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異世界戦国異聞 <勇女~勇ましき女たち~>  作者: 鈴ノ木
第参章 東神名国、ジャカール帝国 停戦条約
39/65

第参十七話

((シャイン・おう))


 「ゴメン、サーシャ。今更なんだけど、停戦条約の調印とかって普通第三国とかでするものなんじゃないのかな? って思うんだけど……」


 僕はオーマン近衛少将が帰った後、寝室の隣のサーシャと一緒に昼食を摂った十五畳程の部屋にあるテラスに出て、ふと思ったことをサーシャに尋ねてみた。


 「そうですね、私の聞いた話だと交渉自体は仲介国のアルセルク王国で行われたそうです。ですが調印は停戦と和平の象徴として建設された共同管理都市トーゲンで行う事になり、そこで両国を挙げて盛大に停戦を祝おうということになったのだそうです」

 「ふーん、そうなんだ……」


 共同管理都市トーゲンは、この停戦が両国の恒久的な和平に繋がるよう両国が願い国境の大河コンスー河の中洲に二年程前から建設を始め、つい最近完成した新しい都市だという。


 『……ていう事は、調印当日のトーゲンはお祭り騒ぎになっているって事だよね』

 『そうだな』

 『出店とか出て賑やかしいんだろうなあ、いいなあ、僕も楽しみたいなあ』


 僕がサーシャの話を聞きながらテラスにあるティーテーブルに腰を掛けると、「それでは、シャイン様、お茶の準備をしてきますね」と言ってサーシャは奥殿を出ていった。


 僕はサーシャが奥殿を出ていくのを確認すると、直ぐにそのサーシャが出ていった奥殿と中殿の間の扉を少しだけ開き、そこに居るクロガネに声を掛けた。


 「クロガネ、少しお願いが有るのだけど……」

 「ナンデショウ?」

 「誰にも気付かれないように目立たない色のフード付きのローブを一着、いや、一往二着買ってきてくれないかな? お金は後で払うから……」

 「・・・・」


 クロガネは少しの間悩んでいるようだったが、「クロガネさん、クロガネさんがいない間は私がしっかりとシャイン様をお守りしていますから大丈夫ですよ」と言う、シャリーナ姉さまの言葉を聞いて、「ワカリマシタ」と了承してくれる。


 「クロガネ、ゴメンね、ありがとう」


 僕の謝罪と感謝の言葉を聞くとクロガネは僕に優しく微笑みかけてから外へと向かって歩いていった。

 僕はその後ろ姿を見送ると扉を閉めてテラスへと戻る。

 それから少ししてサーシャがティーセットを持って戻ってきた。


 「珍しい事もあるものですね」

 「どうしたの? サーシャ」

 「いえ、クロガネさんが居なかったものですから、……シャリーナさんに何処に行ったのか聞いたのですけれど、何やら買い物に行かれたとか……」

 「へ、へえー……そうなんだ。けど、そんなに珍しい事かなあ? ……クロガネも女性なんだから買い物くらい行くでしょ」

 「そうですね……ですが、何があってもシャイン様から離れないあのクロガネさんですよ…………シャイン様、何かクロガネさんに頼まれました?」

 「えっ? い、いや、何にも頼んでないよ……」


 僕がサーシャから目を逸らしどもりながら応えると、「本当ですかあ?」とサーシャは疑いの目を僕に向けてくる。「い、いやだなー本当だよぅ」と僕は目を泳がせつつサーシャが淹れてくれたお茶を啜る。


 「まあ……そういう事にしておきましょうか」


 そう言うとサーシャは子供に向けるような笑顔を僕に向けた。


 ・・・。

 『良かった何とか誤魔化せて』

 『いや、誤魔化せてないだろう』

 『うっ……』

 『お前、本当に誤魔化したりするの下手くそだよな』

 『だって、しょうがないじゃないか、そういうの苦手なんだから』

 『お前は餓鬼んちょだからな』

 『ほっといてよ、もう。鳳の意地悪』

 ・・・・。




 この日の深夜に僕達は港湾都市シーガルを出発した。


 ジャカール帝国の全土を覆う砂漠の気温は日中は四十度を超え夜は零下にまで下がるということだった。


 妖精種のエルフは気候による寒暖の変化には非常に強く、上は摂氏六十度、下は零下五十度までなら苦もなく活動出来るらしい。(因みにサーシャの被った氷水は相手の体温を急激に奪う攻撃精霊魔法を応用したものだったらしい)


 ただ、ジャカール帝国の護衛の人達は人間種の獣人であるため、全く日陰の無い砂漠を直射日光を浴びながら移動するのは自殺行為となりかねない。

 その為、移動は日が落ちかけてから日が上りきるまでとなり、日中は日陰を作って体を休める事になる。

 もちろん深夜には仮眠のための休憩が取られる。


 因みに僕は・・・うん、暑くもなんともありません・・・あははのは、ほんと人間やめちゃったんだ、僕・・・ということです。


 今回の砂漠の移動には僕が乗るサンドタートルと言う巨大な像亀のような魔獣と護衛の人達の乗るサンドリザードと言う人が一人乗れる砂蜥蜴の魔獣を使っている。

 僕は神輿馬車から取り外され、その全長が大型トラック程の大きさのあるサンドタートルの甲羅の上に取り付けられた神輿に乗っている。

 このサンドタートルの甲羅の中には僕達が砂漠を一週間移動するのに十分な量の水が蓄えられているらしい。

 水を取り出すのは甲羅の縁に取水口があるとのことだった。



 「シャイン様、寒くはありませんか?」


 僕の後ろのベンチシートに座っているサーシャが僕を気遣ってくれる。


 「ああ、うん。大丈夫だよ」

と、僕が振り返り返事をするとサーシャは僕に微笑みかける。

 僕は何だか照れ臭くなり鼻の頭を掻きながら前に向き直った。


 「光の神子様、もしお寒いようでしたら言ってください。体を暖める為のお酒が用意してあります」

と、前の方から明るい声が聞こえてきた。

 ジャカール帝国から派遣された僕達の護衛兼案内役のオーマン近衛少将だ。


 プハーッ、「芯から体を暖めるにはこれが一番! ……です」


 『感じからして、もう既に体を暖める以上に呑んでるような気がするのは僕だけかなあ』

 『いや、俺もそう思う』


 僕のいる神輿の前に二人掛けの席が取り付けられアジーナおばさまとクーレさんが座りその前にオーマン近衛少将が立って周囲を警戒している。のだが、御簾から透けて見えるその姿はどう見ても酒壷を担いでいるように見えた。

 因みにシャリーナ姉さまとクロガネは神輿の左右後方に立ち周囲の警戒をしている。


 「オーマン近衛少将、寒さ対策の為とはいえ、少し飲み過ぎなのではありませんか?」

 ガハハハ、「ご心配なく。この程度で酔ったりはしませんよ」


 アジーナおばさまの非難めいた言葉にオーマン近衛少将は高笑いで応えた。


 『なんだか、この人を見ているとキリマルさんを思い出すね』

 『ああ、見た目は人と豹人で全然違うが、雰囲気は似ているな』

 『うん……なんだか早く母さま達と会いたくなってきた』

 『そうだな……それよりも俺はオーマン近衛少将が酒壷とは反対の手で持つ物が気になるな』

 『あれって、やっぱり銃だよね』

 『恐らくな……シャリーナ姉が言っていたジャカール帝国が作り出した銃で間違いないだろう……威力もそれなりに有るような事を言っていた…… しかも奴の持っている物は大口径の強力な物に見えるな』

 『うん』


 御簾から透けて見えるオーマン近衛少将のシルエットからは酒壷とは反対の手にライフル銃の様な物を持っているように見えた。

 獣人は他の種族と比べると身体能力はかなり高いが魔力は弱いという、その弱さを補うために銃等魔力を必要としない武器を開発するのにジャカール帝国は力を注いでいるということだった。




 それから二日後の朝、僕達は経由地である無人の小さなオアシスに辿り着いていた。

 オアシスの水は何処のオアシスでも岩盤の下を流れる水脈から岩盤の割れ目を通って湧きだしているらしい。

 その為、複数のオアシスが水脈で繋がっている場合があるという。


 ふぅ、「冷たくて気持ちいいね」

 「そうですね」


 僕はそのオアシスの泉で顔を洗い、久しぶりに冷えた水に触れその心地よさに隣にいるサーシャに笑顔で声を掛けた。

 サーシャはタオルで僕の体を洗いながら笑顔で応えてくれる。


 ジャカール帝国の護衛の人達にはオアシスの外で僕が体を洗い終わるまで待ってもらっている。


 僕はその泉でサーシャに手伝ってもらいながら体を洗いつつ、港湾都市シーガルを出て直ぐに目についた山の連なりに目を向ける。


 『鳳、僕、あの山脈に何と無く見覚えがあるんだけど……』

 『そうか? 俺には見覚えは無いがな』

 『そう……』


 「サーシャ」

 「はい、何でしょう」

 「あの山脈なんだけど、何て言う山脈か知ってる?」


 僕がその山脈を指差してサーシャに問いかけると、「ああ、炎神山脈ですね」と教えてくれる。


 「あの炎神山脈の最高峰、炎神山が伝説の火の神が住まう山だと伝えられています」

 「へえ、そうなんだ……」


 『う~ん、やっぱり火の神と先代の鳳凰は関係あるのかなあ』

 『お前があの山並みに見覚えが有るのなら、そうなのかもな。……俺に見覚えがないという事は、先代の鳳が眠りについていた後に先代の凰が関係していたんじゃないのか?』

 『う~ん、どうなんだろう……その辺りの記憶は曖昧でよく分かんないや』


 僕は裸になり半身を泉に浸かりながらサーシャと一緒に体を洗っているのだが、シャリーナ姉さまやクロガネ、それにシャイナ教聖騎士団の人達が警戒の為の周りに居るためかサーシャに暴走する気配は見られなかった。


 ・・・流石にね、サーシャでも他の人の目があるところでは理性が勝るよね・・・


 この日はオワシスのお陰で、ジャカール帝国の護衛の人達も十分体を休める事が出来たようだった。



 僕達がオアシスを発ってから二日が経った。


 日中はサンドリザードは砂に潜り眠りにつく。

 サンドタートルも甲羅の半分ぐらいまで砂に潜って身動き一つしない。


 そのサンドタートルの甲羅に布を掛け日陰を作り護衛の人達も体を休めていた。

 サンドタートルの甲羅は水が蓄えられている為か、気温より僅かに温度が低いため皆甲羅に体を預けて休んでいる。


 シャイナ教聖騎士団の人達は皆、妖精種のエルフであるため砂漠の高温にも強く、またぼくの加護が付与された聖甲冑を身に付けているので砂漠の日差しもものともしていなかった。

 その為、日中の見張り役を引き受けて周囲の警戒を交代で行っている。


 僕はゆったりとした一人掛けのソファーに丸まって眠っていた。


 その時、パーンという渇いた音とカーンと固いものが何かを弾く音がした。


 「敵襲!!」


 僕はその声に飛び起きた。


 その時には、もう既にジャカール帝国の護衛の人達はサンドタートルに掛けられた布を引き剥がし手早く片付けていた。

 そしてサンドリザードを叩き起こすと僕の乗るサンドタートルを守るような配置についている。


 サンドタートルの甲羅の先端にいる御者はサンドタートルの手綱を引き砂の中からサンドタートルを立ち上がらせる。

 サンドタートルが砂の中から立ち上がった勢いでサンドタートルに被さっていた砂が砂煙を上げながら周囲に勢いよく吹き上がり視界を悪くする。

 それに構わず御者はさらに鞭を打った。


 「ブオオオオ」と、サンドタートルは不機嫌そうに一声なくと走り出す。


 サンドタートルの歩くスピードは見かけによらず以外に早く、普段は時速三〇キロ程の速さで歩く。

 それが全力疾走をすると六〇キロ程の速さまで上がるということだった。


 「シャイン様、しっかり掴まっていて下さい! あと口を開かないように、舌をッ……」


 僕の後ろに居るサーシャが僕に注意を呼び掛けている最中に舌を噛んだようだ。


 ・・・うん、実演ありがとー、サーシャ・・・気を付けるよ・・・


 前に座るアジーナおばさまとクーレさんは座席にしがみつき、オーマン近衛少将は御者台の背に取り付けられた取っ手を両手に掴み、爪先を御者台の下に引っ掛け体を固定して周囲を確認しながら御者に指示を出している。


 シャリーナ姉さまとクロガネは神輿を支える銀の棒を片手で掴み、このスピードと震度五くらいはある揺れの中、平然と立っていた。


 ・・・二人とも流石と言うか何と言うか、大した身体能力です・・・


 ジャカール帝国の護衛の人達は襲撃者の足止めにでも行ったのか、サンドタートルの前を走る数人の人達以外は見えなくなっていた。

 シャイナ教聖騎士団の人達は僕の乗るサンドタートルを守るように周りを固めている。


 そんな中、数発の弾が神輿を掠めていく。


 僕や他の人達に当たりそうな弾はシャリーナ姉さまやクロガネが全て弾いてくれていた。


 ・・・銃の弾だよ、銀玉鉄砲の弾じゃ無いんだよ・・・ほんとどんな身体能力をしてるんだか、この二人・・・


 実の所を言うと、この襲撃者がオアシスを出た辺りからつけてきている事に僕達は気づいていた。

 だが、相手の人数は此方の三倍程いて、距離を余り詰めてこなかった事もあり、「砂漠での日中の戦闘は出来る限り避けたい」と言うオーマン近衛少将の意見もあって、これ以上距離を詰めたり襲って来ることでもない限りは放置するという事になったのだ。


 「ただ、問題なのは相手が銃を持っているかどうかですね。魔法攻撃なら魔力の高まりを感じて対処しやすいのですが、炎神槌()はそれが無いので遠間から狙撃されると対処しにくいのです」


 その証拠に僕達はシャイナ教聖騎士団の纏う聖甲冑に銃弾が当たって初めて攻撃を受けたことを知った。

 しかも攻撃の気配を感じ取れるシャリーナ姉さまやクロガネにさえも気付かせさせない程に気配をコントロールして狙撃をする事の出来る者が向こうにいる。


 ・・・数は少ないが銃での戦いに長けた者の中には気配を完全にコントロール出来る者がいる、とシャリーナ姉さまは言っていたけど・・・この二人にその気配を感じさせないなんて・・・


 その時、嫌な記憶を思い起こさせる気配を感じ僕は身を震わせた。


 ・・・まさか、この気配は・・・


 ジャカール帝国は火の神の怒りを買っている。

 その影響なのか何故かこの国には乱戦の狂気の様な邪気邪念が涌きにくいと言うことだった。

 その為、今回は乱戦の狂気を相手にする事はないだろうと思っていた。


 ・・・まだ、かなり遠い・・・けど、この気配は邪神将、しかもかなり強い力を感じる・・・


 此方に敵意を向けるその気配を僕が読んでいると、「クロガネさん、シャイン様をお願いします」と言って、シャリーナ姉さまがその気配の元に向かってサンドタートルの甲羅の上から飛び出していった。


 『シャリーナ姉さま、一人で大丈夫かな』

 『ここから感じられる相手の力量なら、シャリーナ姉が遅れをとることはないだろう』

 『うん、僕もそう思うけど……』


 それから少しした頃、僕達は襲撃者達に囲まれていた。


 「アジーナ様、クーレ殿、光の神子様を頼みます!」

 「応! 任せよ! お前達も無事に戻ってこい!」


 クーレさんの返答を聞くと、「抜剣! いくぞ! 敵を蹴散らせ!」「「「「応!!」」」」と、シャイナ教聖騎士団の人達は襲撃者達に向かって突撃を開始する。


 何とか襲撃者の包囲を抜け出したと思った時、いきなりサンドタートルが姿勢を崩した。と同時に、「しまった!! サンドワームの巣だ!!」と、オーマン近衛少将は叫んでいた。


 その衝撃に僕は神輿から外へと弾き跳ばされる。「シャイン様!!」と、跳ばされた僕の手をサーシャが掴みサーシャも僕と一緒に空中へと跳ばされていた。


 サンドタートルは砂に足を取られ底無しの砂の沼の中へともがきながら沈んでいく。

 その砂の沼から突然、何本もの巨大な丸太が飛び出した。と思ったらサンドタートルへと襲い掛かる。

 丸太に見えたのは象も丸呑みしそうな巨大な口を持った巨大なミミズの様な魔獣サンドワームだった。


 そのサンドワームはサンドタートルと一緒に空中に飛ばされた僕とサーシャに襲い掛かった。その時、「シャインサマ!!」と、クロガネが僕達を助けるために飛んでくる。と、ドン! という音がして「ッ!?」と、僕の手を掴みかけたクロガネがいきなり横に飛ばされ、僕達を襲おうとしていたサンドワームに衝突し引き千切って吹き飛んでいく。


 「クロガネ!!」


 僕が音のした方へ目を向けた時、そこにはサンドタートルの甲羅の上で大口径の対戦車ライフルの様な銃を構えたオーマン近衛少将がサンドタートルと共に砂の沼の中へと沈んでいくところだった。


 サーシャは僕と共に砂の沼へと落下しながら何とか精霊魔法の呪文を唱え風の刃を生み出して襲い掛かってくるサンドワームを攻撃していたが、僕を庇いながらの事で大技が出せずサンドワームを牽制することしか出来なかった。そして、そのまま僕と一緒に砂の沼の中へと落ちて沈んでいく。


 「サーシャ! 僕はいいから逃げて! サーシャ一人なら風の精霊の力を借りて飛んで逃げることくらい出来るでしょ」

 「バカなことを言わないで下さい! あなたを失って私が生きていけると思うのですか!」

 「いや、多分僕は死なないから!」

 ・・・・。

 「少し黙っていて下さい! 呪文の邪魔です!」


 僕はサーシャに涙目で睨まれ沈黙した。


 ふとアジーナおばさま達の事を思い出して目で探すと、上空でサンドワームを攻撃して僕達の所へ来ようと奮戦しているのが見えた。が、サンドワームの体の大きさとその表皮の固さに手こずっていた。


 サーシャは僕を庇いながら何匹ものサンドワームの巨大な口から精霊魔法を使い身をかわしていたが徐々に砂の沼の底へと沈んでいく。


 「シャイン様、上に脱出するのは不可能なようです。……シャイン様、私を信じてくれますか?」

 「もちろん」


  僕が即答すると、サーシャは嬉しそうに微笑んで呪文を唱えた。と同時に、僕とサーシャは砂に勢いよく呑み込まれていく。

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