第参十話
(キリマル)
ゥォォォォォ・・・
ドォォォォォーー・・
グラベーナ市街でアジーナとカンザブロウ達がグランザム公爵達と交戦を始めた頃、空を飛ぶクロガネは、わしと両腕を繋ぎ吊り下げるようにしてグランザム公爵の領主館に向かった。
わし等は領主館の周りに敵がいないことを確認してから領主館の正面玄関の前に降り立つ。
わしは神護の指輪で領主館の中を探る。
・・・ふむ、ガルー一人のようだな・・・
「クロガネ。すまんが、お前は此処で待っていてくれ。もし、ガルー・ドラグルが飛び出して来た時は頼む。」
わしの頼みにクロガネは首肯することで了承の意思を表す。
それに対し、わしは感謝の笑みを返して領主館の正面玄関の扉に向き直る。
わしは、その重厚感のある一本の木から削り出されたのだろう上品で豪華な装飾彫りの施された両開きの扉の取っ手を持ち、領主館の内側へと音も無くゆっくりと押し開いていく。その先、大きな屋敷独特の豪華で広い玄関の奥で人形になったガルー・ドラグルが腕を組み仁王立ちになって待っていた。
「久しいな、キリマル!」
「ああ・・・本当にな、二千数百年ぶりか。ガルー、貴様は変わらんな・・・」
ガルー・ドラグルは、わしと目が合うと久しぶりに会う親友に向けるような笑みをわしに向け嬉しそうに声をかけてきた。
わしは館内に入り扉を閉めながら、久しぶりに会う旧友に返すような言葉を返す。
「ふむ、お前は少し老けたか?」
と、ガルーはふざけたような口調で返してくる。
「ああ、貴様達のお陰でな。」
と、わしが少し不機嫌な口調で言葉を返すと、
ハ・ハ・ハ、「結構結構。昔も今も我等はそういう関係なのだからな。」
と、楽しそうに言いながら、ガルーは組んでいた腕をゆっくりと解く。
「・・・・ああ、そうだな。」
と、わしもガルーの言を肯定し魔法武器のブレスレットを双刀の滅斬刀に変え両手に持つ。
次の瞬間、わしとガルーはほぼ同時に音も無く足と接する床を強化し蹴った。
わし等が地を蹴った瞬間、室内の空気がわし等の動きについてこれず衝撃波を発生させ窓や彫像等のガラス製品が粉砕される。
それから、わし等は数瞬斬撃と打撃を撃ち交わした後、間合いを取った。
その間合いを取る時、撃ち合わせた拳と刄で力任せに撃ち離れた為、二人分の力が合わさった衝撃波が発生し館の正面玄関を中心に館を半壊させた。
「くく、キリマル。鳳凰様より・・・いや、凰様より良い刀を賜ったようだな。だが、鳳様の力を完全に自分の物にされた破壊邪神様の加護を得た私の竜鱗は斬れんよ。」
・・・・・・。
「ふん。お互い同等の加護を受けていると言うのならば、あとは互いの地力次第よ。」
わしは滅斬刀を構え直すと、滅斬刀から溢れ出すシャイン(凰)の加護の力を全て魔力へと変換する。と、双刀の滅斬刀の刀身自体が、その纏う淡い炎のような光と同じ山吹色と無色透明が入り交じった光の刄と化す。
その滅斬刀そ光が半壊したグランザム公爵の領主館とその周辺を包み込む。
ふと、ガルーの方を見ると先程まで全身から溢れ出しいた乱世の狂気のどす黒い闇は消え失せ、全身を覆う黒い竜鱗が、わしの双刀の滅斬刀の放つ光と拮抗するほどの、闇色の全ての光を呑み込むような漆黒の光を放つ。
次の瞬間、わしとガルーは一気に間合いを詰め一撃必殺の斬撃と打撃を撃ち合わせる。
わしは双刀の滅斬刀の右刀、滅刀の刀身である全ての邪悪を滅さんとする光の刄を、ガルーの呼吸を読みその頭頂部へスピード角度タイミング全てにおいて申し分のない斬撃を放つ。が、ギリギリの所で全ての邪悪を纏めたような漆黒の光を放つ竜鱗に覆われたガルーの左腕に阻まれる。と同時に、全ての生きとし生きるものを滅さんとするその漆黒の光を放つ竜鱗に覆われたガルーの右拳が、やはり絶妙なスピード角度タイミングでわしの心臓を狙い放たれる。が、ギリギリの所で、わしは双刀の滅斬刀の左刀、斬刀の刀身の光の刄で受け止めた。
その力と力のぶつかり合いによる凄まじい迄の衝撃波によりグランザム公爵の領主館はもとより、わし等を中心とした半径数百メーターに及ぶ範囲の建物が瓦解し吹き飛ばされた。
「チィイイイイイイ・・・・!!」
「オォオオオオオオ・・・・!!」
わしとガルーは互いに、その滅斬刀と拳にさらに力を込める。
ミシミシパキビキ!!
「ぬ?」
「む・・・」
それから数瞬後、ガルーの左腕と右拳の竜鱗にヒビが入り始めた。
すると、あれ程強い漆黒の光を放っていた竜鱗の光量がいきなり減少し、あれ程硬かったガルーの左腕が何の抵抗もなくなり、光の刄がその左腕ごとガルーの体を両断する。
「・・・ふむ、この体では、ここまでか・・・・キリマル、この勝負貴様に勝ちを譲ろう。」
と、ガルーは体をわしの双刀の滅斬刀の滅刀の光の刄に真っ二つに両断されながら呟いた。
「まさか、貴様・・・・その体、分身か!」
と、わしが叫ぶとガルーは、ニヤリと笑いその体は切断面から浄化され光の泡となって消えていく。
二千数百年ぶりの、わしとガルーとの勝負は余りにも呆気ない終わりを迎えた。
・・・逃げるための時間稼ぎ・・・いや、わし等がここに来る迄に十分に時間はあったはず・・・
「キリマルサマ、イマノハ・・・・」
「ああ、奴の分身だ。」
「シャインサマノ、ムナサワギ二、ガルー・ドラグルガカカワッテイルノデハ?」
・・・・。
「クリスティーンが居るから、大事には至らないとは思うが・・・急いで戻った方がいいかもしれんな。」
(凰)
「父さま、アジーナおばさまお帰りなさい!」
僕は父さまアジーナおばさまとクーレさん、そして隠者の里の人達が僕とシャリーナ姉さまが待つ丘に戻ってくる姿を確認すると駆け出していた。
そんな僕を父さまが優しく受け止め頭を撫でてくれる。
「シャイン様。貴方様のお陰でグランザム公爵の反乱を短期間で終息させることが出来ました。心より御礼申し上げます。」
アジーナおばさまとクーレさんは僕に膝まづき深々と頭を下げる。
・・・・。
「いえ。アジーナおばさま、まだ終わっていませんよ。キリマルさんとクロガネがまだ戻ってきていません。」
と、僕が言ったとき、ドッォオーーーンという音と共に、その音に大気が圧されるようにしてグランザム公爵の領主館の方から空気の壁のような塊が僕達の体を押し髪を靡かせた。
その音のした方に目を向けるとグランザム公爵の領主館のあった辺りを中心にそこから半径数百メーター程の範囲の建物が土煙と共にキレイサッパリ吹き飛ばされているのが見え、その中心に巨大な闇色の漆黒の光と揺らめく山吹色の光が鬩ぎ合うのが見えた。と、思った次の瞬間、揺らめく山吹色の光が闇色の漆黒の光を呑み込んでいった。
「どうやら、キリマル殿が勝ったようですね。」
その光景を見てアジーナおばさまが、ホッとしたような口調でそう呟いた。
しかし、この時、僕は顔には出さなかったが、内心不安と焦りで一杯で背中に嫌な汗をジットリとかいていた。
なぜなら、この時、僕の胸騒ぎは収まるどころかこれ以上は無い程に膨れ上がっていたためだった。
それからすぐに、キリマルさんとクロガネが僕達の所へかなり急いだ様子で戻ってきた。
「シャイン!胸騒ぎはどうした?」
キリマルさんは僕の顔を見るなり開口一番そう尋ねてきた。
・・・・。
「息苦しいくらいに大きくなっています。」
「分かった。直ぐに隠者の里に戻るぞ!クロガネ、シャインを抱えて付いてこれるか?」
「オマカセクダサイ!」
僕の返事を聞くや否や、キリマルさんは険しい顔をして隠者の里に急いで戻る事を宣言する。
「キリマル殿何があったのですか?」
その状況に付いてこれないアジーナおばさまが少し強い口調で尋ねる。
「グランザム公爵の領主館に居たガルーは分身だった。恐らく本体は何らかの目的で隠者の里に向かっていると見て間違いあるまい。」
と、キリマルさんが言っとき。
・・・!?・・・
「カリン姉さま!!」
一瞬、僕はカリン姉さまがこの世界を呪うどす黒い闇に呑み込まれる映像が見え、カリン姉さまの名を呼んだ瞬間、僕の中で何かが弾けた。
・・・何があっても今生は大切な人達を守る!この命に代えても!前世のような思いをするのは真っ平だ!だから間に合ってくれ!!・・・
それは、僕と鳳の強い想いだった。
その想いが爆発したとき僕の体は金色の光に包まれ隠者の里へ、障害物を全てすり抜ける金色の光線となって一直線に向かった。
そして、僕達(鳳・凰)はカリン姉を助ける為に、神代の自分が掛けた封印を破り僕と鳳は入れ替わった。
(サーシャ)
今日で私が隠者の里に来てもう九日目になる。
私は毎日のようにクリスティーン様に、お母様やシャイン達の戦いは終わったかと聞いていた。
それに対し、クリスティーン様は嫌な顔一つせずに答えてくれていた。
そして、今日の朝聞いたとき、「もうそろそろ、終わる頃かねー。」との言葉が帰ってきた。
それを聞いた私は嬉しくなってクリスティーン様の館を飛び出した。
・・・何かシャインにお礼をしなきゃ・・・
そう思って私が駆けていると、「サーシャ姉さま?」と、カリンが声を掛けてきた。
「そうだ、カリン。シャインにあげるプレゼントを取りに行くけど一緒に行く?」
「うん!行く!」
私がカリンを誘うと、カリンは二つ返事で応じる。
「カリン様、サーシャ様どちらへ行かれるのですか?」
私がカリンを連れて隠者の里を出ていこうとすると、里の者に呼び止められた。
「シャインにプレゼントする物を取りに泉まで行ってきます。」
と、私が答えると、
「泉ですか・・・・分かりました。私も一緒に行きますから、少しお待ちください。」
と、その私とも面識のある若い男性のエルフ、ナーガトーはそう言って里の奥へと歩いていった。
その泉は私の家から隠者の里に来る途中にある。
その泉には、そこでしか取れない色とりどりの綺麗な石があり、その石は他国では高値で取引されると聞いたことがある。
そこで一番綺麗な石を見つけてシャインにプレゼントしようと思った。
「お待たせしました。」
暫くして、ナーガトーは若い女性のエルフを連れて戻ってきた。
「はじめまして、サーシャ様。私、ナーガトーの妻のリーシアと申します。」
と、その若い女性のエルフは頭を下げた。
「はじめまして、サーシャ・ポート・アルスです。よろしくお願いいたします。」
と、私が返しお辞儀をするとリーシアは一瞬驚いた顔をしたが直ぐに優しく微笑み返してきた。
・・・何を驚いたのだろう?私、変な挨拶でも返したのだろうか・・・
と、私が考えていると、「では、参りましょうか。」と、ナーガトーが言って先を歩き始めた。
リーシアは、私とカリンの後ろを付いてくる。
隠者の森に隣接しているアルブァロム王国のアルス公爵領グリーンズヘイブンから隠者の里へ来るための道は街道程整備はされていないが商隊の巨大運搬獣ビッグフレイトタートルがギリギリ通れる幅のある道と、騎馬がギリギリすれ違えることが出来る程度の幅しかない小道がある。
泉は、その小道沿いにあった。
隠者の里を出てグリーンズヘイブンに向けて隠者の森を通る小道を一時程歩いた頃、突然、森が開け日の光を水面に反射する清く澄んだ水を湛えた泉が目に入ってきた。
その泉の周りには色とりどりの綺麗な花が咲き乱れ、その花ばなの香りが辺りに優しく漂っていた。
「凄い凄い!凄く綺麗!!」
カリンはその光景を見てはしゃぎ駆け出した。
「お待ちください。カリン様。」
リーシアは、そんなカリンを慌てて追いかける。
それについて私とナーガトーも駆け出した。
カリンは泉の水面の際まで来ると、少し躊躇いながらも足先を水面につけた。
きゃはは・・・
「冷たい!」
カリンは水面につけた足先を一瞬引っ込めたが、バシャバシャと直ぐに両足を突っ込み楽しそうにはしゃぎだした。
私もカリンを真似て泉に入り、しばらくの間二人して水遊びを楽しんだ。
その間、ナーガトーとリーシアは周囲の気配に気を配り警戒しながら、私達を優しい眼差しで見守っていた。
一頻り水遊びを楽しんだ後、私とカリンは泉の浅瀬で水の中を弄り、あれでもないこれでもないと小石を拾っては捨てていた。
「サーシャ姉さま、なかなか綺麗でいい大きさの石は見つからないね。」
「うーん。そうね。もうちょっと頑張って探してみましょ。」
「うん。」
残暑厳しい夏も終わりかけの頃、そんな会話をしながら大好きなシャインにあげるため綺麗な石を一生懸命探して、全身水浸しになっていた。
そこに、風が吹き体から熱を奪って、上がりきった体温を心地よく下げてくれる。
私とカリンが、そんな風の気持ちよさに目を細めていると、突然そいつは目の前に現れた。
「小娘。お前が光の神子シャインの姉か?」
その声を聞いたとき私は、不意に氷柱を背中に差し込まれた時のように心臓が止まりそうな程の驚きと凍りそうな寒気を感じ、一瞬にして泉の水で濡れた全身を冷や汗で濡らした。
そいつが目の前に姿を現してもシャインの探知の指輪は何故か無反応だった。
そいつはマントフードをかぶり手にはグローブをはめ体を全く外気に触れさせないようにしているようだった。
フードの中はどす黒い澱みで全く見えず、首らかは何かの魔法道具のペンダントを下げていた。
「カリン様サーシャ様お下がりください!」
逸早く動いたのはナーガトーだった。
そのマントフードがカリンに声を掛けた瞬間、ナーガトーは私達とそのマントフードの間に割ってはいった。一瞬遅れてリーシアも割って入る。
ドカカ!!
バキャバキャバキバキバキバキ・・・・!!
次の瞬間、ナーガトーとリーシアは吹き飛ばされ、隠者の森の大木を何本もへし折りながら見えなくなってしまった。
私はフードの中の闇を覗き込んだ時から、死という恐怖に心臓を鷲掴みにされ身動きがとれなくなっていた。
ふと、カリンの方へ目を向けるとカリンも真っ青を通り越し死人のような真っ白な顔色をしてガタガタと震えていた。
「ククク、私もついている。狙いの小娘が隠者の里からノコノコと自ら出て来てくれるとはな。」
そのマントフードはくぐもった笑いを溢しそう呟くと、バリバリと着ていた衣類を全て破りその姿を巨大なドラゴンへと変えた。
「カリン!!」
私が絶叫のような声でカリンの名を呼んだ時、恐怖のあまり縮こまり震えていたカリンがそのドラゴンに一呑みにされてしまった。と同時に、ドラゴンは飛び立とうと翼を一回羽ばたかせた。「!?」その時、金色の光線がそのドラゴンを貫いた。
「カリン姉、大丈夫か?」
その金色の光線の先を見ると、炎のような金色の光を纏った少年がカリンを抱えて立っていた。
その少年はカリンや私と変わらない歳に見えたが、その何処までも力強く神々しいまでの姿に私は息を飲み見とれてしまっていた。
(鳳)
「カリン姉?」
俺が再びカリン姉に声を掛けたとき、俺をポーと頬を染め見つめていたカリン姉は、ハッと気が付いたように目をパチクリとさせ口を開いた。
「シャイン?」
「よかった・・・・間に合ったか。」
俺はカリン姉の声を聞き、カリン姉の体温と鼓動を両腕に感じると自然と安堵の声が漏れた。
「シャイン!?」
カリン姉が漏らした言葉を誰かが驚いたような声で、鸚鵡返しのように言うのが聞こえた。
そちらに目を向けると、サーシャ姉が座り込み頬を染めこちらを、ジーッと見つめていた。
「サーシャ姉も大丈夫か?」
と、俺がサーシャ姉に声を掛けたとき。
「クク、ま、まさか・・・鳳様が力を取り戻しかけているとは・・・だが・・・私の成す・・べき務めは・・・終えた・・・これで・・楽になれ・・・る・・みな・・・の許へ・・・はかい・・・じゃし・・あたらしい・・・せかい・・いけ・・・る」
俺に腹に大きな穴を開けられ、そこから浄化され始めた邪王ガルー・ドラグルは、そう呟きながら最後まで浄化され体は崩れ消えていく。
「すでに、封印の中で体は滅んでいたか。」
俺は、その消えていくガルー・ドラグルに一瞥をくれ、そう呟いた。と同時に、ドクッと体の内から大きな衝撃を感じ嫌な感覚に全身から冷や汗が噴出すのが感じられた。
・・・不味い・・・
そう思いながら、俺は抱えたカリン姉を地に下ろし、ふと、自分の胸を見る。
そこには、拳より一回り大きい虚のような穴が開いて無くてはならない物が無いのが見えた。
「「シャイン!!」」
それを、カリン姉とサーシャ姉も見たのだろう、顔を真っ青に青ざめさせ叫んでいた。
俺は、この事は頭では分かっていたが現実に目の当たりにして俺の頭は混乱する。と同時に、胸が苦しくなり先程より大きい、いや爆発的な衝撃が俺の体の奥から生じた。
「ぐっ!ああああぁあぁあああ・・・・!!」
『だめ!!鳳!!!』
その衝撃の強さに俺が悲鳴を上げると同時に、凰が叫んでいた。




