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第二話 「=空白の時間」


「えー!昨日高倉さんと話したってぇ~?」

「まぁ、話したといったって、廊下でちょっとすれ違いざまに二言ほどだけだよ。」

「いいなぁ~。それでも高倉さんと話が出来るってだけでレアなのにー。」

「どの位レアなイベントなんだい?」

「そうだねぇ、米版シクのカーD位レアかなー。」


・・・いや、全然わからないのだが。


「それでそれで?どうだった?高倉さんは!」

「どうって言われても、まぁ普通?」

「普通ってアンタ、そりゃあないでしょ。もっとさぁ、キレイだった!とか、

かっこよかった!とか、可愛かった!とか、かっこよかった!とか。」

「天丼はもう結構よ!」

「おや、お笑いはお好きではない?」

「いや別に、そういうわけではないけどさ。」

「しかし、廊下でばったり、なんてべたなシチュエーションにあったもんだねぇ。

まるで小説か何かのようだよ。」

「事実は小説より奇なりってね。」

「うん?でもなんで高倉さん、そんなところにいたんだろう?」

「知ったことではないわね。」

「知っててよ!」

「無茶言うな!」


と、ここでチャイムがなった。

やれやれ、まったく私にとってはとんだバッドイベントだったよ。


と、そんなことを考えていた私はいいかげん催眠術(数学的帰納法)にも飽きていて、

ついには窓際後方2番目というなかなかの席順を生かして、外でドンパチ騒いでいる

地獄体育組(5時間目の体育の事。昼飯後の体育がきつい事からそう呼ばれている。私から。)

へと視線を落とした。


・・・彼女がいた。


この学校はなにやら奇特で、体育における男女の区別がまったくなされていない。

故に今行われているドッヂボールについても男女入り混じった大混戦となっている。

無邪気に男子はボールを追いかけ、ただただ女子は逃げ回る。

ただし、ただひとりをおいて。


「ぅおりゃあああぁっぁぁぁぁぁッッッ!」


ド ゴ ン!


・・・いや、あの、高倉さん?

あなた女の子ですよね?

男子並みの肩力を持ってして男子を討ち取ってましたけど・・・


「キャー!ミサキサーン!」


と、女子から黄色い声援が送られている。

ふーん、ま、確かにカッコイイんじゃぁないですかい?

といっても、


「私には関係ないけどね。」

「ほう?何が?」


・・・・・・・・・・・・・・・・

同日放課後の出来事。私はいつものように一人で図書室へ赴き、大方誰も来ないであろう

静まり返った空間で一人楽しく読書をしていたのだが・・・


整理しようッ!状況をッッ!

まず、私は一人で図書室に入ったし、中には人がいない事も確認済みッ!

さらにッ、図書館へ入室するには老朽化が激しいのであろう、開ける再に酷く

雑音を放つスライド式の扉を開けなければならない。

いくら私が本を読むのに集中していたとはいえ、人の侵入に気がつかないはずがないッ!

私に気づかれぬようこの部屋に侵入するには、三階までカベをよじ登り窓から入るしかない。

しかし、そんな所業人間には到底なしえないッ!

そう!これは密室殺人(殺人ではない)ということだよ!な、なんだってー!?


「おう、窓が開いてたぜ。無用心だねぇこの図書室は。」


な、なんだってー!?


「というのは冗談だがな。」

「冗談かい!?」

「ははは、お前面白いなぁ。」

「っていうか何なんですか!あなた勝手に入ってきて!」

「おっと、自己紹介がまだだったね。私は高倉美咲よ。」

「知ってますけど!」

「おお、嬉しいね。」

「あ、いや、今のなし!やっぱり知らない!」

「はぁ?おかしな子だな。」

「・・・よく言われるわ。」

「っていうかなんで勝手に入ったらダメなんだ?ここは図書室だよ?」

「・・・ここは私が唯一落ち着ける場所なの。だから入ってこないで下さい。」

「えぇ?流石に職務怠慢だろ!」

「私からも質問があるわ。あなた、どうやって私に気づかれずにここへ入ったの?」

「気づかなかったの?心外だなぁ。」

「どうやって!」

「わかったよ。言うから落ち着けって!本で叩かれると痛いんだから!

えっとな、ここのドアって開けるたびにきしんだ音がしてただろ?

だからさ、私が直してやったんだ!」

「マジかよ!あんた凄いわね!」

「私の親父が大工の棟梁やってるからさ。」


いや、にしても凄いだろそれ。


「・・・なんでそんなことを?」

「いや、だってほっとけないジャン。母校の大切な校舎なんだしさ。」

「ふん、善人ぶっちゃって。」

「あれれ?親切が嫌いかい?」

「まぁ、別に・・・」


嫌いじゃないけど・・・


「え?なんて?」

「な、なんでもない!」

「えー?ほんとに~?」

「なんでもないったら!」


-ありがとう-


なんて、口が裂けても言えない。

ああ、やっぱり彼女はきらいだ。だいきらいだ。




          *



次の日も、そのまた次の日も、毎日彼女は図書室へやってきた。


「その本、いつも読んでるよね?」

「・・・・・」


図書委員は他にもいるにはいるのだが、だれも放課後に残って図書室の管理など

やりたがらないので、基本図書室には私一人しかいない。

この一人の時間が私にとっては至福であり、そしてこここそが私の楽園なのである。

部活が始まるまでのほんの十数分のことであるが、しかし私にとっては死活問題である。

彼女のために何故私の至福のひと時が奪われなければならないのか。

不愉快極まりない。


「ねえ?聞いてる?」

「・・・・・」

「なんていう本?」

「・・・進化論。」

「へ?」

「進化論よ、ダーウィンの。聞いた事無い?」

「まったく。」


くっ、これだから文系の体育会系は・・・!


「どんな内容なの?」

「・・・」

「ねぇ、どんな内容?面白い?」

「・・・」

「ねぇってばぁ!」

「あーもう五月蝿いなぁ。なんであんたここにいるのよ、いつもいつも!」

「えーだって気になるじゃん。」

「だったらほら、貸してあげるから!進化論!」

「いや、違うよ、そうじゃなくて。」

「あぁ?」

「気になるの。君の事が。」


・・・・っ!?


「な、何を、急に・・・。」


え?そ、それってどういう。私のことが気になるって、つまりその・・・


「あのさ、友達になろうよ。私、君と話してるの好きだよ。」

「へ、友達・・・。」


・・・嗚呼、そう。そうだよね、そりゃあ。


「私さぁ、君の名前、まだ聞いてないんだよね。」

「・・・で?」

「教えてよ!」

「嫌だって言ったら?」

「家まで尾行する。」

「怖いよ!」

「そして数十分に渡り家の前をうろうろする。」

「いやぁ、やめてぇ!」

「そしてついには家の中にまで上がりこんで」

「犯罪だよ!もう立派な犯罪者だよ!」

「まあ冗談だけど。」

「冗談かい!」


・・・しまった、天丼だ。


「で、あなたのお名前なんてーの?」

「古いよ。」

「なんてーの?」

「・・・嵩見坂藍よ。」

「おお、あいちゃんか!可愛い名前だね。」

「なな、名前で呼ばないでよ!」

「いいじゃんかー、あいちゃーん。」

「あ、あんた、人をおおちょくってからに!」

「みさき。」


・・・は?


「みさき、でいいよ。」

「・・・っ!」


あんたって人は!本当にッ!

人に期待させるだけさせておいて!いや、別に期待なんてしてないけども!

ああ、むかつくむかつく!


・・・でも、人を惹き付ける理由が少しだけ分かった気がした。

しかし、


「あのね、 高倉さん・・・・。」

「いやだから、みさきでいいって

「ダーウィンってね。最初は牧師になりたくて、そのために大学にまで行ってたんだよ。

でもね、ビーグル号っていう測量船にのせられて、海図を描く任務につかされたことがあるの。」

「え?急になんだよ。」

「本人が望んでいたかどうかは定かではないけれど、しかしそれはもう牧師にはなれないことを意味していたの。

任務にはほぼ無関係であった彼の仕事はほとんど無く、そう、いうなれば「空白の5年間」よ。」

「へぇ、そいつは壮絶だ。で?結局なにがいいたいんだい?」

「そうね、私がダーウィンなら即ちあなたはロバート艦長ってところかしらね?」

「へ?」


その日はそれだけ言って図書室を飛び出し、鍵も閉めず早々に帰路へ着いてしまった。

とにかくその時は自分の時間を失うのがいやで、彼女といるのがいやで、仕方が無かった

・・・そう、空白。私の至福の時間はすでに空白のものとなってしまった。

彼女がいるせいで私だけの時間たらしめる時間が失われてしまった。

ただただ、話をするためだけに、私は時間を無駄にしたくは無い。


今にして思えばそれは自分の彼女への興味とそして、普遍的な嫉妬の裏返しだったのかもしれない。


感想くれたらうれしいねぇ

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