勝負
「試合、開始ッッッ!」
その声と同時に、アルヴァが突撃を繰り出してきた。わずかに光を帯びているところから、AMだとわかる。
この時、観客は驚きに包まれていた。
アルヴァは《騎士》として、盾で防いだ後の攻撃を主体としたものだ。そして、彼が自分から攻めるというのは本気の証だと、全員が知っていた。
そんなアルヴァの突進に、俺は合わせる。手のひらを前面に柔らかく構える。
接近しきったアルヴァが、下から斬り上げてくる。それを半身倒して避け、その柄を取ろうと手を伸ばす。
しかし、それを盾に防がれてしまう。そのままその盾が俺を押し出すように振るわれる。バッシュだ。
俺は攻めを諦め、回避。そのままステップを踏みつつ後退した。
「素手は無理」
「武器、使うんだね?」
楽しみだと言わんばかりのアルヴァに内心呆れつつ、俺はストレージを開いて素早くタップした。そのままいくつかセットしていく。
現れたのは、一見して棒。しかしその片側の先には錘のような鎚が付いている。戦鎚だ。
「刀じゃないのか」
「行くぞ」
そう言うと、次は俺の方から踏み込んだ。
ミンたちの《兎歩》のような霞む速さではないが、スキル無しとは思えないほどの速度。そのままアルヴァの間合いのギリギリ外から大きくそれを振るう。
長い柄から生まれる破壊力がアルヴァへ向かう。しかし、アルヴァはそれを真っ向から盾で防いだ。
すかさずここで大きく踏み込んで、今度は逆に柄先のほうを突き込むようにして盾の横を通す。しかしそれにもアルヴァは剣で対応した。そのままこちらに鋭い突きのAM。戦鎚の柄の位置をずらすことで、いなして回避した。
拮抗しているようだが、ここでは俺が不利だ。
どうしても戦鎚の攻撃には近すぎる。それをわかっているのだろう。アルヴァはすぐにAMを発動させようとする。
それを感じて俺は素早く後退。しかしアルヴァもついてくる。
そのまま斬撃のAMを放ったアルヴァを柄でいなし、そのまま俺は手を振りかぶった。しかし依然として戦鎚を振るうには近すぎる間合いである。
しかし、俺の手には、すでに戦鎚は無い。
宙に現れたそれを掴み、振るった。
ゴッッという音を立てて、俺の振るった“メイス”がアルヴァの盾に阻まれた。
「……瞬間的な武器選択、ね。……慣れてるみたいだね?」
「いや、使い方を理解しているだけだよ」
そのまま幾度も、今度は騎士とメイス遣いの剣戟が繰り広げられた。一方は盾で阻んで斬りかかり、他方はメイスでいなして手首を支点に振り回す。そんな高次元のやりとりが、続いていく。
しばらくして、
アルヴァが上段から剣を振り下ろす。俺はそれを下がって避け、“槍”で鋭く突くも、弾かれる。
「硬いな」
「どんだけ器用なんだ、君は」
軽口を叩き合うように、しかしそこに手抜きはなく、俺が幾度も放つ鋭い突きをアルヴァが盾を合わせて受け止める。一方的な攻撃。
槍の間合いでいけるか。
そう思った時、アルヴァの剣が光を放った。
俺は槍をかざし、直感で半身分だけ場所を横にずらした。
気づいた時には、明らかに間合いの外で槍が切断されていた。穂先が地面に落ちてカランと音を立てる。
「……まじか」
「遠距離攻撃ないと、相手によっては対応できないからね」
光の粒子となって消え去る槍を手放し、俺は呆れた顔をしてみせた。アルヴァは構わず口を開く。
「ショートカットスロットかな」
「当たり」
ショートカットスロット。
魔法を使う者が咄嗟に魔法を使うときに重宝される機能である。設定したものを意識するだけで出現させるというものだ。
武器を設定した物好きは俺だけだろう。
「てかなにするんだよ。さっきの槍、結構自信作だったのに」
「半額なら弁償するよ」
「微妙にケチだな」
そう言いつつも、俺の手には光の粒子が集まる。直後、その手には二丁拳銃が握られていた。
「射撃は苦手と聞いたけど?」
「苦手だよ」
俺はその言葉とともにアルヴァに接近する。そのまま牽制に発砲する。それは文字通り的はずれな地面を穿つ。
近づく俺に合わせて、ただの縦斬りが俺を狙うが、俺はそれを左手の銃身で受け止め、右手の銃で発砲した。
「……ぐっ」
アルヴァが呻く。それを好機と捉え、俺は左の銃も連続発砲。しかしそこまで甘くなく、残りは盾で防がれた。
アルヴァのバッシュに乗るようにして、距離を取る。視界を確認すると、アルヴァのゲージがわずかに減っていた。
癖となっているマガジンの一時取り出しと装着を繰り返した後、俺はアルヴァの方を見る。その頬には、エフェクトの赤い残滓が漂っていた。
俺は問題なく体が動くことを確認した。
アルヴァが驚きを含んだ調子で口を開く。
「近接銃撃戦――ガン=カタ、かな。……まさか実際にするなんて」
「マーロウも少し出来るだろ? アイツもそれっぽいことをしていたよ」
そう言いつつ、俺はマガジンをがしゃんと入れ込む。
そして、口を開いた。
「早く本気を見せてくれよ、戦友」
「……望む所だ」
お互いにもう一度だけ視線をかわし、不敵に笑う。
突然、アルヴァが盾を解除した。
意味の読めない行動に俺は眉をひそめかけるも、違う。アルヴァは解除したのではなく、変更しただけだった。
彼の左腕が、一瞬淡い光に包まれる。次の瞬間、そこに現れたのは先程までの円盾ではなく、中世の騎士のような言葉通りの盾形のものだった。その中央には『解放軍』の紋章が彫られている。そして、剣と同種の威圧感が感じられた。
「特殊効果付きか」
「企業秘密で」
アルヴァがもったいぶる。好青年の顔が、この時はイタズラ好きのガキのものになっていた。
それに俺は笑みを漏らし、
「それじゃ、行くぞ」
そう言って、踏み込んだ。




