ルーリ王女と訓練3
王宮 訓練場 三日目の午後
「今日は少し、魔力を大きく動かす練習をしてみましょうか」
俺はルーリ王女に優しく声をかけた。
桃色のショートヘアを小さなリボンでまとめたルーリ王女は、昨日より少し自信を持った表情で頷いた。
「……うん。アロス様と一緒なら……大丈夫……」
今日も彼女は俺のすぐ近くに寄り、訓練が始まる前から自然と体を寄せてきていた。小さな手が、俺の袖をそっと握っている。
俺たちは並んで中級の複合魔法《光風の結界》に挑戦することにした。光と風を同時に操り、小さな防護結界を作る練習だ。
「まずは俺が魔力を流します。 ルーリ王女はそれを優しく受け止めて、一緒に形作ってください」
「……はい……」
ルーリ王女は俺の左側にぴったりと寄り添い、両手で杖を握ったまま、俺の手に自分の手を重ねてきた。彼女の肩が俺の腕に触れ、甘い花の香りがふわりと漂う。
俺がゆっくり魔力を流し始めると、ルーリ王女も真剣に集中して魔力を重ねてきた。
最初は順調だった。
淡い桃色の光と風が混ざり合い、美しい半透明の結界が二人の手の間に生まれていく。
「……すごい……アロス様……一緒にいると……魔法が綺麗になる……」
ルーリ王女が嬉しそうに微笑んだ瞬間——
突然、彼女の魔力が急激に膨れ上がった。
「っ……!?」
ルーリ王女の瞳が見開かれる。
「……あ……熱い……魔力が……止まらない……!」
彼女の体から、制御しきれない大量の魔力が溢れ出した。光と風が暴走し、周囲の空気が渦を巻き始める。結界が暴走して自らを内側から圧縮し、爆発の兆しを見せていた。
「ルーリ王女!」
俺は即座に彼女の両肩を掴んだ。
魔力暴走——才能が豊かすぎる魔導士に稀に起きる現象だ。特に純度の高い魔力を持つルーリの場合、暴走すれば自分自身を巻き込んで大爆発を起こしかねない。
「落ち着いて……! 俺に魔力を流して!」
「……アロス様……怖い……熱いよぉ……」
ルーリ王女の声が震える。彼女の体が小刻みに痙攣し、溢れ出す魔力がますます激しくなる。周囲の地面がひび割れ、光の粒子が爆ぜ始めた。
俺は迷わず彼女の細い体を強く抱き寄せた。
「ルーリ……!」
胸にぎゅっと抱きしめ、彼女の背中に両手を回す。小さな体が俺の胸にぴったりと密着する。桃色の髪が俺の頰に触れ、甘い香りと、彼女の鼓動が直接伝わってくる。
「俺の魔力に……全部預けて……! 一緒に抑え込むよ……!」
俺は自分の付与魔導の力を最大限に発揮した。ルーリ王女の暴走する魔力を、俺の魔力で優しく包み込み、流れを整え、抑えていく。
「……んっ……アロス様……熱い…… でも……あったかい……」
ルーリ王女が俺の胸に顔を埋め、細い腕で俺の背中をぎゅっと抱き返してきた。彼女の柔らかい胸が俺の胸板に押しつけられ、体全体が密着した状態で魔力のやり取りが続く。
暴走していた光と風が、徐々に収まっていく。俺の付与で「制御強化」と「安定化」をかけ続け、ルーリ王女の魔力を優しく鎮めていった。
「……はぁ……はぁ……」
数分後——
ようやく魔力が完全に落ち着いた。
ルーリ王女は俺の胸の中でぐったりと力を抜き、小さな声で囁いた。
「……アロス様……助けてくれて……ありがとう…… 怖かった……でも、アロス様に抱きしめられて…… すごく……安心した……」
彼女の体はまだ少し熱を持っていた。俺は抱きしめたまま、彼女の背中を優しく撫で続けた。
「もう大丈夫だよ、ルーリ。 君の魔力はとても純粋で強いから……時々こうなるんです。 これからは俺がちゃんと見てるから、安心して魔法を使って」
「……うん……アロス様の胸……温かくて…… 心臓の音が……聞こえる……」
ルーリ王女は恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、俺の胸から離れようとしなかった。むしろ、もっと強く抱きついてくる。
俺は彼女の頭を優しく撫で、耳元で囁いた。
「今日はもう訓練は終わりにしましょう。 少し休みましょう……このまま、少しだけこうしていてもいいですか?」
「……いい…… アロス様に……ずっと抱きしめていてほしい……」
訓練場の木漏れ日の中で、二人はしばらくそのままでいた。ルーリ王女の小さな体が、俺の腕の中で安心したように緩やかに息をしていた。
その後、ルーリ王女は少し照れながら言った。
「……アロス様…… これからも……ずっと、そばにいてくれますか……? 魔法の練習も……暴走しても……全部……」
「もちろん。約束するよ」
ルーリ王女は嬉しそうに目を細め、俺の胸に頰をすり寄せてきた。
甘い余韻と、温かな絆が、静かに訓練場に満ちていた。




