泣き虫スザンヌ。
ジェームズ曰く、此処は奥様のお気に入りの場らしい。公爵様が奥様の為に建てたガゼボの下で、優雅に花を見ながらお茶を飲むのが奥様の楽しみなんだとか。
「お嬢様。我が屋敷の案内は以上になりますが、楽しんで頂けましたでしょうか?」
「え?あ…ああ…、…うん。」
「それは、ようございました。さて、それでは次にお嬢様に付く侍女をご紹介させて頂きたく存じます。」
「侍女…。」
「はい。疲れたでしょうし、一度お部屋に戻りましょうか。」
私はジェームズの後を付いて、自分の部屋へと戻る。
無駄に座り心地の良い椅子に座って、一々スケールのでかい家だな…なんてボーッとしながら思っていれば、部屋の扉が控えめに叩かれた。
私が返事をすれば、『しっ、失礼します…!』と、緊張した面持ちで部屋に入ってきたのは、メイド服に身を包み、私よりも明るい茶色の髪を三つ編みに結った眼鏡でそばかすの少女だった。
私より年下には見えないから、私と同い年か…はたまた年上か。とりあえず、見ての通り、大人ではない。
てっきり、それなりに実務経験のある侍女が来ると思っていた私は、自分とそう年齢の変わらない少女が来たことに対して、『想定外』という思いだった。
これはつまり…、お前には経験の浅い未熟な侍女がお似合いだと。そういうことなのだろうか。
「あの…あの…わ、私、スザンナ・ソルビーと申します!今日から、アイヴィお嬢様の身の回りのお世話をさせて頂きます!宜しくお願いしましゅっ!…ったぁ…、舌噛みました…。」
「落ち着きなさい、スザンナ。」
「ジェ、ジェームズ様!」
ひょっこりと現れたジェームズは、慌ただしいスザンナの態度に呆れている様子だった。そんなジェームズを見て、スザンナはペコペコと必死に頭を下げる。
「お嬢様、申し訳ありません。スザンナはこちらへ来たばかりで…、まだまだ未熟な侍女でございます。どうかアイヴィお嬢様の元で、成長させて頂けたらと思った次第にございます。」
「ああ…、そういう…。」
私には経験の浅い未熟な侍女がお似合いだと。そう言いたいのかと思ったけれど、どうやら違ったようだ。
ジェームズは私の元で成長がどうとか言っていたけれど、残念ながら私には、侍女を立派に育て上げる能力など持ち合わせていない。
期待されると、荷が重いのだけれど。
「ア、アイヴィ様!私、アイヴィ様の為に立派な侍女になってみせますから!頑張りますから!だらか、どうか…どうか見捨てないでくださいいいい!」
スザンナは、床に両膝を付けると、神に祈るかのように両手の指を絡め、見捨てないでくれと私に懇願して来た。
今まで生きて来た中で、人からこんな神のような扱いをされたことのなかった私は、とにかく困惑した。しかも、私の名前を呼んで本当に泣くものだから、『わ、分かった』…という他なく。
こうして、泣き虫スザンナは私の専属の侍女となったのだった。




