林檎。
公爵様にはウィンストン家の役に立とうだなんて考えなくていいと言われていたけれど、私は拾われた身だから。そうは言われても、恥にならないようにしなければ、その名に相応しい養女にならなければ、と気負わずにはいられなかったのだ。
結果として倒れることにはなったけれど、私はこの1ヶ月半で、少しはウィンストン家に相応しい人間になれただろうし、何よりウィンストン家ではない自分自身に“価値”が付くことに安堵している私も居た。
だから、アリソン殿下を責めるつもりなど毛頭ないし、むしろ成長する機会を与えてくれたことに感謝しているぐらいだ。
出会ったその日は厭味な言い方に腹を立てたが、今ではその怒りも鎮火しているし、意図せず原動力となったのだから、アリソン殿下にとっては、“怪我の功名”というやつなのではないだろうか。
そう伝えるも、アリソン殿下は、いまいち私の言っている意味が理解できないようで、きょとん、と首を傾げていた。
「自身の言った厭味が結果的に良い方向に向かった…ということです。殿下。」
「え、じゃあ怒ってないの?」
「怒る理由がありませんからね。そもそも倒れたのは私の責任ですから、アリソン殿下は関係ありません。」
「ヒューゴは、めちゃくちゃ怒ってたけどね。俺があんなこと言うから君が自分を追い詰めるようなことしたんだよ、って。」
「それは…、なんかすみません。」
まさかヒューゴがアリソン殿下に向かって、そんな言い掛かりをつけていただなんて。
いくら親しいからと言っても、相手は王族なのだ。あまりに失礼なことを言えば、不敬罪に当たる可能性だってある。そこのところ彼は分かっているのだろうか。
はあ…、と溜め息をつく私に、アリソン殿下は苦笑する。
「ヒューゴは、元々誰にでも優しい人間だけれど、君に対しては特に優しいみたいだね。」
「そんなことはないかと思いますが。」
「僕とヒューゴは赤子のときからの仲だけれど、ヒューゴが僕に対して怒りを見せたのは、過去に2回だけ。初めて君に会ったときと、君が倒れたとき。」
「…。」
「どちらも、君関連だ。これを“愛”と言わずとして何と言うか…。君は本当に愛されているね。」
私は、実の家族から捨てられた娘だ。血の繋がりがないヒューゴが、そんな私なんかを愛してくれる筈が無い。アリソン殿下に怒りを見せたのだって、ヒューゴが優しいからに過ぎない。
…そう思うけれど、普段温厚な彼が、私のことを想って怒ってくれた事実が、ほんの少し…、ほんの少しだけだけれど、嬉しいと思ってしまった。
お母様が亡くなってから、私のことを想ってくれるような人は誰1人と居なかったから、たとえそれが、誰にでも向けられる平等な優しさだったとしても、私にとっては、特別な優しさだったのだ。
「熱でも上がってきた?」
「え?」
「顔、赤いけど。」
「…気のせいです。」
誤魔化すように、シャクシャクと林檎を食べる私。
顔に熱が集まっている自覚はあったけれど、これ以上、らしくない自分と向き合うのも嫌だった。




