第四十二話 冒険者ギルドでの情報収集
丸一日休んで十分に体力を回復した次の日。
通りがかった冒険者パーティに場所を尋ねつつ、トラスヴェルムの冒険者ギルドがある場所を目指す。
「今日はギルドに北のダンジョンの情報を聞きに行くんですよね?」
「そうだな。俺もダンジョンの詳しい位置までは知らないし、どんなモンスターが出るのかも分かっていないから、行くにしても聞いておいたほうがいいだろう」
鍵がある残り二つのダンジョンの一つ、流水洞穴については俺も行った事が無いので分からない。
だから予め冒険者ギルドの受付で、判明していることを聞いておいた方がいいだろう。
先程の冒険者達に言われたとおりに大通りの突き当りまで行くと、そこには大きな屋敷のような建物があった。
すぐ外で複数の冒険者パーティが立ち話をしているのを見るに、あそこが冒険者ギルドのようだ。
早速三人で足を踏み入れることにした。
建物の中はボルタナの冒険者ギルドよりもはるかに上品な場所だった。
床やカウンターは綺麗に磨き上げられ、受付に立っている職員達の身なりも立派だ。
本当に冒険者ギルドなのかと一瞬疑いたくもなったが、冒険者達も大勢おり、壁にある沢山の依頼が貼られた掲示板を眺めている。ボルタナでもよく目にした光景だ。
(町によって、こんなにも違うものなんだな……)
トラスヴェルムは清潔さを重視する都市のようだ。
裏通りの店がこの都市にあったとしたら、店主は掃除をしない罪で連行されてしまうかもしれない。
「すごく綺麗な場所ですね。ボルタナの冒険者ギルドしか見たことがないですが、同じ目的の施設とは思えないです」
「ああ、そうだな」
ファティナもどうやら俺と同じ感想のようだ。
メルはどう感じているのかと思いふと彼女の顔を見てみたが、特段気にしている様子もなさそうだった。
さすがは王女といったところだろうか。
カウンターの前まで歩いて行くと、受付をしている女性が俺達に向かって礼をしてきた。
茶色く長い髪を後ろで一つにまとめあげ、眼鏡をかけた彼女はいかにもギルド職員といった堅い感じがする。
「トラスヴェルム冒険者ギルドへようこそ。私は受付のシエラと申します。どうぞお見知りおきを」
ボルタナの受付嬢であるエリヴィラとは対応と言うか何というか、何もかも違うようだ。
とりあえず目的だったダンジョンに関する情報を得るため、話をすることにする。
「俺達は昨日ボルタナからこの都市にやって来て、近くにあるダンジョンに行こうと思っている。もしも場所や、その他にも分かる情報があれば教えて欲しい」
「かしこまりました。少々お待ちください」
受付嬢のシエラはそう言って奥にあるテーブルから地図を取り、カウンターの上に広げた。
地図にはこのトラスヴェルム周辺が描かれている。
「トラスヴェルムから最も近いダンジョンは、ここから馬車で南におよそ一日かけて移動した場所にあります。この川の近くです」
受付嬢が地図上にあるポイントを指差す。
そこは俺達が通ってきた街道の西側の森ではなく、東側にある場所だった。
地図上には大きな川がある様子と、そのすぐ近くにダンジョンの入り口が描かれている。
(それにしても、馬車で一日とは遠いな……)
緑翠の迷宮はたまたまボルタナから歩いて行ける距離にあったからまだ良かったが、流水洞穴はボルタナとトラスヴェルムのどちらから行ってもそれなりに時間のかかる場所にある。
移動方法や探索できる日数も考慮に入れて動かなければならないだろう。
「なお、道中はゴブリンやオークなどのモンスターも出ますのでご注意ください」
「分かった。他にこのダンジョンに関する情報は何かないか? 特徴などがあれば教えて欲しい」
「そうですね……このダンジョンは絶えず至る所から水が流れています。そのせいか、水属性に関するモンスターが多く生息しているようとのことです」
緑翠の迷宮は植物が蔓延っていた。ということは、流水洞穴ではその名の通り水がそこら中に溢れているということなのか。
水を含んでぬかるんだ土は足を取られやすくなる。そのため戦闘する場所も考えなくてはならない。
「水属性のモンスター……というのは、どういったものでしょうか?」
ファティナが気になったのか、受付嬢に尋ねた。
「上層に現れるものでいえば、たとえば毒を持つ巨大なカエル型のモンスターであるポイズントードなどですね。これはDランクモンスターですのでまだいい方ですが──」
「……」
ファティナとメルが露骨に嫌そうな顔をした。二人としてはあまり戦いたくないようなモンスターだろう。
「この辺りもやはりモンスターが大量発生しているのか?」
少なくともボルタナ周辺は、緑翠の迷宮を攻略する前まではそうだった。
そのため、この流水洞穴の付近もそうなのではないかと思ったので聞いてみる。
「はい……ギルドの統計では、ここ最近は顕著にモンスターの数が増えていることが確認されています。そのため、モンスター絡みの依頼も数多くありますね」
「もしかして、ダンジョン内のモンスターが急に増えたりしていないか?」
またボルタナの時のように何かが起こらないかと気になったので確認しておく。
「ええ、ですがそちらは特に問題にはなっておりません」
「えっ? どうしてですか?」
「Sランク冒険者のアレン様のパーティが攻略に向かわれているためです」
受付嬢が告げた言葉に、メルが何かを思い出したかのような表情をした。
(……言われてみればそうだったな)
メルが以前言っていたことを思い出す。
流水洞穴はアレンが、炎熱回廊はバルザークが攻略している途中だと。
アレンの目的も俺達と同じく下層にある鍵の入手のはず。
だとするならば、もしも出会ってしまえば戦いになるかもしれない。
相手はSランクパーティ、こちらもタダでは済まないだろう。
「分かった、ありがとう。助かった」
「はい、それではお気をつけて」
ひとまず情報を得た俺達は、冒険者ギルドを出たのだった。




