表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/26

世界最強の犯罪者

 巨大犯罪組織、『グルーディ』。構成人数は数知れず、一説では三大国と同レベルの戦力を保持しているとも言われる。

 そんな一大組織を作り上げた者の名はタイラー。ドラゴン型タクトを所持し、戦闘力は全世界でも五本の指に入るであろう。無法者で無ければ、強すぎるあまりに戦争時の介入を国レベルで禁止される『マエストロ』の一人になっている、との話もある。

 そして、ルートとハイドの二人は、タイラーに会うべく『グリードパーク』へ不法侵入していた。

 門兵を強襲し入ったのは良いが、すぐに耳をつんざくようなサイレンが鳴り、総員を挙げての捜査網が敷かれてしまっていた。

 物陰に身を潜め、追手が近くを去ったのを確認すると、ハイドはルートへ詰め寄った。


「どうすんだよ、この状況。さすがに『グルーディ』を敵にするのはまずいだろ」

「うーん。予想以上にフレンドリーじゃなかったね。ま、考えててもしょうがないし、そろそろ動こうか。やっこさんの居る場所はあの大きな建物だから……こっちか」

「真逆の方向だ。その絶望的な方向音痴を何とかしろ」

「イテッ、叩くなよ。少し間違えただけだろ」


 頭を軽くはたくと、ハイドは慎重に進み始めた。

 道中、何度か見つかったものの、騒がれる前に締め上げるなどの、無茶な方法で何とか潜り抜けると、建物に侵入することに成功した。

 

「で、こっからどうすんだ。セキュリティもあるだろ」

「一番簡単な方法で行くよ。まあ任せとけって」


 ハイドの問いにそう返すと、ルートは胸ポケットから自らのタクトを出した。

 大の人間レベルの大きさにすると、ルートは指示を出した。


「シグル、ヴァイス、ヘラレス。適当にぶっ壊しちゃって」


 命令を聞くや否や飛行した三匹のカブトムシ。直後に鳴り響く警報と、あちこちでの爆発。


「確かに楽だが……無茶苦茶すぎんだろ」

「だってめんどくさいじゃん。それに、こういう異常事態の方がトップは出てきやすいし」


 と、その時だった。タクトたちからタイラーらしき人物を発見した、という伝達が入った。

 ルートは口角を少し上げると、ハイドに言った。


「ジキルを出して。タイラーに喧嘩を売るよ」

「場所はちゃんと把握してんだろうな? 方向音痴」

「大丈夫だって、心配すんなよ」


 ハイドはジキルに跨ると、ルートの言う方向へ走り出した。移動するだけなので、同時にジキルを機動力に優れたチーターフォームにする。


「便利だよね、その能力。用途に合わせて幾つかのフォームに変えれるなんて。全部で何種類あるんだっけ?」

「ライオン、トラ、チーター、ジャガーの四つだ。さあ、もうすぐ着くぜ」


 閉じられていたドアをタックルで突き破り、二人と一匹は目的の部屋へ入った。部屋を探すまでもなく、お目当ての人物は見つかった。

 三匹のカブトムシに囲まれて尚、余裕ありげに玉座に座る初老の男。退屈そうにあくびをすると、タイラーは青い眼をハイドたち一向に向けた。


「人の城で随分とまあやってくれたな。弁償代として一生強制労働させてやろうか?」


 ルートは一歩前に出ると、にこやかに返した。


「でも、こうでもしないとあなたには会えない。そうでしょ?」

「自分で言うのもなんだが、ある程度大物だしな。にしても、てめえらまだガキじゃねえか。ウチのもんは何やってんだか」

「仕方ないですよ。『グルーディ』の誇るテイマーたちは、各支部に配置してあるんでしょ?」

「まあな、俺一人いれば、ここぐらいどうとでもなるし。それよりだ」


 タイラーは自堕落に延びた髪を掻き、言った。


「タクトの多重契約者。まあ、珍しい話じゃねえがよくもまあ上手い事揃えたな。一本角、二本角、三本角のカブトムシを」

「うちの学園には、もっと凄いやつもいますけどね」

「学園だぁ? 手前らあそこの生徒か。何の用だ。あのくそじじいに頼まれごとでもしたか?」

 

 くそじじいは恐らく学園長のことを指しているのだろうっが、今回それは関係ない。個人的に、タイラーが転生者なのかを聞きにきたのだ。

 ――さて、どうやって聞こうか。

 ハイドはユーマに単刀直入に聞いていたが、流石にそれは無謀すぎる。 


「幾つか、質問に答えてもらっていいですか?」

「内容によるな。それと、この羽虫をどけろ」

「これは失礼。じゃあまず、人は死んだ後どうなると思いますか?」


 タイラーが訝しむように目を細めた。


「どういうことだ? そりゃ魂がどうのこうのについて行ってんのか?」

「ええ、どう思います?」

「知らねえよ。消え失せるんじゃねえのか?」

「じゃあ、次の質問です。もし死んだ後にまた生き返ったら、どう思います?」


 訳が分からなかった。目の前の優男が、何の言質を取ろうとしているのかが、今一掴めない。

 ――こういう哲学的な問いは苦手なんだが。

 とりあえず、質問には答えておく。


「まあ、ラッキーだと思うんじゃねえか。多分だが」

「……なるほど。分かりました。質問は以上です」


 ルートは踵を向けた。何が分かったのかは知らないが、このまま返す、という訳にもいかない。

 タイラーはルートを呼び止めた。


「なんです?」

「なんですじゃねえ。こんだけ派手にぶっ壊したんだ。弁償なりなんなりするのが筋ってもんだろ」

「嫌ですよ。勘弁してくれませんか?」

「調子のんなよ。今はあえてやってないが、直ぐにウチの奴らをここへ終結させるぐらいできるぞ」

「だったら……」


 その続きは、目配せで分かった。ハイドはジキルに再び跨ると、一目散に逃げ出した。ルートはカブトムシのどれか一匹に乗ってすぐに追いつくはずだ。

 ――ただ、確実に敵に回すことになるよなあ。

 呑気にそんな心配をしている時、ハイドは突然の浮遊感を味わった。


「……は?」


 周りを見渡し、ハイドは目を見開いた。


「……んな馬鹿な」

「よーく憶えておけ、ガキども。これが世界最強マエストロレベルのテイマーの力だ」

「一瞬で、ビルだけを消し飛ばしやがった……!」


 甘く見過ぎていた。少し前に闘った金髪の少年など、未熟も未熟。

 ――ドラゴンが最強といわれるわけだ。

 ただ、負けるとは思えない。あの力を使えば、の話だが。


「つっても、アイツならタクトのみの闘いで勝ちそうだな」

「ハイド、先に逃げろ。本気で殺しに来るぞ!」

「ああ、頼むぞ生徒会長!」


 ハイドは猛スピードで『グリードパーク』を抜け出した。

 残ったルートは、タイラーと真正面から対峙することになる。タイラーは使役する黒いドラゴンの上に立ち、口を開いた。


「お前は逃げなくていいのか? 直感的に、逃げた方の奴が強そうに見えたが」

「確かに、ハイドは俺より強い。誰もいないところでやりあえばね。でも、ここは人目が多すぎる。あいつが全力で闘えないんですよ」

「よく分からんが納得してやる。それより、ゲームをしないか?」

「ゲーム?」


 タイラーは獰猛な笑みを浮かべた。ドラゴンが戦闘態勢に入る。

 

「俺の攻撃を受けて生きていられたら、見逃がしてやるよ」

「……そんなのゲームにならないよ。ただのいじめだ」

「じゃあ、やめるか? チャンスを自分で潰すか?」

「いや、やらせてもらうよ。ただ、生きてたら本当に逃がしてよ?」

「俺は人を殺しても約束は破らねえ男だ。ここに居る一万人が証人さ!」


 途端、あちらこちらから歓声が上がる。流石に、これだけの組織を束ねる男だ。人望は計り知れない。


「いつでもどうぞ。やるからには全力で来てください」

「言われなくとも、そつもりだ! 消し飛べ《ブラックサテライト》!」


 大きく開かれたドラゴンの口に、闇のエネルギーが溜まる。触れれば、その箇所から文字通り『消し飛ぶ』だろう。

 ――でも、ボクは絶対に負けない。だって――

 全てを飲み込む黒い波動が、ルートに襲いかかる。大口径で放たれた光線は、避けることも不可。正面から受ける以外に道はない。


「……スペシャルスキル《オールアンチ》」


 勝負の結果は出た。ルートの勝ちという結果で。

 全員が全員タイラーの勝ちだと思われた勝負に、大番狂わせが起こった。 

 場が静まり返る中、ルートの言葉はやけに響いて聞こえた。


「だから言ったじゃん。ゲームにならないって。それじゃ、帰らせてもらいますね」

「お前、その三匹以外のタクトを隠し持っているな。一体、何のタクトだ」

「それは秘密です。だって、ボクの切り札だから。他人においそれとはいないなあ」 

 

 言葉の直後、ルートは一瞬で掻き消えた。

 










 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 空を飛行し、ハイドに追いついたルートは、真っ先に聞かれた。


「で、あの質問の意味はなんだったんだ?」

「んー? 何、ああいう質問すればさ、ボクたちみたいなのは少なからず感情が動くだろ? こいつもそうなんじゃないか、とか、こんな世界になんて来たくなかったのに、とか。でも……」

「あいつはそうならなかった」

「うん。全く興味なさそうだった。あれは間違いなく転生者じゃないよ」


 ハイドは溜息を吐きながら頭を掻いた。


「つまり、無駄足だったってことか。……あれだけやって」

「まあ、次はもう少し友好的にやれるさ」

「次、ねえ……」


 次の目的地は確か、ミゼラン国を出てコータンまで行かなければならない。そこからさらに進んだ先の秘境。

 入ることすら危険な場所だが、目的とする人物はそこに居る。

 

「名前は、イリヤ・フレバンスとか言ったか。教科書に出てくるような有名人の末裔だが、突然行って会えるのか?」

「大丈夫だって。現代化学創生の母と呼ばれた偉人の子孫だよ? 変態に決まってる」

「答えになってねえ」


 不安は腐るほどあるが、今自分がやるべきことはただ一つだ。


「そっちじゃなくてこっちだ」

「あれ、いつのまに。おかしいなあ、確かにハイドがこっちに曲がってた気がするんだけど」


 この絶望的な方向音痴を目的地までエスコートすること。  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ