18. 魔物戦 三日目 恐怖の帝王 バンパネラ戦
ノード神話 「ヴォルテルの娘シーラ」の章より
シーラの前に現れたノード神は二日目にシーラの問いかけに答えて言った。
「およそこの世に現れし全ての生き物が今までに知りえなかった秘密を我は汝に語る者なり。しかし、およそ死ぬことが定めの者ならば、その秘密はいつかまた隠れたものにならん。しかし、我はそを恐れずに答えるものなり」
こうしてノード神からシーラへ神のみが持つ秘密が伝えられることになった。
その教えは三日三晩続き、ついにシーラは精根尽き果て四日目以降の秘密はついに明かされることはなかった。
ビッグホーンラビット戦での負傷を口実にその日の祝勝会は開催中止となった。
俺としては何十人もの人に祝勝会で挨拶されるたびに怪我の具合を質問されるのではと憂鬱な気分になっていただけに助かった助かった。
後でわかったのだが、ビッグホーンラビットの角は三角錐のようになっていて、角がエッジのように鋭くギザギザになっている。それが俺のズボンを切り裂き、皮膚を切り裂いたのだ。
だが幸いなことに筋肉や骨まで損傷を受けているわけではないようだ。
バトルフィールドに真っ青な顔をして飛んできたステローベは俺を選手控室に連れてくると包帯と薬を取り出し、おろおろしながらも手当をしてくれた。
うん、美少女の手当てって、いいよなぁ。
「殿下、痛みは、痛みはありますか?」
ステローベが大きな目に心配そうな表情を浮かべて聞いてくる。
「ああ、痛い、痛いけど、そんな大けがというほどのこともないし、ちょっと歩くのに足を引きずる程度かな」
「痛み止めの魔法をかけます。それで痛みはほとんどなくなるはずです」
ステローベがそう宣言すると手を俺の足の包帯部分に当てると魔法詠唱を始めた。
「イッタイーノ、イッタイーノ、トデデケーッ」
「ちょっと待て、何だそれは」
「えっ、痛み止めの魔法ですけど、エリス様が骨折した時も使ったよく使われる初級治療魔法ですけど」
「いや、だってそれ日本語だろう」
「えっ?日本語って何でしょうか。この呪文は太古の神々の時代から使われていたという普通の呪文ですが・・・」
ステローベは戸惑ったような顔で俺を見つめてくる。
だが、その呪文はアクセントや語尾が多少変化しているものの、幼児が転んだ時などにお母さんが唱える「痛いの、痛いの、飛んでけー」という言葉に他ならなかった。
ふうむ、それがこの異世界で魔法の呪文として使われている。
俺は足の傷の痛みがすっかりなくなっていることに気づいた。
さっきまではズキズキ痛んでいたのにだ。
ビッグホーンラビットの角はへりがギザギザになっているため、普通の刃物で切られるよりも痛いはずなのに。
これはどういうことだろうか。
そういえば瑠璃姫の本地である流砂城で阿形卿と吽形卿が再起動しようとした時もバイオスがどうたらという声が聞こえたっけ。
地球の、それも日本の科学技術や知識がこの異世界に相当に入り込んでいるというこだろうか。
探せばまだまだ地球の痕跡が見つかりそうだな。
そう思っていると、瑠璃姫とエリスが選手控室にやってきた。
「順調に勝ち進んでいるようじゃな、さすが我が婿殿」
「ふん、とりあえず祝福してやるが、お前はポカミスをするタイプだ。うざい失敗をするなよ」
エリス相変わらず毒舌だな。エリス・デラックスかエリス・マングローブとでも名乗らせるか。
「ところで、明日の対戦相手はお聞き及びでしょうか、瑠璃姫様」
トドムラが瑠璃姫に尋ねる。
「うん、そのことなんじゃが、相手はバンパネラじゃと」
出たー、出ましたよバンパネラ。呼び方一つでバンバイヤーよりカッコいい。
「バンパネラっていうと、人の血を吸うんだろう?」
「ああ、厄介な相手じゃ。しかも次の試合はバンパネラの弱点である昼ではなく、夕方からの試合なんじゃと」
「昼間の太陽が出ている時ならともかく、夜のバンパネラは相当に厄介ですな。人は生きてこそ価値ありなはずですが、死んでからもそのようなおぞましい存在にはなりたくないですな」
「そうだ、特に今回の相手のバンパネラは肉体もすべて食われ尽くされてしまい、うざいことに霧煙体にまでなっていると聞く」
「なんと、ほとんど実体のない存在にまでなっているバンパネラがいるとは、殿下、今回の相手は相当にまずそうですぞ」
何か俺の知らない知識を前提にみんなで話している。
「あのう、悪い、どうやら俺の知っているバンパネラとちょっと趣が違うようだが、念のために確認させてくれないか。そのバンパネラの能力を」
「おお、そうでした。殿下は多くの記憶が失われているのでしたな」
トドムラは俺のために要点をまとめてこの世界のバンパネラの能力を教えてくれた。
それによると
①バンパネラは人間の生血を特に好む・・・俺の世界と同じだね。
②バンパネラに血を吸われた人間は自身もバンパネラとなる・・・これも同じ。
③バンパネラは太陽や殺菌作用のあるものに弱い・・・これも同じ。
④バンパネラは体を霧状にできる・・・同じだよ。
⑤バンパネラは流れる水に弱い・・・だから、同じだってば。
⑥バンパネラは他の生き物の形に変身できる・・・同じだって言ってんじゃん。
⑦バンパネラの正体は知能のある細菌である・・・えっ、そうなの。
⑧バンパネラは細菌ゆえに切っても死なない・・・そりゃそうだよね。
⑨バンパネラに血を吸われた人間は直ぐには完全なバンパネラにはならない。ゆっくりと血を食らい、肉を食らっていくので、しばらくの間は人間としての意識と行動や理性が保てる。この状態の人間をハーフバンパネラという。
⑩ハーフバンパネラが傷付くと、体の中のバンパネラ菌が体を修復してしまう。それゆえ生身の人間よりもはるかに高い生命力を持つ。
⑪ハーフバンパネラの状態で100年ほど経つとその肉体はすっかりバンパネラ菌に同化されてしまい、体を霧状や他の生物に擬態するなどの本物のバンパネラになる。
つまりバンパネラとは無数の小さな細菌の集まりで、人間の血を養分にしている病原体らしい。普通の空気媒介や接触程度では感染せず、人間の体内の血液に入り込むことでバンパネラ菌が増加し、感染者を最終的にバンパネラと化してしまうというのだ。
げげっ、おぞましい。
俺は背中がゾワゾワっとするのを感じた。
だって、自分の体が細菌に食われるんだぜ。
さして最後の最後には血も肉も骨も食われて、完全に細菌の塊になってしまうんだぜ。
これがおぞましいと言わずして何というのだろうか。
知能のある細菌の塊は形を自由自在に変えられる。
もとの人間のフリをしたり、霧状になってみたり。
でもこちらのバンパネラは十字架に弱いとか、聖水に弱いとか、鏡に映らないということはないようだ。それに心臓の位置に杭を打っても効果はなさそうだ。
ふむ、対バンパネラ戦ではおぞましいことを除いては何だか色々と攻撃手段が取れそうだ。
何てったって俺は科学立国日本男子だ。衛生観念なら優れているぜ。文系だけどな。
そうだ、相手が細菌なら調律使戦で使った熱戦返しが使えるんじゃあないだろうか。
『いや、それだとまずいっしょ。威力が高すぎて観客も大半が黒焦げになってしまうっしょ』
ふむ、熱線はだめか。
俺はその後コングーナーとああでもないこうでもないと論議し作戦を煮詰めることとなった。
さすがに試合3日目ともなるともう手慣れたものだった。
俺は前日に作った必殺のアイテムをコングーナーに隠しコロシアムへと入場した
初戦のヒトトリ草、二戦目のビッグホーンラビットと順調に勝ち進んだ俺を観客席からの熱い、熱狂的な応援が迎える。
「がんばってー、キャサール様ぁー」
「バンパネラなんかやっつけてしまえ、いけーぇー、いけぇーっ」
「お前に全財産かけてんだ、頼む、儲けさせてくれぇぇぇぇぇぇ」
最後の奴の絶叫、意味わかんねえし。
【さあ、神使に愛された男、恐るべきコングーナーの使い手、そのコングーナーの呼び出した未知の武器はこれまですさまじい威力でヒトトリ草とビッグホーンラビットを屠ってまいりました。今夜もまたキャサール殿下は誰もが畏怖する闇の帝王バンパネラを倒すことができるのか。皆様大変お待たせしました。本日も試合の実況はローラ勤めさせてい叩きます。そして本日の解説はバンパネラ界に詳しいハーフバンパネラのネリンさん(♂)です。ネリンさん、本日はよろしくお願いします】
【血、血、血が欲しい、あたしも血が欲しいのよぉーーー】
【ちょっとネリンさんはこの試合の雰囲気にだいぶ興奮しているようですね。まず本日の対戦相手についてお聞きして宜しいでしょうか】
【うふふ、今日の相手はすっごいわよーーー、あたしの大好きなモジューラ公爵様、ああ、あたしの初めての血を奪ってくださった方よーー】
放送席を見るとローラの横にいて解説しているのはドレス姿の30代くらいのガタイのいい男だった。
それがしなを作りながらお姉言葉で解説している。
ハーフバンパネラとか言っていたが、これじゃあニューハーフバンパネラじゃねえか。
【ちょ、ちょと待ってください、ネリンさん。モジューラ公爵といったら、バンパネラ界で3本の指に入る伝説の吸血鬼じゃあないですか。本当に今日その伝説の存在が現れるというのでしょうか】
【うっふーん、そーよ。この試合のためにあたしの処女の血をささげて眠りから復活してもらったんだから】
ネリン、お前、なに余計なことしてくれちゃってんだよ。
【皆さん、お聞きになったでしょうか、なんと、なんと今夜のキャサール殿下の対戦相手は闇の帝王というには恐れ多いあのモジューラ公爵というではありませんか。齢、500年以上もの間、世界を恐怖に陥れ公爵の眷属は10万以上もいるとも伝えられたあの伝説の吸血鬼が今宵復活したのです。まさに恐怖、恐怖、恐怖以上のなにものでもありません】
ローラの実況に会場からは次々と悲鳴が上がる。
中には失神したのか連れに介抱されている女性たちも多くいた。
【さあ、果たして我らがキャサール殿下はその恐怖の帝王、神使族にも匹敵する存在である伝説の吸血鬼に勝利することはできるのかぁぁぁぁぁ】
だから、ローラ煽るな。会場がパニックになりかけてんじゃないかよ。
【さあ、解説のネリンさん、その恐怖の帝王に対し勝利するためにキャサール殿下の戦法はどのようなものがあると考えられますか】
【勝利?そんなもの無理に決まってるじゃない。たとえ火魔法を使っても公爵様は体を霧状にして避けることできるしね。対人戦もなまじ500年も生きているだけあって、まず人間が躱すことなんてできっこないわよ。例のサンパッチシーキも昨日のジーライとかいう物理兵器も公爵様には効かないわ、もし効くとしたらあたり一面を火の海にするという戦略級魔法でしょうね。でもそんな魔法使える人物はここ何百年も出ていないわ】
【なるほど、観客の皆さん、吸血鬼の専門家はキャサール殿下の勝利はまずあり得ないとのことです】
【そうね。可能性は限りなくゼロに近いわね。あたしの公爵様は最強よぉ】
くそ、ほざいてろネリン。
【あっ、たった今モジューラ公爵側の扉が開け放たれました。そこから流れるように出てきたのは闇?いえ、黒いまがまがしい霧状の何かです。それが滑るようにここ神聖なる闘技場に現れました】
扉から出てきた黒い霧状のものは最初は不定形だったが、やがて一か所に固まり、やがて人型にどんどんと変化してきた。
そしてみるみるうちにそれが黒いマントを羽織った不吉な相貌の男へと変化を遂げる。
「今宵、マヨヒ城からの招請に応え来てみるに、ワシの対戦相手とはこの小童であるか。ワシも軽く見られたもの。まっこと不快じゃ。されど神出鬼没王との古き約定ゆえ、不本意ながらもお相手申そうぞ」
霧から変化したモジューラ公爵の肌は人間の肌ではなく、よく見ると無数の黒い何かがもぞもぞと動き回っていた。
うわーっ、キショイ、キモイ、絶対にこいつの体には触りたくない。
吸血鬼なんてしゃれた存在ではなくて、まさに細菌の塊じゃあねえか。
まあ、細菌なんだけどね。
「小童、せめてもの情けだ、気づくことなく、一瞬で我が体に取り込み消化してやろう」
モジューラ公爵は俺の嫌悪を恐怖の印と受け取っているようだった。
こんなやつ、さっさと消毒しちゃいましょう♪
試合開始のファンファーレが鳴り響くと同時に俺は、とういかコングーナーは100個ほどの風船を吸血鬼の頭上に出現させた。
そしてその風船を同時に破裂させる。
風船の中にはオキシドールが詰まっていた。
オキシドール、つまり過酸化水素水。ほら昔消毒で使っていたやつ。傷口に塗るとじゅわって泡が出てすっごく痛いやつ。
昨日、俺の家で使っていたオキシドールを呼び出し、それを風船にたっぷり詰めたものをトドムラのグロッディで100個ほど複製してもらったのだ。
「パパーン」
派手な音ともに一斉に割れた風船からオキシドールが滝のようにモジューラ公爵に降り注いだ。
【ああっと、何だこれは。モジューラ公爵の頭上に突如大量の色とりどりの丸いものが出現したと思った瞬間、割れて中から何か液体のようなものが大量に降り注ぎました。公爵たまらず体を霧に変えて逃れようとします。】
だが、広範囲に大量に配置した風船から落下するオキシドールは割れた衝撃で細かな飛沫となってモジューラ公爵の霧体に襲い掛かった。
「ぐぎゃーーーーっな、何だこれは、体が焼ける、ギャーッ」
【ああ、何ということでしょうか、液体が降りかかった途端に公爵が苦悶の叫び、まさに断末摩とでもいう絶叫を上げています。体から白煙が、いやこれは白い泡なのか、泡の塊が苦痛のあまり地面を転がりまわっています。凄い、公爵この絶体絶命の中から逃れ反撃することはできるのでしょうか】
モジューラ公爵は霧体を維持できずに元の人型に戻っている。
しかし、オキシドールに体を溶かされ、その大きさは泡とともにどんどんと小さくなっていった。
【なんと、なんと、公爵の体が1/3程にも縮んでしまった。いや、これは体が溶け去ってしまったのか、キャサール青年の情け容赦のない奇想天外な攻撃により、公爵、すでに体の大半を失ってしまったようです】
【そ、そんな馬鹿な、公爵様があれほどのダメージを負うなんて。で、でもまだよ。公爵様は不死身よ。生き残っている部分があれば簡単に勝利できるわ。キャサール、見ていてご覧、これから身の毛もよだつような公爵様の反撃よ。苦痛に沈み、生まれてきたことを後悔することになるわ】
「あっりゃー、まだ細菌が残っちゃってるじゃん、あれだけの量のオキシドールじゃ足りなかったんだ」
『そだね、あれが反撃してくると厄介だから、さっさと大量の水で体が保てなくなるよう流しちゃうべ』
うん、人間としてこの手だけは使いたくなかった。
だが仕方がない。
本当に仕方がない。
俺とコングーナーはこんなこともあろうかと想定していた次の作戦にとりかかった。
「コングーナー、俺の部屋にあったコードレス掃除機を我が手に」
【おおっと、今度は何でしょうか、キャサール青年の手に細長い奇妙なものが出現しました。先端に細長い棒のようなものが付いています。あっ、今度はその細長い棒の先端を公爵の体に押し当てました・・・・何でしょう、私の目の錯覚でしょうか。公爵の体がどんどんとその棒の先に吸い込まれて行っているように見えます】
『おっけー、全部吸い取れたっしょ』
「本当に大丈夫だな、バンパネラ菌残っていないな」
『多少残っているけど、大丈夫。地面にしみ込んだオキシドールが残っているやつ殺菌しているべ』
「よし、じゃあ、最後の仕上げだ」
【あっ、キャサール青年、突然細長いものを持って脱兎のごとく駆けだしました。どうするつもりなのでしょうか、そしてあの筒状の中には公爵が吸い込まれているのでしょうか。あれっ、キャサール青年、選手控室の中に飛び込んでいきました。何がどうなっているのでしょうか。現在、バトルフィールドには選手が誰もいない状態になっています。えっ、何ですか、えっ、そうですか、もう少しですね・・・みなさん、たった今キャサール青年のセコンドについているトドムラさんから情報が入りました。今、キャサール青年はバンパネラを浄化せんと秘密の儀式に入ったとのことです。その儀式が成功すれば公爵は呪われた体から解放されるとのこと。もう少々お待ちくださいとのことです】
【浄化ぁ?ふざけたこと言ってんじゃあないわよ。公爵様は誇り高き闇の貴族よ。たかが商人の出のキャサールにそんなこと出来る訳ないでしょ。せいぜい公爵様の反撃にあうのが関の山よ。見ていてごらんなさい、この次あの扉から現れるのはキャサールの生首掲げた公爵様なんだから】
【さあ、ネリンさんの予言通り、あの扉から再びコロシアムに戻ってくるのは闇と恐怖の世界の住人、モジューラ公爵なのでしょうか、それとも神使に愛された青年、キャサール殿下なのでしょうか】
その頃、俺は控室を飛び出て廊下を走っていた。
目指すはコロシアム関係者用トイレだった。
別に戦っているうちに便意を催してきたわけではない。
「ほいほいほいっと」
俺は誰も居ないトイレの個室に駆けこむと便座の蓋を開けた。
便座のつくりは日本の洋式トイレそっくりだ。
トト神のマークこそ付いていないけどな。
そして俺は手にしたコードレス掃除機のごみ収納部分を本体から取り外す。
透明なごみ収納部分には黒く蠢く気色の悪いものがたっぷりと入っている。
体の2/3を失ってなお生命力は衰えていないようだ。
俺は素早くごみ収納の中身を便器にあけた。
なんだかぬめって感じで気色の悪いものがポチャンと便器の中に滑り出た。
すると次の瞬間にその気色の悪いのが人の形を取り始める。
「ぷはぁーっ、貴様、高貴なるワシを変なものに閉じ込めおって、この代償は高くつくぞ」
便器の中の人型は立っている俺を見つけると喚き始めた。
「ふーん、楽しみにしているよ」
そう言いながら俺は水洗の紐を握りしめる。
「ま、待て、なんだそれは。なにをしようとしているのだ。ま、まさか」
俺の行動に気づいた公爵が便器から逃れようともがく。
しかし、先のオキシドール攻撃で体の大半を失ったせいなのか、霧状になって逃れることすらできないようだった。
「ばっちい汚物はもとから絶たなきゃダメ♪」
俺は水洗の紐を勢いよく引っ張った。
「や、やめーっ、水は、水に流されるのはーーーーっ、汚物と一緒・・するなぁぁ」
便器の縁から大量の水が勢いよく流れ出る。
「か、からだがー、やめーっ、保てなぁぁぁぁぁぁぁぁ」
便器の水流はモジューラ公爵の体というか、体を構成している細菌をどんどん配管の中に送り込んでいく。
みるみるうちに公爵の体の残骸が小さくなっていった。
それでも公爵は便器の縁に手をかけて流されまいとしていたのだが、無駄な抵抗だったね。数秒のうちにその手さえも哀れ水流に飲み込まれ配管の奥へとスポンと消え去ってしまった。
「やったかな」
『 うん、やったべさ。公爵の生命反応どんどん弱まっていっている。バンパネラ菌がバラバラになって、意識も保てなくなっているべ。それに下水はいろんな細菌の住処だけど、人間の血肉のみを栄養としていたバンパネラ菌はそこで生き残ることはできず、今頃は他の菌の格好の餌食になってるべ』
俺は大きく息を吐いた。
なんだかんだ言っても相当に緊張していたんだな。
そんなことを思いながら俺はコロシアムのバトルフィールドに戻った。
途端に大きな歓声が俺を包み込む。
【現れました。たった今、この闘技場に戻ってきたのは何とキャサール青年です。キャサール青年はドドムラさんの宣言通り、果たしてモジューラ公爵の浄化に成功したのでありましょうか、これよりキャサール青年にインタビューさせていただこうと思います】
ローラが実況席からこちらにかけてくる。
たぷんたぷんと揺れるバストが魅力的だ。
しかし、遅れじとネリンおっさんも女走りで一に駆けてくる。
しかもミニスカート姿だ。
うげっ、嫌なものを見た。
俺はこいつの方を殺菌したくなった。
【キャサールさん、モジューラ公爵に秘密の浄化の儀式を行ったとの情報が入っているのですが、キャサールさんがここに居るということは、公爵の浄化に成功したということなのでしょうか】
俺のところに着くなり、ローラはマイクを突き付けてきた。
【あっ、うーー、そ、そうですね。浄化の儀式は成功しました】
【するとモジューラ公爵はもうバンパネラではなくなっているということなのでしょうか、普通の人間に戻ったとかいうことなんでしょうか】
【あー、い、いや、人間に戻すことはできませんでした。その代り、公爵は呪われたバンパネラであることを辞め、今更なる浄化の地へと流れ・・・向かっているところです。多分、もうまもなく到着するころだと思います】
【そこのところをもう少し具体的にお願いします。浄化はどのような方法で行ったのでしょうか】
【あー、そのう、えっと、吸血鬼の弱点である流れる水を利用しました】
【流れる水?確かに吸血鬼は流れる水に弱いと聞きますが、このコロシアムには炊事室もシャワールームもな・・・・ま、まさかトイレを使ったのでは】
【はい、トイレに流させていただきました。公爵の体を構成しているバンパネラ菌はそれでバラバラになり、今頃は下水処理施設で殺菌消毒されている頃と思います】
【ええーーーーっ。公爵様をト、トイレにーーーーーっ】
ドサッという音に横を見るとネリンが泡を吹いて倒れていた。
きっとショックだったんだね。
そんなんで俺の対魔戦3戦目が終了した。
でもその後、俺に付いた二つ名が「吸血鬼をトイレに流した男」だったことと、俺のファンの女の子達の数が目に見えて減ってしまったことは誤算中の誤算だったのだ。
ハーフバンパネラとニューハーフバンパネラのダジャレが書きたくてネリンを登場させました。食事中のみなさん。言い味付けになった?




