暴動
「……なんだ?」
場を揺らすほどの轟音に、俺は戦闘態勢を解く。どうやら爆発音のようなそれが何なのか、責任者である対戦者に尋ねようと前を向いた。
そいつは、目の前で剣を振るっていた。
「はぁっ!?」
「ごめんっ。止められないんだ!」
直後、俺は凄まじい勢いで斬り上げられ、宙を舞う。やたらゆっくりと擬似体力ゲージがゼロになるのを見ながら、AMは別の技でしかキャンセルできないんだったか、とようやく思い至り、
頭からどしゃっとアルヴァの背後で着地した。
視界で「YOU LOSE」の表示が輝く。
観客は全員、呆けているようで、その場には静寂が満ちた。
俺は試合が終わったことを確認すると、何事もなかったかのように立ち上がった。
「……大丈夫かい?」
「ああ。首が痛いけど」
「前衛的な着地だったからね……」
自分が直接的な原因であるためか、苦笑を浮かべながら『ポーション』を俺にぶつけてくる。効果が現れたそれは、俺の首の痛みを取り除いてくれた。
それを確認するように首を回してから、俺はアルヴァへと顔を向けた。
「さっきの爆発音だよね? 今、部下が調べに行ってるよ」
気が利くその台詞に頷くと、俺は次に観客席の一角へと目を向けた。
俺へ声援を送ってくれていた『愚者の盾』連中の占めていたその場所は、すべて空席となっていた。
「……やっぱり俺、頭領じゃなくても良かったな」
指示するまでもなく行動する優秀さに喜びながらも、一人残された悲しみに一瞬だけ浸る。しかし、そう言ってる暇もなく、試合が終わった俺に駆け寄ってくる者が二人。ユウナとミンだ。
「レンくんっ。なにやら外の様子がおかしいです」
「さっきの爆発音、街の中で起こったみたいっ!」
二人の考察が俺と同じものであることを確認すると、俺たちはアルヴァの元へ近づいた。奴の近くにも部下が寄ってきていた。
俺たちがアルヴァの元へ寄ると、アルヴァは俺の方を向いた。
「レン、僕たちは君の指示を仰ぐよ」
「馬鹿言うな。手前の組織は手前でまとめろ」
アルヴァのまさかの丸投げ発言に、その部下たちが俺を睨みつけてくる。それを収めるための発言だったが、冷たく聞こえたようで、その視線は更に鋭くなった。
「僕たち『解放軍』は君に協力するために――」
アルヴァが何やら口にしようとした所で、試合場に男が一人駆け込んできた。アルヴァの部下だ。
その男は、焦った表情で信じられないことを報告した。
「アインの街内で暴動! 主犯は非攻略ユニオン『虚空の淵』だと思われます!」
非攻略ユニオン。
それは、この閉じ込められた仮想空間こそが現実であると主張する組織である。主に現実世界を豊かに生活できない者たちで構成されていると推測されているが、中には純粋に攻略を邪魔することに悦びを覚える者もいるようだ。
そして、中にはプレイヤーキルを楽しむ者もいるという。
この世界での死が現実でも反映されるかは確証がないものの、この世界で再び生を受けることはない。その事実が、この世界での死を現実世界でのものと同列に考えさせているのだ。
それもあって、非攻略ユニオンは犯罪者ユニオンとも称される。
「それが、アインで暴動?」
「はい。それも分担して全域をほぼ同時にとの報告を受けております!」
部下の報告にアルヴァが信じられない、と言う。
少なくない恐れを抱かれている犯罪者ユニオンだが、その規模は攻略組の半数ほどで大きくはない。そのことから、犯罪者ユニオンが表立って暴動を起こすことはないと思っていたのだ。
しかし、起こっていることを否定することは愚かだ。アルヴァは自らの元に集っていた部下たちに命令を下した。
「暴動を起こす犯人たちを捕らえるんだ。特に被害の大きいところは部隊でかかってくれ」
ハッ、と統率された返事とともに『解放軍』が動き出す。俺はその後ろ姿に声をかけた。
「『愚者の盾』も使ってくれていい。もう向かってる」
その言葉に軍人たちが目を見開くも、「感謝致します!」と良い返事を返し、現場へと向かった。
「……よく訓練されてるぜ」
「僕としてはギルドをイメージして組織したつもりだったんだけどね……」
いつの間にか本当に軍みたいになっちゃった、とアルヴァは苦笑した。
そんな彼に俺は視線を向ける。
「それじゃ、俺たちも」
「行こうか」
示し合わせたように、同時に試合場から歩き出す。俺にはユウナとミン。アルヴァにはユン。五人で俺たちは試合場を後にした。
そして目にした光景は、報告通りのものだ。
街の各地で煙が上がり、人々の混乱の声がわずかに届く。街自体は破壊不能とのことなので、おそらく店の商品や爆弾のようなものが火を上げているのだろう。
「これが、暴動か……」
「はい、それもかなりの規模だと考えられます」
「……ひどい、です」
「平和な街だったのに……っ」
アルヴァたちがそんなことを呟く隣で、
「……こんなのが暴動と言えるか」
俺は疲れた目をして、呟いていた。




