第一話 「=出会い」
百合注意報発令中
苦手な方は注意されたし
あの日から私の中で何かが壊れた。
それは良いことだったのかもしれないし、悪いことだったのかもしれない。
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「ねぇ、知ってる?」
「知らない。」
「いけず~」
知らないものを知らないと言って何が悪いのか。
まあ、まだ何を知っているかについても聞いてないんだけどね。
「高倉さんの話だよ、ほら。」
「ああ、あの陸上部の・・・たしか走り高跳びの選手。」
「なんだ!知ってるじゃない!」
「・・・いや。」
それ以上のことは知らない。
ただ彼女がこの地域で知らぬものはいないとても有名な人ってことしか知らない。
そう、なぜなら彼女「高倉 美咲」は齢17歳にして某有名大学への
陸上での入学がもう決まっている位の体育会系女子なのだから。
知らぬほうがおかしい。
しかし、それ以上は知らない。別段知りたくも無い。
「なんかおかしいよそんなの。皆からの憧れの的だって言うのにさ。」
「そうかしら?」
「まあ、昔から「らん」は少しずれたところがあったからねぇ。」
らん、とは私こと「嵩見坂 藍」のあだ名である。
そして私のことをなれなれしくあだ名で呼ぶこの少女は私の幼馴染の
「神田 理恵」である。
「なれなれしいとは何かねなれなれしいとは!私とらんの仲でしょ?」
「人の心を読むような奴と一緒にはいられないねぇ。」
「おお、そうか。そいつはごめんね。」
「で?」
「いや、いいでしょ?高倉さん。私憧れてるんだー。」
私「も」、の間違いだろ。
「かっこよくて可愛くて背が高くてかっこいいんだからー!」
はいはい、そういうお約束の天丼はいいから。
「らんは気にならないの?」
「・・・別に。」
「ふーん。そっかー。」
そう、気にならない。
名前しか聞いたことのない、ただ同じ高校に通ってるってだけで、
クラスも違えば部活も違う。
一緒なのは同じ女であるということだけ。
それなのに興味を持てというほうが無理な話だ。
・・・いや、それでも興味を持っている人間は沢山いる。
彼女は人を惹きつけた。その素質がある。
男も女も彼女に夢中さ。ふ、実にくだらない。
恋愛だのなんだの、私にはよくわからないし、そんな感情を抱いたためしも無い。
ましてや多くのライバルがいるなかでほとんど成就の見込みの無い無駄な希望を抱き
ただひたすらに思い続ける。なんて、まったくもって理解に苦しむ。
ま、それでも確かに男の子が彼女に惹かれるのは分かる。
男とはそういう生き物なんだろうからそれはいいとしよう。
ただ・・・
「女はないだろうよ。」
・・・いや、愛の形は人それぞれだし、それを否定するつもりは無いが、
しかしやはり現実味に欠けるというか、常識がないというか、
はっきりいって気味が悪い。
至極当然の発想であった。
常識的に見てありえないのだ。「同性愛」など。
そう、高倉さんを追いかける女子の多くは単純な「憧れ」を抱いているだけに過ぎないのだ。
たとえば大空を自由に飛ぶ鳥に抱くような、大海原を優雅に泳ぐイルカに抱くような、
そんな純粋な「憧れ」。
自分には無いものに対する物欲。所詮はその程度のことなのである。
そう、それは一種の「嫉妬」である。
執念深き嫉妬の心はいつしか相手を想う憧れに変わっていき、それを自分の中で正当化
することにより自分自身を騙し否定しそしてついには諦める。
・・・やっぱり、理解に苦しむね。
「・・・あ。」
「あ?」
第三棟の三階奥にある図書館。そここそが私の生業にして唯一の極楽であった。
私は図書委員という与えられた(自ら志願した)役目を果たすべく、放課後に
図書館へ向かっている途中だったのだが、どういうわけかクラスも部活も違うはずの
「高倉さん」に出会ってしまった。
「ん?なんだい?サインでも欲しいのか?」
・・・そういうところッ!
「あん?」
「あの、どいてください。」
「おっと、すまんね。」
気に入らない気に入らない気に入らないッッ!
それが彼女に対する第一印象であり、最悪の出会いであった。
私にとっては・・・。
それが、始まりだった。始まってしまった。
始めたくも無かった・・・のかもしれない。
週一ペースで連載してきます。
そんなに長くは無いのでよろしければしばしお付き合いを。
感想くれたらうれしいねぇ。