おわり
嫌悪の表情を隠すことなく、かの人は言祝ぐ。誰よりも愛したその人は、ただ一人を求め、あの人にだけ愛を捧げた。
ーそれで良かった。否、良かった筈だった。
いつからか貪欲になり、こちらを向いてほしくなった。ほんの欠片でも良い。愛してほしかった。でも、返ってきたのはこおりのようなひとみ。
せめて、この子だけでも愛してほしい。そう娘を捧げたが、絶望する言葉しか下さらなかった。
「お前の血を引いた子供をどうやって愛せという」
ばかばかしい、と吐き捨てられた言葉に、軋んだ心はいともたやすく砕け散った。愛したはずのかの人が憎くなり、憎悪をたぎらせ、心はとうに元には戻らなくなってしまった。
かじりついてでも傍にいたかった筈なのに。瞬く間に心を失った身体はやせ細り、すぐに寝台の住人と化した。それでもあなたは振り返りもせず、愛する人だけを追っていた。
「ごめんなさい」
涙を流す、彼女はこの世のなにより美しかった。真実を、という彼女を押しとどめ、願うはただ一つ。
「むすめをまもって」
ただ、その一言を言うだけで息切れし、胸が早鐘を打つ。彼女は何度もうなずき、返事した。
何度も、なんども、暗闇と現を行き来し、時々視界に彼女や大切な幼馴染を見た気がした。
声も出ず、涙も枯れた、かの人に望まれぬ妻は苦しみもなく、ひっそりと最後の息を吐き出し命の灯を消した。