美女付きはつらい?
睡眠時間二時間という地獄の塾合宿明けの嬉しさから、猛執筆!
素早い更新です!
『霊湧水』が、他の二つとそれぞれ変換されていく。そうして生まれたものは――
「ぽ、ポーションっ?」
赤、青、二色のポーションだった。しかもただのポーションではなく、効果も二倍近くもある『ノーブルポーション』と呼ばれるものだ。
ちなみに、赤には体力回復、青にはMP回復という効果がある。AMを使う際に消費するSPというのも別にあるが、これは時間経過とともに回復する代物である。
魔術師にはMP、AM遣いにはSPがステータスとして付いているのだが、両刀使いのミンにはそのどちらもが備わっている。
「ま、これは俺の奢りだってことで。共有ストレージに入れとくから」
そう言うと、俺はひょいっとそれらを入れてしまう。
すべてのウィンドウを閉じる。
さて、狩りの続きをするか。そう思って顔を上げると、そこには呆けた顔が並んでいた。
「な、なんだよ……?」
少し気圧されながら俺が疑問を口にすると、ミンがハッとして意識を戻した。
「ど、どゆことっ? ノーブルポーションのレシピは公開されてないよねっ?」
慌てたようにそう言うミンの姿に、俺は遅れて、ああ、と納得した。確かにこのレシピは世に出回ってないな、と思い出したのだ。
「俺、調薬師の知り合いがいてさ。そいつが独自に発見したレシピなんだよ。でもまだ材料が安定供給できない代物だから、公開できないんだ」
そんな俺の言葉に眉をひそめたのはエンケだ。しばらく自分で考えるように唸った後、結局そのまま口を開いた。
「安定供給できない、とは?」
「どの材料も発見されただけで、確実な採取先がない。それにそんな材料で『ノーブルポーション』を作るより、ただの『ポーション』を二本用意したほうが安上がりだからな」
なるほど、と頷くメンバーに合わせて一つ頷くと、俺は開いていたウィンドウを閉じた。武器の手入れを済ませた全員を一度確認すると、俺は視界に映るものを確認。
そして鋭い視線で、雪で先が見通せない雪原を睨んだ。
「エンケ」
「……敵か?」
すぐに異変を読み取ったエンケを手で制しつつ、俺は首を横に振る。
「分からない。反応は十ぐらいだが……《隠蔽》を使ってる。本当にモンスターなのかもわからない……まだ距離はあるが、こっちに来てる」
「そうか」
そのやり取りに『鉄鷲』のメンバーも気を引き締めて備える。ミンは一見気の抜けたままのようだが、その自然体から最大の力が発揮されることを、俺は知っている。
俺は《索敵》スキルが知らせてくるその存在を、見極めようと目を凝らす。
そして、突然駆け出した。
「レンっ!?」
突然動き出した俺に驚くミンが声を上げる。それをあえて無視して、俺は真っ直ぐその反応の元へ向かう。俺に刷り込まれた生存本能が、勝手に体を動かしてしまう。
やがて肉眼にも薄く影が見えるようになると、俺は更に加速して、脇に下がる『翠雨』に手を掛ける。
そのとき、影の方にも反応があった。突然近寄ってきた俺を迎え撃とうと、こちらに相対する。
そして。
「……レンくん、ですか?」
そんな鈴を鳴らすような可憐な聞き慣れた声に、俺は思わずズザァァァッッと雪原に顔面から突っ込んだ。
「だ、大丈夫ですかっ。レンくんっ」
そんな心配の声を上げて近寄ってきた美しい少女。その濡羽色の黒髪が、『氷原』の雪に美しく映えて俺の目に映った。
「ユウナちゃんっ」
「ミンちゃんっ」
「「ひしぃっ!」」
後から遅れながらやってきたミンがユウナを見ると、そんな茶番を繰り出した。それに合わせるユウナもどうかとは思うが、俺はとりあえずミンの頭を叩いておく。
「いたぁっ!?」
「むやみやたらと人に抱きつくな」
俺が親切にも注意を促してやると、ミンはニヤッと意地の悪い笑みで俺を見返してきた。そのままユウナの方を意味ありげに見ると、
「あ~嫉妬かなっ?」
「アホか」
「し、嫉妬……!」
俺が軽く返すのと同時に、ユウナが何やら反応する。なんだかもう面倒臭くなったのでそれはスルーさせてもらった。
「……なんだかレンくんが冷たいです」
「きっと照れてるんだよっ」
何やら話しているが、これも無視。
なぜなら、攻略組屈指の人気を誇る二人と話していると、周りからの目がすごいからだ。
一つは『鉄鷲』のメンバーから。これは攻略組のアイドルとも言うべきユウナと親しげに話す俺に、純粋に驚いているようだ。そしてその内の一人、ヒーラーのケイがあからさまに落胆しているような様子が伺える。
しかしそのケイは俺の元まで歩み寄ると、顔を上げて真面目な顔で俺にだけ聞こえる声で問う。
「アーンチュー、オー、ゲイ?」
一瞬、本気で殴りたくなった。
安否を確認する「アーユー、オーケー?」とかけたんだろうが、ケイが言ったのを解釈するなら、「あなたは、あー、ゲイじゃないんですか……?」という失望の言葉になる。今時口汚いネイティブでも使わない。
「ケイ……おまえはもう武器研いでやらない」
「えっ!? それは困ります!」
それから真面目に謝罪する彼女の言葉をとりあえず受け止め、俺は先程から向けられるもう一方からの視線の方に、嫌々意識を向けた。
それは『解放軍』の視線だ。
彼らにとってユウナはともに戦う同志であり、そして実力も団長、副団長に次ぐというまさに偶像だ。しかし手の届かない位置にいるわけでもない仲間でもある。そして常に攻略に積極的な凛々しさを併せ持ち、そのうえ美人ときた。
そんな憧れの対象に気安く話す、どこともしれない目付きの悪い男。それはもう警戒に値するだろう。
そして、同時に向けられる嫉妬の視線。
「まったく……嫉妬に狂うのは女で充分だってのに」
「どうかしたか、レン」
エンケが心配したように声をかけてくるが、彼は俺が向けられている視線の意味に気づいていないようだ。
俺は首を振りながら苦笑を漏らして、心配無用の旨を伝えた。
「そうか。それにしてもどうしたものか……」
「なんかあったのか?」
今度は俺が声をかける。するとエンケは巨漢に似合わない人懐っこい困ったなぁフェイスを浮かべて、言った。
「『氷原』で向こうの軍人たちがポーションを切らしそうらしくてな。報酬は用意するから、一時的にレイドを組まないか、とな」
レイド。それはボス戦時に使われる機能で、別のパーティやユニオンを一時的に結びつけるものだ。
これによって共有されるのは、レイド用に新設されるアイテムストレージのみ。お互いの情報を得ることも出来ずに、ただ、アイテムを共有するためだけの機能となる。
しかし多人数の協力を可能とするこの制度は、ボス戦時にかなり有効なのだ。
「それの何を迷っているんだ? 報酬さえ貰えれば、損はないだろ?」
「そうなんだが、こちらのアイテムをポンポン使われてはな」
そんなエンケの心配の声に、俺は苦笑を漏らした。自分たちのためのアイテムを使われる状況に恐れているのだろう。その根本には、自分の仲間を守るという意志もまた存在している。
俺とは大違いだな。
そう思うと同時に、呆れた声を出して俺は言った。
「共有されるのはレイド用のストレージなんだろ? それならそこに入れるアイテムは小出ししていけばいいじゃないか」
「……おお、それは思いつかなかった」
出し惜しみしているみたいなこの方法は、実直なエンケには思いつかないだろう。まぁ、そんなエンケでも大剣の売買契約でちょろまかそうとしたわけだが。
「今度ミンにでもそこら辺の交渉ごとを習っとけよ。アイツ、かなりうまいぞ」
「そうか。《銀閃》がな……」
相変わらずユウナとキャッキャと騒いでいる《銀閃》ミンを見て、意外そうに呟く。俺も心のなかで、それに同意した。




