表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
REALY  作者: バタやん
第一章
5/7

第4話「邂逅」

 未角来人が"E.X.I.S."に入ってから二週間。

 "E.X.I.S."から能力者に与えられるものは大きく三つ。まず一つは能力を発動する為の装置“ネーヴェ”。能力エネルギーを効率的に放出できるという鉱石”ルーニウム”を利用した最先端の機器であり、能力者にとっての生命線とも呼ばれるもの。二つ目は"E.X.I.S."特製の制服。白いラインの入った黒の上着、グレーのインナーに黒のズボン。一見何気ない普通の統一衣装と思えるが、防御力を高める為に軽量かつ丈夫な緩衝材を使われている代物。

 そして、三つ目は支部員一人一人に与えられるという部屋一室だ。それもただ単に寝泊まりするだけというようなものではなく、自身の部屋よりも遥かに広いという待遇っぷりに来人は度肝を抜かれた。ふかふかのベッドが両サイドに二つ、その中央奥には机と椅子。本当なら二人用の部屋ではあるが、今第二支部の部屋はまだ空いているらしく、贅沢にも一人で使うことを許可された。


 そんな部屋で寛いでいた矢先のことだ。部屋に訪れたのは葵だった。その彼女は「ついてきて」と藪から棒に告げると来人は渋々部屋を後にし、広い第二支部の廊下を歩いて行く。


「どこに連れて行く気だよ?」


「アンタ、この前の剣の名前もう決めた?」


 偶発的に生み出した白銀の剣。まだ一度しか姿こそ見れてないが、あれは間違いなく能力者としての武器であると葵達は口を揃えて言った。

 とはいえ、未だ実感すら湧かない来人は名前など決めている訳もなく。


「……白銀丸(しろがねまる)、とか」


「ネーミングセンス絶望的ね」


「冗談だっつーの! 全然考えてないに決まってんだろ。何しろまだ姿形もまともに覚えてないし」


 咄嗟に思いついた適当な名前を呟いてみたのだが、葵にとってそれはありえないネーミングだったらしく、彼女はドン引きするように顔を引き攣らせる。

 少なくとも白銀丸、などという和風な名前をつける気はさらさらない。かといって、来人にネーミングセンスの自信はなく。


 すると、次に葵が口にしたのは意外な事実だった。


「実は私の”アストリア”や朱莉の"オリフラム"は鍛冶屋の人がつけてくれたの。第二支部の能力者の武器、つまり私と朱莉の武器はその人がずっと見てくれてる」


「鍛冶屋って、武器とかを鉄で打つってあの?」


「そう、その鍛冶屋。今からその人を紹介するから、一緒にあの剣と名前もつけてもらうといいわ。ちょっと変わった人だけど悪い人じゃないから安心して」


 変わった人、という言葉に来人は思わず眉を顰める。ちょっと変だと言う少女は自分のことをまるで常識人のように自覚している様だが、それにも来人は待ったをかけたかった。

 ここ二週間、シゴキにシゴかれた身からすれば、明らかに彼女は変人である。それもドSで負けず嫌いで冗談の通じないという幾度となく来人は心の中で阿鼻叫喚したかという程の変人。

 もちろん本人を前にしてそんな事を口にすれば、修正という名の半殺しされかねないからグッと堪えて、来人は葵の後を歩くだけだった。




 第二支部の地下に通ずる階段を降りて、さらに奥深くへと進んだところ、そこに現れたのは赤い両扉。奥からは金属音が幾度となく響いて、暗闇の中で炎のような光が見える。


「ここよ」


 葵に誘われる形で扉を開き、中に入ると金属が打ち付けられる音がより一層大きくなって。

 中はそれほど広くはなく、せいぜい教室一つ分ほどの広さがあるかどうかといったところ。そんな場所に所狭しと窯や金床などが設置されている。

 その中央付近に巌のような男が三人と小さな老人が一人。打ち付ける様な音の正体は老人が周りの男とは雲泥の差の細い腕で武器にハンマーを叩きつける音だった。


巌のような男の一人がこちらに気づくやいなや目の色を変え、こちらに近寄ってくる。


「あ、葵さん! どうしてこんな煤まみれの所へ来なさったんです……?!」


「武吉さん、お久しぶりです。今日はこの新人を鉄叢さんに紹介しようと思って」


 武吉(たけきち)と呼ばれた男。身長は二メートル近くあり、グレーの作務衣を着たスキンヘッドの男は来人を見ると、明らかに敵意剥き出しの様子を見せ、そのデカいガタイさながらの圧迫感を醸し出していた。


「このヒョロいのが新人……?」


「やめねえか、武吉。みっともねえ」


 ガタイのデカさに多少怯んだ来人を庇うような声は三人のうちの二人目。しかし、その男はというと作務衣の色がネイビーなだけで、ほとんど外見こそ武吉と変わらない容姿をしている。


武光(たけみつ)の兄貴こそ良い子ぶって葵ちゃんにアピールしようとしてんじゃねえや!」


「んだとぉ!」


 似た様なガタイの二人が言い争い始め、葵は苦笑い、来人が呆れていると三人のうちの最後の一人は現れた。

 これまでの二人とは違い、ガタイだけではない威圧感。ただでさえ暗い工場の中、サングラスをかけたスキンヘッドの男は兄弟喧嘩に割って入る。


「よさんか、武吉、武光。葵さんと新入りくんの前だ」


「「す、すまねえ、武恒の兄貴……!」」


 武恒(たけつね)と呼ばれた男は「分かればいい」と低く重い声で言った。しかし、一見では見分けのつかない三人に来人は確信を持って、疑問を口にする。

 三人衆の一番上と思われる男、黒の作務衣を着た男はサングラスを取るとやはり武吉、武光と瓜二つだった。


「えっとアンタらは兄弟……だよな?」


「ううん、実はそうじゃなくて……」


「我々は血の繋がっていない兄弟、つまり盃を交わした義兄弟だ」


「そんなにそっくりなのに!? 三つ子と言われても信じるけど?!」


 思わぬ答えに来人はどうしても納得がいかなくなって、声を張り上げる。少なからず外見はどう見ても同じ。もはや血の繋がっていないというのが嘘だと思いたくなるほどに。


「はっはっは、よく言われるよ」


 少なからず遺伝子とはなんなのかと来人の中で疑問が生じ始めた頃、武恒は「そうだ」と思い出した様に鉄を黙々と打ち続ける老人に聞こえるように声を張り上げた。


「鉄叢の親方! 葵さんと新人くんがお見えですッ!」


「じゃかましいッ! お前の声は響きすぎるんじゃああッ!」


──どっちがだよ……。


 そんな心の声を漏らし、来人は深い吐息をつく。どう見ても鉄叢という人物は気難しそうな老人であり、弟子の声に理不尽に怒っては手に持っていたハンマーをその場において、溶接用のゴーグルを光らせていた。

 来人を上から下までその小さな体なりに見回すと「むう」と鉄叢が唸る。


「小僧、名前は?」


「未角来人」


「ほぉ、……面白い」


 鉄叢は口周りの白い髭を右手で撫でながら、ニヤリと笑みを浮かべた。

 その笑みの理由について来人は皆目見当もつかなかったが、「どうも」ととりあえず褒められたと考えておくことにする。


「一先ずお前さんの武器を見せてみぃ」


「武器ってあの白い剣?」


「そうよ。あの時と同じように発現させて、それを鉄叢さんに見せて」


 葵に言われるがまま、頭の中で例の白い剣を思い浮かべる。

 とはいえ、あの剣が現れたのは偶然出来たとしか理由がつかなかったが故に、本当に発現することができるだろうか、と来人は一つ息を飲んだ。ひたすらにイメージを湧き立たせ、そのまま一気に集中。

 そうして──白き剣は呼び掛けに応えるように来人の右手に現れた。


「できた……!」


「見せてみぃ」


 ゴーグルを外し、鋭い眼光が明らかとなった鉄叢が子供のように早く渡せと言わんばかりに急かしてくる。来人はまた一つため息をつきながら、言われるままに鉄叢に白の相棒を手渡した。

 鉄叢は頑丈な手袋をつけた両手でその剣を持ちながら、「ふうむ……」と見つめて。


「小僧、こいつぁ既存のブツから作り出したものじゃねぇな?」


「きぞんのブツ?」


「原型のある武器から作り出した武器じゃないってこと。鉄叢さん、彼は全部一からその剣を作り出して……」


「なるほどなぁ。こういう形は”二度目”だ。……やっぱり純製は格が違う」


 “二度目”。その言葉に引っ掛かりながらも話を進める鉄叢の話に聞き入る。

 すると、鉄叢は「よし! 決めたッ!」とまた響き渡る声を出し、高らかに言い切った。


「こいつの名前は”アルマ”、”アルマペネトレーテ”だ」


「”アルマペネトレーテ”?」


 この昔ながらの体育会系、それも往年の老人から出てきたとは思えない横文字に来人は思わず名前を聞き返す。しかし、”アルマペネトレーテ”という名前そのものは来人自身、意味はともかく気に入った。

 そんな名前の意味を教えてくれたのは、マッスル三兄弟の一人 武恒だった。


「”アルマ”はスペイン語で魂、”ペネトレーテ”はペネトレートのことで英語では貫くって意味でさぁ。つまりは魂を貫くって意味ですね、親方」


「よく分かったな」


「へへっ、こう見えて英語、中国語、スペイン語、イタリア語、ドイツ語の五か国語喋れるもんで」


 武恒の思わぬ特技というか、天才ぶりに来人は度肝を抜かれ、やはり人は見た眼で判断するべきではないと反省する。“アルマペネトレーテ”の意味を知った来人は口元を緩め、「いいな」と素直な感想を漏らして。


「どうじゃ、小僧。ワシにこいつを任せてくれるか?」


「……もちろん、頼むよ。ついでにその”アルマペネトレーテ”って名前も貰っとく」


「よし来たッ! そいじゃこいつの手入れは任せとけぃ! しっかり戦いまでに仕上げっからよ!」


 まるでおもちゃを与えられた子供のように鉄叢は満面の笑みと共に”アルマペネトレーテ”を自身の作業場に持ち帰ると、また何事もなかったように鉄を叩き始める。

 来人はそんな切り替えの早さと単純さに苦笑するしかなかったが、少なくとも葵の言う通り、悪い人物ではないらしいと納得。

 すると、葵が左手につけている“ネーヴェ”のモニターを出現させ、そこに映し出されたのは司令室にいる支部長 霧島雪乃だった。


『葵ちゃん、それに来人くんも一緒ね。丁度良かった。二人共司令室に来てもらえる?』


「仕事ですか?」


『ええ、朱莉ちゃんも一緒にね。三人に仕事をお願いしたいの』


「分かりました」


 よくよく考えれば”EXIS”での初仕事。その事実に来人はごくっと息を飲んだ。

 この二週間、葵と朱莉によって鍛練こそ受けてきたものの、実戦となると話は別だった。相手は同じ人間、それも"ジェネラル"という組織に属する敵。人間同士の争いという事を考えると自然と考えなくていいことも考えてしまう。

 そんな来人を見かね、葵は口元を緩めた。


「初仕事で怖じ気づくのは当然。アンタのことは私と朱莉が守るから」


「お、怖じ気づいてなんか……!」


「まっ、霧島さんもいきなり戦闘ありきの仕事なんかさせないと思うけど。多分元施設か何かの調査よ。さっ、司令室に行くわよ」


 余裕綽々といった様子の葵に来人は「ったく」と悪態をつく。

 しかし、不思議と先ほどまで来人が感じていた堅苦しさと緊張感はどこかへと消えていた。




 忙しく働く支部の人々を横目に辿り着いた指令室。自動ドアが開くと、そこはまさしく戦場。十数名に及ぶオペレーター達がモニターとにらめっこをし、忙しそうに能力者などに指示を送っていた。

 朱莉が「来た来た」と口にして、支部長である霧島が椅子から立ち上がる。


「それじゃ、早速だけど今回の任務について説明していくわね」


 二つのモニターに映し出されたうち一つはある施設の内部の構造。もう一つはその施設の周辺の地図。

 施設は第二支部から20キロも離れていない場所、それも何気ない町外れの工場だった。


「今回のあなた達の目的は”ジェネラル”の元施設を調べる事。元なだけあって、危険は少ないはずだけど、くれぐれも油断はしないように。地図と施設のデータはそれぞれの”ネーヴェ”に直接転送しておいたから」


 来人が"ネーヴェ"に視線を移せば、確かに画面にはモニターに表示された物と同じ地図。葵が「よし」と口を開いて、改めて班分け。


「じゃあ来人は今回が初任務だし、三人で行動しましょう。できる限り迅速かつ穏便に進めるのが最善よ」




 第二支部から出発して、たったの二時間。それは予想外にも至って普通の場所に建設されていた。

 町外れの工場地帯の一角にある廃工場の一部屋。床に敷き詰められた大理石の中に隠された隠し扉の先に目的の場所はある。

 大理石をひっくり返し、鉄の扉を開くとまるでダンジョンの如き、明らかな人工物の階段。

 そこをゆっくりと下り続ければ、またしても頑丈に固められた金属の扉にぶち当たる。

 見たところ、セキュリティがかけられており、突破はそう容易くいきそうにもない。


「おいおい……、こんなのどうやって入るんだ?」


「何言ってんの、簡単じゃない」


 ごくごく普通の疑問に飄々とした葵の答えが返ってくる。その彼女の左腕で光るのは例の"ネーヴェ"。

 そこで一つ、来人は理解した。能力者という存在があるのだから、映画などでスパイなどが扱うスマートな進入道具が存在してもおかしくないではないか、と。


「なるほどねぇ。"ネーヴェ"はスパイが持ってるような器具の代わりにもなるとかそういうこ――」


 独りでに頷きながら納得しようとした瞬間。

 轟音と共に地鳴りがして、その場に土煙が舞い上がったことで堪らず咳払い。煙を右手で払いながら、口の中で覚えた砂の味に眉をひそめる。


 ようやく晴れた土煙に覆われていた扉の"あった"場所に目を向けた。

 すると、そこに存在していたはずの金属の扉は円形に突き破られ、そのぶち抜いた金属は入った先で粉々に砕け散っている。朱莉が葵の行動に拍手で称えるが、来人自身は開いた口が塞がらない。

 スマートな潜入、電子機器か何かでセキュリティを解除し、音なく忍び込むという想像からはあまりにかけ離れすぎていた為だ。


「一つ聞いていい? こんな派手な入り方したらバレない? ていうか、バレるだろ!」


「平気よ、これだけ錆び付いてればもう中には誰もいないはずだし」


 平然と悪びれる様子もない葵に心底あんぐりとしたまま硬直。守る、などと言った割には敵を呼び寄せるような真似をした少女への信頼度は来人の中で一気にどん底どころかマイナスまで落ちた。


「とりあえず不安だ、お前らみたいな乱暴者がいる組織に入ってよかったのかなって、俺は今すっげぇ不安だ!」


 心の底からの叫びを思わず大声で発する。しかし、意外にも不服そうに反論を述べたのは朱莉だった。


「私も?! 私は葵みたいに扉をぶち抜いたりしないもん!」


 確かに葵みたく、彼女が暴力を振るうことはない。

 とはいえ、そんな朱莉に対してもツッコミたい部分がある。容赦なし、考えなしの破壊行動に拍手を送っていた奴が言えたことか、と。朱莉では葵の傍若無人っぷりには遥かに劣るのは確かなのだが。


 が、二人して葵に対し、容赦のない悪態をついたのは悪手だった。

 背後から感じた殺気に両肩で僅かに反応を示し、ふと振り返った先には紅の瞳を光らせる"鬼"がいた。


「へぇ……、結構好き放題言ってくれるじゃない」


「あ、葵さん……落ち着いて? お、俺らは味方ですヨ?」


 噴き出す汗に震える声。

 そう言いながら、両手を彼女へと振り、敵じゃないアピール。しかし、そんな来人と朱莉に風谷葵という鬼はさらに迫りくる。


「ら、来人の言う通りだよ、葵! 誰も葵のことを破壊魔なんて言ってな――」


「――ば、バカ! それじゃ言ってんのと同じ……!」


 朱莉が口にした失言。それを窘めた時には既に時遅し。

 さらに"破壊魔"の殺気は増し、まるで全身にオーラ的な何かを纏っているかのような気迫を醸し出す。

 そうして察した。――これは死んだ、と。

 まるでその時を焦らすかのように、葵はさらに両手の関節を鳴らしつつ、後ずさる自分達へゆっくりと忍び寄る。


「ふーん、言ってはいなくてもそう思ってたんだぁ」


 万事休す。が、やれる抵抗だけはしてみる、と咄嗟に朱莉を指差し、こう言葉を漏らす。


「ま、待て! 俺は何も言ってないぞ! 何も思ってもいない! 言ったのは朱莉だ!」


 せめてもの抵抗、ありったけの弁解を口にし、また一歩後ずさる。

 仲間である朱莉を切り捨てるという人として最低の行動を犯したが、そうさせたのは葵への恐怖心から。

 が、当然見捨てた朱莉も黙ってはいない。


「あ、ずるい! 絶対来人だって思ってたでしょ!」


「思ってない、断じて思ってませんッ! 葵さんこいつです、こいつが言ったんです!」


 例え卑怯と罵られようと、ただ朱莉一人へと罪をなすりつけようとする。

 葵という少女が誇る一発の重さを、まだほんの一週間足らずの付き合いながらも知っているからこそ。しかし、散々醜いなすりつけ合いも、次の葵のそっと囁くような言葉で終わりを迎えることとなった。


「……まぁ、安心して。大丈夫よ」


「「えっ!? それじゃ……!」」


 一瞬見えた奇跡。それに朱莉共々食い気味に言葉を漏らす。

 誰の犠牲もなく、この騒動は一先ず終わるーー。そんな希望的観測から来人と朱莉が互いに顔を合わせ、笑みを零した矢先。――葵はさらに言葉を続けた。


「私、理不尽な事は嫌いなの。――って事で両成敗するから安心して」


 僅かに感じた希望は一気に絶望へと変わる。

 朱莉と顔を見合わせたまま、そのまま硬直。既にその脅威を避ける術はなかった――。




 それから数分後。朱莉共々、葵に成敗された後頭部を抑えながら、地図を見つつ、ひたすら前へと進んでいく。

 が、納得がいかないことがまだある。朱莉への一撃は明らかに自分とは威力の差があり、来人自身、頭が吹き飛んだのではないかというような衝撃を覚えたことだ。


「訴えてやる、絶対に男女差別で訴えてやるかんな……」


「自業自得でしょ。女一人に罪を着せようなんて最低よ」


「そーだーそーだー、サイテー」


 葵からの軽蔑の眼差しに加え、その彼女の右横に隠れるようにしながら、朱莉が自身へと棒読みの貶し文句を送ってくる。そんなある意味圧倒的な状況不利から生み出される理不尽に一つ舌打ち。


 ――が、そんなおふざけムードは葵の左手による制止によって一転する。その彼女の視線の先を同じく見据えれば、半開きの自動扉。

 明らかに異様とも呼べる空気に一つ息を呑み、来人は左腕の"ネーヴェ"を確認。能力を発動するには必須な機器の準備は既に整っている。


「……私が先に入る。二人は背後からバックアップ」


 葵の命令に朱莉と共に頷き、ようやく半開きの扉の前へ。中の様子を一通り見据えた葵が中へと入るという意味で右手を上げる。

 暗闇の中で扉を強引に開き、ついに部屋の中へと侵入。そこのテーブルには幾つものパソコン、床にはその配線ケーブルが敷かれ、さらに部屋の中央には何か実験でもしていたと推察できる椅子が設置されていた。


「――朱莉、早速情報を抜き出して」


「了解、任せて!」


 葵から命を受けた朱莉が何とか生きていたパソコンを立ち上げ、作業へと移る。

 しかし、当然”ジェネラル”という組織もそう簡単に情報を明け渡す組織ではなかった。立ちはだかるのはIDとパスワードという壁。だが、飛奈朱莉という少女にとって、そんな壁は無意味に等しいものだった。彼女は内側のポケットから取り出したUSBを繋ぐことで二つの壁をいとも簡単に突破したのである。


「すげぇな」


「朱莉ならこれぐらいお手のものよ。さぁ、どんな情報が出てくるか」


 一つのモニターに三人揃って釘づけ。

 朱莉によって次々と開かれていくファイル。そのリスト化されたファイルの中にある一つを開く。ファイル名は"特異点 研究報告書"。

 そんなファイル名に驚いた様子を見せたのは葵と朱莉。


「"特異点"……。――葵、これってまさか?」


「――ええ。そのまさかでしょうね」


 まるであり得ない、という様な反応を見せ、息を呑む二人。"特異点"という意味や存在すら何も知らない自身は蚊帳の外。が、その字から二人が驚くまでに、大層な存在であることぐらいは推察が出来る。


 ――刹那。

 さらに朱莉がそのファイル文書を下へとスライドした時だ。今度は自身が目を疑う羽目となったのはーー。

 驚きのあまり、無意識に葵を押しのけ、パソコンのモニターをさらに睨みつける。


「ちょっと……! 一体どうしたーー」


「朱莉! ちょっと上に戻してくれ!」


 葵の窘める言葉もその時は耳に入らなかった。

 ただ一刻も早く確認したかったのだ。目を疑う"名前"が実在したかどうかを。


「来人……?」


「いいからッ!」


 驚きのあまり硬直したままの朱莉をさらに急かす。

 ようやく戻されたページを再び凝視。――そうして、来人は目を疑わざるをえなかった。そこに書かれていた文章。その内容に。


 『"特異点" 未角美海の研究は良好。引き続き、研究対象として調査する』


 そうして、過ぎた次のページに書かれていたグラフや数値。

 事細かに記されていたそれらのものが美海を対象として結果である事を理解する。


「……何が"特異点"だ」


「来人、落ち着い――」


「――美海を攫ったのは”ジェネラル”だったのか……! こいつらが美海を……!」


 怒りのままに鋼鉄の壁へ右拳を叩き付ける。葵に制止されて、抑えられる感情ではなかった。

 もう死んだと思っていたという妹が無事にまだ生きている、そしてその真相が"ジェネラル"によって連れ去られていたという事実。

 ――しかし、これではまるで何かの生物研究の対象として生かされているに過ぎないではないか。まだ何も知らない、夢を思い描く事ぐらいしか出来ていない幼い美海を攫って、こんな研究を繰り返しているなど、兄として許せるはずもなかった。


「来人の妹さんが”特異点”……?」


 朱莉が少し信じ難いというような声を漏らす。

 "特異点"――。先ほどから放たれる理解できぬ単語にまた苛立ちを覚える。


「なんなんだよ、"特異点"って! 美海に何の関係が……ッ!」


「――恐らくそれが美海ちゃんの攫われた本当の理由」


 葵から放たれた一言。それに思わず来人は言葉を失い、そのまま沈黙。朱莉に代わって、文書を一通り見やった彼女はさらに言葉を続けた。


「……"特異点"っていうのは、能力者の中でも生まれ持って特別な力を備えた能力者の事を指すの。ただし、その数はあまりに少なく、"E.X.I.S."が確認している中でも片手の数もいないとされている存在よ」


 ようやく"特異点"という存在について、葵から説明を受け、当然それについては理解が出来た。しかし、葵の説明をそのまま受け入れるとするなら、美海が"特異点"であるということにはどうしても異議を唱えたくなる。


「待てよ! だったら、どうして美海がそんなもんに……!」


「私にもそこまでは分からない。前例があまりに少なすぎる。……ただ一つ言えるのは、”ジェネラル”がまだ子供の美海ちゃんを攫った理由。それは彼女が"特異点"だったからという理由の可能性が高い」


 葵から冷静な分析の言葉が放たれる。それに対して、反論の余地もなければ、納得すらもさせられた。

 なぜ美海が"特異点"という存在なのか、という点は置いておいたとしても、仮に本当にそうであるとするならば、”ジェネラル”が戦力の足しにならない妹を連れ去ったことにも合点がいくからだ。


「──既に廃棄された場とはいえ、こうも粗雑に侵入し、情報まで抜き出そうとするとはな」


「――! 二人共、避けてッ!」


 背後から聞こえた三人の内の誰でもない声。それに続き、即座に声を荒げたのは葵。彼女の警告に近い叫びにその場から横へと転がり込む。

 固まっていた場所に放たれたのは斬撃。その一閃によって、パソコンは当然真っ二つに砕け散った。


「葵!」


「分かってる!」


 葵に首の根元を引っ張られた瞬間。朱莉が足元へ煙玉を投げ捨てる。その煙に紛れ、部屋の外へと逃げ出すのが狙い。地下研究施設の廊下、まるで巨大な洞窟のような場まで後退。なんとか狭い室内から逃げ出した上で、葵と朱莉が改めて戦闘態勢を整える。


 それに合わせ、来人もまた"アルマペネトレーテ"を発現。白き剣を右手に握り締め、追手が現れるのを待つ。

 直後、煙の中から現れたのは一つの人影だった。


「こんな場所に現れた鼠の中に、まさかお前がいるとはな」


 視線の先には黒い装束に身を包んだ青年。茶髪の緩やかな自然の髪型に、鋭い眼光。歳は自分達と比べ、幾分か上とみる。その右手には禍々しさを覚える黒き刀。

 その男が煙から正体を露わにするや否や、身体を震えさせ始めた人物が一人いた。右隣で同じく戦闘態勢に入っていたはずの少女。その顔面は蒼白、右手を震わせながら銃剣"ヴィスティリア"を男へと向ける風谷葵だ。


「葵……?」


「あいつは、あの男は……ッ!」


 震えた口から放たれる戸惑い。今にも消えそうなその声には怒りや憎しみの感情から感じ取れる。そんな葵の様相を見据えた男は一つ薄笑いを零し、それに応える様に口を開く。


「八年振りだな。俺が怖いか、――葵」


「――風谷……悠……ッ!」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ