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夢現のあわい  作者: 池中 由紀
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◇ 19 様々な部活動

◇ 19 様々な部活動


 その日の放課後、屋上にたどり着いた俺は即座に、

「今日はぼうし部としての活動じゃなくて、生徒会としての活動をするよ!」

 との宣言と共に手をぐいっと引っ張られて屋上を後にした。

 俺の返事も聞かずにどんどん巻き込んでいくスタイルは、船崎とは対照的かもしれない。

 微妙に面食らった俺は、思考停止から時間を消費して回復した後、

「なんの話だよ、分かるように言えよ」

 一瞬で一階まで引っ張られつつ、俺は咎めるように言う。

 しかし淡井は特に態度も行動も緩めず、

「生徒会に色々依頼が来るの、知ってるでしょ?今日は部活関連の要望を全部消化しようかなって」

「なるほど、それはいいけど俺に何の関係が?ちょっとがっかりだったんだろ?」

「気になる?」

「気になるって……何が?」

 俺は思わずそう答えた。

 が、淡井はそこで初めて俺の方を見て、それに伴い一瞬だけ速度を緩めた。すぐに前を向きなおし歩き始めたので、それは本当にほんの一瞬のことだったが、しかしその行動はあからさまに淡井の驚きを意味していた。

 淡井にそんな反応を返されて俺はようやく気付いた。

「あぁ、アレから少し考えたら、お前と坂上がどういう相互理解に至ったかとかは分かったよ」

 淡井は俺が何故昨日は理解できなかった事を既に理解しているのか疑問に思ったのだろう。

 実際のところは妹さんによるところが大きい、というか殆どゆりのおかげだが。

 淡井は俺の答えに不満そうな声色で答える。

「ふーん?……別にいいケド。とりあえず、キミにも手伝ってもらいんだよっ」

「……別にいいけど、何をやるつもりなんだ?あんまり変なことは手伝わないぞ」

「そんな心配はしなくていいよ?ただ演劇部とバトミントン部、数学に、あとディベート部に参加するだけだから」

「なんだそれ。参加するって、いったい何する気なんだよ」

 体育館へとたどり着く。目の前には無駄に重い扉があり、館内からはボールをつく音や応援などの声が聞こえてきていた。

 淡井は一度にやり、と笑い、

「すぐわかるよ。じゃ、まず、―――バトミントン部からっ!」

 淡井は体育館の扉をバァン!と開ける。鉄製の扉は重く相当の力で押さなければこんな風に一気に開いたりすることは無いだろう。つまり淡井は相当の力で押したと言う事だ。

 突然の珍入者にも関わらず、バドミントン部からは待ってましたと言わんばかりに人が駆け寄ってきた。

「美羽~待ってたよ~」

 右手にラケットを持った女子バドミントン部の人間は、俺と同じクラスにいる人物だ。例にもれず彼女、結城夕はインターハイとかで全国一位とか何という話を聞いた事はある。

 まさか彼女と試合でもする気なのだろうか?淡井も確か中学の頃はバドミントンをやってたはずとはいえ、ブランクがこれだけあればまさか勝てるわけもないし、練習にもならないんじゃないだろうか。

 恐らく、それでもそれなりにうまいから後輩の育成とかに使うんだろうか。一年生の全国一位がわざわざ他人の育成に時間を割くのもどうかと思うし、納得はできる。

 ……が、とはいえ。

 実のところ少し期待してもいる。

 何でもできて、予想もできて。世の中なんてつまらないと嘯く淡井なら、たとえブランクがあったとしても現役日本一と勝負できるんじゃないか、とか。

「それじゃ早くやろう~」

 部長の結城が淡井を殆ど引っ張っていくようにしてコートへ連れて行く。

 そのまま二人はネットを挟んで対峙、周囲のコートで練習していた部員達も練習を切り上げてぞろぞろと集まってきた。

 奥から部員が得点板なんかもガラガラと持ってきて、完全に二人が試合をする流れだ。

 淡井は結城から渡されたラケットを振り回しながら軽く関節を動かしている。

 制服のままで。

 一応、髪は適当にまとめてはいるが、運動するのに長い金髪はどう考えてもふさわしくないだろう。

 ……全国一と試合するのに舐めすぎなんじゃなかろうか。多分淡井にはそんなつもりはないのだろうが。

「じゃっ、十五点先取ねっ!」

 しかし淡井がそう宣言すると、二人はそのまま試合を始めてしまった。

 俺はバドミントンのルールに関してそれほど詳しくないが、コート内にシャトルが落ちれば負けだという事だけ分かれば大よそ楽しむことはできる。後はサーブが手前のサービスラインを超えるように打たなければいけないとか、その程度の理解で十分だろう。

 というかこれ、俺必要ないよな……。

 そんな事も思いつつ、俺はとりあえず試合を観戦する。

 意外なのか何なのか、淡井は結城といい勝負を演じていた。全国一位と良い勝負ができるのはおかしいが、それでも傍目に見てもうまいのがよくわかった。

 ちょこんと手前に落とすサーブとかを綺麗に返すとか、そういううまさもあるし、お互いに大きくクリアする合間にある、空気が破裂するような音と共に繰り出されるスマッシュも迫力がある。第一、スマッシュを打ったところでお互いに拾ってしまうから、ラリーが中々途切れない。それでもお互いに緩急をつけた攻めを見せ、スマッシュが入ったり相手の裏を突いたりしつつ点数を取っていった。

 あんなバシバシ綺麗に飛びあがってスマッシュが打てればさぞ楽しいんだろうなぁ、と思わせる試合は、ラリーが長続きするとは言え十五点先取の為それほど長くは続かない。たまに馬鹿みたいに長いラリーが続く事もあったが、それでも四十分はかからないうちに点数は十四対十四になった。

 何でもできて詰まんないとか言ってるわりには、いい勝負ができる相手がいるみたいだし、なんならバドミントンをやってもいいんじゃないかと思う。それは嫌なんだろうか。飽きたと言うのは我儘な気もするが。

 バトミントン部は皆試合を観戦していて、興奮しているようだった。全国一位がいるとはいえ、ほかの部員は一部を除いて普通の部員なのだ。バドミントンは確か上の三年と二年にも特待がいたような気はするので普段からその辺はレベルの高い試合を見せているのだろうけど、まさか全国一位と互角という事もないだろう。

 身内による高レベルの試合が、公式試合とはまた別種の興奮を生む事は、何となく理解できた。

 部員は点数の移動やハイレベルなプレーに応じて声を上げていたため、その熱気が後ろでボールをダムダムついていたバスケ部なんかにも伝染したようだった。会長が云々とか、また例の淡井美羽がどうのとか喋りつつ、いつの間にか練習を一時中断して見ていた。

 二人ともそれなりに汗をかいていて、淡井がきちんとスポーツマンライクな格好をしていたら非常にさわやかな絵になっていただろう。実際は制服で金色長髪なので大学生のサークルで悪ふざけしてるみたいな絵になってるが。

 最後の点数を決めるサーブを前に、場が静まる。サーブ権は部長の結城の様だ。

 結城がサーブをちょこんと手前に落としにいく。対して淡井は一歩で距離を詰め―――

 ―――シャトルを上から叩き落した。

 が、シャトルはネットに引っ掛かり、淡井のコートにおちた。

 一瞬の決着。確かに、さっきまでのサーブと比べて浮いていたように見えなくもなかったから、それを狙って淡井は叩きに行ったんだろう。結果としては失敗してしまったが。

「あ~困るわ~特待の威厳が~」

 試合が終わり、部長の結城がそう言うと、部員たちが笑う。

「勝ったんだからいいでしょ?」

「最後、運が良かっただけじゃね~」

「あはは。でももう勝てなくなってきたかなー?」

 淡井が軽く言うと、結城は心底残念そうに言う。

「もったいないわ~。やる気あれば全国なのに~。一緒にダブルスでない~?」

 対して淡井は、

「ごめんねー、私はアマチュアとしてやりたいだけだから」

 と、普段通りに軽薄に返した。結城も淡井の答えは分かっていたようで、軽くため息をついて今日のお礼なんかを始めた。

 バドミントン部と生徒会との事務的なやりとりを適当に終えた後、淡井は言う。

「じゃ、今日は美羽はもういくよ?」

「ありがとな~、またたまに来てな~」

 体育館を後にする淡井に、俺は慌てて追いすがる。

「……なぁ、これならお前だけで十分なんじゃないか?」

「バドミントンはそうかもだけど、他にもあるからキミも付き合ってくれたらうれしいなー?」

「いや、他のって演劇とか数学とか、ディベートだろ?全部大体お前の得意分野で、だから依頼が来てるんじゃないのか?俺の出る幕なんかないだろ」

 実際、演劇なんか芸能人やってた淡井に対する依頼だろうし、数学なんかも噂からの依頼だろう。俺は体外的には研究者とか思われてるのかもしれないが、ただの凡人だから役に立てるはずもない。頭数をそろえたい物もないだろうし。

 俺の言葉に、淡井はまっすぐに俺を見据えて言葉を投げた。表情は淡井にしては真面目なものだった。

「……確かに今日はキミにどうしても来てほしい理由は一つだけだから、キミが嫌なら断ってもいいよ」

 内容は意外なものだった。ただ、

「理由が一つあるなら言ってくれれば良いだろ?」

 俺の言葉に、淡井は表情に小悪魔的な何かを混入させて、例の上目づかいで続けた。

「分かってるでしょ? 理由は一つだけ。――美羽が、カズヤ君に来てほしいってだけだよ」

 慣れてもなんとなく心がざわつくが、俺はその作られた表情よりも内容に驚く。

「……なんで俺にそんなに執着するんだよ。さっきの結城とかとバドミントンでもやってた方が生産的だと思うぞ」

「気晴らしにはなるけど。けど、それを生業とか生きがいにするのは飽きちゃうな」

 返答はいつも通りで、俺もまたいつも通り微妙な反感を覚えたが、それを口にはしない。……というか、口にせずとも伝わるような気はする。

「まぁ少しは気になるから、今回は付き合うよ」

 俺がそう答えると、淡井は自然さが逆にわざとらしい笑顔で答えた。

「ありがとっ!」


 その後、淡井は宣言通り演劇で空気の色を塗り替えるほどの演技力を見せてみたり、ディベートでは相手を圧倒、数学ではオリンピックの問題をさらさらと解いていた。

 付き合った俺も適当に参加してみたりはしてみたが、数学なんかさっぱり解けなかったし、ディベートでは淡井の戦術と言うか議論の構成に驚かされっぱなしだった。

 傍目に見ていてとてもうらやましいと思いつつも全てを終えた後、俺と淡井は荷物を生徒会室へと取りに戻ったのだった。


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