第二王子グラリス(王女)との戦闘訓練
王宮 訓練場 夕刻
広い石造りの訓練場に、槍と剣がぶつかる金属音が響いていた。
「ははっ! 来い、アロス! 今日は本気で相手してやるぜ!」
グラリス王女が、紫の長髪を後ろで束ね、長槍を軽く回しながら豪快に笑った。彼女はエベルより背が高く、肩幅も広く、鍛えられた筋肉が戦士らしい逞しさを強調している。それでも、動きの一つ一つに女性らしいしなやかさが混ざり、迫力の中に色気すら感じさせた。
俺は剣を構え、軽く笑って応じた。
「グラリス王子、遠慮なくいきますよ」
「遠慮なんざいらねえ! オレを本気で倒せるなら倒してみろ!」
グラリス王女が地面を蹴り、瞬時に間合いを詰めてきた。槍の穂先が蛇のようにうねり、鋭い突きが連続で飛んでくる。
俺は高速移動でかわし、剣に軽く付与をかけながら反撃。槍の柄を狙って横薙ぎに振るう。
キィンッ!!
金属音が大きく響き、グラリス王女の槍がわずかに弾かれた。
「おおっ! いいぞ、その動き!」
彼女の目が輝く。槍を大きく薙ぎ払いながら、連続攻撃を仕掛けてくる。力強い一撃一撃に、俺は付与で強化した剣で受け止め、死角に回り込んで反撃を入れる。
訓練は激しく、しかし互いの実力を認め合うような緊張感に満ちていた。
数合の攻防の後、グラリス王女が一歩下がって槍を構え直した。息が少し上がっているが、表情は楽しげだ。
「へぇ……お前、ただの付与魔導士じゃねえな。 剣の腕も相当だ。しかも魔導を戦闘にここまで自然に織り交ぜてくる……」
彼女は槍の穂先を軽く地面に突き立て、俺をじっと見つめた。
(……すげえな、コイツ)
グラリス王女の心の中で、素直な感嘆が広がっていた。
(盗賊三十人を一人で片付けたって聞いたときは半信半疑だったが…… 実際にこうして相手をしてみると、ただの強さじゃねえ。 動きに無駄がなく、魔導のタイミングが完璧すぎる。 しかも……余裕すら感じる。オレの全力に、ここまで対応できるやつなんて……)
彼女の胸が、熱くざわついた。
(……くそ、惚れ直すじゃねえか。 兄貴があんなに夢中になるわけだ。 強いだけじゃねえ……この落ち着き方、戦いながらも余裕でオレを見てくる目…… たまんねえな)
グラリス王女は口では豪快に笑いながら、内心ではアロスに強く惹かれていた。
「ははっ! 悪くねえ! オレの槍をここまで受け止めて、しかも反撃してくるやつは久しぶりだぜ、アロス! お前、本当にバケモンだな。 付与魔導士なんて肩書き、勿体ねえくらいの実力だ」
彼女は槍を肩に担ぎ、ニヤリと笑って俺を褒めた。その目は完全に戦士のそれでありながら、どこか熱を帯びて俺を捉えていた。
俺が軽く息を整えながら答える。
「グラリス王女の槍も、凄まじかったです。 力と速度のバランスが完璧で、隙がほとんどありませんでした」
「ふん、褒められても嬉しくねえよ……ってのは嘘だな。 お前みたいな強者に褒められると、なんだか燃えてくるぜ」
グラリス王女はそう言いながら、槍を軽く回して構え直した。
「もう一回、いくぞ! 今度はオレも少し本気出すから、覚悟しろよ!」
彼女の口調は相変わらずガサツで男らしいが、瞳の奥には、アロスへの強い興味と、抑えきれない好意が輝いていた。
訓練場の夕陽が、二人の影を長く伸ばす中、槍と剣の音が、再び激しく響き始めた。
(……この男、ますます手放せねえな)
グラリス王女は心の中でそう思いながら、楽しげに、そして少しだけ頰を熱くして、槍を振るった。




