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あの日のこと

 現在、定期の更新を予定していません。しかし、続けては行きたいと思っていますので、よろしくお願いします。

 鈍色の剣閃が幾度も瞬く。


 相手の曲刀と俺の剣がぶつかっては火花を散らし、互いの顔を照らす。目の前の敵はその手に持った片手用曲刀を振りかぶり、突進してくる。俺は反射的に腰を落としつつ、その攻撃を注視した。


 グオォァァッ!と雄叫びを上げて来る敵を見据えて、俺はゆっくりと身体を前に出す。

 迫る曲刀の異常な威力を思い、身を震わせ、それを利用して紙一重で避ける。敵がそのことに対して目を見開いたように感じた。


 俺はそこで横薙ぎに剣を振るう。それは敵の胴装備を切り裂くが……それだけ。敵がバックダッシュしたために斬撃が浅かったのだ。せいぜい防具の耐久値を瀕死状態にした程度だろう。


 距離をとった相手と再び向かい合い、その姿を観察する。

 筋骨隆々の体躯に、それに見合った重装備。にも関わらず軽装備プレイヤーのように軽やかな動き。筋肉というのはああまですごくなるのかというその動きに、俺は筋トレの必要性を確認する。


 そしてその身体を覆う厚い灰色の体毛。そう、相手は人間ではない。狼のような風貌をしていた。

 レベル四十《ワーウルフ》と書かれた乙型個体の敵ステータス画面を見て、ウルフマンのほうがわかりやすいのに、と思わず嘆息。特に意味はない。


 そんな俺の気が少し逸れた瞬間。この一帯をまとめるリーダーである狼男は、俺に対して凄まじい咆吼を放った。と同時に、俺の体力ゲージ下の状態欄に黄色のマークが付き、点滅する。それはスタンマークだ。

 このまま身体を動かせば、すぐさま俺に高圧電流のような痺れが襲い掛かるだろう。咆吼はそういう種類の特殊攻撃らしい。次からは注意したほうがよさそうだ。


 俺が動けないと思っている狼男が曲刀を上段に構えて突進。凄まじい爆発力で一気に距離を詰める。俺はそれを見ても、動かない。

 そのまま俺の頭を断ち切らんと振り下ろすそいつに向かって、しかし俺は小さく嘆息した。


「思い込みは良くないぞ」


 そう言って、”動く”。敵の足元に向かって足を捌き、脇をくぐるように狼男の横を抜ける。ついでに一撃、その脇腹に入れる。激しいエフェクトが撒き散らされた。


 そのまま斬り抜けて距離を取るが、視線だけは外さない。その時にも頭の何処かでは激烈な痛みを感じてはいるのだが、それを俺は無心にやり過ごす。そんな俺の姿に、意思など持たないはずの狼男が驚きに目を見開いているように思えた。いや、意思という概念を考えるのなら俺達人間にもあるのか疑わしいところだが。


 まあ、それも、無駄なことか。


 思い直して剣を構え直す。そして、先ほどまで込めなかったものをその剣に込めてみる。すなわち、殺気。

 瞬間、相手の体がブルっと震える。状態欄に威圧マークでもついているかもしれない。

 その隙を逃さず、俺は素早く距離を詰める。相手も遅れながら前に踏み出したお陰で、丁度間合いだった。


「……」


 明鏡止水。殺気を込めて、無心に放つ。


 今まで生きてきた中で培った動作を淀みなく行う。その斬撃は敵の曲刀を掻い潜り、吸い込まれるように敵の胸板を切り裂いた。断末魔の叫び。俺の心をも揺らす悲痛なそれは、およそポリゴンで生成されたモンスター(意思無き者)のものとは思えない。


 敵の体力ゲージが減少を始める。この世界が俺の斬撃の威力、精度、深さなど様々な要素を加味して、その変化量を定める。狼男のHPはすでに半分ほどだった。そこから減少し、減少し、減少し。


 そしてゼロになる。


 狼男の動きが止まった。HPゲージの消失によりこの世界に存在を拒否される。彼を形作っていたポリゴンに綻びが生じ、ほどけていく。

 そして、


 キィィィィ……ィィン……――


 繊細なガラス細工が割れたような澄んだ音を響かせ、狼男は爆散した。その残滓は空中へと漂い、そして虚空へと消えて行く。

 体力ゲージの数値的喪失。これはすなわち存在の消失と同義。

 それは、俺達人間も同様に、だ。


「ったく……無駄なことだ」


 そう吐き捨てると、俺はその手に握る命綱である剣を左右に切り払い、腰の鞘に収める。

 そのまま、その場を後にする。すでに時は夕方。これ以上この森にいると、抜け出せなくなる可能性もある。


 ――『人間は脆い。だからこそ、希望に満ちている』


 プレイしていたゲームの販売文句であったそれ。それにはどういう意味があるのか、季節が巡った今でも、俺は考え続けている。

 そして今回もまた、答えは出ない。

 そうして、一年もの時間が経っている。


 悪夢の始まり、新たな現実が生まれた日、全てを失った日、はたまた与えられた日。

 いろいろと言い様はあるだろう。そんな日が、たしか一年前だった。俺たちがこの世界に閉じ込められ、非日常へ投げ込まれた、そんな日。悲鳴をあげ、怒号を鳴らし、懇願し、罵った、あの日。

 全てが――になったあの日。


「ほんと、無駄なことだ……」


 そう言いながらも、俺は思いを巡らせていた。

 俺の人生を変えた、あの日のことを。




  ◇◆◇◆




 格闘、カーレース、射撃などゲームにされたジャンルは数多い。そして今日、それらのゲームをあたかも実際に現場にいるような臨場感を味わうことが出来る技術が生み出されている。


 VR技術。これは画期的だった。

 世界観から自分の脳に叩き込まれるような圧倒的迫力。新鮮さのあまり、違う世界にすら見えてくるほどであった。ゲームセンターで実装され、家庭用筐体が生み出され。ゲームはその幅を広げ、多くのプレイヤーを引き込んでいった。


 そしてゲームと言えば。

 なんといってもRPGだろう。最初はオフラインの物のみの販売であったが、その後発売されたVRMMOは爆発的にヒットし、多くの人を魅了した。


 そしてこの年。新たなVRMMOが発売される。

 発表されたそれは、今まで数多くの名作VRゲームを生み出した名プロデューサーが総力を注いだと言われる大作だ。それが、β版を経て、いよいよ正式スタートしたのだった。

 体術と魔術が響きあう、異世界踏破型VRMMO――



 ――その名も、【フラジール・オンライン】




いかがでしたか?

VRMMOモノは読むのが大好きで、他のなろう作家の方の作品も読ませてもらっています。

そして…恥ずかしながら、書くことを我慢できませんでした。結構見切り発車の要素を含む作品ですが、ぜひ目を通していただきたいな、とも思います。

 評価、感想、なんでもござれです。メタクソに言ってもらっても構いませんので、どうかよろしくお願いします。

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