1、存在しない博士
九月も終盤にさしかかり、夏から秋になろうとしていた。
ここは大栄府の、ある街。一人の女性が静かな住宅街にいた。
スマートフォンの画面に表示された地図を見ながら歩いている。いくつかの直線の道を歩き、いくつかの角を曲がった。住宅の数は減っていき、寂しい風景になってきた。
そしてたどり着いたのは、さほど大きくもないアパートだった。
「ここかな?」
そう言うと、スマートフォンを肩にかけていたショルダーバッグに入れた。
女性の名は「丈璃乃 結佳 (たけりの ゆいか)」。三十六歳。大手製薬会社「上内製薬」に勤める会社員だ。
身長百七十五センチの長身。長くて黒い髪は首の後ろあたりでまとめており、毛先は背中まで届いている。端整な顔立ちで、ナチュラルメイク。灰色のスーツ姿。上はジャケットを着ており、下は丈がヒザ下くらいのスカートだ。
細身だが、ジャケットの肩辺りやスカートの一部に少し膨らみを感じる。それは筋肉がある為で、鍛えらえていた。黒いパンプスは、四~五センチ位のヒールがある。
仕事で歩き回るなら、疲れやすいヒール靴は敬遠すべきと言われるだろう。しかし結佳は仕事も頑張るが、履きたいヒールを諦めたりもしない。
最寄駅から十分ほど歩いてたどり着いた、郊外のアパート。二階建てで、各階に四戸づつある。まだ建てられて数年の綺麗なアパートだが、高級ではない。
一階の一番奥にある、一〇一号室の前に結佳は立った。そして表札を見た。
「Giorno Veronesi (ジョルノ・ヴェロネージ)」
ここで間違いないと確認をした結佳はその直後、表情を笑顔に変えた。そしてインターホンを押した。だが返事は無い。普通の人なら留守だと思うだろうが、結佳は違う。
豊富な仕事の経験から、留守か居留守か推測する。居留守なら中で何をしているのか、雰囲気で察する。部屋にいる人間はインターホンのモニターで、自分が何者か観察していると結佳は思った。一分ほど経過したが、結佳は笑顔を崩さない。
すると、ゆっくりとドアが五センチほど開いた。
薄暗いドアの向こうから、相手の片目だけが見えた。そして抑揚のない声で言った。
「どなたですか?」
結佳は明るく、ハキハキとした『営業トーク』の口調で言った。
「突然ですみません~。私、上内製薬の丈璃乃と申します。ジョルノ・ヴェロネージさんのお宅でしょうか?」
「そうですけど…。製薬会社の方が、私に何か御用ですか?」
「お仕事をご依頼したく、お邪魔したんです」
「仕事? ああ、管理人は僕ですけど。入居ならオーナーに言ってもらえますか?」
「いえ、そうではなくて。『お仕事』の依頼で来たんです」
「おっしゃっている意味が分かりませんが」
「そう言わずに、ねぇ『先生』。あっ、『博士』の方が良かったでしょうか?」
結佳の言葉に、ドアの向こうの人物の雰囲気が変わった。
そして少し強い口調で答えてきた。
「いや、本当になんの事だか分かりません。お引き取りください」
「じゃあ、ハッキリ言いますけど、『Medico aria (メディコ アリア)』って貴方でしょ?」
「…」
結佳は笑顔を強め、さらにハキハキと言った。
「今、私を追い返したら、ネットでもなんでも使って騒ぎますよ。『メディコアリアの居場所が分かった』って。それでもよろしいですか?」
少し間を空けて、相手は言った。
「…見たところ、貴方一人ですね。間違いないですか?」
「もちろんです。一人で来ました。ここに来た事は、誰にも言っていません」
「…お入りください」
●
外観は小さなアパートだったが、入ってみると、内装はさらに小さく感じた。玄関のドアを開けると、すぐに六畳一間ぐらいの大きさのフローリング部屋だ。テレビも電話も無い。
ソファーも座布団も無い。『テーブルにしては小さい』と思えた物は、恐らくアイロン台だ。
これをテーブル代わりに使っているのだろうか。必要最低点の品で生活しているのが分かった。
部屋の左側に小さな冷蔵庫とキッチンと流し台。その奥はドアがあり、トイレ・風呂・洗面台が一体化しているユニットバスだ。部屋の右側には小さなタンス。正面の奥はガラス戸になっており、ベランダが見える。洗濯機はベランダにあるようだ。床はまるで掃除機をかけた直後のようにホコリ一つ落ちていない。アパート自体も綺麗な為か、清潔な印象を結佳は受けた。
この人物は、部屋の奥に畳んであったマットレスを、玄関の手前に置いた。この人物の寝具だろう。結佳は促されるままに、畳まれているマットレスをソファー代わりに座った。
その人物は冷蔵庫に向かい、何かを取り出すと、結佳の横に戻ってきた。
名前は「ジョルノ・ヴェロネージ」。二十四歳。イタリア系の名前だが、パッと見た感じは日本人だ。身長は百六十六センチ。黒髪で、耳の上で長さを揃えている。洗濯したてのような真っ白い半袖のシャツに、下は紺色のジャージで素足。シャツの着こなしからして、肉がたるんでいる印象は受けない。鍛えているかは不明だが、贅肉はなさそうだ。無精髭は無く、清潔な印象。だが笑顔はなく、無表情。爽やかさは微塵も無い。
ジョルノは両手に一本ずつ、水のペットボトルを持っていた。結佳に両手を差し出し、相変わらず冷淡に言った。
「水ですが、冷たいのと常温。どっちが良いですか?」
「えっ? じゃあ、常温のをください」
ジョルノは不愛想に、常温の水のペットボトルを手渡した。
「どーぞ」
結佳は驚いた。ペットボトルとはいえ、まさか飲み物が出てくるとは思っていなかった。
「あら、ありがとうございます」
ジョルノは、畳んだマットレスに座っている結佳の前方に座った。お互いに部屋の端に座っているので、二メートルほど離れている。結佳はマットレスの分だけ座高が高くなっている為、
ジョルノの視線は結佳を少し見上げる形となった。するとジョルノはフローリングに座り込んで五秒も経たないうちに立ち上がり、結佳の横側に座った。今度は三メートルほど距離がある。
ジョルノの動きを不審に思った結佳は、ジョルノの方を向いて言った。
「どうかしました? 急に座る場所を変えたりして」
ジョルノは結佳を見ずに壁にもたれて、正面を向いたまま答えた。
「いえ、別になにも。で、御用件はなんですか?」
結佳はペットボトルのフタをゆっくりとねじり、開けた。そして、ゆっくり一口飲んだ。
またもゆっくりとフタを回して閉め、ペットボトルをショルダーバッグに入れた。
「結構歩きましてね。喉が渇いていたから助かります。えっーと、なんでしたっけ?」
のんびり話す結佳に、ジョルノは結佳を見て不機嫌そうに言った。
「だから、御用件を言ってください」
「えっと、ジョルノ先生? それともヴェロネージ先生? どちらでお呼びしますか?」
「ジョルノでいいです。あと、先生は止めてほしいですね」
「たしかイタリアの名前は日本と同じで、姓が先にくるんですよね? ジョルノ先生」
「もう好きに呼んでください。それで、御用件は?」
「どう見ても、ジョルノ先生って日本人ですよね。本当にイタリア人なのですか?」
「ええ」
「もし『在留カード見せてください』って言ったら、見せてもらえますか?」
「貴方に不法滞在かどうかを証明する義理はありませんが、良いですよ」
面倒くさそうにジョルノは立ち上がろうとしたら、結佳が制した。
「あっ、いいです。日本で暮らしはいつからですか? 見た感じ、一人暮らしですね?」
ジョルノは座り直すと思い始めた。面倒なのが来たと。しかし、邪険にすれば『騒ぐ』などと言って脅されるだろう。さっさと質問に答えて、終わらせる事にした。重ねて聞かれるような事柄は、先に言えば早く終わる。
「四年前に来日しました。そしてすぐにこのアパートの管理人の職を見つけて、一人暮らしで住み込みです。出身は南部にあるサルデーニャ島。日系イタリア人夫婦の元に生まれました。国籍はイタリアです」
「サルデーニャ島? 日本で言う置縄県 (おきなわけん)みたいな離島なんですよね? イタリアからの帰国子女の友達が言ってたなぁ。でも日本語ペラペラですよね。ご両親が日系人だからでしょうか?」
「それもありますけど、小学校は日本人学校に通っていましたからね。中学以降は普通のイタリアの学校。学校も職場もイタリア語だから、日本語の方が不得手です。日本人同様に喋れますけど、読み書きは小学生並みです。僕にとっての母国語はイタリア語です」
「へぇ~、パッと見た感じは日本人に見えるイタリア人なんだ。言語はイタリア語がメイン。面白いですね、ジョルノ先生って。アハハ」
「いや、笑えませんけどね。それにしても貴方、用件を言う気あります?」
結佳が自分の事を探る為に、無駄話をしている事にジョルノは気付いていた。しかし何者か分からないので、邪険に追い出せずに困っていた。
結佳はジョルノの様子を気にせず言った。
「改めまして、私は丈璃乃 結佳です。よろしくお願いします」
結佳はジョルノの近くに行って、名刺を両手で差し出した。しかし、ジョルノは怪訝な表情をして受け取らなかった。結佳はマットレスに戻り、その上に名刺を置いた。そして座り直した。
するとジョルノが言った。
「貴方、製薬会社っておっしゃいましたね。そんな人が、なぜ私を?」
「私は普段、事業開発部に在籍して交渉業務を主に行っています。ただ、それだけじゃあないんです。部で私だけ、別の仕事もしているので」
「別の仕事って?」
「今・この瞬間です。ヘッドハンティングです。ジョルノ先生はフリーだから、正確にはスカウトになるのかな? ウチの研究本部で働きませんか? 社内のタンパク質科学研究部に、ぜひ欲しい人材なんです。今の年収は手取りで三百万円位ですか? その十倍以上は払えますよ。あっ、二十倍はいけるかな?」
「あのね、アパートの管理人が三百万も貰えませんよ。それより、さっきから何を言っているんですか? 私に薬の知識なんてありませんよ。知っている医薬品は、風邪薬と絆創膏くらいです。ドラッグストアの店員さんの方が、詳しいんじゃないですか?」
結佳は明るい口調で笑った。
「アッハ~、おもしろーい! ジョークもお上手でっ!」
結佳の話し方にムッときたジョルノは、声を低くして言った。
「貴方ねぇ---」
ジョルノの言葉を、結佳は受け流すように話を逸らした。
「しっかし何も無い部屋ですねぇ。生活感が全然無い。ミニマリストってやつですか?」
「別に意識してませんけど、結果的にそうなりましたね。無趣味なもので」
「研究に没頭する為と・トラブルが発生した時に、夜逃げしやすいようにしている為とか?」
ジョルノはギクリとしたのか、肩がほんの少しピクリと動いた。
結佳はそれを見逃さなかった。そして続けて言った。
「あっ、話を戻しますね。まぁ、今日・すぐに良い返事が聞けるなんて思っていませんよ。ただし、こちらも絶対に諦めませんけどね。何か御質問があればどうぞ」
「僕に薬の知識などありません。人違いです。それを前提としてなんですけど、どうやって僕にたどり着いたんです?」
「そんなに不思議じゃありませんよ。例えばプロ野球のスカウト。あの人達は、強豪高校の選手をチェックするのは当然ですけど、視野はもっと広いですよ。町の少年野球大会ですら、調べたりしますからね。ほんの一ミリでも『野球が上手い人がいる』なんて噂を耳にしたら、飛んで行って徹底的に調べます。それと私も同じって事です」
「僕が『野球が上手い人』だと言うのですか?」
「ここ三~四年、どうも業界がおかしいんですよね。中小規模の医薬品会社や、無名の薬科大学の創薬研究者が、優秀な研究の『成果』を発表する事が増えました」
ジョルノは気の抜けた声を出した。
「へー」
「あと、警察の科学特捜部。警察が事件絡みの薬品関係の調査・鑑定をする部署なんですけど。当然、御存知ですよね?」
「知りません」
結佳はジョルノの返事を無視して話を続けた。
「長年、捜査が行き詰っていた薬があったんですが、急遽、解析が成功したらしいです」
「へー」
「私、ピンときたんです。これは誰かが、裏で協力しているんじゃないかって。次第に業界でも段々と噂になってきて、その人物を探している会社も増えて来ましたよ。私はその人物に『Medico aria(メディコ アリア → イタリア語で空気のような博士)』と名付けて探していたら、業界でも自然とそう呼ばれ始めました。最近の医薬会の躍進に、メディコアリアが絡んでいるのは間違いない。それで怪しい案件を、徹底的に調べていったんです。すると---」
「僕じゃないかと?」
「そうです」
「根拠は?」
「案件に関係する資料を幾つも入手して調べたんです。それで---」
ジョルノは結佳の話をさえぎった。
「ちょっと待ってください」
「は?」
「その『資料』ってやつに書かれていたのは、何語ですか?」
「日本語か英語です。資料によって違いますが」
「じゃあ、確実に僕は関係無いですね。英語は出来ませんし、日本語も薬品研究…でしたっけ? そんな難しそうな資料を書けるほど、読み書きは堪能ではありませんから」
「いえ、資料を書いたのは『発表した人』ですから、言語は関係無いですよ。私が変だと思ったのは、資料の節々にイタリア語を思わせるような単語や文節があったんです。それでイタリア人、あるいはイタリア語に堪能な人が関係・監修しているのではないかと思い始めました」
「だからイタリア語で『メディコアリア』って名付けたのですか」
「業界に変化が起き始めたのは、だいたい四年前。それは全て日本の企業や薬科大学でした。しかも、だいたいこの辺りの都道府県。その『成果』を示す資料を調べてみると、『イタリア語の痕跡』という共通項があるんです。つまり---」
その続きをジョルノが言った。
「この辺りに四年位前から住んでいるイタリア人を絞って調べてたら、僕にたどり着いたと?」
「どうです? もう降参してくれますか?」
「確かに、それなら僕を疑いたくなる気持ちは分かります。でもおかしいですよ」
「なんでしょう?」
「その人物…メディコアリアでしたっけ? そんなに優秀なら、自分で研究なり・発表なりすればいいんじゃないですか? 秘密裏に誰かに協力するなんて、労力が掛かり過ぎますよ。もし私なら、公に活動しますね。その方が、金も名誉も手に入る」
「私もそう思いますよ。だから、表舞台に出たくない事情があるんでしょうね。彼には」
「彼? 女性かもしれませんよ」
結佳は残念そうに言った。
「あら~、そうですね」
「まったく…」
ジョルノは困った表情で、右手の人差し指を右のこめかみに軽くグリグリと押した。
困っているジョルノを見て、結佳は勝ち誇ったかのように言った。
「まぁ、これで私は満足です。貴方は実質、自分がメディコアリアって認めてくれました」
「は?」
「ご自分でおっしゃいましたよね? 『公に活動した方が良い』って。裏を返せば、公に出ないで地味に活動している人が、メディコアリアって訳です。今の貴方そのものです。四年くらい前からこの辺りに住み・なるべく目立たないように生活していて・薬科研究ができるイタリア人。そんな人は、ジョルノ・ヴェロネージさんしかいません。アパートの管理人を務めているのは、世間から隠れる為のカモフラージュ。それと外出する機会を減らしたかったんですよね?」
ジョルノは押し黙った。
それを見た結佳は勝ちを確信したからか、穏やかな口調で言った。
「ジョルノ先生、この辺にしておきましょう。これ以上討論しても、女相手に口では勝てませんよ。私がここに来たのは、貴方を追い詰める為でも・脅迫する為でもないんです」
「じゃあ、何が目的なんです?」
「最初に言ったでしょう? 仕事ですよ。ビジネスです。貴方をスカウトしに来たんです。目立ちたくないのなら、そこは十分に考慮しますよ」
「でもそれは、僕に拒否権は無いんでしょう?」
結佳はあっさり言った。
「ありますよ」
ジョルノは拍子抜けした声で言った。
「えっ? あるんですか?」
「だからビジネスだって言ってるじゃないですか。脅して無理矢理やったら人身売買ですよ」
「じゃあ何故、とことんメディコアリアの件を突き詰めたんです?」
「だって貴方が本物のメディコアリアかどうか、見極めないといけないでしょう? 『これは優秀な国産車です』って売ってから、『実は粗悪な外国産でした』なんて事になったら私の信用が無くなりますからね。スカウトマンとしては致命傷です」
「しっかりしたディーラーさんだ。でも貴方には、少しうかつなトコロがありますね」
「あら、なんでしょう?」
「貴方さっき、私に『在留カード見せてほしい』って言いましたよね?」
「ええ」
「私が見せようとしたら、止めましたよね? 実物を確認しないとダメじゃないですか?」
「なぁんだ、そんな事ですか」
「えっ?」
「ジョルノ先生は、私にカードを見せる為に立ち上がろうとしましたよね? それで十分なんです。見せられない状況にあるなら、そんなフリはしない」
「いや、『あれ~? 何処に置いたかなぁ~?』なんて言いながら、探すフリをして誤魔化すかもしれないでしょう?」
「この何も無い、質素で無機質な部屋で? どうやって探すフリをするんです?」
「しかし、それだけで信用するのはどうかと思います」
「それだけじゃないです。私はこの部屋に入ってすぐに、貴方に良い印象を持ちましたから」
「すぐに? まさか。適当な事を言わないでください。部屋が綺麗だからですか?」
「それもありますけど、それは小さな理由ですね。メインじゃありません」
「ではなんだと言うのです?」
「まずは玄関の鍵です。掛けていないでしょう? 私は部屋で男性と二人っきりになったら、鍵の状態は絶対に確認するんです。ジョルノ先生は掛けなかった。そして、私をドアの一番手前に座らせた。部屋の奥に置いてあったマットレスを、わざわざ移動させてね。カギを掛けず、出口の近くに座らせる。これは女性と二人っきりになる時のマナーです。それに飲み物。ぶっきらぼうにペットボトルを渡しましたが、貴方なりの、女性に対するいたわりなんでしょうね。相手が男なら、たぶん渡していないのでは? ペットボトルの件は自覚があるかどうか、私には分かりませんけどね」
「それって、普通ではないのですか?」
「…なるほどね。ジョルノ先生、貴方にはヨーロッパ圏のレディーファーストが染みついています。見た目は日本人だけど、中身はイタリア人なんですね。在留カード並みの身元証明です。よく分かりました。それに…」
「まだ、何かありますか?」
「貴方は最初、マットレスに座っている私の前に座りましたよね? でも、すぐに立ち上がって、横に離れて座った。何故ですか?」
「いや、別に意味は---」
「私のスカートの中が見えそうだと思った。だから慌てて座る位置を変えた。でしょ?」
ジョルノは気まずそうに、視線を逸らした。
「プッ! やっぱりね。まぁ要するに、女性に対して真面目に接する人みたいだから、悪い印象は持たなかったって事です。『この人は誠実な人かも?』と、思ったんです」
ジョルノは、大きなため息をついてから言った。
「私への解釈を貴方がどう取ろうが勝手ですけどね。それと優秀な研究者かは別問題では?」
「女性に対して誠実な人は、仕事や家族に対しても誠実な人が多いです」
そう言われると、ジョルノは不思議そうな顔をして、結佳の顔をジーッと見た。
「あら、なんでしょう?」
「貴方、しっかりしている…というか、恐ろしいですよ。歳も僕とそれほど変わらないだろうに。スカウト業なんて事をしていると、そうなるのですか?」
結佳は急に真剣な表情に変わって言った。
「今、なんと言いました?」
「え? だから、スカウト業をしていると---」
結佳は少し声を強め、ジョルノの話をさえぎるように言った。
「違う! その前!」
「前? えっと、『歳も僕とそれほど変わらない---』でしたっけ?」
「そう。私、いくつに見えるのですか?」
「歳ですか? だから、四~五歳年上ってトコロでしょう?」
ジョルノがそう言うと、結佳は座っているマットレスを降りた。
そしてジョルノとの距離を詰めて、真横ピッタリに座った。
結佳は不敵な笑みを浮かべて言った。
「へ~え、私の事二十九~三十くらいに見えるんだ。二十代にも見えるんだ」
急に馴れ馴れしい態度に変わった結佳に、ジョルノは戸惑いを隠せない。
「いや、ちょっと! 少し離れてください!」
「ジョルノ先生。貴方の事、少しだけど気に入ったよ。悪いようにしないからさ」
「は…?」




