49_私は!決して!諦めません!
翌日、ついに私はシルヴァン様に連れられて、魔術師の皆様たちの前に立っていた。
「みんな、紹介するよ。今日から僕たちと一緒に働くことになったステラだ」
「…………ステラです、皆様、今日からどうぞよろしくお願いいたします」
昨日、あれほどイメージトレーニングしていたのに、私は想像していた『笑顔で元気よく感じのいい挨拶』を実行できずにいた。もちろん、出来る限り礼儀正しく誠実に!というポイントは必死に抑えているものの、想像していたような挨拶になっているとは到底言えない。
というのも、動揺が抑えられず、頭が真っ白だったからである。
きっと今の私は表情は硬く、はたから見れば緊張しすぎて強張っているように見えるだろう。
緊張は確かにしている。だけど、それは今の私の状態の一番の理由ではなかった。
「わー!王宮のメイド服ってやっぱり可愛いわね」
女性の魔術師様が笑顔で近づいてくると、私のメイド服のスカート部分に触れて褒めてくださる。
そう、メイド服!
なぜか今の私はメイド服を着ているのだ。
(どうして、どうしてこうなったの……!!!)
私の職場は今日から魔術師団である。それは確かに間違いない。
だけどまさか、魔術師団に魔術師として入団させてもらえるんじゃなくて、魔術師団の専属メイドとしての配属だとは思わないじゃないかー!!!
朝、そういえば確認していなかった!と思って慌ててシルヴァン様に魔法の便箋で「何を着て行けばよろしいでしょうか?何もいただいていなくて……」と聞いた返事が「今までのメイド服で大丈夫だよ」だった時点でなんかちょっと違和感はあった。
メイド服でいい?なんで?と……。
ただ、急なことだったから私のローブはまだ用意できていないのかな?とか、魔術師団の方へ連れて行ってもらってからローブをいただけるのかな?とか考えてなんとか納得していたのに。
たしかに、二日も準備のためにお休みをもらったんだから、本当ならその間に用意されているはずだもの。おかしいことに気づくべきだった。
そんな簡単なことにも気づくことなく、合流してもなかなかローブをもらう話にならないから聞いてみたのだ。
「あの、このままの格好でいいんでしょうか?」
「ん?もちろん、大丈夫だよ。魔術師団で働くのは今までとは雰囲気が全く違うかもしれないけど、これまで通り王宮メイドであることには変わりないからね」
そう言われた時、すぐにはなんて言われたか理解も出来なかった。
(はて?これまでどおり?王宮メイドであることは変わりない……?どういうこと?)
しかし現実を飲み込めない私に、平然とシルヴァン様は追い打ちをかけたのだ。
「顔が引きつっているけどひょっとして不安になってる?とても優秀なメイドがくるって話しているし、みんなステラがメイドとして来てくれることを歓迎してくれているから何も心配はいらないよ。むしろ今まで魔術師団には交代でメイドが来てくれていて、専属メイドはいなかったからね。僕もすごく嬉しいよ。……ステラといつも一緒にいられるようになることもね」
あの時、ちょっと頬を染めたシルヴァン様が何を言っているのか、途中から全く頭に入ってこなかった。驚きすぎて。
そこでやっと気づいたのだ。私はすっかり勘違いしていたんだってことに……。
その時の私の気持ちが想像できるだろうか。
「私なんてまだまだ魔術師団の入団試験を受けさせてもらえるレベルでもないってことだよね……」
思い返しながら思わずぽつりと呟いた。
最近、結構頑張っていたつもりだったから、自分のことを過信していたようだ。
「おーい?なんだか暗い顔しているけど、大丈夫?」
一人の魔術師様に声をかけられて我に返る。
いけないいけない、いくらがっかりしたからと言って、失礼な態度をとるなんて絶対にダメだわ。
なんとか必死に気持ちを切り替えようと努める。
「はい、大丈夫です!」
「ならいいけどー?ステラさんのこと、実はちょっと聞いてるんだよね。すっごく働き者でみんなに好かれてるメイドさんがいるんだって!」
「ええっ、本当ですか?光栄です」
「自分も聞きました!どの部署もステラさんに来てほしがってたって!引く手あまたの中でまさか魔術師団に来てくれるなんて嬉しいです!」
魔術師の皆さんは、口々に私のことを褒めてくださる。
その表情は、適当に私を気分良くさせるために言っているわけではなく、本当にそう思っているのだと分かるようなもので。
「それにしても、ステラちゃんって聖女様がくる少し前に王宮メイドになったんでしょ?それでもう魔術師団専属メイドなんて、ものすごいスピード出世じゃない?」
その言葉にハッとした。
……そうだよね。私が期待しすぎていたからちょっとがっくりしちゃったけど、これは確実なステップアップ。
それに、魔術師団所属になったことで、日常的に魔術師の皆様のことを観察できる!さらにメイドとしての仕事で人間性に問題がないことを知ってもらい信頼を得て、交流することで親しくなり好意を抱いてもらうことで、いざという時がきたら円滑な魔術師団入団が果たせるのでは!?
そう、私はツイているんだもの!きっと、今ここですんなりと魔術師団に入団するよりも、いずれ来るその時に『あの時メイドとして魔術師団で働いた時間があってよかった~』と思うようになるに違いない!
人生はいつも最善のルートで進んでいる!
だって。
私のこれまでの日々に、無駄なことなど何一つなかったのだから。
悲しいことも辛いこともたくさんあったけど、そのどれもが今に活きている。
だからこそ、今の現状もきっと何か私に学びをもたらすために必要なものなんだわ。
そんな風に考えていると、みるみる気持ちが上向いてきた。
そうよ!こんな大事な場面で落ち込んでなんていられない!
「私、皆さまをがっかりさせないようにメイドとして一生懸命頑張りますので!私にできることなら何でも言ってくださいね!」
「あれ!急に元気になった!」
「すみません、ちょっと緊張しちゃってました」
「あはは、そうだよね~ってことはちょっとは慣れたってことかな?」
「はい!皆さんが優しくていい人そうなので、嬉しくてすっかり緊張も吹き飛びました!」
私の周りに集まって話しかけてくれる魔術師様達は本当にみんなにこやかで優しくて、メイドとしてでもここで皆さんと働けると思うとすごく楽しみになってきた。
そこではたとバスケットの中身を思い出す。いけないいけない、衝撃すぎて忘れるところだった!
「あの、実はご挨拶にと思ってお菓子を作って来たんです。手作りが苦手でなければよかったら食べてください」
そう言ってバスケットにかけていた布巾をめくって差し出すと、ワッと歓声が上がる。
「えー!すごい!美味しそう~!」
「はは、ステラの作るお菓子は本当にどれも美味しいからね」
「ええ?なんでシルヴァン様がドヤ顔してるんですか?」
「ねえねえ、ひょっとしてこれからもこうやってお菓子とか作ってもらえることがあるって期待していいのー?」
「はい!もちろんです!」
「わ!やったー!ステラちゃん最高ーっ」
「お、おい、ステラは確かに最高だが、そう気やすく触れるなんて……あっ!こら!手を握るな!」
そうして大歓迎の空気の中で魔術師様にもみくちゃにされながら、私は心の中で改めて誓ったのだった。
今回はまだ叶わなかったけれど、目指す先は変らない。
私の夢、それは王宮魔術師団に入り、魔術師になること。
(絶対に夢を叶えて見せるわ!)
◆◇◆◇
──ステラは勘違いしていた。
そもそも、ステラは『メイドを希望して王宮にあがった』ことになっていること。
メイドとして順調に出世してはいるが、その延長線上には『魔術師団への入団』はないこと。
そしてそんな風に大前提が間違えているせいで、誰もステラの本音に気づくことはなく、ステラに関わる誰もかれもが勘違いしていたのだ。
「ステラ嬢の能力は本当に稀有だ。できればメイドではなく魔術師としてシルヴァンの側で学んでもらえたら一番いいんだがな」
「僕だってそう思います!ですがステラはメイドになりたくて王宮に入っているのですよね?そうであれば無理強いはできません。惜しいとは思いますが……」
「だが、諦めているわけじゃないんだろう?」
「ま、まあ、僕が側で魔術師も悪くないということをアピールして、いつかメイドではなく魔術師に転身してもいいと思ってもらえたらなどと考えていないとはいいませんが──」
シルヴァンとハウイルドが、ステラの面談後にそんな会話を繰り広げていたこともまた、ステラは知る由もない──。
やっぱり勘違いが勘違いを呼ぶステラとステラを取り巻く人達!
この話で第一部完結です!第二部開始までお待ちいただければ幸いです。
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そして……おかげさまで本作の書籍化が進行中です~!!!
すごく嬉しいです!本当にありがとうございます!!!
レーベルや発売時期などは公開できるようになりましたらお知らせいたします。
第二部も、書籍版でも、これからも「勘違い令嬢」ステラをどうぞよろしくお願いします!^^♡




