調査
食糧集めの帰り。
「……」
まだ住処までは遠い道の途中で、俺はピタリと立ち止まった。
周囲にいつものケモノの気配はない。
しかし、声を出す。
「出てこい。殺してやる」
言って、殺気を向けた途端、前方の路地から、一人の男が姿を現した。
整った身なり。清潔な身体。身に纏う何らかの制服。
男は笑いながら口を開いた。
「そんなこと言われたら、普通出てこないと思うんだけど」
「誰だ」
すぐ問う俺に肩をすくめ、男は名乗った。
「国家直属独立編成隊……通称『見えざる手』所属、入江友安少尉」
「……国家、ね」
俺は思わず笑みを漏らす。被災から何年も経った後に国の指令を受けた者と出会うとは思わなかった。
しかし、ようやくとも思う。
怜美の言う「その時」が来たようだ。
「ようやく及川財閥が手を回したのか」
やれやれと呟いた俺の言葉は、何故か入江少尉の眉をひそめさせた。
そして、次の少尉の言葉に俺が驚く。
「『火花』は天災ではない。黒幕である及川財閥を追い込むため、君の力を貸してほしい」
彼は、真面目な顔でそう言ったのだった。
『火花』が生じ、支部へと顔を出していた相談役、及川鈴が行方知れずとなると、社長である鈴の息子、及川獅郎は被災地の隔離を働きかけた。
そもそも『火花』自体が及川獅郎の派閥の者によるもので、その一方で及川財閥は被災地復興へと力を入れていると表向きには発表されているらしい。
いわゆるマッチポンプである。
そのうえ、及川財閥の手がけた商品、計画には、被災地への寄付金という名目での価格上昇が見られた。市民達は何も知らずいいことをした気になって参加、購入するが、もちろんそれはただ及川財閥の利となるだけであった。
公安の特殊組織である『見えざる手』は、この事実の確認とともに、『火花』の収束、証拠集めをしている最中である。
そんな話を聞いて。
「……それで?」
俺は純粋に目の前の入江と名乗った男に尋ねる。
男は真面目くさった顔で言った。
「被災地の者たちを救うために、この付近の情報提供と、武力としての協力をしてほしい」
その言葉に俺は一つ納得を示した。
「ここ二週間ほど周りをうろついていたのはおまえか」
「……なぜそれを?」
「こそこそと素人くさい動きしてれば気になる」
それに驚いたような顔をする入江。訓練成績は上位なんだけどな、と漏らした声を、俺は無視した。
やがて自己完結した様子の入江が、再び俺を見る。
「報酬の用意もある。身分、金、その他日常生活に必要な物を保証しよう」
「俺だけか?」
「知人がいるならその人も」
なぜ俺がこんな質問をしたのかは考えないまま、俺はそのまま入江に近づいた。意識の隙を突くようにして。
首に手を掛ける。
入江は目を見開いた。
「な……!」
「日常におけるすべての支援。それを俺を含めて十人用意しろ。そうすれば――」
協力してやる、と俺は口にした。
◇◆◇◆
それから俺は食糧集めの傍ら、周辺で稼働している不審な器物を探し続けた。入江が言うには手のひらサイズの子機が、親機の遠隔操作によって『火花』を起こしているらしい。俺はそれを捜索、発見後、手を加えること無く場所を入江に伝える。
入江とは、怜美やガキ共に気付かれないように会っている。
ガキ共はともかく、怜美の行動が読めなかったからだ。
朝、日が昇るとともにガキを痛めつけ(とはいっても、ガキ共は遊ぶような気軽さで不意打ちを避けるが)、
昼は食糧集めで野鳥を仕留めるか、植物を漁り(俺は時々略奪をする)、
夜は怜美の講義をガキと共に受ける。その後、平和な時間を過ごし、その度に怜美が俺に対して何度と無く感謝を告げる。
最近はそれを恋心ゆえと勘違いしたガキ共が囃し立て、俺が痛めつけにかかるという流れも出てきた。
そして夜中、ガキ共が浅い眠りに着いた後、その警戒にすら反応しない隠形で俺は部屋を抜け出し、入江と合流する。
幾度と無く繰り返し、今日はもう寝るだけと判断した俺を、入江は呼び止めた。
「柊一郎」
「なんだ」
「……明後日明朝に親機の場所を急襲する。それに協力してくれ」
来たる終わりの時。
俺はしばし答えを控え、
「……わかった」
その要求を呑んだ。




