バトルジャンキー?
「『氷原』に着いたぞ!」
一気に流れこむ冷気に耐えながら、俺は前を見据える。
「よぉし。ドロップをくすねるぜ!」
「宣言するようなことじゃないからね、それ」
ミンに真面目に注意されながらも、足を踏み出す。
洞窟を抜け出たそこには、一面の雪景色が広がっていた。
「うわぁ……綺麗だっ!」
「さ、寒ぅ……!」
ミンがはしゃぐ様子を、他のメンツは微笑ましそうに見ている。その内の一人である俺は腕をさすりながら、自分が武器を取り出していないことに今更気づいて、アイテムストレージから出現させた。
その様子を見て、エンケが目を丸くする。
「うむ? 二丁拳銃じゃないのか」
エンケが驚いたように言うのも無理はない。俺が装備として取り出したのは、標準的なサイズではあるが未だ出回っていない武器、刀だったのだ。
「こんなところで発砲音響かせたら、雪崩イベントだろ?」
そう言って俺は右の方を見やる。エンケもその方向に視線を向けて、そこにそびえる雪山を見ると「なるほど」と納得した。
「それなら大声もまずいか?」
「いや、それはないらしい。この前店に来た客が言ってた」
俺が言うと、エンケは納得したように何度か頷いた。
「やはりおまえがいてくれると助かるな」
「人を便利屋みたいに言うなよ」
「そんなつもりはないが……頼りにしているのは本当だ」
真剣な顔をしてそんなことを言うエンケにくすぐったい気持ちを覚えつつ、俺がアイテムストレージを操作したところで、
「…………レンさんは受け、と」
「誰だッ! 今、不穏なことを言った奴はッ!」
俺がバッと周りを見渡すと、すっと視線を外す人物が一人。ヒーラーの女性プレイヤーであるケイだった。意志の強そうな作りをしている顔をほんのり赤らめて、そっぽを向いている。
俺はそれを言及することもなく、疲れた表情をして前を向いた。
覇気の抜けたまま指を前方へ向けて一言、口にする。
「来たぞ」
その一言で、すでにパーティを組んでいた他のメンツにも索敵情報が伝わる。レベル二十九、《シルバリィウルフ》の丙個体が五匹。それらが俺達の方へ群れとなって近づいてきている。
「ってレベル二十九ッ!?」
「しかも五体だねっ!」
俺が驚愕、ミンが楽しそうにそんなことを言う。レベル二十九と言えば、ほとんど前線のモンスターと変わらない。
それが五体ともなれば何らかの組織的な対策が必要となるのだが、
「切れ味を確かめるには、不足なし」
「試し斬り、てやつっすね!」
エンケとラルフが気合十分。他のメンバーもしっかりと武器を構えている。このメンツは攻略組代表格の一つ『鉄鷲』なのだ。
「ボクも頑張るよーっ!」
ミンがステップを刻みながら前に進み出るのを、俺は少し心配そうに見てから、
「まぁ、討ち漏らしぐらいは狩ろうか」
と手に持った『翠雨』を握り締める。
エンケは全員が武器を持ったことを確認すると、
「掃討、開始!」
野太い声を上げて、宣言した。
俺たちは、目標へ向けて走りだす。
最初から最後まで、俺は支援に徹した。
ミンが敵の懐に入るまでの陽動を受け持ち、エンケがその大剣を振るうために必要な時間を稼ぐ。
はっきり言えば、囮だ。
「……一番危険な目にあってるの、俺じゃね?」
「気にしない気にしないっ」
お気楽そうにミンが言ったが、俺はどうしても気にしてしまうのだった。
《シルバリィウルフ》も危なげなく倒し、今は俺が全員の武器を研ぎ直している。『氷原』のような寒冷フィールドでは、敵の血が早く乾くという設定で、武器の鈍り方が早いのだ。
俺がなおもブツブツ文句を言いながら、大剣を研いでいると、その持ち主であるエンケが言った。
「ドロップ半分なのだから、構わないだろう?」
「いや、それはおまえが……いや、まぁ、いいけどさぁ」
なんだか釈然としないままだが、納得してみせる。
「ほい、出来たぞ」
「助かる」
「あ、次お願いできるっすか?」
今度はラルフが自らの双剣を差し出すのを受け取って、俺はなんとはなしに口を開いた。
「おまえのそれって我流? AM使ってないよな?」
「あ、はい。どうもあのAMってのは苦手で……」
「だよなぁ。俺も拳銃の初心者用AM一つ持ってたけど、発動させられなかった」
「どうやってするんですかね?」
「なんか初動モーションを合わせるとか言ってるけどな。それが出来ないんだよなぁ」
思わぬところで気の合う俺とラルフ。攻略組はほとんどが持っているAMだが、使うのは難しいのだ。
ミン曰く、「シュッとやって、ビューン、だよっ!」
意味がわからない。
「まぁそういうわけで。なんとか我流剣術ってやつでやらせてもらってるっす」
「そっか……頑張れよ」
そのまま研ぎ終えた双剣を渡す。その際、「そういえば身体の重心移動が大事って聞いたことがあるな」といえば、「そうなんですか? 練習するっす!」と爽やかにラルフは返事をした。
そんなこんなで狩りを進めていく。
その後も《シルバリィウルフ》の群れやら、単体で《生命樹》三階のフロアボス並みの強さを誇る《アイシクルグリズリー》二匹など、かなりの強敵揃いだったが、遊撃役のミンと高威力のエンケの相性が思った以上に合い、危険もなく進めていた。
ふと気がつくと、パーティ共通アイテムストレージのポーションが赤、青の二種共に減ってきていた。
俺はそれを見ると、個人のストレージを開き、『霊湧水』『ルミネの実』『活魚のエキス』を取り出す。
「? なんだ、それは?」
「材料だよ」
大した説明もなしに、俺はそのままその材料を選択すると、《錬成》を発動させた。




