ゲームスタート‐The start of the game
「皆さんご覧ください。この長蛇の列。これは全てある商品のために」
「もう三日前からここに並んでるよ。仕事?関係ないね」
「おい!今割り込んだろ!」
「私はamazenで予約したので家に帰るのが待ち遠しいです」
「今回は専門家も招いてお話を聞いていきます」
「もう予約した?」
「この技術は既存のあらゆる情報端末が過去の物になる」
「私も待ち遠しいんです。子供のころからずっとゲームが好きで」
「マジ楽しみっす!今日この日のために生きてきたっす!」
「今日はちょっと体調が悪いので、はい、そうです。そこをなんとか」
「ゲームエンジンには自立型思考エンジンが搭載されているということで」
「なんで買えねぇンだよ。物売るってレベルじゃねぇぞ」
「手に入らないくらいなら死にます」
「脳へのダメージが危惧されていますが」
「第三者への転売が横行しており」
「教育上よろしくないのでは」
「残念ながら開発者へのインタビューは多忙なため今回はできませんでした」
「人類はついに、到達したのです」
「入るんだよ。ゲームの世界にさ」
放課後。走り出す子供たち。
「早くしろよ、間に合わなくなるだろーが」
「待ってよ、今行くよ」
手を取り、はしゃぐ恋人たち。
「いや、モンスターのデザインがえげつなくてさ」
「キャラクターのデザインもかわいいよね」
電話越しに、子供へのプレゼントのタイトルを最終確認するお父さん。
「なに?アンダーグラウンド?違う?ワンダー」
黙して合戦への出陣を待つかのように列を待つ、オタク達。
携帯ゲームをして暇を潰す少年。
列を整える家電量販店の従業員。
「押さないでください!」
群衆の中から、誰が始めたのか、カウントダウンが始まる。
5、4、3、2、1。
駅前の巨大なビルのスクリーンで映像が流れだす。
どこまでも続く大空。
広大な大地。
天を仰ぐ巨城。
【ナイツ・オブ・ワンダーランド】
タイトルロゴが表示される。
再び歓声があがった。
電気屋にずらりと並んだテレビは、皆この時の生放送の中継を流していた。
テレビ番組のほとんどが、この新作ゲームの特集や、現場中継をしている。
盛り上がる街を興味なさげに、ぼうっとヘッドホンで音楽を聞きながら歩く学生服の少年がいた。一体何を聞いているのだろうか。彼はあのゲームに興味がないのだろうか。
彼とすれ違うように急ぎ足で手に入れたばかりのソフトを抱える少女。待ちきれずに説明書を読んでいた。前を見ていなかった少女は、パチンコ屋から出てきた女とぶつかる。ぎゅうぎゅうに敷き詰められた景品袋から商品が溢れだす。女は抜群のスタイルだった。大きなサングラスをした美人だ。女はまるで慌てる様子はない。
景品の袋から、品物が転がる。慌てて景品を拾う少女。そのうちの一つジャガリーがどこまでも転がっていき、ある男の足元で止まった。その男は高級車から降りてきたところだった。どう見てもカタギではなさそうな輩をつき従えていた。高そうなスーツで固めた実業家風の髪の長い男は、その商品を拾い上げると爽やかな笑顔とともに少女に手渡した。渡し終えると、男は運転手付きの高級車、ロールスロイスのファントムに乗り込む。その後部座席には既に別のセーラー服姿の女子学生が乗っている。髪をポニーテールにまとめ、傍らには革製の竹刀袋が抱えられていた。その表情はどこか不服そうだった。車は走り出す。
少女は商品をかき集め終えると、平謝りをして、駆け足で駅に向かう。
女はまるで気にする素振りを見せずにタバコに火をつける。
ビルの大型スクリーンでは、イメージモデルによる新型のヘッドマウントディスプレイのCMが流れていた。どことなく、この女に似ている気がする。
少女は電車に飛び乗る。
偶然ヘッドホンの少年と同じ車両に乗るが、お互いに気がつく様子はない。
電車の中には一際疲れた、目の死んだサラリーマンが乗っていた。
めずらしいことに電車には黒猫も乗っていた。体を丸めて眠っている。
ヘッドホンの少年と少女が電車を降りると黒猫も降りる。
黒猫を拾い上げる金髪の美少女。
その少女のいる柱の裏側でフードを目深に被る、どこか只ならぬ様子の男がいた。
黒猫が欠伸をする。
黒猫の瞳のように光るヘッドマウントディスプレイのLEDランプ。
薄暗い部屋。規則正しく、ずらりと敷き詰められつように並べられたリクライニングチェア。ゆうに100席は越えるだろうか。スーツ姿にヘッドマウントディスプレイを付けた男たちが横たわっている。
それを別室から眺める風格のある男。その傍らには先程の実業家風の男の姿があった。
男は誰に向かって言うわけでもなく、呟いた。
「始まったな。ついに」