37. ばれていた俺の正体
ノード神話 「神々の黄昏の章」より
大きな戦争があった。人間と魔物の戦争だった。
その戦争において、超大型の攻撃魔法が初めて使用された。
その時に動員されたのは上級魔術師およそ150人。
その結果、攻撃を受けた都市はまるまる一つががれきの山と化した。
だが、その時人々はその地の魔力が全て枯渇していることに気が付いた。
「しかし、すっごいね、この乗り物、椅子もフカフカだし揺れも穏やかだし、もう、乗り心地サイコー」
ローラがすっごくはしゃいでいる。
「そうですね、ローラさん、わたしもこの乗り物大好き」
現在、俺はステローベとローラを後部座席に、トドムラを助手席に乗せて馬頭尊の馬車の後を走っている。
道はマヨヒ城を出た最初のころよりはずいぶん状態が良くなっている。
狭いすし詰めの馬車の中で俺は思いついたのだ。
もっと早く思いつかなかったことが悔やまれる。
4輪駆動のパジェ○。
ミニの方だけどな。
親父が乗っていたことを思い出した。
運転免許など持っていないが、こんな荒野の真っただ中で必要とは思えない。
警官もいないしな。
子供のころから親父の運転を見ていたおかげで、見よう見まねでなんとか動かせる。
4輪駆動の性能は素晴らしかった。
ほとんどのところはこれで走破できる。
たまに深い穴に車輪がはまって動けなくなることもあるけど、そこは困った時の馬頭尊。
彼の100人力の馬鹿力でたやすく脱出することができた。
んな訳で、馬頭尊の馬車に乗っているのはエリスとケイティ、それにネリンだ。
ネリンはこっちの車に乗りたがったけど(本当の目当てはトドムラだろうな)、ケイティと仲がいいので馬車に乗ってもらった訳だ。
車のメーターは時速20~30キロをさしている。
このぐらいの速度が出せると御の字だ。
「ところでさあ、瑠璃姫様の婚約者が殿下って話、本当?」
ローラが後部座席から前部座席に身を乗り出して聞いてくる。
おーっ、女の子ってこの手の話が好きだな。
「いや、それは瑠璃姫の冗談だ。正式に婚約したことないし」
俺が言下に否定するとトドムラが言ってきた。
「いや、それはどうでしょうか。瑠璃姫様の誓は最初に口づけをした男性と結ばれること。そうはっきりとおっしゃっていましたぞ」
「きゃ、やだ。じゃあ殿下って瑠璃姫様とキスしちゃったの?」
その言葉に動揺した俺は思わず急ハンドルを切る。
そのせいで車内が大きく揺れた。
「いや、あれはキスじゃあなく、人工呼吸ってやつだ。心臓も呼吸も止まってしまった相手に対して行う救急救命措置だ」
「でも、それが救命措置だとしても、実際には口と口をこう重ね合わせたのですからな。もうこれは瑠璃姫様と結婚の約束を交わしたことになります」
トドムラ、お前どうしても俺と瑠璃姫をくっつけたいんだな。
あれか、帝国再建のための後ろ盾になってもらうためか。
完全に政略結婚じゃないか。
結婚するとしたら俺は本当の愛のもとに結婚したいんだ。
「トドムラ、ステローペ、お前たちに言っておかなければならないことがある」
俺はまじめな口調で言った。
もうここまで来たら隠しても仕方がないだろう。
「実は、俺は大ガルニラン帝国のキャサール皇子ではないのだ。皇子の肉体に精神が入っているが、おれは異世界の日本という国から皇子に精神交換された日下歩日人という学生だ」
俺はハンドルを握りしめながら、ステローベの「信じられない」という声やトドムラの「やはり偽物であったか」というこえを待った。
だが、戻ってきた答えは俺の予想を裏切るものだった。
「知っていますよ。そのくらい」
「あたしも気が付いていました」
ガチョーン。
(注:古語、くれーじいきゃつという伝説のメンバーの内の一人のギャグ。これを聞くと全員はらほろひれはれとか言って倒れなくてはならないという古代の定型儀式)
「なんで、なんで知ってんだよ。ずっと秘密にしてきたのに」
「あー、ばればれでした」
「そう、ばればれだったわね」
「何だよ、いつから気づいていたんだよ」
「そりゃあもう、ずいぶん前から」
身もふたもない返事だった。
「だって、殿下ってあまりにもこの世界のこと知らなさ過ぎたんですもの。それに、昨日ケイティさんに『俺の国日本にはまだまだうまい食い物が』って自分から言っちゃうし」
「ええっ、そーだったっけ」
「そうですぞ。精神交換で記憶の多くを失ったなど、直ぐに違うのではと疑いました。ましてや冷血の二つ名で知られたキャサール皇子のこと、魔物軍が押し寄せた時自分の命が助かるために異世界の住民と精神交換することに何のためらいもありますまい。そのくらい身勝手なお人だ。ひょっとして、大金が儲かるとかそのようなことを言って精神交換の儀式をさせたのでしょう」
ガチョーン。
(注:古語、2回目、くれーじいきゃつという伝説のメンバーの内の一人のギャグ。これを聞くと全員はらほろひれはれとか言って倒れなくてはならないという古代の定型儀式)
まるで見てきたかのように状況は合っている。
「でもさ、でもさ、気にならないの、体はキャサールでも心は異世界人なんだぜ、その異世界人に帝国を再建させても、正当な後継者じゃないんだぜ。赤の他人なんだぜ」
「いや、心はたとえ卑しい生まれとしても、その肉体には正当なる大ガルニラン帝国皇帝の血が流れておりますぞ。この後子をなすにしても、やはり帝国支配者の、またひいては帝室に受け継がれる第二の神々の血が流れていることは違いなきところ。その尻の青あざが全てを受け継ぐものの証、それゆえ、殿下はたとえ偽物でも本物というしかありますまい」
俺は尻を押さえたくなってきた。
でも運転中だからそれはできない。
んっ?ちょっと待ってよ。
トドムラ何気に変なこと言ったな。
帝国支配者は第二の神々の血をひくなど。
そもそも、その神々につながる神使族や神器の多くは日本の名前に近いし、マヨヒ城の宝物庫には日本の甲冑らしきものまであった。
更に、ローラが唱える呪文には「ハライタマエ、キヨメタマエ」という神道で使う言葉が最後に定型文のように付けられていた。
そうだ、ステローペの痛み止め呪文だってそうだった。
「イッタイーノ、イッタイーノ、トデデケー」だったっけ。
何だかこの世界、日本の影響強すぎねぇ?
そんなことを考えていたら街道はいつしか山道に入っていく。
ひねてよじれた丈の低い灌木が少しづつ増えてきている。
それに比例して道はどんどんと細くなっている。
数百年のうちにここも木が街道を削っていっているようだ。
「おっ、馬頭尊が止まったぞ。どうした。トイレか」
山道に入って数時間経ったところで馬頭尊の引く馬車が急停車した。
馬頭尊が半馬半人の姿に戻っている。
4駆を降りて近づいてみると、この先の道路が大きく崩れていた。
結構な崖になってしまっていて、馬車でも、もちろん親父の4駆でも通れそうもない。
「どうする?」
「これは無理ですな、歩いて渡るしかなさそうです」
「登山かぁ、それもきつそうだな」
俺の視線がふとネリンと話しているケイティに止まった。
「そうだ、ケイティに金龍に変身してもらって運んでもらえばいいじゃんか、もう一日たっているので、変身できるはずだし、この崖どころか超族の本拠地まで一気に行けるぜ」
「おお、それはいい考えですな。」
ケイティに打診したところ構わないという返事だった。
車ごと持ち上げて運んでくれるそうだ。
「だが、今日はもう少しで日が暮れそうです。ここでキャンプして、明日の朝チャレンジすることにしましょう」
トドムラの提案で俺たちはまたコテージを出してここに泊まることにした。
だが、食事を終えて寝ようとしたときにまた騒ぎが勃発してしまう。
「あーん、誰かぁ、あたしと一緒に寝てくれない?」
騒いでいるのは勿論ネリンだ。
一緒に寝てくれるテトがミリーと一緒にマヨヒ城に行ってしまった今、ネリンと寝ようなどという輩は誰も居やしない。
と、思ったら、ネリンと話が合うのが一匹加わったんだっけ。
「いいわよ、一緒の部屋で」
「わあ、ケイティ姉さまありがとう」
ケイティは俺の出した日本酒をぐびぐび飲みながら上機嫌だ。
酒なら何でも飲むが、特に日本酒が好きみたいで、辺りには 1ダース以上の一升瓶が散乱している。
だが、これで何とか騒動も収まったようだ。
と、思っていたら、全員が寝静まった夜中にとんでもない事態が発生した。




