もしも…。
撃ち合いが終わった後は、隊長との戦いをかけたトーナメント戦が行われた。
流石に正式な騎士ではないエイダンがこれに参加することは許されず、私と共に日陰で見学することになった。
勝てば喜び、負ければ悔しがる。そんな騎士達を見ながら、私は自身の幼い頃を思い出していた。
お母様が亡くなるまでの私は、今とは全く違う、随分と活発な子供だった。本を読むことよりも、走り回ったり、木に登ったりと、体を激しく動かすことの方がずっと好きだった。
これは、あくまで“もしも”の話だけれど。もしも、お母様がまだ生きていたならば、私はきっと“鉄仮面”なんて呼び名には程遠い程、明るく活発な子のままで『私、将来は騎士になる!』なんて口走ってもおかしくない令嬢に成長していたのではないかと思う。
そんな有りもしない未来に思いを巡らせていれば、トーナメント戦はいつの間にか決勝戦へと進んでいた。
隊長であるオスカーと戦うのは、第2部隊の副隊長だそうだ。副隊長と呼ばれる人まで参加していると思わなかった私は、こうなることは必然的だったのでは?とトーナメント戦の趣旨を考え直していた。
結局、勝ったのはオスカーだった。エイダン曰く『いい勝負』だったみたいだけれど、息を上げる副隊長に対して、オスカーは乱れた服を整えるなど悠然とした様子だ。
「あの人、すげぇだろ。優男な面してっけど、実力は確かなもんだ。」
「…そうね。」
「今では周りから認められてっけど、最初の頃は、家の力で隊長っつー立場に就いただけだろって負け惜しみを言う奴も居たんだ。」
「へえ…。」
「そんな奴等を、あの人は実力で黙らせた。」
エイダンの真っ直ぐな視線が、オスカーへと向けられる。
この男はきっと、自分の叔父を尊敬してやまないんだ。
「俺は、あの人みたいな騎士になりてぇ。そんでいつか、ぜってぇあの人を越す。」
この国に、女性騎士は存在しない。
頑張れば、自身が建国して初めての女性騎士になれるかもしれないが、ローナン家の娘だった頃ならまだしも、ウィンストン家の養女として生きている今は、そんな夢を見ることさえも許されない。
私に、騎士になるという選択肢は用意されていない。それどころか、その資格すらないのだ。…だから、ほんの少しだけ、男であるエイダンが羨ましく思えた。




