1.27 歪な期待
この一週間、改めて由紀の日常は跡形も無い程崩れ、荒れていた。
半生を共にした大切な幼馴染を喪い、
実感も無いままに、異世界からやってきたという少女に出会い、
同じく異世界からやって来た人達に命を狙われ、
誤魔化しようのない超常の力と戦いを見せつけられ、
「ほれ、天守閣。こっから舞之宮市を見渡せるんだぜ、見てみ、ユイさん」
そして今は、そんな少女と皆で休日の一時を楽しんでいるというのだ。
庭園のほとりの丘に建てられた舞之宮城。戦国時代に建てられた本殿は先の大戦の中で焼失してしまったが、戦後に残った庭園が重要文化財として指定されるに際して、当時の姿に近づけるよう再建が行われた。最上階から見渡せる景色は随分様変わりしてしまったが、伝統的な和装建築群と最新の高層ビル群、過去と現在を織り交ぜた独特の風景は連日観光客が訪れる程の人気スポットとなっている。
「いえ、私は……写真はいいわ。好きじゃないから」
「そんなつれない事言うなよ。せっかく来たんだし。明人、準備」
「はーい。由紀は、ユイさんの隣に」
「う、うん」
無表情の顔に少し困惑の色を浮かべたユイの背中をグイグイと押し、優香里は四人での記念撮影を試みる。カノヨビトとして戦う彼女の姿を直に見た由紀にとっては少し不思議な光景だった。レベッカの神速の攻撃を一切寄せ付けず無傷で勝利したユイが、優香里にされるがまま引っ張られ、頬を無理矢理笑顔の形に吊り上げられている。先の衣服選びの時もそうだったが、どうやら害意の無い干渉には弱く不慣れらしい。
日が傾き始めた舞之宮市の街を背景に、四人は明人がセットしたカメラに向き合う。由紀は隣で困ったような顔のユイをちらりと見て、自然と笑いが込み上がっていた。
シャッターが切られる最中、笑顔の由紀はふと思う。
――僕、何で笑えているんだろう。
それは、ユイと初めて会った後にも感じた感触。結実を喪った実感が沸かないまま、彼女に抱き止められ、自分の全てを吐き出す程に泣き尽くした。そして一週間と経たず、こうして以前のように平穏な世界を生きている。
ただ、結実だけが居ない世界を。
パシャリと、白い光と共にカメラのシャッターが切られた。明人がカメラを取り、優香里と共に笑って写真を確認する。優香里から解放され、静かに溜息をつくユイの顔を、由紀は今一度見た。
現実離れしている程美しく、そして実際にこの世界のモノではない少女の姿。
自分の世界から飛び出し、叶わぬ願いを追い求めるカノヨビト。
「……写真なんて撮られたのは、カノヨビトになって初めてね」
「そう、なんだ」
笑って応じながら、由紀はふと思う。
――僕は、何を期待しているのだろう?




