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私を殺した夫を探しています  作者: 紡里


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私の愛

殺人の描写があります。

 死んだはずなのに、過去に戻ってきたようだ。私は、生きている。

 そんなことがあり得るのだろうか?


 それとも予知夢を見て、未来を覗いたのだろうか。


 私には選択肢がある。

 一つ、あの男を再び奪い、今度こそ自分のものにする

 一つ、男を諦める

 そして、もう一つ……復讐する


 どれを選ぶか考える前に、その理由を話さなければならない。

 私が、どのように殺されたのかを――




 出産用の赤い帳が張られた寝台。室内は炭火で暖かく保たれている。


 侍女に呼ばれた夫が、静かに室内に入ってきた。

「若様、お元気なお子様ですよ」

 産婆から生まれた子どもを手渡され、ぎこちなく夫が抱いた。


 体は痛いし疲労困憊だけれど、なんと幸せな光景なのだろう。

 産婆に子どもを返すと、夫は枕元に来てくれた。気の効く侍女と産婆は部屋を出ていった。


「ああ、この日を待っていたよ」

 夫の背中に窓があるため、その表情は陰になってよく見えない。

「ええ。わたくしも。二人の子どもをしっかりと育てていきましょうね」

 私たちの愛の結晶が生まれ、家族が増えたのだ。


 夫はため息を吐いた。

「これ以上、お前の『お遊び』に付き合うつもりはないんだ」

「……え?」


「お前は、俺と幼なじみの縁組みを壊した。

 それだけでは飽き足らず、彼女を……どうしてそんなことができる? 自分以外の人間を、虫をいたぶるように踏みにじって、良心は痛まないのか。

 そんなお前のことなど、どうやったら愛せるというのだ」

 夫の声はとても平坦だ。

 鼻筋の通った涼しげな顔は、今、どんな表情をしているのだろう。薄い唇からが紡がれる言葉で、私を責め立てているの?


「何を言っているの? あんなに優しくしてくれたじゃない」

 始まりは私の一目惚れで、そりゃあ、多少強引なことをしたけれど。しっかり祖霊に誓いを立て、子どもまでもうけたのだ。


「お前たちは俺の一族を人質に取った。皆殺しにされたくなければと脅されたら、従わざるを得ない。

 お前の父親の権力や武力に抗う術がないせいで、屈辱に耐えてきた。……時間をかけたら愛になる? ははは、笑うのを堪えるのが大変だったよ」


 それは幼なじみを遠ざけたときに、打ちひしがれる彼に言った言葉だ。本心からの、誠意ある慰めを笑うなんて……ひどい。


「嘘よ。愛しているって言ってくれたじゃない。贈り物だって、安物だけどちゃんと選んでくれたわよね」


「安物だと思うなら、そこで現実に気がついてほしかったよ。

 俺にあんたが気に入るような品を買えるわけがない。それをわかっていながら、我が家の生活費を切り詰めて買わなくちゃいけなくてさ。弟や妹が腹を空かせているのを横目に……」

 顔は見えないが、歯を食いしばったのが伝わってきた。

 我が家に入るのだから本当の豊かさを教えてあげよう、という善意だわ。


「あんたに贈ったあとで、公に品定めされて、苦言が届くんだ。安いだの、目が肥えていないだの。それだったら、銀子も寄越せって思ったね」

 夫の言葉遣いがどんどん乱れていく。せっかく教育して、上品にしたのに……。


「愛……じゃない?」

「ああ、そう言っているだろう。あんただって、気に入ったのは俺自身じゃなくて、顔だけだろう。この顔面を呪ったよ。

 だから俺は、『戦で捕らえられて妓楼に売られた』と考えることにした。そう思わなければ、閨などできなかった」

 疲れ果てたような、乾いた笑いが不愉快だ。


 私こととを、男を金で買う女だと言っているのか?

「いつか、愛し合えると思っていたのに……」

「俺の気持ちなんか無視して、権力で人生をねじ曲げただけだろう。俺は彼女の復讐のために、機会をうかがっていたんだ。

 お前が最高に幸せな日に、どん底に突き落としてやろうと」


「子どもが可愛くないの? あなたの子どもよ」

 多少強引にした覚えはある。あれからずっと気分を害していたなんて。

 その場で意見を言わない方が、悪い。時間が経ってから言われても、どうすることもできないじゃない。

 せめて、子どもができる前に言うべきだ。


「さあね。ガキに特に思い入れなんかないさ。男娼を買った客が妊娠したとして、男は責任を取るか? 取らないだろう?」

「恥知らずな――」

 怒鳴りたいが、大きな声が出せない。体に力が入るなら、手当たり次第に物を投げつけてやるのに。


「そうか。よかった」

「は?」

「お前には惨めに死んでほしいからな」

 夫が一歩寝台に近づいた。ぞくっと背中が震え、嫌な予感がする。


 すると、腹に強烈な痛みが走った。出産で弱っているところを狙うなんて……。卑怯な!


「ほら。出産は命がけだろう? 可哀想に。お嬢様には耐えられなかったんだな」


「あの、子は……」

「この家の跡取りとして大事に育てられるだろう。俺は縁を切って出ていくから、心配するなよ。

 公だって、俺のような寒門の男を忌々しいと思っていらっしゃる。

 お前が消えたら、すべてが上手くいくんだ」


 そんなひどい言葉をかけられ、「騙したのね」と言い返してやりたいのに、もう声を出すことができない。

 血を流しすぎたようで、意識が薄れていく……。


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