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10. 避ける理由

 

 翌日以降、ネフェリアはベルゼに避けられていた。先日の答えを聞こうと影に向かって呼びかけるが、出てこない。ネフェリアは落胆した。

 てっきりベルゼもネフェリアに好意を持っているものだと思っていたが、ネフェリアの勘違いだったのだろうか。

 呪いを受けているとはいえ、強力な力を持っていて、本来誰にも縛られることのないベルゼがわざわざネフェリアの近くに身を置いているのだ。昔ネフェリアに助けてもらった恩ならば、もうとっくに返し終えているだろう。好きだからそばにいるのだという考えは短絡的だっただろうか。

 ネフェリアの思い込みだとすると、今さらながら恥ずかしくなってくる。とはいえ、ベルゼの気持ちを確かめないことには気が収まらない。地下にあるベルゼの部屋にはいなかったので、屋敷内を探して彷徨(さまよ)った。


「ねぇ、ベルゼを見かけなかった?」

 通りがかった侍女を呼び止める。

「ベルゼ…あの陰気臭い…いえ、私は存じ上げません」

 侍女は一瞬顔を(しか)め、それから畏まって主の問いに答えた。

「いつまであのような者を囲っておくつもりですか」

 執事に問うと、不快感を隠すことなく説教モードに入った。ネフェリアは慌てて回れ右をして退散した。


「相変わらず、煙たがられているわねぇ」

 家の者たちは、身元のしれない者を引き取ることにはもともと反対だった。


(前途多難だわ……)


 午後、庭に面したバルコニーにテーブルと椅子を二脚用意してもらった。ネフェリアが作った食事を広げると、ベルゼはのこのこと餌に釣られてやってきた。

「食べる?」

「うん」

 着席を促すと、素直に応じる。テーブルの上には白身魚のムニエルにカボチャサラダやスープが並び、パンを盛ったカゴも置いてある。午前中、ネフェリアは使用人と一緒に市場を巡った。魚はこの辺りではなかなか出回らないので、手に入れるのに毎回苦労する。

 ベルゼは並べられた食事を見て、ニコニコとしていた。今まで姿を現さなかったことに怒るつもりでいたが、なんとなく毒気を抜かれて苦笑が漏れる。

 ネフェリアはテーブルを挟んだ向かい側に座って、食事前の祈りを捧げる。


「ベルゼ。あのとき、ロイナとの会話を聞いていたんでしょう?」

 黙々と食事をするベルゼをしばらく眺めてから、ネフェリアは単刀直入に話を切り出した。

「私のことをどう思っているの?」


 ベルゼがカトラリーを置いて、ネフェリアを見つめた。ベルゼの顔からは日頃浮かべているうっすらとした笑みが消えている。淡々と真顔でネフェリアを諭した。

「ご主人様は今の環境を大事にしたほうがいい」

「答えになってないじゃない」

「受け取る覚悟もないのに聞いてどうするの」

 ベルゼはネフェリアの浅慮を非難した。

「元婚約者様と浮気相手みたいないっときの感情なら、それはそれで構わないよ。でも、俺は離してあげられなくなるかも」

「…………」

 ネフェリアはハッとして、口を噤んだ。遠回しに身分差のことを指摘されて、二の句が継げなくなる。ベルゼはさっさと食事を済ませ、ご馳走様、と言ってから、するりと建物の影に溶けた。



 取り残されたネフェリアは現実を突き付けられて、恋に浮かれていた気持ちが沈んだ。

 厳然と横たわる問題に見て見ぬふりをしていた。

 これではセディアスのことを責めることはできない。けれど。


(離してあげられなくなるって……なに)


 冷や水を浴びせられた一方で、ベルゼの激しい熱情と執着が垣間見えて、平静でいられない。顔の火照りを自覚する。

(いつも、そんな素振りを見せないくせに)

 ひょっとすると本当に恩を感じているか、もしくは同情でそばにいるのではないか、という危惧が一瞬にして吹き飛んだ。


 さきほどの口調にしても、実に平然としていた。普段は身分差など意に介さない態度で接する癖に、肝心なところは明確に一線を引いていた。

 そのベルゼが初めて見せた気持ちにじわじわと心を侵されて、ネフェリアは苦しくなった胸元を強く握りしめた。


 **


 それから、ベルゼはネフェリアの料理を要求することはなくなった。ネフェリアも積極的に接点を作ることが憚られて、自然と距離を取るようになった。ベルゼは呪いが弱まっているのか、ネフェリアの癒しの力がなくとも、体調を維持できているようだった。


 学校では友人たちの誘いを断り、一人で昼食を取ることが多くなった。ここしばらくの間、ベルゼと昼食をとるために、一人で昼食をとるという名目の下、友人たちの誘いを断ってきた。そのため今では、誘いを断っても周りは気にしなかった。ロイナはたまにネフェリアのもとまでやってきて、お喋りしながらネフェリアの多めに作った弁当をつまみ食いしていく。


 休憩時間や放課後にはネフェリアの家と縁組みを考える貴族の令息が、ネフェリアと接触を図るようになった。対応が面倒で、ベルゼに協力を依頼した。ベルゼは何か言いたげにしていたが、強く言うと命令に従った。認識阻害という魔術で、ネフェリアの存在を目立たなくできるらしい。屈折現象がどうだのと魔術の仕組みの説明を受けたがさっぱり理解できない。ネフェリアのいる国では数人しか扱えない魔術らしいが、あまり興味は湧かなかった。

 ともあれネフェリアは令息たちのアプローチから解放されて、休憩時間には物思いに耽るようになった。


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