オレンジの秘密
この作品には自死表現が含まれます。
苦手な方はお控えください。
◇◇プロローグ◇◇
『なぁ、自分の人生に色が付けられるとしたら何色にする?』
夕暮れ間際の西陽を浴び、丈はバスケットボールを軽快に突く。長く伸びた影がアスファルトに投影されている。
おれは草が生えている低い石垣に腰掛けて質問を聞きながら、その影をぼんやり目で追っていた。
ときどき小刻みにボールを突いてみたり、脚の間をクルクルとくぐらせてみたり、自由に動き回って、忙しい。
梅雨明けが宣言され、暑さが本格的になってきた夏の夕方。
「はぁー? 出たよ、ジョーの変な質問!」
『オレはさー、オレンジ! なんでか分かる?』
「あぁ〜? 好きなバスケのボールの色だから? てかおれまだ答えてないんだけど」
『半分当たりで半分不正解! 実はまだ理由があってだねぇ……』
動き回っていた影が止まって、シュートのポーズになっている。バスケットゴールへ狙いを定めているようだ。
「なんだよ、他の理由って。」
『お、晃ちゃん知りたくなっちゃってるなあ??』
シュートの体勢を崩さずに横目でおれをチラリと見ながら丈はニヤリと笑った。
『もうひとつはジョー選手がこのシュートを決めた時、ヒーローインタビューで小一時間語り尽くしてもらおうと思います!!』
「なんじゃそりゃ」
パシュッ ガコン、
放たれたボールは惜しくもリングの端に当たって弾かれてしまった。
『おおーっと! ジョー選手シュートを外した! 他の理由は迷宮入りになってしまうのでしょうか!?』
転がっていったボールを拾いに行く丈の後ろ姿を見つめながらおれは自分の人生の色を考えてみる。
……全然思いつかない。
「おれは人生に色が付くという概念自体を思いつかなかったよ。 なんかいつも面白いこと思いつくよな、ジョーは」
『楽しいじゃん? そういうこと考えるの』
ボールを両手に抱えて振り返った丈はにんまりいたずらっぽい笑みを浮かべていた。
表面のつぶつぶを親指でなぞりながら、彼は何かを言い淀んだ。
『あのさ、そういえばこの後さ……』
そこでおれのスマホが鳴った。母親からだ。
『いいよ! 晃平出なよ』
「悪ぃ! ありがとな。 ……あ、もしもし母さん? うん。うん。分かった、買っていくよ 」
帰りに食パンと牛乳を買ってきてくれとのお願いだった。
「すまん! ジョー、今何か言おうとしてた?」
通話を切って、丈に訊く。
『や、ううん、なんでもない! この後ちょっと用事あってさ。また明日ね!』
「おい! 結局ジョーの人生の色の話は秘密かよー!」
『また今度ね! それと、晃平も考えておいてよ。自分の人生に付けるとしたら何色にするか!』
ニカッと笑った丈の髪の毛が、夕陽に照らされて橙色に染まっている。
「難題だなあー。 ま、気が向いた時に考えてみるわ! じゃあ、また明日な。」
『うん! じゃあね!』
丈は少しだけワクワクしているような、緊張しているような、そんな表情をふわっと残したように見えた。そしていつもの軽やかな笑顔で別れを告げた。
おれと丈は公園を出て、それぞれの方向へ自転車を漕いでいく。
丈はこちらを振り返りながら片手を振ってくれた。
「転ぶぞ! ちゃんと前見ろよー!」
『晃平も気をつけてねー!』
丈のオレンジ色の秘密を聞ける機会は次の日もその次の日も、やって来ることはなかった。




