世界最強の犯罪者
巨大犯罪組織、『グルーディ』。構成人数は数知れず、一説では三大国と同レベルの戦力を保持しているとも言われる。
そんな一大組織を作り上げた者の名はタイラー。ドラゴン型タクトを所持し、戦闘力は全世界でも五本の指に入るであろう。無法者で無ければ、強すぎるあまりに戦争時の介入を国レベルで禁止される『マエストロ』の一人になっている、との話もある。
そして、ルートとハイドの二人は、タイラーに会うべく『グリードパーク』へ不法侵入していた。
門兵を強襲し入ったのは良いが、すぐに耳をつんざくようなサイレンが鳴り、総員を挙げての捜査網が敷かれてしまっていた。
物陰に身を潜め、追手が近くを去ったのを確認すると、ハイドはルートへ詰め寄った。
「どうすんだよ、この状況。さすがに『グルーディ』を敵にするのはまずいだろ」
「うーん。予想以上にフレンドリーじゃなかったね。ま、考えててもしょうがないし、そろそろ動こうか。奴さんの居る場所はあの大きな建物だから……こっちか」
「真逆の方向だ。その絶望的な方向音痴を何とかしろ」
「イテッ、叩くなよ。少し間違えただけだろ」
頭を軽くはたくと、ハイドは慎重に進み始めた。
道中、何度か見つかったものの、騒がれる前に締め上げるなどの、無茶な方法で何とか潜り抜けると、建物に侵入することに成功した。
「で、こっからどうすんだ。セキュリティもあるだろ」
「一番簡単な方法で行くよ。まあ任せとけって」
ハイドの問いにそう返すと、ルートは胸ポケットから自らのタクトを出した。
大の人間レベルの大きさにすると、ルートは指示を出した。
「シグル、ヴァイス、ヘラレス。適当にぶっ壊しちゃって」
命令を聞くや否や飛行した三匹のカブトムシ。直後に鳴り響く警報と、あちこちでの爆発。
「確かに楽だが……無茶苦茶すぎんだろ」
「だってめんどくさいじゃん。それに、こういう異常事態の方がトップは出てきやすいし」
と、その時だった。タクトたちからタイラーらしき人物を発見した、という伝達が入った。
ルートは口角を少し上げると、ハイドに言った。
「ジキルを出して。タイラーに喧嘩を売るよ」
「場所はちゃんと把握してんだろうな? 方向音痴」
「大丈夫だって、心配すんなよ」
ハイドはジキルに跨ると、ルートの言う方向へ走り出した。移動するだけなので、同時にジキルを機動力に優れたチーターフォームにする。
「便利だよね、その能力。用途に合わせて幾つかのフォームに変えれるなんて。全部で何種類あるんだっけ?」
「ライオン、トラ、チーター、ジャガーの四つだ。さあ、もうすぐ着くぜ」
閉じられていたドアをタックルで突き破り、二人と一匹は目的の部屋へ入った。部屋を探すまでもなく、お目当ての人物は見つかった。
三匹のカブトムシに囲まれて尚、余裕ありげに玉座に座る初老の男。退屈そうにあくびをすると、タイラーは青い眼をハイドたち一向に向けた。
「人の城で随分とまあやってくれたな。弁償代として一生強制労働させてやろうか?」
ルートは一歩前に出ると、にこやかに返した。
「でも、こうでもしないとあなたには会えない。そうでしょ?」
「自分で言うのもなんだが、ある程度大物だしな。にしても、てめえらまだガキじゃねえか。ウチのもんは何やってんだか」
「仕方ないですよ。『グルーディ』の誇るテイマーたちは、各支部に配置してあるんでしょ?」
「まあな、俺一人いれば、ここぐらいどうとでもなるし。それよりだ」
タイラーは自堕落に延びた髪を掻き、言った。
「タクトの多重契約者。まあ、珍しい話じゃねえがよくもまあ上手い事揃えたな。一本角、二本角、三本角のカブトムシを」
「うちの学園には、もっと凄いやつもいますけどね」
「学園だぁ? 手前らあそこの生徒か。何の用だ。あのくそじじいに頼まれごとでもしたか?」
くそじじいは恐らく学園長のことを指しているのだろうっが、今回それは関係ない。個人的に、タイラーが転生者なのかを聞きにきたのだ。
――さて、どうやって聞こうか。
ハイドはユーマに単刀直入に聞いていたが、流石にそれは無謀すぎる。
「幾つか、質問に答えてもらっていいですか?」
「内容によるな。それと、この羽虫をどけろ」
「これは失礼。じゃあまず、人は死んだ後どうなると思いますか?」
タイラーが訝しむように目を細めた。
「どういうことだ? そりゃ魂がどうのこうのについて行ってんのか?」
「ええ、どう思います?」
「知らねえよ。消え失せるんじゃねえのか?」
「じゃあ、次の質問です。もし死んだ後にまた生き返ったら、どう思います?」
訳が分からなかった。目の前の優男が、何の言質を取ろうとしているのかが、今一掴めない。
――こういう哲学的な問いは苦手なんだが。
とりあえず、質問には答えておく。
「まあ、ラッキーだと思うんじゃねえか。多分だが」
「……なるほど。分かりました。質問は以上です」
ルートは踵を向けた。何が分かったのかは知らないが、このまま返す、という訳にもいかない。
タイラーはルートを呼び止めた。
「なんです?」
「なんですじゃねえ。こんだけ派手にぶっ壊したんだ。弁償なりなんなりするのが筋ってもんだろ」
「嫌ですよ。勘弁してくれませんか?」
「調子のんなよ。今はあえてやってないが、直ぐにウチの奴らをここへ終結させるぐらいできるぞ」
「だったら……」
その続きは、目配せで分かった。ハイドはジキルに再び跨ると、一目散に逃げ出した。ルートはカブトムシのどれか一匹に乗ってすぐに追いつくはずだ。
――ただ、確実に敵に回すことになるよなあ。
呑気にそんな心配をしている時、ハイドは突然の浮遊感を味わった。
「……は?」
周りを見渡し、ハイドは目を見開いた。
「……んな馬鹿な」
「よーく憶えておけ、ガキども。これが世界最強レベルのテイマーの力だ」
「一瞬で、ビルだけを消し飛ばしやがった……!」
甘く見過ぎていた。少し前に闘った金髪の少年など、未熟も未熟。
――ドラゴンが最強といわれるわけだ。
ただ、負けるとは思えない。あの力を使えば、の話だが。
「つっても、アイツならタクトのみの闘いで勝ちそうだな」
「ハイド、先に逃げろ。本気で殺しに来るぞ!」
「ああ、頼むぞ生徒会長!」
ハイドは猛スピードで『グリードパーク』を抜け出した。
残ったルートは、タイラーと真正面から対峙することになる。タイラーは使役する黒いドラゴンの上に立ち、口を開いた。
「お前は逃げなくていいのか? 直感的に、逃げた方の奴が強そうに見えたが」
「確かに、ハイドは俺より強い。誰もいないところでやりあえばね。でも、ここは人目が多すぎる。あいつが全力で闘えないんですよ」
「よく分からんが納得してやる。それより、ゲームをしないか?」
「ゲーム?」
タイラーは獰猛な笑みを浮かべた。ドラゴンが戦闘態勢に入る。
「俺の攻撃を受けて生きていられたら、見逃がしてやるよ」
「……そんなのゲームにならないよ。ただのいじめだ」
「じゃあ、やめるか? チャンスを自分で潰すか?」
「いや、やらせてもらうよ。ただ、生きてたら本当に逃がしてよ?」
「俺は人を殺しても約束は破らねえ男だ。ここに居る一万人が証人さ!」
途端、あちらこちらから歓声が上がる。流石に、これだけの組織を束ねる男だ。人望は計り知れない。
「いつでもどうぞ。やるからには全力で来てください」
「言われなくとも、そつもりだ! 消し飛べ《ブラックサテライト》!」
大きく開かれたドラゴンの口に、闇のエネルギーが溜まる。触れれば、その箇所から文字通り『消し飛ぶ』だろう。
――でも、ボクは絶対に負けない。だって――
全てを飲み込む黒い波動が、ルートに襲いかかる。大口径で放たれた光線は、避けることも不可。正面から受ける以外に道はない。
「……スペシャルスキル《オールアンチ》」
勝負の結果は出た。ルートの勝ちという結果で。
全員が全員タイラーの勝ちだと思われた勝負に、大番狂わせが起こった。
場が静まり返る中、ルートの言葉はやけに響いて聞こえた。
「だから言ったじゃん。ゲームにならないって。それじゃ、帰らせてもらいますね」
「お前、その三匹以外のタクトを隠し持っているな。一体、何のタクトだ」
「それは秘密です。だって、ボクの切り札だから。他人においそれとはいないなあ」
言葉の直後、ルートは一瞬で掻き消えた。
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空を飛行し、ハイドに追いついたルートは、真っ先に聞かれた。
「で、あの質問の意味はなんだったんだ?」
「んー? 何、ああいう質問すればさ、ボクたちみたいなのは少なからず感情が動くだろ? こいつもそうなんじゃないか、とか、こんな世界になんて来たくなかったのに、とか。でも……」
「あいつはそうならなかった」
「うん。全く興味なさそうだった。あれは間違いなく転生者じゃないよ」
ハイドは溜息を吐きながら頭を掻いた。
「つまり、無駄足だったってことか。……あれだけやって」
「まあ、次はもう少し友好的にやれるさ」
「次、ねえ……」
次の目的地は確か、ミゼラン国を出てコータンまで行かなければならない。そこからさらに進んだ先の秘境。
入ることすら危険な場所だが、目的とする人物はそこに居る。
「名前は、イリヤ・フレバンスとか言ったか。教科書に出てくるような有名人の末裔だが、突然行って会えるのか?」
「大丈夫だって。現代化学創生の母と呼ばれた偉人の子孫だよ? 変態に決まってる」
「答えになってねえ」
不安は腐るほどあるが、今自分がやるべきことはただ一つだ。
「そっちじゃなくてこっちだ」
「あれ、いつのまに。おかしいなあ、確かにハイドがこっちに曲がってた気がするんだけど」
この絶望的な方向音痴を目的地までエスコートすること。




