エベル王子(男装王女)とのティータイム
王宮 エベル王女の私室 午後
柔らかな午後の陽光が、レースのカーテン越しに部屋を優しく照らしていた。
エベル王女の私室は、王宮の中でも特に優雅で洗練された空間だ。白と金で統一された家具、大きな窓辺に置かれたアンティークのテーブル。そこに、紅茶の甘い香りと焼き菓子の匂いが漂っている。
「ふふ……アロスよ。 ようこそ、余のティータイムへ」
エベル王女が、燃えるような赤いショートヘアを優しく揺らしながら微笑んだ。男装の第一王子として振る舞う彼女は、今日も白いシャツに黒のベストというシンプルで凛々しい服装をしている。しかし、近くで見ると、そのシャツの襟元から覗く鎖骨のラインや、細くしなやかな首筋が、紛れもない美少女のそれを思わせた。
彼女は優雅に椅子に座り、ティーカップを手に取った。
「今日は特別に、余と二人きりで過ごそうと思ってな。 ルーリにばかり構われては、余としても少し寂しいではないか」
エベル王女はそう言いながら、いたずらっぽく片目を細めて俺を見た。その仕草が、男装の王子らしい凛々しさと、少女らしい可愛らしさを同時に持っていて、胸がざわつく。
「余が淹れた紅茶だ。どうぞ、遠慮なく」
彼女が自分で淹れた紅茶を、俺のカップに注いでくれる。香り高いアールグレイの湯気が立ち上る。
俺が一口飲むと、エベル王女は満足そうに微笑んだ。
「どうだ? 余の好みで少し強めに淹れてみたのだが……」
「とても美味しいです、エベル王女。 優雅で、香りも深くて……まさにエベル王女らしい紅茶ですね」
俺が素直に褒めると、エベル王女の頰がほんのり赤くなった。
「ふふ……お主にそう言われると、なんだか嬉しいな。 余は男装を好むが、こうしてアロスと二人でティータイムを過ごすのも、悪くない」
彼女はティーカップを優雅に傾けながら、俺の目をまっすぐに見つめてきた。
「アロスよ。 最近、ルーリが随分とお主に懐いているようだな。 余としても嬉しいが……少し、妬けてしまうぞ?」
エベル王女が、からかうような、でも本気で少し寂しそうな声で言った。彼女はカップを置くと、テーブル越しに身を乗り出して、俺の手に自分の細い指をそっと重ねてきた。
「余は第一王子として、いつも気高く振る舞わねばならん。 だが……アロスとお主の前では、少しだけ甘えても良いだろう?」
その言葉とともに、エベル王女は立ち上がり、俺の隣の椅子に移動して座った。距離がぐっと近くなり、彼女の甘い香水の匂いがふわりと漂う。
「ほら、もっと近くで話そう。 余はアロスに、今日の訓練の話も聞きたいし…… お主の昔の冒険譚も、もっと聞きたいのだ」
エベル王女は俺の肩に軽く頭を寄せ、優雅に紅茶を飲みながら、俺の話を待っている。男装の凛々しい姿なのに、こうして寄りかかってくる仕草は、まるで甘えた猫のようだった。
俺が昔の話を始めると、彼女は時々「ほう……」とか「素晴らしいな」と相槌を打ち、興味深そうに目を輝かせる。
ティータイムはゆっくりと進み、焼き菓子を一口ずつ分け合いながら、エベル王女は俺の手に自分の指を絡めたまま離さなかった。
「アロスよ…… 余は、お主が王宮に来てくれて、本当に良かったと思っている。 お主がいると……余の毎日が、ずっと輝いて見えるのだ」
彼女はそう言いながら、俺の指を優しく握りしめた。赤いショートヘアが俺の肩に触れ、優雅で、少し甘い午後の時間が、静かに流れていた。
「また、こうして二人でティータイムをしようぞ、アロス。 余は……お主と過ごす時間が、好きだ」
エベル王女は最後に、満足そうに微笑んでこう言った。




