禁忌
シーラが落とした本に、目を向ける。そこに書かれていたのは、かつての竜狩りの方法だった。今では、再現不可能な魔道具がいくつか載っている。これらの技術は、当時の竜達が念入りに消し炭にしたと聞いていた。まさか、こんなところに未だ残っているとは。本を拾い上げながら、ダンカイと向き合う。
「神を作る方法ですか……」
「いつだって禁忌に憑りつかれるものはいるものです」
ダンカイは、まとめ終わった資料を机に置く。大きくため息をついて、かつての盟友に思いを馳せ遠くを眺める。
「きっと魅力的なんでしょうね」
シーラは竜狩りの本をぱらぱらと眺め、しみじみという。
「竜の皆さんもそうなんです?」
「どうでしょうかね?」
ダンカイとシーラの視線が、交差する。お互いの腹を探り合うように、しばらく見つめ合った。
「これ以上は聞かない方が良さそうだ」
「その方が良いですよ。長生きしたければ」
シーラは、ニコニコと笑っているが、ダンカイは体の底から悪寒だ奔る。
「ところで、この本はいったいどこで?」
シーラが手に持っている本をヒラヒラと見せる。
「その本は確か……どっかの教会からパクッ……拝借したはず……」
ダンカイは立派な顎髭を撫でながら、記憶をたどっていく。
「あぁ!思い出した!確か【竜望教】(ドラゴノミコン)だ!」
「聞いたことないですね」
シーラは、首をかしげる。
「割と最近できた宗教団体みたいですね。竜って名前がついているくせに、竜を狩ることを教義としているらしいですよ?」
「竜としては、信仰されても困りますが……不愉快ですね」
顔に不快感を表しながら、改めて本を見る。
「なんでも、神の使いである竜を食うことで、神の使徒に成ることができるとかなんとか」
シーラが呆れた顔をする。
「そんなわけないでしょうに」
「全くです」
ダンカイも大きく頷いた。
「この本は貰ってもいいですか?竜狩りについて書かれた書物を、現世に残しておくわけにはいかないんです」
「良いですよ。読んでも特に私が欲しい情報は無かったので」
「ありがとうございます」
シーラは、自分のカバンに本をしまい込む。その時に、本の裏表紙にスタンプが押されていることに気づく。
「これは……」
光刺す天へと上る龍の姿が押印されている。
「竜神様」
祖母の部屋にかかっていた掛け軸が脳裏をよぎり、不安が湧き上がるのを感じた。
ステンドグラスから差し込む光が、白を基調とした礼拝堂を神聖な雰囲気にしている。修道女たちは、朝早くから黙々と清掃に勤しんでいる。
「皆さんおはようございます」
「おはようございます。トマス神父」
白髪の神父が、にこやかに挨拶をしながら入ってきた。片手には聖典を持ち、胸には教会の紋章が下げられている。
「いつもありがとうございます」
神父が、恭しく頭を下げる。
「またミサの練習ですか?」
修道女が、神父の傍に集まってくる。
「えぇ、説法に抜けがあっては、神に申し訳が立ちませんので。最近、物忘れがひどいんです。もう歳ですかねぇ」
修道女達は、ニコニコと笑いながら神父の話を聞く。
「歳だなんて、まだまだお若いじゃないですか」
「そうですよ、うちのおじいちゃんよりは若いですよ」
「ははは、ならまだまだ大丈夫かね。さぁ、そろそろ朝食の時間だろ?食堂へ行っておいで。今日のミサの合唱も楽しみにしているよ」
トマス神父は修道女たちを、食堂へと促す。修道女たちも礼をした後、軽やかに食堂へと向かっていった。その様子は、まるで仲のいい親子のようだ。暖かい眼差しで彼女たちを送った後、ステンドグラスを見上げる。聖典で、描かれる金色の竜の神。誠実と力の象徴に相応しい剛健さだ。
「今日もご加護のあらんことを」
トマス神父は、手を組み膝を折る。その祈る姿を見れば、誰もが敬虔な信者であることを信じて疑わないだろう。
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