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19.魔物戦 4日目 悪霊ローラン

ノード神話   「神々の黄昏の章」より


 しかし、最終的に神々の命運を絶ったのは滅器ではなかった。

 神々の命を絶ったのは自らが生み出した滅器の呪いだった。

 数万年にわたる滅器の呪いがひとつづつ成就していった。

 かくして最初は1万柱もいた神々は数万年かけて一柱ずつ減っていき、遂には最後の一柱にまでになってしまった。




 あと2戦、あと2戦に勝利すれば瑠璃姫は正式にマヨヒ城とこの国を譲り受けることができる。

 最初は絶望的と思っていた戦いだったが、コングーナーの示す戦法は変則的かつ変態的ながらもかなり有効だった。

 そんなわけで、俺は次の戦いもだいぶ楽観的になっていた。

 その相手をローラから聞くまでは。

 だって、仕方ないじゃないか。

 最初は植物、次はウサちゃん、その次は細菌野郎。

 この次は美女がいいなあなんて能天気に最初は思ってまスタ。

 

 「キャサールさん、明日の対戦相手は怨霊王のローランですって」

 「ローラン?誰、それ、知らんな」

 「ええっ、知らないんですか。悪霊中の悪霊ですよ。取りつかれたら最後、100%死にます」


 ローラは、えっへんという感じで胸を張った。

 別にお前はローランとやらの関係者でも何でもないだろう。

 名前は似ているけどな。


 「誰か、知っているか?」


 俺はトドムラやステローペのほうを見やった。

 二人ともコクコクと頷いたところを見ると、知らないのは俺だけのようだった。


 「ローランですか、それはまた嫌な相手が出てきましたね」

 「そんなに強い相手なのか」

 「ええ、ローランは3代前のケンジントン陛下にに仕えた帝国の英雄でしたが、友の裏切りにあい壮絶な戦死を遂げた騎士です。その後夜な夜な自分を裏切った者を探しに亡霊となって現れ続けましたが、裏切り者とその一族すべてを呪殺した後も昇天することなく、出会うもの出会うものを裏切り者の一族と誤認し、片っ端から取り殺してしまう悪霊へと成り果てたのです。それも自分の妻や子供にまで取りついて殺してしまったと伝えられています。いやはや、人間生きていてこそ花、このような悪霊にまで身をやつすとは」

 「ちょっとまて、すると相手は幽霊なのか」

 「いかにも」


 やばいじゃん、相手が幽霊だと38式も地雷も消毒薬も効かないじゃん。

 つまり物理攻撃が一切効かない相手だ。

 でも、今の俺には攻撃手段は物理攻撃しかないときたもんだ。

 幽霊かあ、やだな。

 そうだ、お札。

 幽霊ときたらお札に決まってんじゃん。

 俺は過去に手に入れた神社のお守りを思い浮かべた。


 「えーと、あの神社は『学業成就』だったし、あの神社は『家内安全』、それからあそこは『恋愛成就』に『安産祈願』・・・・だめだ、悪霊退散のお守り手に入れた記憶がない」


 こんな時は、困った時のコングーナー。


 「コングーナー、どうする。相手は幽公だってよ」

 『うーむ、ごめん、心霊関係はちょっと・・・だべ』

 「ええーっ、じゃあまずいじゃん、このままじゃ幽霊に取り殺されてしまうじゃん」


 俺たちの会話を心配そうに聞いていたステローペだったが、ふと思いついたようにポシェットの中を探し始めた。

 

 「殿下、これ、使えませんか。おじい様が私に託してくれたものですけど」


 ステローベがポシェットから取り出したのは手の中にすっぽりと収まるくらいの小さな丸い手鏡だった。

 相当に古いものらしく装飾の透かし彫りがあちらこちらが黒ずんでいる。

 見た感じは日本の古墳などから出土される円鏡のようだった。


 「おお、それはまさか破魔鏡か」


 トドムラがその鏡を見て声を上げる。


 「これは使えるかもしれませんぞ、殿下。破魔鏡は悪霊を退ける力があります。しかもこれは古い強力な破魔の念が籠っている鏡のようだ」

 「そーなのか、俺には全然分からないけど」

 「いやいや、少なくとも魔術を使う人間であれば、この鏡に宿る強力な念の迸りを感じることができるはず。本当にお分かりになりませんか」

 「う、うん、そういえば何か強い力を感じる」


 本当はただのボロッチい鏡にしか見えなかったけど、またトドムラに疑われるのも何なので、力を感じたことにしておく。

 

 「コングーナー、これでいけそうか」


 俺はコングーナーに尋ねた。


 「いやー、心霊関係はオレの守備範囲外だべ、まったく分からんっしょ」

 

 まったく頼りにならないコングーナーであった。

 大丈夫か。大丈夫なのか俺。何だかローランにしがみつかれ、生気を萎びさせていく嫌な未来しか思い浮かばない。


 しかし、試合時間は容赦なくやってくる。

 俺は考え付く限りの幽霊退治のアイテムで、2親等までの連中が持っていたお札だのお守りだのをコングーナーに出してもらっていた。

 経文も出してもらったが、こっちの幽霊に東洋のお経が本当に効くのだろうか?

 俺は不安になる心を沈めようと選手控室の近くのトイレに入り込んだ。

 そう、昨日吸血鬼のモジューラ公爵を流したトイレだ。

 また公爵が便器の奥から復活しないかちょっと不安だったけど、除菌したから多分大丈夫だよね。

 んこまみれの吸血鬼なんてえんがちょの対象にしかならないし、それに今更復活なんて、マンガやラノベでもあるまいし。

 おれは、便座の蓋を上げずにそこに座り込んだ。

 ステローベの話によると、破魔鏡の使い方は簡単で、鏡に映った悪霊の姿をそのまま相手に見せるだけでいいらしい。

 そうすると、そこに移った自分の真の姿に恐れおののき、悪霊は退散することになるというのだ。

 本当にそんな簡単な方法でローランをやっつけることが出来るのだろうか。

 あれやこれやと考えているうちに、トイレに3~4人が入ってきた物音がした。

 そういやあ、初戦のビッグホーンラビット戦でもこうして個室に入っていると誰かが入ってきてとても失礼なことをほざいていたっけ。

 そう思っていると、その男たちが小用をしながら会話する声が聞こえてくる。


 「しかし、あのキャサールとかいう若僧、よく4日目までもっているよな」

 「ああ、そうだそうだ、俺なんか初日に負けるほうに賭けて大損こいたぜ」

 「なあ、そのキャサールってそんなに強いのか?」

 「ああ、そういやお前、国境の警備で昨日まで留守にしていたんだけっな。キャサールは見た目はひょろりとした頼りなさそうな若僧なんだがな、なんというか、戦い方がえげつないんだよな」

 「えげつない戦いって、どんな風に戦うんだ」

 「ああ、それなんだけどよ、まあ1日目2日目のヒトトリ草とビッグホーンラビットの戦いはまあ、まだ良かった。でも昨日のモジューラ公爵戦はひどかったな」

 「やっぱりお前もそう思ったか、いや俺もそう思ったよ。決してモジューラ公爵の肩を持つわけじゃあないが、曲がりなりにも魔界の貴族にあの仕打ちはねえだろう」

 「なあ、何があったんだよ。モジューラ公爵って、バンパネラの中でも相当の高位にあって、すごく誇り高い魔物ですっげえ怖いやつじゃねえか、それを倒しちまったんだろう?勝つだけでも凄いことじゃあねえか」

 「おうよ、しかしただ単に倒したわけじゃあねえ。なんとキャサールは公爵の体の大半を溶かした上に、残りの公爵の本体をうんこ扱いして便所に流しちまった」

 「うげっ、バ、バンパネラをうんこ扱いかよ。・・・そりゃあ確かにえげつねえ、おりゃあ生まれて初めてバンパネラに同情したぜ」

 

 そこまでひどいことなんだろうか。

 俺はだんだんいたたまれない気持ちになってきた。

 でも、どのような形でも勝ちは勝ちだ。

 あそこで勝たなきゃ俺がやられていた。

 まあ、仕方ないんじゃないだろうか。

 エコの実践で、公爵の体は下水処理場でリサイクルされ、また大地を循環するわけだから。

 そう、エコってなかなか理解されないよね。


 そしてついに試合の時間がやってきた。

 俺は対幽霊戦に自信のないまま挑まざるを得なかった。

 頼るべきはずのコングーナーがまったく頼りにならない今、唯一の頼みの綱はステローぺが出してくれた破魔鏡しかなかったからだ。

 コロシアムのバトルフィールドに入ると、歓声とともにお馴染みのローラの実況が聞こえてきた。


 【さあ、瑠璃姫様の城譲り、国譲りの一大イベントもようやく終盤に差し掛かってきました。ここまで大方の予想に反して勝利をものにしてきたのは神使族に愛された青年、そして意外にもその出自ははるか数百ゲールも離れた商業都市シーケの織物問屋の若旦那というではありませんか。その青年がなんとコングーナーの力を与えられ、モジューラ公爵に勝利したのです。そのキャサール青年が今、その貴公子然とした風貌より殿下とあだ名が付いているキャサール青年が今、ゆっくりと闘技場の中央へと足を進めます。申し遅れました。本日のゲストは心霊研究家のリーキ博士、そして実況は私、ローラがお送りいたします】


 ローラ、お前のことは全員が知っているよ。なんてったって250人位しかこの国の住民は居ないんだからな。


 【さて、リーキ博士、本日のローラン戦なのですが、ずばり博士の予想はどちらが勝利するとお考えでしょうか】

 【そーですねえ、ローランは皆さんがご存知のように大変な怨念をもった悪霊です。生半可なことではその怨念を払うことは出来ないでしょう。しかし、一方、キャサール青年はこれまで敗北必死と思われた局面を乗り越えてきました。これはコングーナーの戦術によるところがかなり大きいと思います。ただ、コングーナーは物理攻撃に特化した神器として知られています。ここでコングーナーが心霊攻撃を放てる何らかの武器を出現できるかが勝敗の決め手になるのではないでしょうか】


 おお、初めてまともな解説者が現れた。

 これまでの解説者ひどかったもんな。

 的外れ老人にモテないひがみ男、そしてオカマときたもんだ。


 【そうですか、ちなみにもしその心霊兵器をコングーナーが呼び出せるとしたら、どのようなものが考えられるでしょう?】

 【そうですねえ。例えば第二の神々が所有したとされる神器「ファリーズ」というものがあります。何でも強力な浄化作用により、悪霊を退散させるとか。そのような神々の神器であれば十分に対抗可能ですし、コングーナーとは同じ神器同士、ファリーズを呼び出せたとしても不思議ではありません】


 「おい、コングーナー。ファリーズだって。呼び出せるか」

 『いやいや、それは無理っしょ。オレの呼び出せるのはお前様の2親等が失くしたものだけだから』

 「やっぱり、今手持ちの物だけでやるしかないか」


 【さあ、果たしてキャサール青年とコングーナーはリーキ博士の言うファリーズか、あるいはそれに匹敵する兵器を呼び出し、今夜もまた甘美な勝利に酔いしれることで出来るのでしょうか。さあ、間もなく試合開始のファンファーレが高らかと鳴らされようとしています・・・・・リーキ博士?・・・・博士?どうされました?】

 【ウクグググ、グホッ・・・・・ヴヴヴヴヴ・・・・】

 【な、何かリーキ博士の体に異変が起きたようです、大丈夫ですか、博士】

 【ヴヴヴッッッッ、あ、頭が・・・頭が・・・・こ、殺してやる・・・】

 【えっ、博士、今何とおっしゃったのですか?、博士?】

 

 「おい、コングーナー、あっれて明らかに霊が憑依しているよな。博士って霊媒体質だったのかよ」

 「そだね、なんかローランの霊が取りついたみたいだねぇ」


 実況席ではリーキ博士が机に突っ伏し、その背中を懸命にさするローラが見えた。


 【う・・・裏切り者には死を・・・に、憎んでも憎み切れない奴らめ、皇帝陛下を裏切り、弑逆せんとする忘恩の逆賊めら、このローラン地獄の底から蘇り仇となしてしてくれるわ】

 【みなさん、大変です。どうやらリーキ博士に憑依したのは悪霊ローランのようです。これは危険です。大変危険な状況です。あ、リーキ、いえ、ローラン、憑依ローランが実況席を飛び出し、バトルフィールドに降り立ちました。一体どうするつもりなのでしょうか】

 

 コロシアムのバトルフィールドに降り立ったリーキ博士だが、その顔つきは先ほどちらっと見た実況席の穏やかな中年男の顔つきと打って変わり、眦が吊り上がり口は耳元まで裂け、まさに悪霊そのものの姿だった。

 気のせいか、体中からどす黒いオーラまでもが立上っている。


 「小童、ワシに戦いを挑むというのはお前か!!」


 リーキじゃなくて、ローラン・・・ええいめんどくさいローリーたんでいいや。

 ローリーたんの声は一人ではなく、同時に二人がしゃべっているような不気味な声だった。

 それも地獄の底から響くようなぬめぬめした粘着質のいやな声だ。

 「お前もまた、皇帝陛下に仇なす反逆者に違いあるまい。我が呪いとくと受けよ」


 【さあ、大変なことになってまいりました。どういうわけかリーキ博士に取りついた悪霊ローランがキャーサール青年を呪殺しようとしています。まだ試合開始のファンファーレは鳴っておりませんが、鳴らしてください。試合開始とします】


 とたんに間の抜けたようなラッパの音がファッファカファーンと鳴り響いた。

 ローラめ、プロレスじゃあないんだから、適当に試合進めるなよ。


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