オルナの修復
アレルは、頭に布を巻きひたすらに槌を振る。熱し叩き、冷やし、学んだ鍛冶技術のすべてを出す。ぶつかり合う音、感じる熱、焼ける臭い、鉄の色、五感全てを使って打っていく。
「オルナ、もう少しだからな」
火口のごとき熱に耐えながら、いち早く治すためにただただ槌を振るう。気づけば、周りには荒野が広がっている。見回せば、綺麗に両断された岩々が転がっている。
「お父様!こちらです!」
声の方を向くと、積み上げられた岩山の頂上に場にそぐわない真っ白なドレスを着た少女がいた。黄金の髪が風になびき、天の川のように輝いている。軽やかに飛び降りた少女は、アレルの前に着地するときれいにお辞儀する。
「お久しぶりです。お父様」
「オルナ、久しぶり。もう少しで治るからな」
「はい!ありがとうございます!」
オルナは、無邪気な笑顔でアレルに抱き着いた。
「ごめんな、来るのが遅くなって」
「いえ、元々はお父様の忠告を聞かなかったリオン様が悪いのです!」
頬を膨らませる、オルナの頭を優しくなでる。
「そう言わないでやってくれ。当時の俺の説明が雑すぎたのも原因なんだ」
「む~まぁお父様がそこまで言うのであれば、許します……」
不承不承と、オルナは怒りを収める。アレルは、撫でる力を強くした。気持ちよさそうに撫でられ続けるオルナに、これまでの事を問いかける。
「記憶の方はどうだ?誰がお前を、宝物庫から盗み出した?」
オルナは、う~んと頭を左右に振りながら必死に思い出す。
「実は、宝物庫に入るちょっと前から、記憶がおぼろげなのです」
「そんなに前からか?」
「はい、リオン様から取り上げられることが決まった時、王城を真っ二つに切り捨ててやろうと思ったのですけど……」
とんでもないことを言うオルナの目は、出来て当然といったようだった。
「教会の神父が、本当に竜器かどうか鑑定に来た時から、何か呪文をつぶやかれたんです。そこからは、記憶がおぼろげで……」
「その神父の名前は?」
「それも覚えてません。ごめんなさい」
バツが悪そうに、頭を下げる。
「良いんだ。気にするな」
「あ、でも確か『どらごのみこん』ってところの神父って言ったました」
「どらごのみこん?そんな宗教あったっけかな」
アレルは顎に手を当てながら考え込む。
「詳しくは……分からないです」
「でも、貴重な情報だ。ありがとう」
「へへへへ」
アレルは、褒められて笑顔になるオルナを見て安心した。オルナの傷は、そこまで深くなさそうだった。
「そういえば、城のメイドを襲ったのもオルナか?」
「メイド?いえ?私じゃないです。ですが、見当はつきます」
「誰だ?」
「私の模造品です」
オルナの体から、黒いオーラが漏れ出る。
「あいつらは、私の模造品を作っていました。そいつが試し切りしたのではないのでしょうか」
「完成していたのか」
「私の劣化版も劣化版です。人一人両断できないなんて、私を馬鹿にしています」
オルナの怒りは、自分を元にしておきながらその性能の悪さらしい。
「おいそれと竜器を造られても困るが、なるほど。あの痕跡から感じたオルナの気配は、オルナを元に作られた模造品だったからか」
納得すると、オルナはアレルの袖を引っ張る。
「私なら、あの模造品を追えます。私を元にしたからか、どこかパスがつながっているみたいなんです。おおよそであれば模造品の位置が分かります。なのでお願いですお父様」
うるうるとした目でアレルを見上げる。
「あんな模造品をこの世に存在させておくのは、我慢なりません。どうか私に処分させてください」
「捨て置く気はないよ。必ず、模造品も、それを作った連中も許しはしない。処分に関しては自由にしなさい」
そこで、オルナは思いっきりアレルに抱き着く。少し転びそうになりながらも、アレルはオルナを支える。
「ありがとうございますお父様!」
突如アレルの体が、徐々に透けていく。
「そろそろ時間ですね。お父様ありがとうございます。ご無理なさらないでくださいね」
オルナは名残惜しそうにアレルから離れると、お嬢様らしくスカートのすそを持ち上げ、お辞儀する。
「あぁ、もう少しの辛抱だからな」
「はい!」
元気な返事が耳に響き、アレルは現実に返ってきた。目の前には、完成間近のオルナが横たわっている。喉の渇きと体の虚脱感を感じ、アレルは一度鍛冶場から出て、休憩をとることにした。横たわるオルナがほのかに光、その背中を見送った。
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