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終章
杉本が目を覚ましたのは、真っ白な天井の下だった。消毒液の匂いが鼻につき、モニターの電子音が聞こえた。
「……戻れたのか?」
天井を見つめたまま、呼吸を整えた。手足を動かすと、全身が鉛のように重かった。
「気がついた! あなた、よかった……!」
傍らにいた妻が、安堵の表情でナースコールを押した。
「あなたが美術館の駐車場で頭を打って倒れていたって、警備員さんが気づいてくれて……。意識が戻らなかったから心配したのよ」
杉本の意識は別のところにあった。
首を傾けて左手を見ると、薬指に指輪がない。髪に残っていた煤が肩に落ち、焦げたような匂いが鼻をかすめた。窓際の棚に置かれたビニール袋には、砂埃にまみれたシャツが入っていた。黒く焼け焦げた跡が目に入った。それは炎の夜、本能寺にいた証だった。
「曜変……見た。信長の曜変天目、確かにあった……」
「まだ頭がぼんやりしてるのね。あなた、焦らずしっかり休まなきゃ」
「そうかもしれない……」
妻に微笑んだ。
だが、胸の奥には一つの確信があった。あれは夢ではない。幻でもない。
自分は曜変の底に触れたのだと──。




