われていたのに、なぜ攻略対象全員がこの城を訪れるのだ。

「本当に?」

「嘘言ってどうするのよ!」

 うっかりフラグを立ててしまって慌てて逃げてきたという可能性がないわけではない。だが、今の時系列を考えると、ゲーム中盤に入ったばかりの頃のはずだ。つまり、ゲーム通りならば可能なフラグをすべて立てていたとしても、メイアリアがこの城に来てからは好感度への変動はないはずなのだから、全員がこの城を訪れるほどの好感度は持っていないはずなのだが。

 ならば、どうして全員くるんだ。

「だったら、ゲーム展開以前にフラグがあったとしか思えないわ」

「そんなこと言ったって、3年間全寮制の学校に行って最近帰ってきたんだよ? 手紙でやり取りしてたのは兄様だけだし、一番最近にあったのは騎士団長だけど挨拶だけだったし、幼馴染にしても3年ぶりだし」

 そういえば、そんな設定だったな。

 学校を卒業した主人公は、一年間の間に結婚相手を見つけるか(攻略対象とのハッピーエンド)、王女としての教養を身に着けて他国へ政略結婚しに行くか(バッドエンドその1)、教養が身につかず神殿へ送られるか(バッドエンドその2)という三択だった。

 まぁつまり、恋愛エンド以外はバッドエンドだったというわけだが。

 というか、今思い出したんだが、なぜそのバッドエンドを選ばなかったんだろう。

「だったら、まじめに勉強して他国に政略結婚しに行くという選択肢はなかったの?」

「あったんだけどね……」

 あったんだ、やっぱり。

 バッドエンドその2はともかく、バッドエンドその1は実はかなり好評だったのだ。何せ、エンディングスチルで出てくる政略結婚の相手が、イケメンな王子様だったから。しかも、かけてくれる言葉がやさしい。「政略結婚ですが、仲良くしましょうね」的な言葉をくれる。

 ネット上で、どうして攻略対象ではなかったのかというプチ論争もあったくらいだ。

「っていうか、それ狙いで平穏に過ごすつもりだったのよ、本当は!」

「で?」

「城に帰った途端、従弟に押し倒された」

 あ、全員来たんじゃなかった。そういえば、従弟も攻略対象だ。影が薄いからすっかり忘れていた。

 というか、フラグ立っていないんだよね?

 そもそもが全年齢対象ゲームだ。押し倒されている時点でおかしい。

「でもって、隣国の王子からは見合いの話が来た。何を考えたのか、騎士団長に求婚まがいのこともされた。幼馴染には告白されたし、侯爵令息は毎朝赤薔薇の花束を贈ってくるし。城に戻って、三日よ、三日っ その間に、急にそんなことになったんだよ!」

「何があったのか確認したの?」

「わからないから逃げたんでしょっ 兄様に聞いても、侍従や侍女たちに聞いても、なんで突然そんなことになったのかわからないって言うし。怖すぎるっ」

 わからない言い分ではない。

 彼らが全員、メイアリア姫の夫という地位を欲しがったということになるが、姫が降嫁(もしくは政略結婚)するだけで結婚の折には王位継承権は放棄されるはずだし、今の身分が変わるというわけでもない。

 隣国王子に関しては、国同士の結びつきというメリットが得られるが、他はどうなのだろう。王家の姫の降嫁という箔が付くだけのはずだ。

 ティラティス王国は、内乱を避けるために歴史上ずっと王家の姫の降嫁に、メリットは与えずにきた。

 なのになぜ、求婚してくるのか。

「気になるけど、内偵は出せないわ」

 何かを期待するような視線に、バッサリと言い切った。

 たしかに、リリアヌナーダなら隠密を動かすことは可能だし、非常に気になりはする。だが、これ以上巻き込まれるわけにはいかない。

 万が一ティラティス王国のお家騒動に巻き込まれるようなことにでもなれば、面倒事になるのは目に見えている。

「だよねぇ……。ほんと、一体なんだっていうんだか」

「観念して、誰か選べば静かになるんじゃないかしら」

「静かにさせたいんじゃなくて、全員のフラグから回避したいのっ といっても、原因がわからないんじゃ、逃げるしかないって思ったんだけど」

 逃げたものの、逃げ切れるかわからない状態になった。

 いったいどこから情報が漏れているのかはわからないが、彼らは間違いなくこの国にメイアリア姫がいることを確信している。

「先に言っとくね。匿ってほしいなんて言ったけど、別にリリアヌナーダはあたしに義理があるわけじゃないから、危険だと思ったら容赦なく放り出していいからね」

「あら、突然どうしたの?」

 もちろん、最初からそのつもりでいたけれど。

「あたしは自分の事情で飛び出してきたけど、だからってこの国を恨んでいるわけじゃないからさ。国家間の問題にしたくないんだ」

「甘い考えね」

「うん、そうかもね」

 本当に、甘い。

 今の現状がティラティス王国に知られている現在、いつメイアリア姫誘拐の嫌疑をかけられて争いが起きても不思議ではないのだ。もっとも、世代交代したばかりのティラティス王国にそこまでの体力はないだろうが。

 そんな予測が立っているからこそ、まだ彼女をこの城にとどまらせていられるのだ。

「まぁ、気には留めておくわ」

「うん、そうしておいて」

 それにしてもこれからどうするかなぁ……と、眉尻を下げて情けない顔をするメイアリアを一瞥して、紅茶をすすった。

 見つからないと思ったはずのアルティメーアにいることは、何らかの方法ですでに知られてしまっている。そもそも、ここに滞在した後どうするつもりでいたのか。ずっと居座る気でいたとは思えないが、そのあとのことは何も考えていなかったのかもしれない。

 彼女の思慮の浅さは、すでに承知している。

 その場しのぎで逃亡して、それから先のことはその時になって考えるつもりだったのかもしれない。

 だが、すでに当初のもくろみ通りにはならなかった。

 見つかってしまっている以上、次の手を打つしかないことに、気づいているようだ。

 さて、どうするつもりなのかしら。

 すでに、見知っていたゲームのシナリオとは逸脱してしまっている。自分で考えて動くしかない。

 だがそれは、リリアヌナーダの役割ではない。

 だからこそ、楽しげに微笑んだ。

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