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Backstage Joke

作者: 如月文人
掲載日:2026/09/19

---三人称視点---


 2026年9月中旬。

 中下なかしたすずは、逆輸入によって日本の芸能界に再デビューした。

 彼女の主演映画「M」は瞬く間に大ヒット。

 また彼女が監督を務めた「ギャルズ・リターン」も同様に大ヒット。

 その結果、彼女はメディアからの注目度も増して、

 スポットライトを浴び続ける忙しい日々を送っていた。


 そしてすずは、今日も真昼のバラエティ番組「ボコボコ」にゲスト出演していた。


「いやあ、すずちゃんがこんなに面白いとはね!

 正直、全米デビューしているから、

 日本の芸能界なんか目じゃない、と思ってると思いきや、

 こんなに礼儀正しくて、謙虚なコは珍しいね」


 「ボコボコ」のメインMCの川部優かわべ ゆうがあけすけにそう言うが、

 ゲスト席に座るすずは、笑顔で川部のトークを躱す。


挿絵(By みてみん)


「いえ、私は元々日本の芸能畑出身で、

 「CHILDチャイルド-METALメタル」のお仕事もたまたま縁があって、

 米国でデビューしましたが、心と体は生粋の日本人です。

 だから今、日本の芸能界で再び仕事が出来る事に、

 言い知れない悦びを感じています」


「でも女優デビューだけでなく、

 映画監督デビューまで果たしたのは驚いたね。

 そのうち「チャイメタ」の誕生をテーマにした自作映画とか撮る。

 とか考えたら、色々と面白いよね!」


「「チャイメタ」の誕生をテーマにした自作映画ですか!

 もし実現したら、感激して卒倒しそうです」


「うん、本当に良いコだね。

 じゃあまたこの番組に遊びに来てよ」


「はい、お呼びがかかれば、いつでも来ます」


「では本日のゲストの中下すずさんでした~」


 そして観客席から観客の無数の拍手が鳴り響く中、

 すずは笑顔で手を振り、ステージを後にした。


 その後、スタッフに誘導されて楽屋へ移動。

 そして楽屋の自分の席に座ると、「ふう」とため息を漏らした。

 最近、映画だけでなくTV出演も増えていた。


 更には自身のヤウ・チューブ番組も持っており、

 そちらの方では「チャイメタ」関係の動画を投稿もしており、

 良くも悪くも多忙な日々が続いていた。


挿絵(By みてみん)


「あら? お疲れのようね。

 最近、何処でもアナタの姿を見るわね!」


「あ、しずくさん! こんにちは!」


 声の聞こえる方向に向くとそこに女優の蒼月しずくが立っていた。

 蒼月しずく、若い頃は清楚で純日本人的な女性を演じていたが、

 30歳過ぎた頃から路線変更。長かった髪をばさりと切って、

 男勝りな強い女性を演じるようになった。


 ただ強いだけではなく、

 強さの中にのぞかせる深い愛情や母性が魅力的ですずもしずくを慕っていた。


「すずちゃん、アナタは相変わらず真面目ね。

 でも真面目過ぎると、自分も周囲も肩が凝るわよ?」


「そうですかね?」


「でもそこがアナタの良いところでもあるわね。

 だけど油断しちゃ駄目よ?

 そういうところを突いて来る男とかも居るのよ!」


「へえ、例えば誰ですかね?」


 すずの素朴な質問にしずくが「う~ん」と唸った。

 その数秒後、しずくの顔が少し怒気をはらんで――


「そうね、あえて言うと伊達賢治とかは駄目ね。

 うん、あの男はロクなもんじゃないわね、うん」


「え~? 伊達さん、私にはとても良い人ですよ?」


「まあ、すずちゃんにはそうかもしれないわね。

 でもね、アイツは本当にろくでなしよ」


 しずくがそう力説すると、

 また誰かがこの会話に割り込んできた。


「あんたら、楽屋で面白い話してるな。

 ちょっと私も混ぜて頂戴な!」


挿絵(By みてみん)


 そう言って、割り込んできたのは初老の女性。

 彼女の名前は相葉雅美。


 彼女は元柔道選手にして柔道オリンピアンでもある女優。

 柔道選手は20代半ばで引退。

 それからプロレスラーになるという異色の経歴を持つ。


 蔵馬彷徨と共に、

「ニッポン女子プロ地獄!」の興行を成功させていく側ら、

 女優業にも進出。蔵馬とはずっと長いこと、

 ビジネスパートナーであり続ける。


 蔵馬がクリスタルエデンに入社し、本人も同社所属のタレントに。

 念願であった女優としてテレビに映るという夢を叶えるに至る。

 そしてドロップアウトの大役を掴むにあたって50代を迎える。

 女優としての活躍が目覚ましい彼女は現場で姉御肌をみせることが多い。


「あ、相葉さん。 お疲れ様です!」


「お、雅美さん、お疲れッス!」


 すずとしずくが対照的な挨拶をするが、

 雅美は咎める事無く、二人の間に入って割った。


「それで何の話?」


「あ~、あの野郎についてです。

 伊達賢治です、あの糞オヤジはマジでねえわ。

 雅美さんもそう思いますよね~?」


 今度は雅美に話を振るしずく。

 だがそこは年の功。

 雅美は華麗にしずくの言葉を軽く包み込んだ。


「まあ、アンタは例の買収騒動で、

 未だにあの人に根を持ってるようね」


「当然でしょ? まあアタシもプロだから、

 公にはもう何も言う気はないけど、

 すずちゃんみたいな純真なコがあのオヤジに

 振り回される事態は避けたいのよ。 ね? すずちゃん」


「あ、アハハハ」


 すずは乾いた笑いを漏らす。

 すずの所属事務所「クリスタル・エデン」がしずくが所属していた

「ムーンライト」を買収した騒動は、すずも知っていたが、

 迂闊な発言をすると、やぶ蛇になりそうなので、

 ここは様子見に徹することにした。


「でもあの人――ダテケンは人によって、

 接し方が少し違うから、

 すずちゃんにとっては悪い人じゃないんじゃない?」


「もう、雅美さんがあのオヤジのフォローすると、

 なんか私がやるせなくなるわ。

 で? すずちゃん、アナタはどう思ってるの?」


 これは所謂、踏み絵かな?

 と思いつつも、すずは自分の思ったままの印象を告げた。


「まあしずくさんと伊達さんの間に色々あったのは認めますが、

 私は第三者の意見より、

 自分の目で観た事と、耳で聞いた事を大事にしたいです。

 ですので私個人は伊達さんに悪い印象は持ってないですよ」


「「……」」


 黙り込むしずくと雅美。


 ――まずい少し調子に乗りすぎたか。


 と、内心でたじろくすず。

 だが数秒後――


「いやあ、絵に描いたような優等生発言ね。

 でもアタシはこういうの嫌いじゃないわ」


「そうね、でも発言に芯の強さみたいのを感じるわ。

 すずちゃん、アナタはもっと飛翔して輝けるわよ」


「い、いえ……少し調子に乗りました。

 でも私は他人に悪口を言うのが好きじゃないんです。

 しずくさんの発言もある種の踏み絵と思いましたし」


「へえ、そういう所のも頭が回るのね」


「だって安易に他人の悪口を言う人間を信じれますか?」


「それもそうね」「ええ」


 と、相槌を打つしずくと雅美。

 そして二人はわざとらしく腕組みして――


「いやあ~、このコは本当に良い性格してるわ~。

 お姉さん、こういうコは大好きだわ~」


「いやお姉さんじゃないでしょ?

 しずく、自分の年齢分かってるの?」


「あ゛? 雅美さん、アタシに喧嘩売ってます?」


「お、お姉さんです! 二人ともお姉さんです!!!」


 慌ててフォローに入るすず。

 それで場の空気は何とか和らいだ。

 そして雅美が急に別の話題を振った。


「それはそうと、すずちゃん。

 女優業だけでなく、監督業の方も上手くいってるじゃない。

 え~と映画のタイトルは……」


「ギャルズ・リターンでしょ?

 あの名作のボーイズ・リターンのオマージュ作品でしょ!」


 しずくが歯に衣着せぬ言いようでそう言うと、

 すずはやや引きつった苦笑いを浮かべた。


「い、いやまあ確かにオマージュ作品ですが、

 もうちょいと言い方に気をつけて欲しいです。

 あっ、でも伊達さんにも似たような事を言われました!」


「ほら? あのオヤジ、そう言う事を平気で言うでしょ?

 そういうところがデリカシーないのよ」


 自分の発言を棚に上げて、そう言うしずく。


「まあまあ、でも私はあの映画好きだったわよ。

 思春期の少女のやるせなさを実に上手く表現していたわね。

 あの映画、本当にすずちゃんが監督したの?」


「ええ、そうですよ。 頑張って、皆さんと一緒に撮りました」


「へえ、凄いわね~。

 女優業だけでなく、監督業もこなすとはね」


「うん、うん、天は二物も三物も与えるのよね。

 この業界長いと時々そういう人見るよ。

 まあ凡人のあたしからすれば、嫉妬の感情しか沸かないけど!」


「い、いえ……それに私はしずくさんの演技好きですよ?

 他の人に真似出来ない確固たる女優像があると思います」


「あら? おまけにお世辞も得意なの?

 いやあ、本当にすずちゃんのポテンシャルは無限大ね」


「い、いえ……」


 しずくの言いように、すずも苦笑するしかない。

 するとそこにすず担当の女性マネージャーがやってきた。

 黒の上下のスーツ姿の26歳の女性マネージャーだ。


「すずさん、そろそろ別のスタジオに移動の時間ですよ~」


「じゃあしずくさん、雅美さん、お先に失礼します」


「はい、お疲れさん」「お疲れ~」


 そしてすずと女性マネージャーは楽屋を後にした。

 するとバックステージの通路に出ると、見知った顔があった。


挿絵(By みてみん)


「やあ、すずくん。 俺の話で色々と盛り上がってたようだね」


「あっ……伊達さんっ!?」


 ここでまさかの伊達賢治登場。

 これには流石のすずも驚いて、目を瞬かせた。

 その姿を見て伊達賢治が「ふっ」と笑う。


「も、もしかして聞いてました?」


「そりゃあんな大きい声で話したら、

 ここまで聞こえるよ、すずくん!」


「は、はいっ!」


「楽屋ネタ……Backstage Jokeは程ほどにね。

 内容によっては、結構問題になるからね。

 まあ相手が俺で良かったね、はははっ!」


「い、以後、気をつけます!」


「じゃあ俺はもう行くよ、またね!」


「は、はい! お疲れ様です」


 気が付けば、すずは綺麗な姿勢でお辞儀していた。

 するとすずの右肩にちょっとした重量を感じた。


「ほら? 今の見たでしょ?

 あの大物ぶった感じが本当に癪に障るのよ」


 気が付けば、しずくが自分の左腕をすずの右肩に乗せていた。

 どうやらしずくのダテケン嫌いは筋金入りのようだ。


「まあすずちゃんも用心しなさいよ。

 じゃあ今度、お茶か、ご飯しようよ」


「あ、私も混ぜてよ」


「雅美さん、勿論! じゃあね、すずちゃん!」


「はい、しずくさん、雅美さん。 お先に失礼します」


「すずさん、次はまた違うテレビ局へ移動です」


「はい、分かりました」


 それにしても少し喋り過ぎたわね。

 まさか伊達さんに聞かれるとは……。

 Backstage Jokeも程ほどにした方がいいね。


 だがそう思うすずの心は軽く、

 気が付けば、軽い足取りで女子マネージャーの後を追っていた。


 こうして中下ずずは、女優業でなく、監督業。

 また本業のアーティスト業でも日本で名を売る事になるが、

 当の本人は何処までも謙虚で真面目であった。



 ―Backstage Joke―


              ~おしまい~



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― 新着の感想 ―
楽屋ネタに豪華な面々、面白かったです(´ω`*) 二人ともお姉さん! は名言ですね……(`・ω・´) あと番組の名前『ボコボコ』が面白すぎました……笑。 伊達さん、私も好きなんですが、しずくさんはやっ…
 中下すずの楽屋ネタ、面白かったです。  外国で活躍しても、彼女はあくまで日本人ですからね。  カメラの前では絶対口にできない会話が良かったです。
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